隻腕の騎士、浮遊城に立つ   作:食卓の英雄

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くそっ、昨日までに書き上げたかったが……!無念…!
まさか高難易度クエの耐久に一時間食われるとは……
とうとうボス戦開始だ!

因みに、さりげなくベディヴィエールの住まいが一戸建てからアパートに変わりました。その理由として、テレビすら買わないような一人暮らしの男がわざわざ一戸建てなんか買うわけないだろいい加減にしろ!って感じです


獣頭人身の王者

 トールバーナ中央広場、噴水の前、ボス戦を前にしたプレイヤーの士気は高く、歩み出たディアベルにみなが好き好きに迎え入れる。

 ディアベルは歓声を手で制し、仁王立ちして声を上げた。

 

「みんな……もう、オレから言うことはたった一つだ!」

 

 右手を左腰に走らせ、銀色の長剣を音高く抜き放ち――叫ぶ。

 

「…………勝とうぜ!!」

 

 ワッと湧き上がった膨大なる鬨の声はこのトールバーナの町を揺らすほどに集積された。

 それは四週間前の、あの最悪の始まりの絶叫とも、似ているようにも思えた。

 

 

 

 

 十二月四日、日曜日。トールバーナから朝一番に出発した、所詮レイド部隊は僅かな危うさも見せずに安定していた。

 遭遇するモンスターは前方にいるチームが堅実に討伐し、瓦解の可能性はない。これもディアベルが都度適切な指示と己の見事な立ち回りによるものだ。

 これを見て、昨日の先入観を含めてもやはりいいリーダーだと思わざるを得ない。

 そう注視しているとアスナがこのパーティーにだけ聞こえるような音量で呟いた。

 

「ねえ、その、あなたは、ここに来る前にも他のMMOゲームをやっていたんでしょう?」

「……ああ、俺か。まあ、そうだな。それなりに長くやってるとは思うけど」

 

 明日奈の言う『あなた』が抽象的で一瞬戸惑ったが、その条件から俺だと推測するのは容易だった。

 

「他のゲームも、こんな感じなの?…こう、遠足みたいな…」

「……はは、遠足、遠足か」

 

 短く笑って、答えようとする声が上書きされる。

 

「アスナ、今まではコンシューマーゲームとかが一般的で、これが初のフルダイブ型MMORPG何だから勝手が違うわよ。コントローラーなりキーボードなり手元での操作も必要なんだから。ボイスチャットっていう手段もあるけど、ここまで自由なのはSAOくらいよ」

 

 ……参った。ミトに全て言われてしまった。やっぱり話し慣れた友達の方が分があるらしい。

 自分から聞いた割には、「ふうん」だなんて溢し、アスナは再び疑問を呈した。

 

「こういうファンタジーな世界があったとして、こんなふうにが恐ろしい怪物の親玉を倒しに行く途中の一団は、本物はどんな感じなのかしら」

「へ?な?本物?」

「…!ふふっ…!」

「本物、ですか」

「……………」

 

 そんなふとした言葉に、少年は怪訝そうに眉を寄せ、鎌使いは口元を抑えて笑う。銀腕の騎士は顎に手を当てて思案し、赤い長髪はただ無言で前を往く。

 

 その反応にようやく理解したようだ。自分はえらく子供らしいことを言ってしまったのでは…と。

 多数にこの考えがバレてしまったと少し赤くなってそっぽを向くが、少年剣士からは答えが返ってきた。

 

「……やっぱり、それを日常としているかどうか、じゃないかな。たぶん、それを日常としている人達なら、そう、俺達が何気なく遊びに出かけるような、仕事に出かけるようなことと一緒な気がする。喋りたければ喋るし、なければ黙る。このボス攻略レイドもいずれはそうなるといいけどね」

「……ふふ、ふ」

 

 そんな素直な言葉がおかしくて、ミトと二人で笑ってしまう。まさか、こんな何気ない一言でそんなことを言われるなんて思っていなかった。

 

「な、何だよ…?俺の答えがそんなに可笑しいか…?」

「ごめんなさい…。でも…変なこと言うんだもの。この世界は非日常なのに、その中での日常だなんて……」

 

 本当に可笑しそうに笑う姿から、同じようにつられて笑う。空気が弛緩し、歩みが軽くなった所でベディヴィエールは顔を上げる。

 

「…私も、同じ考えに辿り着きました。人間は慣れる生き物です。時に戦争が止まない国の軍人がいたとして、彼らにとっては戦争前にも軽口や今後の予定などを話し合い、人を殺したとしてもそれを引きずることは無いでしょう。それが、彼らにとっての日常なのですから…」

「「「………」」」

 

 唐突に出てきた血生臭い例えに、ハッと姿勢を正す。そう、己にとっての非日常は、いつかの誰かにとっての日常である可能性が浮上した。

 きっと、フィールドに出ることが当たり前となっているプレイヤーにとっては、当たり前のことと処理されているが、未だはじまりの街で助けを求めている人々からすればそれは十分に非日常だ。自分を殺し得る化け物に向かって剣を振るうなど、そんな時代は神話で終わっていると。

 

 もし仮に攻略による死者が出たとして、最初は悲しむことだろう。だが、もしそれが当たり前となったなら?…分からない。分からないが、きっとそれは悲しいことなのだろう。

 当人にとっては、些事であろうと…。

 

 結局の所、日常と非日常の差など、当人の意識の差なのだと、そんな夢のない答えが導きだされただけだった。

 

「………zzz…」

 

 因みに行軍中、トリスタンは爆睡していた。

 

 

 

 

 

 

 結局、ボスフロア前に来ても、このレイドが消耗することはなかった。やはりディアベルが全体を支え、既によきリーダーとして信頼されている。

 多少危うい場面でも最適の指示を出し、それが気持ちいいくらいに嵌まる。普段からリーダー職になれていなければ、あそこまでスムーズにはいかなかっただろう。

 それでいて他者と衝突せず、人間関係の不審もない。まさに完璧超人といった印象が強い。

 

(――この後に及んで粗探し、か)

 

 そう自嘲し、意識を大扉へと戻す。灰色のレリーフには恐ろしげな獣頭人身の怪物が刻まれている。

 この先に待ち受けるのはコボルド系統だ。他のゲームでは雑魚として扱われるが、ことSAOでは武器を扱いソードスキルを使用するモンスターなだけに中々の強さを証明している。

 そして何故かこのパーティーのリーダーを任されている俺――じゃんけんで決まったから放棄はしないが、それでももっと適任がいただろうと思う――はアスナ達を集めて今回の大筋を再度頭に刻み込む。

 

「よし、俺達が相手するのは《ルインコボルド・センチネル》だ。ベディヴィエールとミトは知ってると思うけど、いくら取り巻きとはいえ油断できない強さを持ってる強敵だ。頭と胴体の大部分は金属鎧を装備してるから攻撃が通りにくい。特に突き技が多いレイピアは尚更ね。だから狙うなら――」

「――喉元一点だけ、でしょ。これでも少しは教えてもらってるのよ」

 

 アスナはフードの奥から自慢げに鼻を鳴らし、深く頷くミト。どうやら俺がわざわざ忠告する必要は無かったみたいだ。

 

「そうだ。今回はパーティーメンバーも小回りがきくから、隙を作るのは難しいことじゃない。万が一を見越して必ず二人、それも一人は片手剣使いと組んでくれ。勿論、即席で入れ替わることもあるけど、出来るだけそれを崩さずいこう」

「「解った(りました)」」

 

 俺たちの話が終わると同時、他パーティーも十分な休憩がとれた様で、今か今かとディアベルの指示を待っている。

 さしものディアベルもこの場面で演説はしない。人型モンスターであるコボルドはプレイヤーの話し声にもおびき寄せられてしまうからだ。

 その代わりにと、ディアベルは長剣を高々と掲げると、大きく頷いた。それに呼応したレイドメンバーも己が得物をかざし、頷き返した。

 

 青髪の騎士は抜剣したままに左手を大扉の中央に当て――

 

「―――行くぞ!みんな!」

 

 そう短く叫び、思い切り押し開けた。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

「随分と久しぶり……ですね」

 

 ぽつりと、ベディヴィエールは呟いた。

 ベータテスト終了から既に二ヶ月が経過しようとしていた。

 十層と九層のボスフロアは拝見していないが、第一層という区切りにすれば約四ヶ月ぶりの光景。

 虹彩豊かな支柱の立ち並ぶ大部屋。奥に向かって伸びる長方形の空間。左右の幅はおよそ二十メートル、奥行きは百メートル程もあるだろう。

 

 ――この距離は、中々に厄介だ。

 

 以前からの経験と、仕事柄受け持つ判断力がそう囁いた。

 周囲のメンバーとの距離、万が一の経路と手段を練っていると、ボス部屋の奥で動く影が見えた。

 巨大な玉座に腰掛ける、他とは一線を画す巨体を持つコボルドの王。その名もイルファング・ザ・コボルドロード》。

 

 ディアベルが高く掲げたままの剣を、さっと振り下ろした。

 それを合図に総勢四十七名からなる攻略部隊は、己を鼓舞する鬨の声を上げ、一気にそのフロアへと雪崩込んだ。

 

 まず最前列で突進したのは、ヒーターシールドを掲げる戦鎚使いと彼が率いるA隊。その左斜め後方に巨漢エギル率いるB隊が追従している。

 右はディアベルらC隊が押さえ、D隊と続き、キバオウたち遊撃用E隊と長物持ちのF、G隊が並走。

 そして最後、殿に私達H隊が構えている。

 

 ここは事前の情報の精査と綿密に練られた作戦通りに進み、見事に獣人の王へと踊りかかった。

 《イルファング・ザ・コボルドロード》は心胆を寒からしめる雄叫びを上げながら無骨で巨大な骨斧でライトエフェクトを纏った強烈な一撃を叩き込む。その重厚な一撃を左手に備えた盾で見事受け止めたA隊リーダー。

 

 広場中に響いた音色が開戦の合図だったかのように、左右の壁の穴から重武装を纏ったコボルドが降り立った。

 

 取り巻きの《ルインコボルド・センチネル》だ。堅牢な鎧を感じさせない程の素早さで地を駆けるコボルドと、それに対して挑みかかるキバオウら三隊。

 

「よし、行くぞ!」

「ええ!行きましょう!」

 

 キリトの掛け声に反応し、私達は顔を見合わせると、最も近いセンチネルに向かって駆け出した。

 

 ボスのHPバーは四段。もしβ時代と同じならば、最後の一段になるまでは特に行動の変化はない。だが、その行動の変化も知っている。攻略本にもその記述は余すところなく書かれている。

 

「ぜあっ!」

「ええぇい!」

 

 長柄斧を持つ手をソードスキルで斬り飛ばし、その隙を逃さず首を刈り取る大鎌が弱点を痛烈に撃ち付ける。

 

「ナイス!」

「そちらこそ!」

 

 大きく仰け反った《センチネル》はHPを激減させ、しかしたたらを踏んで持ち直す。―――が直後に飛来したピックが正確無比に喉元を貫き、僅かに残った体力を消し飛ばした。

 

「お二方とも、やや詰めが甘いようですね」

「すみません。助かりましたトリスタン」

 

 こちらに漏れた内の一匹を始末し、もう一匹を相手にしているキリトらを見る。振り下ろされる長柄斧を危うげなく対処し、入れ替わりに鋭い刺突が繰り出された。

 その体捌きはやはり目を見張るものがある。βから没頭し、この世界に順応しているキリトはもとより、初心者の域を出ない筈のアスナでさえも高いレベルの戦闘を熟している。

 急造チームのため複雑な連携はないが、単純が故に見えてくるものもある。

 

 キリトは冷静に動きを見て、的確に攻撃を弾き、それを全力で狙い澄ますアスナ。たったこれだけの動作を幾度も繰り返しているが、それが最も安全で迅速な処理に一躍買っている。

 

「……このような子どもたちに、命のやり取りをさせるとは」

 

 グッと拳を握りしめ、主犯である茅場晶彦を想起する。あの顔なしフードのゲームマスターではなく、研究者気質な顔立ちの男性の顔を。

 一体、何が目的でこんなことをしたのか。何故、無辜の民を巻き込んだのか。悶々と渦巻く感情を一旦は抑え込み、戦局を見渡す。

 

「もう一段目のHPが無くなった…!やっぱり、連携がうまくいってるからかしら」

 

 ディアベルの策は堅実だった。比較的重装で盾持ちの(タンク)部隊が重い攻撃を対処し、狙われていない部隊が速攻を決めて即退散。POTローテの余裕も多分に含んでおり、瓦解どころか危うい気配すら無い。

 視界左上のレイドパーティーのHPを確認するも、安全域(グリーン)を下回る者はいない。

 

 それは正しく機能している部隊ごとの活躍であり、ディアベルの手腕が見て取れる。このまま行けば、宣言通りに死者なしで勝利を迎えられるかもしれない。

 

(ですが、どうにも昨日のトリスタンの言葉が引っ掛かる)

 

『確証はありませんが、ディアベル…彼の者ですが、どうやら何か行動を逸る傾向がありそうです。恐らくは卿と同じベータテスターだとは思うのですが、私は経験していないのでどうにも解りかねます。ですが、貴方なら……』

 

 一応、この状況ならばディアベルが一人突出したとして、パーティーが被害を受けることはない。

 

(それでも、嫌な予感を拭えないのは私の考えすぎか、それとも……)

 

 時を同じくして、同様の懸念を抱いたキリトも顔を上げていた。

 見えるのは果敢に攻め、忠実な戦闘をこなしている部隊のみだったが、安心できない何かがあるような気がしてならなかったのだ。

 

 ―――運命の分岐点(Fate)は、刻一刻と近づいていた。




ベディヴィエール視点なのにキャラが息してねえ(今更)
まあ、次に期待してください。
この話が面白いと感じたら、情け無用、容赦遠慮なく感想高評価を叩き込め!何?出来ないだと?巫山戯るな!土下座でも何でもするから叩き込んでくださいお願いします。
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