隻腕の騎士、浮遊城に立つ   作:食卓の英雄

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何か知らん間に滅茶苦茶伸びてて怖いんだけど…まあ普通にメチャ嬉しいんですけどね
何か真っ赤だし、投票者100人以上って何やねん…。
それだけ期待されてるって事でいいんでしょうか?

今回ちょい長いかも。

《ベディヴィアの人にあまり言えない秘密》

実は過去に一度■■■■との交戦経験がある。


SIDE:B その次の日

「……本当にその作戦で行くのですか?いえ、疑っている訳ではなく…」

「ええ、安心してください。こう見えて効率は中々いいですから。……何故かあまりやっている方は見かけませんでしたが…」

「………(そも、出来る技量を持った人間がいなかったからでは?という顔)」

「では手筈通りに!」

 

 返事はなく、ただ一度弦を鳴らすのみであったが、二人の間にはそれで十分だ。

 徹夜で進んだ為に、他のプレイヤーの到達地点よりも少し先にある渓谷地帯。その一角にて二人の騎士はモンスターの群れに囲まれていた。

 

 何故こうなったのか、時は少し遡る。

 

――――…

 

 ポロロン…ポロロン…。

 

「…簡素なもので申し訳ありませんが、取り敢えずはこれでお許しを」

「いえ、わざわざありがとうございます。きっと我が妻子も浮かばれるでしょう」

「…そう言ってくれると私もありがたい」

 

 厳粛な空気の中奏でられた音色の一つどれをとってもかなりの練度を感じさせるもので、如何程に優れた奏者であるかを強く思い返された。

 …再び静まる空気を振り払い、現実世界の話題から一転。このゲーム(ソードアート・オンライン)の話へと移る。

 

「そういえば、トリスタンはどのような構成を?」

「ああ、それなのですが…殆ど無視して走ってきたので、レベルは1のままです。取得しているスキルは……『竪琴』と『投剣』ですね」

「……よくここまで辿り着けましたね」

 

 トリスタンは何て事ないように語るが、この場所の適正レベルは3。デスゲームと化した今、適正レベルを超えた、安全マージンを取らなければ行けないような状況下に、新人が戦闘スキルも無しに突貫してきたのだ。

 この男で無ければ良くて自殺志願者。あまりの無謀さここに極まっていた。

 

「いえ、まあ何もないよりはマシですが…。せめてメイン武器くらいは取っておいたほうが…」

 

 トリスタンの身を案じ、そう声をかけるが何を思ったのか、トリスタンは微笑する。

 

「ふっ…ベディヴィエールは私が何の意味もない事をするとお思いで?」

「はい。割とちょくちょくやらかしますよね」

「………まあ、いいです」

 

 一切の遠慮なく放たれた言葉に少々ばつが悪そうに居直るが、咳払いをして続ける。曰く、あるクエストをクリアして得られる武器種、弓を獲得したいとの事。その為にも、まずは一層をクリアしたいと言っているが…

 

「ないですよ」

「はい?」

「いえ、ですから。弓ないです」

 

 ピシリ。

 空気が緊迫したように、一瞬だけトリスタンの目が薄く開いた。

 SAOでは感情表現が豊かであり、それがアバターに反映されやすい為に表情を隠し通すのは中々に難しい。そんな中で僅かにしか顔に出なかったトリスタンのポーカーフェイスぶりを褒めるべきか、それ程驚いたと見るべきか。

 行き場を失った手を膝の上に置き、発言人をじっと見つめる。

 

「……マジですか?」

「……マジです」

 

 静かに問答を繰り返し、先程と全く同じ体勢――振り出しに戻る。どこから漏れたものか、トリスタンはガセネタを掴まされていたらしい。事実が判明すると、それはそれは凄い落ち込みようであった。まあ、この様な状況になって尚、本来の獲物が使えないと来るのだから悲観する気持ちは分からなくもない。

 

「……まあ、いいです。今の内に知れただけでも僥倖というもの」

「ではメイン武器を…」

「いいえ!それはまた次の機会に。流石に遠距離攻撃手段と竪琴だけは譲れません。……そうです、確か一応スキルが無くとも剣自体は振れるのでしょう?私はそれまで頑張っていきますとも」

 

 正直な所を言えば、デスゲームとなった今は他に取るべきスキルはあるのだが、そこまで口を出すことはしない。これはトリスタンが選んだ事。そして何よりも、この男への信頼が厚い事に他ならない。 

 

「では尚更早くレベルを上げなくてはいけませんね」

 

 しかし、それはあくまで技術的なもの。流石にゲームに設定された数値を完全に無視出来るというものではない。それに、次のスキルスロットが解放されるのはレベル5の時。

 それまでは、ベディヴィエールがメイン攻撃手としてやって行く事になりそうだ。

 つ…と右腕を虚空になぞらせウィンドウを開き、ニ、三度タップすると、トリスタンの目の前に新たな窓が表示される。

 

《ベディヴィエール からパーティー申請が届きました》

 

「…ええ、これからもよろしくお願いします」

 

 当然、OKを選択。直後、視界左側。自身のHPバーの下に、やや小さなHPバーが出現した。パーティーが成立した瞬間である。

 

 それからというもの、今後の事やβ時代に知り得た第一層の情報を話し、次の行き先や狩り場をある程度定め……ふと、あることを思い出した。

 

 それは、ここから数時間進んだ先で受注出来るクエストである。『収集(コレクト)』と『虐殺(スローター)』の複合クエスト。名は『昆虫の騒動』。

 

 このクエストは一層…というよりSAOでは珍しい一時的(インスタンス)マップで行われるもので、制限時間内に特定のアイテムを収集し、かつモンスターを倒すという内容だ。

 

 わざわざフィールドに出て集めなければならない通常クエストよりはマシな気もするが、実の所このクエストの人気は恐ろしく低かった。

 

 理由としては、毎回指定のものがランダムになる事だろう。物だけではなく、その個数や種類までバラバラで、とてもパターン化出来たものではない。

 しかもその収集品というものが厄介で、虫型のクリッターなのである。森中を動き回るそれはMob扱いではない為索敵スキルに頼ることも出来ない。そして『虐殺(スローター)』の名にもある通りモンスターも徘徊している。

 戦闘中はクリッターが逃げるプログラムを組み込まれており、これがまた厄介さをワンランク上げていたと言えるだろう。

 

 モンスターの猛攻を躱し、動き回る虫の数々を捕獲し、時にはモンスターを選別し、必死の思いでクリアした所で、特にこれといったアイテムもない。

 確かに、難易度の分コルや経験値はそれなりだが、まず街から圧倒的に遠く、また、隔離される為に他クエストを同時に進めることも出来ない。物資の補給には一度クエストを諦める必要がある。これならば圏内付近のクエストをいくらか回したほうが効率も良く、安全性も遥かに高い。……ようするに、面倒くさい割にしょっぱく、貴重なアイテムもない。いわゆる塩漬けクエストなのだ。

 虫型モンスターしか配置されていない為、クリッターを無視してドロップアイテム狙いで訪れるプレイヤーもいるにはいるが、ここをその様に安定して攻略出来る実力があればとっくに上の層を利用している。

 

 デスゲームとなった今、こんな僻地のサブクエストを受ける人間がいるだろうか。安全圏から遠く、攻略にも遠い。ましてや穴場ですらないこのクエストは、はっきりいって相当の物好きでもなければまず受けない。

 

「聞いてくださいますか…。近頃、この辺りで多くの巨大昆虫が悪さをしている様でして…小さな虫達の生活圏を減らしていっているのです。退治したいのはやまやまなのですが、何分数が多いもので……。どうかあの巨大昆虫を追い払い、小さき虫達をちゃんとした森へと返してはくれませんか」

「分かりました。お任せください」

「おお、ありがとうございます旅人様。小さき虫達は戦いに敏感で逃げてしまいますので、お気をつけて言ってらっしゃいませ」

 

 夜通し森林地帯を駆け抜け、時にはモンスターとも交戦し、景色の良い渓谷へと辿り着いた二人は、早速NPCからクエストを受注していた。

 

「毎度思っていましたが……あの御老体、何故このような場所に一人で住んでいらっしゃるのでしょうか」

「さあ、ゲームですので…」

 

 そんな会話もそこそこに、裏口から外へ出る。日も出てすっかり明るくなった渓谷は、仮想の日光をこれでもかと吸収している。心做しか、空気も澄んでいるように感じるのが不思議な所だ。

 

 既にクエストは開始され、次第にこの場所にもモンスターが訪れる事だろう。このクエストをクリアするセオリーとしては、まず第一に目標のクリッターの位置を確認し、移動しながら対象のモンスターを討伐するのだが……。

 クエストリタイアの出口でもある民家を背に、ベディヴィエールはストレージから小瓶に入った何かを取り出した。

 

「それは…?」

「ええ、『食人花の蜜』です。これを使います」

 

 βテスト終了一日前に発見したこのアイテム。『リトルネペントの胚珠』とポーションを火にかける(!?)と出来上がるアイテムだ。これは虫型モンスターとクリッターを集める効果があり、更にはクリッターが戦闘行為への反応を示さなくなるものだ。まさにこのクエストのためにあるかの様なアイテム。使わない筈もなかった。

 

 そんな優れ物を―――

 

 ベチャアッ…!

 

 いかにも粘性な音を立ててトリスタンの体に塗りたくられたそれは、テカテカと光を反射する。

 この独特の不快感までしっかり再現してくれるナーヴギアにはトリスタンも思わず脱帽。こんなとこまで再現しなくていいのにとも思っている。

 

 民家を背に、ベディヴィエールはその作戦を語りだす。

 本来は木などに使用するそれをいっぺんにトリスタンに塗り、更に竪琴でモンスターのヘイトを稼ぎ、相乗効果で押し寄せたモンスターをベディヴィエールが狩り尽くすというものだった。民家を背にしているのは、万が一の際に逃げやすい事と、背後を警戒しなくていいことからだ。

 

 蜜の滴るいい男となったトリスタンは、そのぬちゃぬちゃの体のまま銀の竪琴を弾き始めた。ベディヴィエールは最早心配すらしてくれない。

 

「私は悲しい……」

 

 ポロローン

 

 奏でられた音色は、ベトベトの手で弾かれたとは思えないほどに美しく、整っていた。

 

 

 

―――……

 

 

「おおおおおっ!」

「キシャアアアッ!?」

 

 巨大アリを裂帛の気合と共に一条の銀閃が放たれる。

 単発の垂直斬り下ろし――『バーチカル』がアリの弱点である首を痛烈に打ち、そのHPバーをレッドにまで削り通す。みるみる減っていくHPを前に、しかしてアリは止まらない。減少の止まったHPは残り数ドットという所で停止し、ソードスキル後の硬直を起こすベディヴィエールへと牙を剥く。

 

「吠えても無駄です!」

 

 が、その攻撃が届くより先に、凄まじい正確さでスローイングナイフが弱点を貫いた。それにより数ドット残っていたHPは完全にゼロになり、青い結晶の様にポリゴンの破片を散らせた。 

 

「これで最後ですか…」

 

 3時間にも渡った攻防戦は中々白熱したものとなり、二人のHPはレッド手前のイエローにまで陥ってしまっている。直ぐにポーションを飲み干し、じわじわと回復していく体力と、手に入ったアイテム郡を眺めながらトリスタンは呟いた。

 途中、トリスタンが眠ってしまったり、解毒に手間取ったり、物量に押し込まれそうになる等、危うい所はあったが、何とかお互いにカバーしあって切り抜ける事が出来た。

 

「さて、では指定の物も集まりましたし…。御老体に報告しましょう」

 

 早速と、ドアに手を掛けるトリスタンを慌てて引き止める。

 

「…?何でしょうか?」

「まだ寄る場所があるのですよ」

 

 このマップの端の端。渓谷の下の空間に、それは居た。

 

 光の漏れる幻想的な空間に止まっているのは一匹のカブトムシ。そのサイズはモンスターのそれであり、カーソルも敵を示す赤だ。

 『シュヴァリエ・ビートル』。金に縁取られた純銀の装甲は、空間に満ちる青い燐光を受けて煌めいている。これが狙いの品である。

 このモンスターはこの場所限定のレアモンスターであり、ランダムで各種レア装備をドロップするお宝モンスターである。

 何故、こんなものが居るのに塩漬けとして扱われていたかというと、このモンスターの出現条件が『フィールド内の全てのMobを討伐する』だからである。このクエストを続ける旨味はなく、クリッター収集を終えたら直ぐに終わらせるプレイヤーが殆どであったため、他には知られていないのだ。そもそも、全滅させた所で、この場所の存在を知っている上で訪れなければならない為、他に知られていないのも納得だろう。

 因みにβ時代にこのモンスターを発見したのはベディヴィエールただ一人である為、どんな攻略本にも載っていない激レアなモンスターなのはベディヴィエール本人ですら知り得ない事である。

 特殊な条件のレアモンスターなだけに、このレベル帯にしてはかなり強めのモンスターではあるが、あの修羅場を乗り越えた二人の敵ではない。

 数分で討伐されたシュヴァリエ・ビートルを尻目に、トドメを刺したトリスタンはドロップアイテムを確かめる。

 

「『グリーヴ・オブ・ラメント』…これは、私が頂いても?」

「ええ、元よりそのつもりで挑んだのですから」

「では、早速…。……おお…、これは…!」

 

 何やら感慨深そうに新調された脚用防具を見つめ続けるトリスタン。大袈裟にはしゃいだりはしないが、長い付き合いであるベディヴィエールには相当舞い上がっていると見えた。

 どうやら妙にしっくり来るらしく、動きやすさや性能、見た目の全てにパーフェクトと太鼓判を押していた。

 新しいおもちゃを買ってもらった童のようにウキウキとしているトリスタンを引き連れ、クエスト完了報告に向かう。

 

「おお、ありがとうございました。歳を取ると中々厳しいものでして……。そうです、報酬でしたね。少ないですが…こちらを」

「ありがとうございます」

 

 深く礼をする老人を見据え、言葉を添える。

 ゲームのNPCである老人にはそんな言葉がけは何の意味も無いのだが、ベディヴィエールにはどうもそう割り切る事が出来ないらしい。……というより、元々AI等にも敬語を絶やさないので、それが絶対だとは限らないが。

 

 開かれたウィンドウからコルや経験値が記され、二人揃ってファンファーレが鳴る。これまでの長い戦闘でベディヴィエールは8、トリスタンのレベルは6になっていた。

 目当てだったスキルスロットを手に入れ、そこに片手直剣を当てはめる。どうやらソードスキルの練習をするらしく、室内でぶんぶんと振るっている。

 出発はまだもう少し後になりそうだ。

 

「……旅人様」

 

 待っている間、残っているワームでも食べようかとオブジェクト化した所で、老人が話しかけてきた。その手には何か細長い箱を抱えている。

 

 どういう事だろうか。βテスト時にはこんなイベントは無かったはずだが…。

 

「実は…儂の息子なのですが…。昔、騎士をやっておりまして。ここの森でよく遊んだものでして。虫が好きな変わった趣味の奴じゃった。……あやつはもう既に居ませんが、せめて、魂だけでも連れて行ってくださいはしませんか」

 

 そう言い、差し出された箱の中を見ると、やや細身の剣身に飾り気のない鍔のついた剣であった。

 恐らく、いや、間違いなく今使っているスモールソードよりも何段階も強いであろうそれを、ただ受け取るのは簡単だ。ハイと一言呟けば、システムが認識して自らのストレージに移動されるだろう。

 

 しかし、それは何かが違う気がした。

 これがただのゲームであった時ならば、その背景を思いこそすれど、感情移入はしないであろう。このデスゲームと化した世界では、NPCもプレイヤーも、どちらも一つしかない命を背負っているのだ。なればこそ、自らもそれなりの対応を取るべきなのだと、そう判断した。

 

「分かりました。御老公、貴方の子の魂は我が魂と共にあり。これなる剣は必ずや騎士の本懐を遂げるに相応しいものでありましょう」

「………そう言ってくださると、愚息も浮かばれます」

 

 ふと、決められたプロセスしか行わない筈のNPCが、くしゃっ…と泣いているようで、笑っているような顔をした。驚き思わず瞬きをすると、そこには先程と変わらぬ姿の老人。あのどうにも人間くさい挙動は見られない。

 一体何だったのだろうかと頭を捻れど、その問いに対する答えは出てこない。だから、ベディヴィエールはこう考える事にした。

 

――電子の世界にも魂はあるのだと。

 

 いつか訪れる未来の福音。いずれ訪れる過去への凶報。

 その一歩は今浮遊城と共にあり。

 

 そしてまた、彼の騎士も共に歩むのだ。この果てしなく広く、どこまでも残酷な世界を。

 

―――その剣の名は『Airgid・Oath』

 

 今はまだ晴れぬ暗雲に差し込む光となるだろう。




トリスタンの脚防具は第一再臨の脚と見てください

13日間 ご愛読ありがとうございました。
食卓の英雄の次話にご期待するなら高評価、感想を寄越せくださいお願いします。

後、今週は平日いっぱいは投稿できません。期待してくれる読者様には悪いのですが、最低でも一週間後以降になりそうです
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