隻腕の騎士、浮遊城に立つ   作:食卓の英雄

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読者「(新しい話)読ませろ」
作者「っ…!!」

作者「読者の人っていつもそうですね…!私たちのことなんだと思ってるんですか…!?」


剣士よ、往け

 

「――アスナ!」

「――ミト!」

 

 二人の乙女が、駆け抜けた。姿勢は低く、ネコ科動物の如く身を縮めた疾駆、二人は激しくはためくフードケープを鬱陶しいとばかりに引き剥がす。

 光を孕んだ艷やかな栗色と、闇を内包した紫紺の長髪が舞う。

 

「やああぁぁぁっ!!」

「はああぁぁぁっ!!」

 

 まず、ミトの大鎌が髪色と同じ紫の軌跡を宙に残しながら胸に二筋の傷跡を残す。そしてアスナは四剣士の残した剣を踏み台にして、跳んだ。

 イルファングの眼前まで飛び上がった彼女は、そのまま渾身の一撃を叩き込む。空中だというのに、地上とパフォーマンスが変わらないことに密かな驚嘆を覚え、まもなくそれは見開かれたイルファングの眼球へと炸裂した。

――大鎌専用二連撃ソードスキル《ディオ・ハーヴェスト》と細剣用単発ソードスキル《リニアー》。

 

 常より激しい光を散らした一撃はクリティカル。今までのどの攻撃よりも激しくボスのHPを減少させた。

 

「嬢ちゃん達に負けんじゃねぇぞ! 俺たちも続けーっ!」

「「「おおおおおおおおおおっっ!!」」」

 

 それに追随するのは残りのプレイヤー達の群れ。この状況下でもパーティー一塊となって突撃する彼らの全力攻撃の絨毯剣撃がイルファング目掛けて殺到する。

 

「うおおおおおおっ!」

「喰らえぇぇぇぇーっ!」

「だりゃああああっ!!」

 

 片手剣が、両手剣が、曲刀が両手斧が戦棍が短剣が―。

 仮想世界の空気を斬り裂いて軌道が虹を描く。

 それは正に《剣が描く芸術(ソードアート)》。図らずしも首謀者である茅場晶彦の意に沿う形となった連撃は、直撃するたびに歓声が上がりそのボルテージは留まるところを知らない。

 

「グアアアアッッ!」

 

 当然、階層の主(フロアボス)たるイルファングが黙ってやられるはずがない。長い硬直がとけた瞬間に目につくプレイヤー目掛けて斬りかかる。

 

「止めるぞベディヴィエール!」

「お任せを!」

 

 そこに割り込んだのはキリトとベディヴィエール。二人はその軌道上に身を割り込み横薙ぎに対して垂直切りで迎え撃つ。

 

「ぐっ…」

「ぬおおおぉっ…!」

 

 少しの拮抗。これが一人なら、生半可な実力であればそれすら許さずその身を白刃に晒したであろうが、この二人は別だ。

 その一撃を受け止めた二人は技後硬直に陥るが、それはイルファングも同じこと。だがこちらには仲間がいる。この僅かな間を確実に狙って叩き込まれる剣戟。またもやイルファングは悲痛な雄叫びを上げ、やがてそれが怒声へ変わる。

 

「ミト、トリスタン!」

「ええ!」

「心得ています」

 

 キリトの声に、それだけで二人は反応してみせた。大上段から迫る野太刀に、ミトは切り上げを、トリスタンは《バーチカル・アーク》の二撃目で対応する。

 

 一時、裂帛の気合を上げたイルファングの動きが完全に停止。けれど硬直からすぐに立ち直った。今迎撃した二人はまだ復帰できていない。

 ニヤリと獣顔を愉悦に歪め、固まる二人へ向けて渾身の一撃を叩き込もうと大きく構える。

 

「アスナ!ディアベル!」

 

 それを、二人の影が遮った。威力の増した一撃を食らったイルファングは体制を崩しソードスキルの光を霧散させる。

 

「…次、来るぞ!」

「はあああああっ!」

「右水平斬り! 左薙ぎ払い! 上段唐竹っ! 左斬り下ろし!」

「右斬り上げ、薙ぎ払い! こちらは私が!」

 

 キリトの指示は適切で、必死でイルファングの野太刀の軌道を読み当てる。キリトが技の対処をしている間はベディヴィエールがその役を変わり、指示を切らすことなく一撃一撃を受け止めていた。その姿は、正に万夫不当の英雄が如く。

 

「…マジかよ」

「凄ぇ…」

 

 ポーションによるクールタイム待ちの仲間から、そんな言葉が紡がれる。彼らの目には、先の大言壮語を実現してみせる頼もしい背中が並んでいた。

 

「やああああ―――っ!」

「はあっ、やっ!」

 

 このSAOというゲームではモンスターの攻撃を延々と防ぐことは非常に困難だ。余程のレベル差でもない限りは防ぐたびに微量とはいえHPが減少し、手に痺れや衝撃も残る。ソードスキルなどはその典型例で反応は出来ても上手く防ぐにはそれなりのステータスとカンが必要で、集中力も桁違いだ。

 それをステータスで上回るボスモンスターに、複数人で連続でやってのける技量、仲間への信頼。彼らもこのSAOというゲームのフロントランナー…相当なゲーマーであるだけに、その常識外れな連携に言葉を失い感嘆の声を漏らした。

 

「くそっ、まだまだ来るぞ!」

「まだ倒れないの…!?」

「これ以上はHPが…!」

 

 キリト、アスナ、ディアベルが極限の緊張の中愚痴をこぼす。いかに全てを完璧に防いでるとはいえ、ボスの放つソードスキルをゼロダメージに抑えるのは不可能だ。とはいえもしこれが他のプレイヤーのパーティーであったならとっくに全滅していただけの攻撃を受けてきたのは間違いではなく、攻勢に移ったプレイヤー達により相当HPもニ割を切った。

 だが、こちらとて無事ではない。最も消耗が激しいのはこの中で最も軽装でありながらそのスキルの軌道の豊かさでフォローをしてきたミトだ。見れば、すでにイエローを通り越して五割、いや四割に差し掛かっている。

 

 もしこの状況で強力なソードスキルに対処しきれなかったら…。そんな嫌な想像がぞくりと脳裏を掠める。

 

 いや、そうはさせない。最悪、複数人で迎撃した後に予備として控えるタンク隊に任せればいいだけのこと。何をそんなに怯える必要が―

 

「うわっ」

 

 その瞬間、ボスの動作を無茶な姿勢で避けたシミター使いが足をもつれさせた。よろめき、転けた先はボスの真後ろだった。

 

「…早く動け!」

 

 キリトの焦りを隠さない叱責が飛んだが、間に合わなかったらしい。イルファングが取り囲まれた状態を感知し、これまでの鬱憤を晴らすように獰猛に吠えた。

 

 ヘイトを向けようとする俺達も無視して巨体を地に沈めこむ。次の瞬間、全身のバネを用いた高い垂直跳びが風を巻き起こす。

 

「ミトさん下がれ!」

 

 ソードスキル《旋車》。ディアベル達C隊を危機に陥れた一撃。範囲攻撃でありながら前線のプレイヤーのHPを半減させる威力を誇り、さらにスタンのバッドステータスを付与する凶悪な技だ。

 その威力を身を以て知ったディアベルは咄嗟にミトに声をかける。他のメンバーならまだしも、HPが半分を切っている軽戦士はそれが死に直結する。

 だが、ミトは動かない。動けない。強力なソードスキルを使った反動が回復していないのだ。それはベディヴィエールも然り。

 

 動けるアスナが、ディアベルが、トリスタンすらもがこの状況を打開する術を持っていなかった。

 

「う………おおああっ!!」

 

 剣士が歯を噛み合わせ猛り叫ぶ。剣を右肩に担ぐように構え、左足で思い切り床を蹴りつける。明らかにレベル帯に見合わない速度で己が肉体を斜め上空へと射出する。片手剣突進技、《ソニックリープ》。同じ突進技である《レイジスパイク》よりは射程が短いが、これは軌道を上空にも向けられる。

 

 右手で握る剣が鮮やかな緑のライトエフェクトに包まれた。その先では、イルファングの野太刀が赤い輝きを生み始めていた。

 

「届……けェ―――ッ!!」

 

 キリトが叫ぶ。限界まで伸び切った右腕を、加速の勢いそのままに振り抜いた。

 宙に長いアーチを描いた一撃はソードスキル発動前のイルファングを強かに打ち付け、その体に鋭い斬撃跡を刻み込んだ。

 

「止まらないッ…」

 

―――しかし、確率の女神は微笑まなかったらしい。

 

 キリトの放ったソードスキルは鍛え上げられたアニールブレイドとステータスにより強力な一撃となり得たが、クリティカルですらないそれではボスの体勢を崩すには足りなかった。

 

 それを見届け、誰もが絶望の二文字を思い浮かべた中、それを確認するや駆け出した者がいた。

 

「――ミトッ!」

 

 ベディヴィエールだ。これまで如何なる時――茅場晶彦のデスゲーム宣言時にすら崩さなかった冷静なその貌に焦りを滲ませ、かつてのミトに言ったように武器すら捨てて走り寄る。

 そうして、ベディヴィエールは自らの背をイルファングへ向け、両手で抱き込むようにしてミトを庇った。

 

「―うおりゃああ! その武器落とせコノヤロー!!!」

 

 だがそこにもう一人、飛び上がる者がいた。キリトよりも低い位置を駆けた濁声の男。髪は赤、身に纏う装備と髭の目立つ野武士ヅラはさながらサムライを思わせる姿。武器こそ曲刀であるが、今はその行動が運命を分けた。

 

 曲刀用単発突進ソードスキル《フラッシュフロード》。鉄砲水の名を冠した一撃が今まさに落下途中のイルファングの腹めがけて吸い込まれた。

 

「グルゥッ――!!?」

 

 計二発のソードスキルを空中で受けたイルファングは堪らず喚き、必殺の一撃を放つことなく無様に地に落ちる。

 

「ナイスだクライン!」

「おう!俺様にかかりゃあこんなもん…あだっ!?」

 

 空中で器用に言葉の遣取を交わし、見事に足から着地するキリトと、不格好に墜落するクライン。その姿は何とも締まらないが、危機は脱した。

 

 ホッと息をつくのも束の間、即座に意識をイルファングに移せば、倒れたまま立ち上がろうと手足をばたつかせていた。人型モンスター特有のバッドステータス、《転倒(タンブル)》。

 

「…全員っ、全力攻撃(フルアタック)ーっ!!」

 

 その隙を逃す指揮官ではない。「お…オオオオ―――っ!」と上がる威勢のいい叫び声とともに彼らは己の獲物を振りかざす。

 今までは《旋車》を恐れて取り囲むことが出来なかったが、《転倒》中の今は完全に無防備。これまでの鬱憤を爆発させるようにぐるりと取り囲み、味方を邪魔しない縦斬り系ソードスキルを発動させる。先の光景の焼き直しが、さらなる密度と手数によって再現させる。

 息つく暇もなく豪然と降り注ぐソードスキルの雨あられに、イルファングの残り僅かなHPが目に見えて削られ続ける。

 このままHPを全損させられれば、勝利。その前に動き出してしまえばその瞬間《旋車》が炸裂し、今度こそ全員を吹き飛ばす。

 

 一旦攻勢に移っても、技後硬直の時間はどうにもならない。その間に、無情にもイルファングは《転倒》を脱し上体を起こした。

 

 ここで削り切るつもりの、出し惜しみなしの攻撃だった。ようやく次の予備動作に入った彼らは、もう動けない。

 

―――三人を除いて。

 

「アスナ、ディアベル!最後の一撃行くぞ!」

「「了解!!」」

 

 地を走駆する三つの影。黒、赤、青の三閃は全力で今撃てる最大火力を解き放つ。

 

「行っ……けぇッ!!」

 

 エギルやクライン達の隙間を抜け、まずディアベルの《レイジスパイク》が地を駆け抜け激突する。ボスのHPが、ほんの数ドットにまで落ち込む。そして次鋒、アスナが渾身の《リニアー》を穿とうと姿勢に入り――突如、イルファングが身を翻してその刀身を煌めかせる。

 

「なっ――!?」

 

 アスナは予備動作に入っていて躱すことも迎撃もできない。キリトが眦を見開いてソードスキルを発動させるが、既に庇うことも不可能。予想外だ。まさかそんな挙動をするなんて思わなかった。よぎる後悔と残った一撃で仕留められるのかといった不安。

 そこに、後方から一筋の流星が飛来した。

 

 槍だ。本来両手で握るはずの長槍が一直線に長大な野太刀に吸い込まれていく。寸分違わず命中した槍と野太刀はギリギリと火花を立てて、呆気なく槍が地に落ちる。少し時間を稼げはしたが、危機に変わりはない。

 キリトが覚悟を決めたところで声が轟いた。

 

「――そのまま往きなさい!」

 

 背後に、投槍後の姿勢のままのベディヴィエールが移り、自然と自らを横切った姿も視界に収める。

 

「アスナ!」

 

 ミトが、その一撃をソードスキルで迎え撃つ。通常攻撃とソードスキルのぶつかり合い。軍配が上がったのは後者だ。HPを赤く染めながら、確りとその凶刃を止めてみせた。

 

「っやあああああああああぁぁぁぁッッ!!!」

 

 絶叫にも近い神速の刺突。激しいライトエフェクトが弾け飛び、既にそこにはキリトが剣を振りかぶっていた。

 

「やれぇーっ!」「やっちまえーッ!」「キリト!」「キリトさん!」

 

「「「「行っけえぇぇぇ――――ッッ!」」」」

「おおおおおおおおおおおおおおおッッ!!!」

 

 青い光芒をまとった剣が、イルファングの腹に強烈な横一文字の軌跡を描き、背後へ突き抜けた。

 

 キリトの動きが静止すると同時、コボルド王の巨体が揺れ動き、細く吠えた直後。ビシッ、と無数の罅が入る。

 やがて、力の抜けた体はどしんと両膝をつき、直後、アインクラッド第一層フロアボス《イルファング・ザ・コボルドロード》は全身を無数の硝子片に変えて盛大に爆散した。

 

 盛大なファンファーレがフロアを支配し、それを塗り潰すほどの大歓声が沸き起こった。

 





アインクラッド第一層突破!!!

なんか一纏まりついたような達成感がすごい。
この調子でどんどん投稿していきたいので、(評価と感想)よろしくおねがいします!
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