漆黒の猟犬、静寂の摩天楼   作:エセダンディズム

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簡単なアンケートを置いてあるのでよろしければご協力ください。
1週間くらい置いておく予定です。


第一章 ジュニア級
第7話 メイクデビュー


 今日はマンハッタンカフェのデビュー戦、『メイクデビュー』当日だ。

 

 体操服に着替え終わったマンハッタンカフェと、用意された控室で打ち合わせをしていた。

 

 

 「東京、芝、一八〇〇m。晴れ、バ場は良。うん、大丈夫。絶好のレース日和だ。いつも通りやればマンハッタンカフェなら勝てる。焦らず、落ち着いて、普段通りな!」

 

 「ええ。あの、トレーナーさん・・・・・・」

 

 「どうしたマンハッタンカフェ!? 喉が渇いたか!? 何か気になるところでも!?」

 

 「いえ、その・・・・・・その話、二回目ですよ?」

 

 

 !?

 

 

 「ご、ごめん!」

 

 「ふふっ、緊張してらっしゃるんですか?」

 

 からかうようなマンハッタンカフェの指摘に照れくさくなって、後髪を掻きながら答える。

 

 「いやあ、何せ自分の担当ウマ娘の初めてのレースだから・・・・・・。君は落ち着いてるなあ」

 

 「そうですね・・・・・・幼いころから大舞台や人前に出ることは慣れてますから。シチュエーションは変わっても、緊張はしないですね」

 

 何というか、どっちがデビューする側なのかわからなくなってしまうな。

 いかんいかん。トレーナーとして、大人として俺の方が緊張してどうする。

 

 パチンと頬を叩いて気合を入れる。しっかりしないと。

 

 すると、そんな俺を見たマンハッタンカフェが提案をしてきた。

 

 「トレーナーさん、よろしければコーヒー・・・・・・飲まれますか?」

 

 「いや、これからレースの君にそんなことを・・・・・・」

 

 「私、コーヒーを淹れている時間がリラックスできるんです。ですから、レースの前に淹れさせていただければ」

 

 「いや、君は・・・・・・うん、そうだね。一杯貰えるかな」

 

 「はい」

 

 嬉しそうに微笑んだマンハッタンカフェが、トレーナー室から持ち込んだ用具と控室に備え付けられたケトルを使ってテキパキとコーヒーを淹れ始める。

 

 自分は落ち着いているのに、気負いすぎている俺の方をリラックスさせようとしているのだろう。なんだか、マンハッタンカフェには気を使わせてばかりだな。

 

 でも、ここで落ち込んだらそれこそ申し訳がない。気持ちを切り替えて、レースをしっかり支えよう。

 

 

 

 

 

 

 コーヒーを飲んで一息つき、最終的な情報を共有していた時だった。

 

 

 コンコン

 

 

 「ん? 誰だろう。どうぞ」

 

 中から入っていいと伝えると、控室のドアが開けられ数人のウマ娘がやってくる。

 

 「ドウモ、デス。カフェサン。元気シテマス?」

 

 「よぅ『根暗』! 邪魔すんぜ! おら『マッド』、テメェもさっさと来い!」

 

 入ってきたのは鹿毛と葦毛のウマ娘、アニマルポッケとサスケハナだった。

 

 よく見るとアニマルポッケの手は誰かの制服の襟をつかんでおり、その誰かをグイっと引っ張った。

 

 「うぅ・・・・・・襟が伸びるから引っ張らないでくれたまえよポッケ君。別に逃げたりしないよー私は」

 

 「嘘吐け(コケ)『マッド』! さっきもそう言ってスタコラ逃亡(トンズラ)したろうが!」

 

 『マッド』・・・・・・彼女がアグネスタキオン。噂の問題児か。

 

 「皆さん、どうしたんですか? ・・・・・・タキオンさんまで」

 

 アニマルポッケとサスケハナに呼びかける声は柔らかかったのに、アグネスタキオンの姿を認めたとたん、露骨なまでに嫌そうな顔になるマンハッタンカフェ。

 

 彼女がここまで感情を露にするアグネスタキオンとは一体・・・・・・。

 

 「やあやあカフェ! 元気かな? 緊張でアガってしまってレースどころじゃないかい? それなら丁度ここに気分を鎮静させるとっておきのドリンクがあるんだ。特別に一つあげよう! なあに、今回は既にうちの可愛いモルモット君で治験済みさ! 安全は保証されているから不安がらず今すぐ飲んでくれたまえ! さあ!」

 

 まくしたてるようにマンハッタンカフェに詰め寄りながら、懐から取り出した怪しげな飲み物をグイグイと押し付けるアグネスタキオン。

 

 迷惑気なマンハッタンカフェの表情も何のその。なるほど、この押しの強さはマンハッタンカフェが避けたがるのも少しわかる。

 

 その背後にヌッと迫ったアニマルポッケが、強引にアグネスタキオンの手からドリンクを奪い取った。

 

 「ああっ! 何をするんだポッケ君! これはカフェのためにがぽっ」

 

 抗議の声を上げようと開けたアグネスタキオンの口に、アグネスタキオン謹製ドリンクの飲み口が捻じ込まれる。

 

 「これからレースって時に妙ちくりんな薬物(ヤク)乱用(キメ)させようとしてんじゃねぇよ。丁度いいから自分(テメェ)で飲んでその興奮(ハイテンション)鎮静(シズ)めろ」

 

 もがいていたアグネスタキオンだったが、段々とその勢いが弱くなり、そして手がだらんと下がる。

 

 「お、おい!? アグネスタキオン!? し、死んだり・・・・・・」

 

 あまりにショッキングな光景に悲鳴を上げてしまう。しかし、三人は全く動じない。

 

 「大丈夫デス。トレーナーサン。タキオンサンノオ薬。デンジャラス、デモ、人体ニ危険、アリマセン、デス。Wow! タキオンサン、今日ハ光リ輝イテマス。ケミカルブルー・・・・・・」

 

 ボケ―っと宙を見上げ一言も発しなくなったタキオンの身体が青い蛍光色に光り輝く。とりあげず・・・・・・息はしているし反応もあるから、大丈夫ってことでいいだろうか。

 眩しいのでとりあげず控室においてあったひざ掛けを頭にかけて発光部位を覆い隠し、部屋の隅の椅子に座らせておく。

 

 「騒がせちまったな『根暗』。アタシらは今日は応援だ。せっかくの友人(ダチ)のデビューだってのに『マッド』の奴、いつも通り部屋に籠って実験するとか言うから無理やり連行(ショッピ)いてきたんだが・・・・・・連れてこない方がよかったかもしんねぇな」

 

 「そうですね・・・・・・お二人の応援は嬉しいですが、タキオンさんはいらなかったですね」

 

 辛辣に評するマンハッタンカフェ。その言葉に反応して、ガバッと勢いよく立ち上がりひざ掛けを頭から振り落とした、青く輝くアグネスタキオンが抗議する。

 

 「おいおいおい! そりゃあないだろうカフェ! せっかく私が君のために、貴重な実験の時間を捨ててこうして来てあげたんだよ! もっと喜んでくれたまえよ~!」

 

 「モウ復活、シマシタデス。デモ、ケミカルブルー・・・・・・」

 

 「副作用さ。モルモット君は半日こうだったから、私も今日一日はずっと光っているだろうねえ。はっはっは」

 

 「そんなものをレース前に飲まそうとしないでください・・・・・・」

 

 

 ワイワイ

 

 その後も騒がしくも和やかに四人の歓談は続く。出走時間の少し前まで彼女たちの声が止むことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 出走するマンハッタンカフェとはコースへ続く通路の途中で別れ、応援に来てくれた皆とともにゴール板すぐ横の観客席に陣取る。

 

 青く発光するアグネスタキオンに周囲がざわついているため、とりあえず俺のスーツを頭の上から被せておいた。

 

 重いよー動きにくいよーなんかイカ臭いよーと駄々をこねているが、そもそも原因が原因なのだから甘んじて受け入れてほしい。

 

 「そういえば、君たちはもうデビューはしたのか?」

 

 俺の質問に、三人とも首を横に振る。

 

 「アタシは来月の予定だな。『メリケン』も『マッド』もまだ先だろ?」

 

 「ハイ。トレーナーサント、相談シテマス」

 

 「私はどうだろうねえ。モルモット君は熱心に走らせたがってるけど、その辺りは私が時を決めるさ」

 

 ・・・・・・さっきから気になってたんだが。

 

 「モルモット君って、もしかして君のトレーナーのことなのか? アグネスタキオン。モルモットなんて名前のトレーナーは学園にいなかったと思うんだが・・・・・・まさか」

 

 当たってくれるなよ、と思いながら訊ねる。

 

 「おいおい! モルモットなんて珍妙な名前をつける親が世界のどこにいるんだね。愛すべき実験動物であるトレーナー君の愛称に決まってるじゃないか!」

 

 何を当然の事を聞くんだと言わんばかりの呆れ顔に戦慄する。

 

 当たってたよ・・・・・・()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だろうし、アグネスタキオンに弱みでも握られてしまったんだろうか。

 どこの誰かは知らないが、彼女の実験台にされてしまった哀れなトレーナーに黙とうを捧げる。

 

 「あっ! 『根暗』が出てきたぜ!」

 

 ターフに青鹿毛の少女が姿を現す。

 

 女優として知られているからか、デビュー戦とは思えない声援が客席から飛ぶ。

 知名度としては抜きんでているが、それは場合によってはプレッシャーになりうる。

 

 しかしマンハッタンカフェは堂々とした姿のまま、客席へ笑顔を浮かべながら手を振っている。流石の舞台慣れだ。

 

 「うっへえ。『根暗』の奴があんなニヨニヨ愛想笑い浮かべてんの、なんか気色悪(キメェ)な。もっといつも通りの仏頂面でいろよ」

 

 アニマルポッケのひどい感想はスルーして、観客に負けじとマンハッタンカフェに声援を送る。

 すると、俺たちに気づいたのかマンハッタンカフェがタタッと客席に駆け寄ってきた。

 

 「トレーナーさん、皆さん」

 

 「マンハッタンカフェ、君なら大丈夫!」

 

 「アタシら四人のデビュー先鋒(イチバンノリ)なんだ。派手に大暴れ(ブチカマ)してこいや!」

 

 「Oh! 俗ニ言ウ鉄砲玉、デスネ! ファイトデスヨ!」

 

 「それを言うなら切り込み隊長だろうサスケハナ君。カフェ、君の才能、しかと観察させてもらうよ。君の脚で私を魅せてくれたまえ」

 

 口々に声を掛ける俺たちに、一つずつ返答を返していくマンハッタンカフェ。柔らかな微笑みで落ち着いた様子だった彼女だったが、アグネスタキオンへと視線を移した瞬間、能面のように表情が抜け落ちた。

 

 「Yikes(ヒィッ)!! カフェ、サン・・・・・・?」

 

 「・・・・・・タキオンさん。その服は、なんですか?」

 

 マンハッタンカフェが、ゆらりと幽鬼のような動きでアグネスタキオンの頭上を指す。

 

 「服? ああ、これか。君のトレーナー君が、嫌がる私に無理やり被せられたんだよ。青く光ってるだけで害なんてないんだから、放っておいてほしいものだ」

 

 「そうやって人聞きの悪いことを・・・・・・そういうわけにはいかないだろ。こんな近くに光ってるウマ娘がいたら、集中できなくなった周りの皆に迷惑がかかるんだから」

 

 「その程度で気を散らす方がどうかと思うがねえ。芝を駆けるウマ娘という最高の素材より観客席でただ光っているだけのウマ娘の方が気になるなんて、全く。ここに何をしに来ているんだか」

 

 呆れたように、やれやれと首を横に振るアグネスタキオン。

 本気で、悪いのは気にする人の方だと思っているらしい。理不尽すぎる。

 

 「・・・・・・まあ、そんなわけで君のレースをちゃんと皆に見てもらえるよう、とりあえずの応急処置だけど被せたんだ。君はこっちは気にせず、全力で楽しんできてくれ」

 

 しかし、マンハッタンカフェは微動だにせず、アグネスタキオンを見つめている。

 

 「おいおい、カフェ。流石の私もそんな風に見られたら気になるんだが・・・・・・おーい、カフェ? ・・・・・・カフェー?」

 

 アグネスタキオンの呼びかけは無視して、一度目をつむったマンハッタンカフェが俺の方を向く。

 

 その表情は笑顔だ。なのになぜか、こんなどこかで聞いた一節が脳裏をよぎった。

 

 

 『笑うという行為は本来攻撃的なものであり、獣が牙を剥く行為が原点である』 

 

 

 「・・・・・・・・・・・・。トレーナーさん、私は今、深く傷ついています」

 

 「えっ、何かあったのか・・・・・・?」

 

 まさか、通路で誰かに何か言われたとか? それとも、心無いファンの言葉でもネットか何かで見てしまったとか?

 

 レ-ス直前のマンハッタンカフェの言葉に動揺する。

 

 「それも、トレーナーさんの不用意な行動のせいで、です・・・・・・」

 

 俺のせいだった!

 

 しかし心当たりは全くない。

 

 「気にしないでください。トレーナーさんは何も悪いことはしてないんです。ただ、私が勝手に気にしているだけなんですから・・・・・・」

 

 「で、でも俺が何かしてしまったんだったら・・・・・・言ってくれたら直すよ」

 

 「いえ、それはトレーナーさんのいいところでもありますから・・・・・・でも、そうですね。では、私の手を握ってくれますか? 思いのほか、緊張してしまって」

 

 マンハッタンカフェが差し出してきた手は、よく見れば小さく震えている。

 そうか、流石の彼女もデビュー戦の空気には思うことがあったのか。

 

 それくらいお安い御用だと、マンハッタンカフェの手を握ろうと俺も手を差し出す。

 

 「お、おいトレーナーさん。そいつはそんな気弱(タマ)じゃ――」

 

 ギロッ

 

 「ッ!?」

 

 ? 今アニマルポッケが何か言いかけたような・・・・・・しかし何も言わないし、気のせいか。

 

 改めて手を差し出し、マンハッタンカフェの震える小さな手を握った。

 

 あれ、震えて――ない?

 

 グイッ

 

 「うわぁ!?」

 

 掴んだ手をぎゅっと握りしめられ、そのまま勢いよくマンハッタンカフェの側に引き寄せられる。

 

 あわや柵を越えようかというところで、マンハッタンカフェに受け止められて何とか落ちずに半身だけ乗り出すような体勢で落ち着いた。

 

 「お、おいマンハッタンカフェ。いきなり何を――」

 

 「ふふ・・・・・・いけないトレーナーさんです。レースの前にこんな気持ちにさせて。掛かってしまったら、どうするんですか?」 

 

 息がかかるほど近い距離で、マンハッタンカフェが囁くように語り掛ける。

 

 なぜか顔は紅潮しており、これは誰がどう見ても既に掛かっているだろう。

 

 「気持ちを落ち着かせるためです。仕方ないですよね・・・・・・」

 

 仕方なくない!

 

 だが、三度目となれば次の展開は流石に読めている。こんなこともあろうかと、俺のジャケットにはスルメを入れてあるんだ。

 

 君の噛み癖対策はバッチリ――しまった! ジャケットは今、アグネスタキオンの頭に!

 

 「アグネスタキオン! そのジャケットからスルメを取ってくれ! 手遅れになる前に早く!」

 

 「はあ、スルメ? トレーナー君、そんなものあるわけ・・・・・・何で入ってるんだ・・・・・・?」

 

 怪訝そうな顔で、俺のジャケットから取り出したスルメの袋をまじまじと見つめるアグネスタキオン。

 

 時間がないんだ。見てないで早くこっちに! 

 

 「ま、待ってくれマンハッタンカフェ! 流石に人の目が! ほ、ほらスルメがあるから! そっちの方が美味しいぞ!」

 

 「待ちません・・・・・・というか、何でスルメ・・・・・・?」

 

 そ、そんな!

 

 あ、アニマルポッケ・・・・・・サスケハナ・・・・・・。

 

 「謝罪(ワリィ)、レース前のウマ娘に手を上げるのはアタシの中の禁則事項(タブー)だ。後で制裁(シメ)るから、勘弁(ユル)してくれや」

 

 「Sorry. 私、死ヌ、嫌デス」

 

 

 あ、ああ・・・・・・。

 

 

 

 

 ガブッ




原作ではマンハッタンカフェのデビューは同期の中でも一番遅いですが、ここでは作品の都合上色々改編しています。


噛み癖描写は二次創作ガイドライン・《暴力的なもの》《性的描写を含むもの》に該当するのではと一瞬考えましたが、シンコウウインディちゃんが全身ガイドライン抵触ウマ娘になるので大丈夫だと思います。

少し長くなったので中途半端ですがレースは次回。早めに投稿します。
読了ありがとうございました。

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