それとレース目標を章で分けました。不備があれば拳で教えてください。
『優勝は、ブルーファルコン! 続いて二着にドラゴンバード! ハッピーミーク三着です!』
アナウンスが響き、歓声が轟く。
紙吹雪が舞い、芝の上では優勝したブルーファルコンが接戦を繰り広げたドラゴンバードと握手をしている。
その後ろで
レースは終わった。
サニティエッタは負けた。
集中力も、ペースも、仕掛けるタイミングも見失っていた。
残った力業の実力だけで駆け抜けて、そして負けた。
「……負けちゃいましたね……」
「だな」
今まで連戦連勝だったから油断していただけで、エッタだけが特別な実力を持っている訳じゃない。地方にくらべたら中央なんて化け物の巣窟だ。
……が、負けても経験になるからと出走させた身としては、覚悟はしていたがやはり悔しいな。
だがこの場で一番負けを認めて、負けを悲しみ、負けを反省しているのは俺じゃない。
もちろん隣のニコルラベリテでもない。
レースが終わってすぐ舞台裏へ引っ込んでしまった、サニティエッタ本人だ。
「迎えに行くけど、一緒に来るか?」
「じゃあ、一緒に」
エッタは6着。ライブには出られないし早ければもう着替え始めているだろう。
さっさと迎えに行って、んで……どうすっかな。
移動しながら考えよう。
負けは負けだけど、よく考えたらこんだけ不利な状況で作戦もボロボロで6着まで食らいつけているのは、とんでもなく凄まじい事なんだよな。
不慣れな環境と距離って理由で一気に最下位まで落ち込んでも全く不思議じゃないから。
まずはこれを褒めてやりたい。
あとは伝え方だけど……。
アニメとか漫画とかだとこういう場面で、あえて超明るく切り出したらすれ違っちゃって大惨事ってのをよく見るよな。絶対やめとこう。
というか俺の演技力的に違和感だらけで気を使ってるのがバレバレになるだろうし。
うーんと悩んで、右手に持ちっぱなしだったペットボトルの存在をふと思い出した。
いやこれは無理だな。
「まだ持ってたんですかそれ……」
「からし焼きそばは何とかした」
「逆にそっちはなんとかできたんですか……」
うーん、どうすっかなぁ。
とりあえずこれ飲ませとくか?
「渋いの好きなエッタさんなら喜びそうですけど、でもそれジョゼさんが飲んでましたよね……」
「え、あいつ渋いの好きなの?」
「はい。和食とかよく作ってましたよ。って、そこじゃなくて」
出所の話?
これはゴールドシップが買ってきてよこしたもんだから俺も分からん。
下手したらわざわざ作ってきたのかも知らん。
「もうあれだ。優勝は残念だったけど6着とか大健闘したなってシンプルに言っていつも通り振舞おう」
「それは……それで何とかなるんですか?」
何も聞かないのがそのまま無関心って訳じゃない。
エッタが日本の詩や詩人を参考として己を作るのなら、俺は米国で対抗しよう。
アメリカの詩人はこう言いました。
友人の為に私ができる一番の事は、ただの友人でいてあげる事──と。
「お、きたきた」
控室の扉の前で待っていると、シャワーを浴びたのかいつもの癖毛がストレートになったエッタが現れた。
こっちを見つけえるとにへらと笑ったけれど、傷心ムードは隠せていない。
「負けまして、情けなく。力及ばず? 音、後ろ、多く。でした」
「だなぁ」
「振り向きませんか? 後ろに夢はありません。しかしとて、前見て走りて夢破れ」
でも6着だったろ?
負けイベ無理ゲーとか思われてた中で本当にこれは、ほんとに大健闘した結果だぞエッタ。
マジ誉れ高い。
「全力走り、至りません。ハッピーミークは前遠く」
「大丈夫ですよエッタさん、エッタさんは頑張りました!」
「……」
「あ、ほら! お姉さんから電話来てますよ! 祝電ですよ!」
思ったよりダメージでかいなぁ。
あとラベリテよ、祝電は意味が違うのではないか? 勝ってないし。
スマホを受け取ったエッタは、気落ちしているのが分かりやすい声で細々と喋る。
「……あの、ジョゼさん! 何かないですか……!?」
何かって、なぁ?
今回の件を反省させて次のレースでリベンジっていう感じなら……。
あ、よし。それでいこう。ホープフルと同じ距離と同じ方向で回るレースで決着をつける。
4月の皐月賞……は確かにホープフルと全く同じ状況だけど時間が足りないな。
とすれば勉強と調整で整えられそうなのは10月の秋華賞。桐生院さんにミークへのリベンジをさせてくれって頼み込めば、多分向こうも乗ってくれるだろうし行けるか。
ちょっと重賞狙いが過ぎるけど、大金星はデカい方が輝くし目立つし目立つならエッタも喜ぼうものよ。
「秋華賞って、またGⅠじゃないですかぁ!」
「大目標がそれなだけであって他も走るってば。おーいエッター」
そう、これは大目標。目標達成のための努力を今から始めるのだ。
電話の終わったらしいエッタがラベリテにスマホを返していたので、ちょいと呼んで秋華賞狙いでこれから行くぞって伝える。
こやつに多くの言葉は必要ない。意味を理解してくれるはずだ。
ミークへのリベンジマッチすっぞ!
「と言うわけで、年末年始はお休み」
「んゆぅ……」
10月だし時間はある。
なんでひとまず休息を挟み、反省点を一つずつ解消して──
「──実家に帰らせて頂きます」
わっつ!?
へ、へこみ過ぎでは!?
「いやそのあのです帰る家。昨日の家ではなく帽子。カンカン帽」
エッタ語が乱れすぎて流石に分からんが、どうした!
「もしかしてエッタさん、正月に帰省していいか聞くの忘れてません?」
そうなのかラベリテ。
そうなのかサニティエッタ。
聞いてないぞ常禅寺。
「心落ち着ける場所でゆっくりできるなら丁度いいタイミングだし、うん。いいんじゃない?」
「あの、許可とかは……?」
「そうです規則は守りましょう? 伝え忘れの帰らずばつばめ」
「なんとかするさぁ」
エッタの提出忘れとか伝え忘れが発生するのは理事長なら認めてくれるでしょ。たぶん。
それがだめでも、今回の負けでへこみ過ぎたので急遽家族の所で休息させるとか言い訳作って。
俺が書類を出し忘れたって手もあるな。
「めんぼく」
「今更よ。で、いつ出発するの?」
「こんや」
早ッ!
「ライブの終わり、打ち上げ終わり、その時間をば見計ららばい」
うん、まぁ、でもなんやかんやで時間は空いてるしいっか。
「準備とかは? 荷物とか」
「この身一つなる軽装は、軽量ゆく道雪道旅路」
「そのまんま行くんか。ならまだしばらくゆっくりしてられるし、なんか食ってく?」
「……おにく」
「焼き肉でも食べましょうよ!」
お、良いねぇ。
とりあえずいつまでもここに居るのも邪魔になるので、移動。
てかラベリテっちはライブ観ていかなくていいの?
「ライブはいつでも観られますから」
「そんなもん? エッタもミークが出てるのに良いの?」
「我が眼中今はおにくのみ」
意外と肉食やんな。
お肉への誘惑に負けるハッピーミーク憐れなり。
「炙りにんじん、焼きリンゴ、う、る、るるる」
お肉は!?
「人を笑わせならずやあらぬはおにく。笑わせませんと褒美はあらん」
敗北ショックとお肉への執着でもうエッタ語も崩れてんじゃん。
……沢山食わせたら直るかな。
「かふ」
「お腹いっぱいです。ありがとうございました、ジョゼさん」
「いいって事よ」
俺は、忘れていた。
「いっぱい食べましたねー」
「お久し満腹エンゲル係数、我が家お肉はニワトリのみゆえ新鮮和牛!」
ウマ娘は、時に暴食の化身であると……!
「食べ放題でヨカッタナー」
本当は、格好つけて食べ放題なんてしてないんだけどね……!
「んでこの後は、ラベリテがそのまま連れて帰るの?」
「はい! エッタさんのお姉さんが近くの駅まで来てるので、合流して一緒に帰ります」
「わ! 姉ね訪れこの地へ土地へ!」
「サプライズ、だそうです」
言っちゃったらサプライズの意味ないじゃん。
「あ」
「素で気が付かなかったんかーい」
「見せよあてのこの姿、成長重ねし我が闘志! わはっはー!」
これこれよさぬかサニティエッタ。
道のど真ん中で旋回するんじゃないよ。危ないから。
「じゃあエッタ、帰り気を付けてな」
「んゆ?」
「聞きたい事とかあったらいつでも電話していいからなー」
「んんんん?」
なぜにそんな腰から真横に曲げて、首も傾げてえらい事になってるんだい?
「ジョゼトレあなたはなぜゆえ来ずに?」
「あんたの帰省だからだよ」
「
「俺ってトレーナーだよ……?」
初年からそげな怪しい事したら切腹を命じられかねん。
「むー」
「ほらエッタさん、ジョゼさんも困ってますし」
「ふむ。仕方あるましならば引く。しかし次無き覚悟せよ」
こっわ、新潟行きたくねぇだよ……!
ほら話してたら終わんないからもう行け、遅れるぞ。
「そうですね。今日はありがとうございました、良いお年を!」
「む、でし、たー」
「おう。良いお年をー」
俺も年末は実家に行こうかね。
電車でちょっと行けばすぐだし。
「わはー! アイーダ姉ねよ今行くぞー!」
「あ、ちょっと待ってエッタさーん!」
さっそく駆け出すエッタと、それを追うラベリテ。
……がんばれラベリテ。年末年始は任せたぞ。