SAOは全巻持ってるから比較的楽に書ける……気がする。
詳しい取り決め等は行われなかった会議であったが、プレイヤーの士気を上げる効果は充分にあったらしい。第一層迷宮区二十階は未だかつてないスピードで制覇された。この時、十二月三日…つまり会議の翌日にはフロア最奥の巨大な二枚扉が発見し、大歓声の嵐となって迷宮区内を揺るがした。
はじめに見つけたというディアベル達のパーティーはなんとボスの顔まで拝んできたという事もあり、当日の夕方、また同じ場所で会議が開かれた。
青髪のリーダーは何処か誇らしげにボスの特徴を語っていく。それはいづれも見覚えがあるもので、ボスそのものがβテストとは異なる……なんてことはないらしい。
その後、新たに仕入れた情報、情報屋によるβ時のボスの攻略方法が仔細に書かれたガイドブックもが後押しし、明日への意気込みを高めていった。
流石にここまで踏み込んだ内容ともなると怪訝な顔をする者も出てきたが、そこはリーダーの腕の見せ所。ディアベルが穏便に宥めて鎮静化する。やはり、この場に集うプレイヤーの中でもリーダーシップが突出して高い。
「――それじゃ、早速だけど、これから実際の攻略作戦会議を始めたいと思う!何はともあれ、レイドの形を作らないと役割分担も出来ないからね。みんな、まずは仲間や近くにいる人とパーティーを組んでみてくれ!」
「アブレましたね」
「他の方々は近い所で組んでいますし…どうしますか?」
「それならそれでいいわ。無理に人員を割いても余計な軋轢にもなるし……」
ディアベルの指示から僅か一分足らず、既に七個の六人パーティーが完成し、人数の関係上あぶれてしまった。わいわいと騒ぐ彼らを尻目に、仕方なくも三人で組み、何か言われたら対処しよう。…そう決めようとした時、いつの間にそこにいたのか、円形階段の最上段に二人のプレイヤーが立っている。
どこかのパーティーメンバーかと勘繰ったが、彼らに近づく影はない。念の為プレイヤーの数を数えてみると、四十七。ボス戦フルレイドに一人足りない。既に七個のパーティーが出来ているから、消去法で残りは五人。こちらの三人とあの二人組で丁度だ。
ならばと近づけば、黒髪の少年とフーデッドケープの人物は向かい合っており、先に気づいたのはこちらに体が向いている少年の方だ。
「失礼ですが、パーティーはお決まりですか?もしよろしければ、私達三人をいれてもらえないでしょうか」
ベディヴィエールが言った。突然の申し出に少年は驚いたようだが、何か納得したような顔で返答する。
「あー、俺は歓迎するよ。ちょうどウチも二人パーティーだったし。六人に届かないにしても複数いるのはありがたい。二人じゃスイッチでPOTローテするにも足りないしな。……フェンサーさんも、それでいいよな?」
彼がフェンサーさんと呼んだ人物が振り返り、何事かを発しかけ…口は閉ざされた。フーデッドケープで隠れて見えにくいが、隙間に覗く栗色の長髪と、見覚えのある配色、そして彼の言った『フェンサーさん』。髪色と同じくりりとした栗の瞳は盛大に見開かれ、水気を含んだ唇が固く結ばれる。
きっと私も、同じ様な顔をしているのだろう。頭が混乱する。
こんな近くに。ごめんなさい。生きていたの?この男は?言いたいことが纏まらない。
ただ一言が、形にならない。私が何も言えずにいると、彼女がゆっくりと口を開いた。
「…ミト」
「っアスナ!」
気がつけば、私の体は弾かれたように動いていた。今更駆け出してどうしてもらうつもりだったのか。裏切った私の好感度など下限に振り切れているだろうと考えていたのに。いざ目にしてしまうと抑えが効かなかった。何を言うでもなく、どうする訳でもなく。彼女が生きてその鈴の音の様な声で名を呼んでくれたことが堪らなく嬉しかったのだ。
「きゃあっ!な、何!?」
アスナは何を思ったのか、私を受けとめた。といっても重量的に崩れ落ちてしまったのだが。それでもしえ
「……なさい」
「…ミト?本当に、ミトなの?」
「ごめんなさい」
「…っ!」
「ごめんっ、ごめんっ…!う、裏っ、裏切っちゃって、ごめんなさい……!ごめっ、ごめんなさい…守るって言ったのに…、怖くなって……!ごめんなさいっ、ごめんなさいっ…!良かっ…生きててくれて、良かったっ…!」
後で聞いた話になるが、この当時は本当に衝動に身を任せてありったけを吐き出した。不自然に浮いていた腕が少し逡巡するように動いてから、ぎゅっ…と肩から抱き寄せられる。
アスナの胸元に頭が来ることになり、肝心の顔は見えない。
恨んでいるだろう。憎んでいるだろう。怒りに震えた事だろう。であろうに彼女は拒絶しなかった。
「ミト…ミト…!」
「うあああああああっ…!ごめん、ごめんなさい…!」
声を上げる度に抱きしめる力は強くなり、私は子供みたいに泣き散らかしていた。
ずっとそうしていたい気持ちがあった。もっとやるべきことがある筈なのに、この曖昧なままで、綺麗なままで終わらせたいという弱さが鎌首をもたげる。
しかし、その気持ちだけは必死に堰き止める。
「本当にごめんなさい。あのとき、私はあなたが死ぬのを見るのが……いいえ、本当はきっと自分の命が可愛かっただけなの。そんな最低な私に喜ぶ資格なんて無いとは分かってるけど、あなたが生きててくれて本当に嬉しいの。許してくれとも、関係を続けてほしいとも言わないわ。でも、せめてこれを。何の償いにもならないけど…」
そう言って、アスナのスタイルに合わせて+4まで強化した《ウインドフルーレ》をトレードウインドウに合わせ、対するアスナが手元を操作して承諾。これで名実ともにアスナの所有物だ。
しっかりとそれを確認した後に、背を向ける。これ以上言葉を交わせば、折角の覚悟が揺らいでしまいそうで。
一緒に居た少年。背負うのは一層最強の片手直剣と名高いアニールブレード。それもあの刀身の具合から見て+6はされているだろうか。ならばきっと大丈夫だ。最悪、あの頼りになりそうなリーダーに懇願すれば、アスナが孤立してプレイする事もなくなるだろう。
「時間を取らせてごめんなさい。………じゃあ、私は戻るわね」
そう言って踏み出した一歩は、地面に着地することなく動きを止めた。
アスナがフードをあらん限りの力で引っ張っていた。ステータスの関係上、力任せに振り払うことは出来たが、逡巡する間もなく肩を回される。
「アスナ…?」
何を、と続けようとした口は閉ざされる。
――いつもと同じ目に浮かぶ雫。私の身間違いなんかではない。
「アスナ、それ…」
「あれ、涙…」
「ふふっ…気づいてなかったの?」
「ミトには言われたくないよ。そっちだって、あはっ、…凄い顔」
指摘され、慌てて涙を拭おうと顔に手を当て、
その何気ないやりとりに、誰が抗えるというのだろうか。平生を感じさせるそれは、今までのどんな悪魔の囁きよりも魅惑的に思え………。
「これ、装備してもいい?」
ただどうしていいかも分からず手をこまねいていると、アスナが囁きかける。当然、それはアスナへ渡したのだから許可なんて貰う必要は無いのだが。
イェスと答えると、腰の初期細剣《アイアンレイピア》は消え、入れ替わるように白藍の美麗なレイピアが現れる。花柄のガードが特徴的なそれは、性能は勿論のこと、私の見込んだ通りアスナに似合っている。
アスナは鞘からウインドフルーレを抜くと、すらりと伸びた手足で華麗に舞い踊る。私は暫しそれを眺めていると何かを心得た様な顔立ちで終わらせた。
「―――うん、すっごく手に馴染む。まるで何年も使ってきたみたい。軽いし、振りやすい」
「そ、そう?」
それはよかった。元々、アスナのために狙ったドロップアイテム。これが後悔を思い起こさせる無用の長物になるくらいならば、担い手に渡った方が剣にとってもいいことだろう。
既に取れかかっていたフードを脱ぎ顔を完全に露出させる。栗色の目は私を射抜き、何より普遍の事実を追及する。
「………ねえ、ミト」
「…うん」
「私ね。ミトが変わっちゃったかと思った。デスゲームになったから、現実の『深澄』が、私の知らない『ミト』になっちゃったんじゃないかっ…て」
「……ぁ…」
『ミト』。それが私の
現実の私は弱い。表面上は取り繕っているが、その実触れれば簡単に折れてしまう。だからこそ、自らをSAOプレイヤーの『ミト』だと納得させて、刻一刻と迫る死から逃れようと強い態度をとってきた。それが私にとって悪い事だったとは言わない。だが、それがここまでアスナを不安にさせていたなんて、つゆ程も思わなかった。
「でも違った。ミトは…ミトはいつもと同じ、頭が良くてゲームも上手な『深澄』のままだった。」
「それは違っ「ううん、違わない」なんで…」
でも、私は逃げたのだ。アスナの疑念だって、彼と出会わなければ的中していた。きっと、私の心はもっと冷たく味気ないものになっていたのは間違いないだろう。
「それなのに……なんで」
知らず、口に出していた。台詞はアスナにも拾われていたらしい。端正な顔立ちをきょとんとさせた後、破顔して言った。
「親友だからに決まってるでしょ」
呆然と、それ以上の意味を、言葉の真意を脳みそをフル回転させて必死に考えているところに、白い指が当てられる。
「こーら、本当にそれだけの理由だからね?素直に謝ったんなら許すし、望んでやったことじゃないんでしょ?……それに、私も疑っちゃったんだから、おんなじよ。おんなじ」
そんな筈はない。それが、それだけの事で打ち消しにされる様なことじゃ…。
「それにね、私、嬉しかったの」
「へ…?」
「だって、現実世界じゃミトはいっつも私より上で、弱いところなんて見せなかったんだもん。だから、ミトの弱いところ、隠れた一面を見せてくれて、ラッキーだった、って思うもの」
「アスナ…」
それは些か違ってくるのでは…。そう思った時にはふと自分が落ち着いていることに気がついた。
「……うん。ありがとう。もう大丈夫よ」
今なら、今なら強くあれる。ぎゅっと仮想の心臓を握りしめて、全神経を奮い立てる。そうしてまで行うことはただの一言紡ぐだけ。しかし、それは決して役不足ではない。
兎澤深澄が、ミトが、何より重い音速に乗せて――。
「――ただいま、
「――おかえり、
はい!仲直りしました!(ヤケクソ)
これ以上煮詰めちゃうと作者の文章力じゃ表現できない次元になっちゃいそうなので…。
面白いと感じたら、感想、高評価をお願いします。それが作者の執筆疲れした体に元気を取り戻させると信じて…!