後書きは緊迫感を保つために空白にしておきたいので、ここに書きます。
感想!高評価!あると作者はすごい喜びます!
「ベディヴィエールっ」
そう叫びながらキリトが駆け寄る。どうやらセンチネルの相手をミトとアスナに任せたようで、彼自身は何の障害もなくここまで来れた。
「あ、あなたは…」
「無事でしたか。良かった」
そしてやっと理解が追いついたのか、ディアベルが体を起こしながら声をかける。そのHPゲージは最初の範囲攻撃や吹き飛ばされたのだ衝撃でレッドゾーンギリギリまで減ってしまっているが、確かに生き延びていた。
「…やっぱりアンタも」
到着したキリトが状態を見てほっと息をついた後、ディアベルに緊張感のある視線とともに声を投げかける。
どこか確信を伴ったそれに、ディアベルはポーションを飲み干して力なく頷いた。
「ああそうさ。キリトさんの予想通り。俺も、βテスターだ」
絞られた声音は前線にまで届くことはなく、ただ己の罪を告白するかのように告げられた。
「………やはり、私達はかつて会ったことがありますね?」
「β時代に何度かパーティーを組んだこともある。今のプレイスタイルとは違いすぎて分からないだろうけど、俺はあなた達を見たときすぐに気づいたよ。キリトさんはスタイルが同じだし、ベディヴィエールさんなんて見た目までおんなじだからね」
「随分と素直に話すんだな」
キリトの追求にも彼は否定せず、ただ受け入れた。
「俺はさ、みんながこのゲームをクリア出来るなら良かった。でも、やっぱりそれにはキッカケが必要なんだ」
「それがボス攻略…ですね」
コクン。無言の首肯にキリトが続ける。
「でも、それにはβテスターという肩書きは邪魔だ。だからあんたは経験豊富なβテスターではなく、新規プレイヤー『騎士ディアベル』としてみんなを纏めた。そして、みんなを纏めるリーダーとして、象徴としてLAが欲しかったんだな」
「全部お見通しか…。ははっ、流石β当時誰よりも進んでた人は違うね。…こんなに幼いとは思ってもなかったけどさ」
「お、幼いは余計だ!それに最前線は俺じゃなくて……って違う。 コホン…キバオウに頼んで俺に交渉を仕掛けたのもアンタだろ?俺の武器を買って、取り巻きに専念させることでLAを取られる危険を減らした」
「ああ。間違いない。といっても、功を焦った結果があれさ。本当に、ベディヴィエールさんがいなかったら死んでた。…本当にありがとう」
「いえ、当然のことをしたまでです」
ベディヴィエールがそう返すと、何が可笑しいのかディアベルは笑い始めた。それは、今までの騎士ディアベルとしてではなく、一人のプレイヤーとしてのものだった。
「は、ははっ!当たり前、当たり前か。……そんな、当たり前のことが、俺たちには足りなかったんだな。命が惜しいから…リソースを奪われたくないから…。人の生死が関わってる時にゲーマーとして、残された人達のことを考えなかったから、今の歪な関係になってしまった」
「それは違う! アンタは…ディアベルは凄いやつだと思う。βテスターなのを隠してリーダーになるなんて、とんでもないプレッシャーだっただろうに、それをおくびにも出さずにみんなが纏まってる。そんなこと、とても俺には出来ないよ。このレイドパーティーは、間違いなくアンタがいなかったら成り立っていなかったものだ」
その言葉に、意外そうにディアベルは目を見開いた。
「キリトさん…君は、恨んでいないのか? こっちは君の戦力を削ごうとしたし、配置場所だって不満があったはずだ。このゲームに慣れてるあんたなら、それがどういうことか分かるだろ?」
「恨まない。結局武器も売ってないし、俺たちのパーティーが一人足りないのも事実だ。何より、あんたはそれが上手くいかなくたって、俺たちに不利益なこともしなかっただろ?剣だって、あれだけのコルを払うのは将来的に見ればあんたに損しかないものだった。それに、人を纒めてくれたお陰で俺もこのボス戦に参加できたんだ」
流石にソロで攻略は不可能だからな。ニッと笑って続けたキリトに、ベディヴィエールは頷いた。
まだ困惑している様子の彼を焚きつけるための一言だ。
「立ちなさい、騎士ディアベル。このパーティーのリーダーは依然として貴方なのです。貴方が己を許せないのなら、誰一人欠かすことなくボスを踏破するという偉業で以って、街で待つプレイヤーに光明を指し示すのです」
視線の先には、コボルドロードにいいようにやられる前線組。殆どのHPが半分を下回り、スタンしていたC隊に至っては二割を切っている。完全に恐慌して逃げ惑うだけの者もおり、今はまだ死亡者こそ居ないがそれも時間の問題だ。
彼らへ視線を向けた後、再びディアベルに向き直る。
「―――それとも、貴方が語った騎士の誇りとやらはただの方便なのですか?」
それは、いつかに語った演説の一節。
『きっちり
ディアベルの瞳が見開かれる。まさか、みんなを焚きつけるための一言が、今になって自分に返ってくるとは思わなかったといった様子だ。
「…っああ! そうだな、オレが真っ先に約束を破るわけにもいかないな!…ありがとう。二人共、この借りは…第二層で返すよ」
「ああ、高い利子をつけとくよ」
「ええ、行きましょう!」
顔を見合わせ、三人は前線へ駆け出した。
「みんな悪い! さっきは情けない姿を見せたけど、もう大丈夫だ! 今ので分かったと思うけど、ボスの武器はタルワールじゃなくカタナだ! 対処も全然違うから、ベディヴィエールさんとキリトさんの指示に従ってくれ!」
「へ?」
駆け出しながら、さり気なく指揮の一部を委託されたことに間抜けな声を上げるキリト。しかし既に接敵間近。ここで断って足を引っ張るわけにはいかない。
「行くぞ!」
「応っ!」
「はあぁっ!」
同時、三人のソードスキルがコボルドロードを痛烈に打ち付けた。それはまるで、ここから始まる最終局面の開始を告げるゴングのようであった。
―――…
一時は絶望的な空気に包まれたボス戦が、新たな情熱を孕んだ高揚を生み出していた。
「グワオオォォォッ!!!」
「うおおおおおおおおお!!!」
イルファングの怒号と、プレイヤーたちの雄叫びが木霊する。ぶつかる盾とカタナ。イルファングが放った一撃は複数人のタンクのフルガードを貫くことはなく、その技後硬直を狙ったソードスキルがHPを僅かに、けれど確かな数値減らしていく。
「硬直解けた! タンク上がってくれ!」
「居合いが来ます! 長射程ですが前線で受け止めれば問題ありません! HPが6割を下回った方は背後へ下がりなさい! 私達が入ります!」
指示の通り、迷うことなく武器と盾を構えたメンバーは衝撃に備え、直後に緑色のライトエフェクトを纏ったソードスキルが発動する。カタナ直線遠距離攻撃《
本来の射程よりずっと前で抑えたために、硬直時間が長引いた。
「行きます!」
無防備な隙を晒すイルファングへと、色とりどりの攻撃が加えられる。
「グルルル…」
思うように行かないのが不満なのか、不機嫌そうに唸るイルファングに、
最初こそ恐慌に囚われていたプレイヤーたちも、リーダーの復帰と共に続々とやる気を取り戻していた。最初こそ指揮権が移ったことに疑問を抱く者もいたが、的確な指示を出すごとにそれらも消えていった。
「左薙ぎ払いだ!」
「うわぁっ!?」
しかし、やはり初見の動作には指示ありでもついていけないこともある。それに、いかに重武装とはいえ狂乱状態で暴れまわるボスの攻撃を受け続けるわけにはいかない。一部が下がってポーションを飲むが、その間に剣士数名がイルファングのソードスキルに対抗しきれずに弾き飛ばされた。
「C隊下がれ! 俺達が抑える!」
「はい!」
ディアベルがそう叫ぶと、何の迷いもなくC隊は前線を退いてポーションを呷る。
ボスのHPは残り半分。慎重に徹しすぎたか、減りは遅い。今でさえ慣れないカタナスキルに四苦八苦しているのに、時間が経てば集中力も途切れる。どこかでチャンスを作り出さなければ、いずれ致命的な隙が露出してしまう。
ならば、私達だけで抑えるか――?
だが、その手段を取るには4人では不安だ。もっと人手が、それもより強力な。
イルファングの攻撃を危なげなく受け止め、徐々に体力を回復させる後列を見る。
まだ完全に回復しきっていない。SAOの回復ポーションは飲んでからじわじわとHPが回復していくという仕様だ。第一層で入手できるポーションではその効果も大したものではなく、中途半端なダメージを残して復帰させればその分各隊内部での体力のズレが生じてくる。 そうなれば、隊として分けたことが却って邪魔をする。
(何か、良い手はないか…)
「ベディヴィエール!」
「キリト!」
声がすぐ後ろにまで迫っていた。
「アスナにミト!?センチネルの相手は…」
「モヤッとボールさんに任せてきたわ」
「数も減ってるし、余ったからね」
冗談めかして笑う二人は、されど油断せずイルファングの動向を睨みつけている。みな、実力に不足はない。なら、今から話す無茶振りにも応えられる筈だ。
「申し訳ありません! 前線の維持を可能な方にお任せします!」
「任せとけ!」
威勢よく応える両手剣使いに感謝をし、その概要を伝える。アスナとディアベルはやや懐疑的だが、他は乗り気らしい。
とにかく、やるしかない。削られていく前線のHPがイエローに突入するより前にスイッチ。
この声掛けはディアベルに任せている。
「みんなー! 態勢が整い次第全力で攻撃するんだ!防御や回避は考えなくてもいい!」
どよどよと、威勢良く放たれた指示に困惑の空気を隠せないでいるレイド。それも当然、ただの特攻なぞ命を賭けに出す行為だ。今までが完璧だったが故に、なぜこんな無謀な策をだしたのかと、誰もがディアベルに注目した。
そして一人が我慢できずにその意図を尋ねる。それはみなの総意。誰も彼もがディアベルの発言を聞き逃すものかと耳を立てた。
自信満々に、それは紡がれた。
「俺達が責任を持って
やや懐疑的な視線が寄せられるが、それでも切った口火は収まらない。誰かが声を上げ、それが伝播し巨大な雷声と化す。
「グラアァァァ――ッ!!」
イルファングが負けじと砲声を上げ、淡い緋色を刀身に纏わせる。前にも振るわれた、三連撃ソードスキル《緋扇》のモーションだ。
その最初の一撃は、必ず――
「――上段です!」
「合わせろ!」
「分かった!」
「抜かりなく!」
「分かってるわ!」
「ええ!」
六人が、同時に反応した。
前列に四人、後列に二人。並べられた銀色の刀身に赤青緑の燐光が爆裂する。
「グガアッッ!!??」
――巨体が、揺らぐ。
驚愕に見開かれたイルファングの視線の先には交差した四つの片手剣。キリトの、ベディヴィエールの、トリスタンの、ディアベルの剣が《イルファング・ザ・コボルドロード》の野太刀を弾き返し、ソードスキルを中断させられたイルファングは無防備な体を晒すことになる。
「今です!」
ベディヴィエールの落ち着いた指令に見惚れていたプレイヤーたちが動く――よりも速く、動き出していた者がいた。
「――アスナ!」
「――ミト!」
二人の乙女が、駆けた。