3ヶ月も間を開けて読んでる人とかいるのか…?
「……さっ、サンキュッパ!?」
屋外、現在のホームの裏路地にてアルゴとの密談が交わされる。
それは言ってしまえば買い取り交渉。どうやら一週間前から同じ依頼人の話は続いていたらしく、これで何度目になるか。今まで全て断ってきているが、今回、キリトはその不釣り合いな額に目を剥いた。
アルゴ曰く、依頼人が出した条件は三万九千八百コル。現時点では相当に高額であり、それでいてキリトの持つ《アニールブレード+6》には過分な金額であった。
これほどの資金を一括で支払えるほどの力を持っているのなら、大人しく通常のアニールブレードを買うなりクエストを受けるなりした方が、自らの好みの強化もできるために遥かにマシなのだ。
故にこそ、それが何らかの詐欺か何かと疑念を抱いているのだが…。
「オレっちもそれは言ったんだけどナー」
どうにもアルゴもこの依頼は疑問に思っているらしい。が、それでも受けた手前詳しくは詮索しない。どうやら早くにしてプロ意識はハッキリしている様だ。
夜風が吹きすさび、月光が僅かに射すこの場に、緊迫が満ちる。若干の逡巡を得、キリトはクライアントの名前を競る。
(千五百コル…。これで相手がどう動くか……)
「わかっタ。ちょっと待ってくレ」
手早くメニューウィンドウを動かし、その当人から確認を取っているのだろう。
一分後、戻ってきた返事に俺たちは二人して肩を竦める事となる。
「教えて構わないそーダ」
「はあ?」
もう何が何やら。そんな心境で代金を支払い、慣れた様子で受け取る鼠を急かす。
「……キー坊はもう、ソイツの姿も名前も知ってるヨ。昨日散々攻略会議で悪目立ちしたからナ」
「……攻略会議………………キバオウ、か?」
ふと、想起する。怒り叫ぶキバオウ、土下座するベディヴィエール。……駄目だ。俺からしたらどっちも悪目立ちしているようにしか見えないが……。まあ、ベディヴィエールの装備と、昨日言ってた残りコルから考えればキバオウのことだろう。
「何でまた、アイツが…?俺がベータテスターだって事を知って、それで装備の催促を……いや、それこそありえない」
真っ先に浮かんだ思考を掃き捨てる。
確かにあいつの背中に吊られていた武器は俺と同系統だった。でも俺とあいつは昨日が初対面の筈。それにベータテスターを批判する割には俺に注目していなかった。
まさか人相も知らないで取引を持ちかけた訳ではあるまい。それに、もし知っていたらあの性格からして余計にありえなさそうだ。
結局、千五百コルで買った情報は余計な混乱を齎すだけだった。
「そうでもありませんよ」
「「!?」」
途端、誰もいないと思いこんでいた道から声がかけられ、一斉に警戒態勢をとる。
その直ぐ後に下手人は降りてきた。どうやら俺の泊まっている宿の上にいたらしい。
「あらら、こっちがタダで情報を奪われちまったわけカ」
「トリスタン!?」
その下手人とはトリスタン。折角場所を移したというのに何故いるのか。そんな思いもあったが、それより前の言葉が気にかかった。
「盗み聞きしてしまったのは申し訳ありません。何を聞いたとしても他言するつもりはありませんでした……といって済むことではないですね」
「そ、それよりアンタ。何かわかったのか?」
盗み聞きの件はまた後で考えるとして、今最も疑問に思っている事を聞き直す。このままわけもわからず交渉を続けられるのも、俺としては不安が残る。
「ああ、それは簡単です。あの関西弁の彼はただの仲介人ですよ。ですから貴方のことも知らず、本当の依頼人に言われるがままに交渉を持ちかけているのです」
「でも、そんな証拠はないだろ」
「ええ、ありませんとも。ですが推測は出来る」
確信をもって放たれる言葉にたじろぎ、アルゴは関心したように黙して待つ。
「今言ったとおり、貴方に面識がなくとも取引を持ちかけている理由は納得できましたね。そして次に、本当の依頼人です。その人物は恐らく武器としてそれを欲しているわけではありません。あの場に集うのは一握りのプレイヤー…いわば精鋭です。勝手も判っている彼等ならば、少し時間をかければ同じものは手に入る。それがパーティーを組んでいるのですから尚更のこと」
それは俺も判っている。だからこそ何故こんなことをするのかと困惑しているんだ。
「まあ、本来の依頼人は貴方の戦力をダウンさせたい訳ですね」
「なっ…それこそ、今ボスに挑もうとしているプレイヤーにすることじゃないだろ!」
「『だから』ですよ」
続けられた言葉に愕然とする。今、何と言ったか。『だから』と聞こえた。それこそ、信じられない。
ボスに挑む、いわばこの先のプレイヤー達の未来も託された初めてのボス戦なんだぞ…!?それで戦力を落として何になる?ボス戦に参加できない人物が繰り上がるため?いや、攻略パーティーはギリギリ一レイドを満たしていない。空きがあるのに入れないでは、そもそも装備だけで何とかなるものでは無いはずなのに……。
それ以外に、俺が武器を手放して喜ぶ人間なんて――
「……まさか」
欠けていた盤上にピースが嵌っていく。明らかに不自然なトレード。仲介人。そして今後の未来に関わる決戦。
「そのまさかです」
「元ベータテスターか…!」
そう考えれば一応の筋は通る。これでもベータ時代はそこそこ名の通ったプレイヤーだと自負している。名前もプレイスタイルも変えていない俺を見て、勘のいいベータテスターならすぐに俺だと気づけたことだろう。
そして仲介人。これも元ベータテスターとさえバレなければいいわけだから、間に一人いるだけで十分。あるいは、俺が知っているプレイヤーだからこそ、隠蔽したのかもしれない。
そして、何よりこの場面で武器を、攻撃力を下げる理由なんて一つだ。
俺はβ時代、LAを狙ってフロアボスのレアドロップアイテムを所持していた。その数として、当然人よりは多かっただろう。
フロアボスという大敵から手に入る、
SAOを知っているプレイヤーならば、意識せずにはいられない品である。店売りやプレイヤーメイドとは一線を画す驚異的な性能を誇り、入手すれば戦闘力を大幅にアップ出来る。
SAOがデスゲームになった今、戦闘力とは生存力と同義だ。
「でも、軋轢を生んでまですることカ?あのナイトのニーチャンは公平にいきそうなモンだガ」
そこだ。それだけが説明がつかなかった。俺なりに考えても、ソロプレイヤーだから他に言いふらされない……とかそんな感じのことしか思い浮かばなかった。
「いえ、だから彼ですよ彼。その彼こそがこの依頼の主だと思います」
「「はっ…!?」」
どういう事だ…!?何であのディアベルが…!?あの好青年が元ベータテスター…。その言葉に俺は横っ面を叩かれた様な衝撃が走った。
確かに、リーダーであるのなら指揮が出来る。LAボーナスも積極的に狙えるだろうし、俺達が一人足りないとはいえボスと関わらない場所に置いたのも理解できる。
だが、仮にそれが正しかったとしたら、彼はどれほどのプレッシャーを背負っていたのだろう。
俺のような人と関わらないソロプレイヤーではなく、さも知らないフリをして仲間を作り先導する。
そして先の見えない戦いに一石を投じるこの作戦だからこそ、以後の人心はここで極まる。
「そうか、ここでリーダーとなって纏め、ボスを撃破した経験があって……」
「それで更にLAまで持ってるとなるト……」
俺の言葉をアルゴが続け、少しの間を空けてトリスタンは頷いた。
「正真正銘、彼はリーダーとして認められる」
そう、つまりはそういうことだったのだ。
この戦いの発端者にして総指揮者。そして人心を掴む人当たりのよい性格。これに唯一無二のアイテムまでが揃ったら?
それは当然、異を唱えるものはいなくなるだろう。
街で待っているプレイヤーも、攻略しようと努力する者も、彼がリーダーであることに安心感を覚えるのだと。
「ですが、彼も一人の人間。それは相当に精神を使うものだったのでしょう。故に嘘をついた際に声音が変わっている」
「声…?おい、アルゴの方が近かっただろ、気づいたか?」
「いや、オレっちも全然……」
「キバオウとは初対面かのように振る舞っていましたが、あれは嘘ですね。知っているが故に、対象に対しては無感動、己のボロを出すまいとしていた様です。そしてベータテスターへの擁護。あれが総意となった際には心底安堵していたでしょう?その理由とは…」
「あいつも、ベータテスターだから…」
考えれば考えるほど、ディアベルであるという結論が最も辻褄が合う。
「何てこっタ…。オレっちが裏もとってないのに納得しちまうなんテ…。アンタ、もしかして探偵か何かカ?」
「いえ、世界レベルのアーチェリー選手ですが」
……今さりげなくリアルの事を聞いてしまったが、相手が気にしていないのでまあセーフだろう。
「…ん?あっ!?確かニよく見れば!一昨年のオリンピックで銀メダルの!」
「何ぃぃっ!?」
まさかそんな人物がこのデスゲームに巻き込まれているとは思っていなかった。とはいっても、俺はゲームをするからとそのオリンピックを見ていなかったから知らないのだが…。やっぱり決勝だけでも見るべきだったか…。
「ゴホン。とまあ、述べた通りに理由としては素晴らしいですが、だからといって彼が欲に走らないとは言い切れません。くれぐれも彼の動向には目を走らせておいた方がよろしいかと。……まあ、私としてはその心配はあまりないと思っていますがね」
それだけを告げると、いつのまに装備したのか竪琴をポロロンと弾きながら表に周って宿へと戻るのであった。
「まさか、MMORPGで推理を見れるなんてな」
「ああ…。正直、驚いてル。……オレっちもそういう方面の事したほうがいいのかねえ?」
なんて、あたりさわりのない感想を口々にこぼす。
「……ま、とにかくクライアントには断られたって言っとくヨ。もし本当にディアベルなら、何かしら行動に移す筈だ。十分気をつけてくれよナ」
「ああ、何事もないのが一番だけどな。多分、あのメンツなら一人も欠けることはない……と思うが」
「明日頑張れヨ、キー坊」
「ああ、そっちこそ。明日中に二層の土を拝ませてやるさ」
「楽しみにしてるヨ」
「また今度」
二人は別れ、路地裏には一人きり。他所から聞こえていた騒がしい生活音も今は昔。真なる夜の静寂が心の静けさを表しているかのようだった。
見上げれば輝く星々の群。精々、お星さまにならないように気をつけるか。
そんな風にゆったりと足を動かし、戸を叩いて帰還を知らせる。扉を開き、入った直後に再度のノック。
一体何かと扉を開けると、そこには別れた筈の鼠が一人。
「その…夜装備に着替えたいカラ部屋貸してクレ」
あの別れの直後にこの申し出は流石に恥ずかしいのか、アルゴの耳は真赤に染まっていた。
オレが推理もの苦手だからこんなふうになった!責めるならオレを責めろ!
耳真っ赤のアルゴはカワイイ。異論は認める。
トリスタンは音で嘘見破れる公式設定があるからね。心音はゲームだから無理だけど声音くらいならいけるかなと。
続きを書いてほしければ、余の満足するような感想、高評価を献上すればよい。さすれば願いは叶うのでどうかよろしくお願いします。