実は、部屋が汚い。
はつゆめ
初詣、実家にいても、暇なので。
折角だから、トレセン近くの神社まで。
うーん、これは中々いい57577じゃないかね? エッタがガチで書いた一句には一蹴されそうなレベルだけど。
せっかく思いついたものなのでメッセージアプリで道化師へ総評を依頼してみる。
返信は……今日中に来ればいい方かな。あ奴のスマホは電池が切れてたり切れてなかったりしてよく分からん。
一応本人が言うには、コンセントが近かったりバッテリーに余裕のある時はちょこちょこ確認してるらしいけど。
もはや扱いが小型のノートパソコン。
これも全て過保護気味な姉がスマホに突っ込んだ管理系のアプリ(監視系?)の弊害なんだけど、電池切れでスマホが息してないなら意味ないじゃん。
失くしそうではあるけど、監視専用とプライベート用の二台持ちさせた方がいいのではなかろうか。
寮生活とはいえ今のままだと友達と遊ぶにも約束しにくかろう。あとなんかあった時の連絡。
「実家帰ってない奴も多いんだなー」
まぁあいつのスマホケータイ事情はさておき、新年一発目の初詣。
さっき句にも読んだ通り、折角だからトレセン近くの神社までやってきた。
実家が遠かったりトレーニングを優先したかったりで帰省せず寮に残ったウマ娘達も、勝利祈願の為に今日だけは脚を休めて数多く参拝に訪れている。
俺も担当しているウマ娘の勝利と栄光を願っているのでお賽銭をダンク。今頃はエッタの方も同じく新潟の社でお祈りしてるんだろうか。
やましい気持ちはないけど、あいつの晴れ着姿はちょっと見てみたかった。
落ち着かんでそわそわ動き回ってお淑やかさは無かろうが、ウマ娘なんだし着飾ったら似合うに決まってる。
むしろ普段が子供っぽいぶんこう、なんていうの? ギャップ萌え? ああいうのでSNS映えするんじゃないか?
「映えか……」
お賽銭マネーダンクを決めた後はガランゴロンとでけぇ鈴をぶん鳴らし願い事をする訳だけど、脳裏を過ったのはエッタの人気について。
道化師の名を地元で得てエッタ語とか噂される位にはご当地ウマ娘としてある程度の地位を持っていたエッタが、どうして中央へ来た瞬間にあまり名を馳せられなくなったのだろうか。
ホープフルの時にあまり取材が来なかった事といい、あまりネットニュースや電子掲示板とかでも話題になってる所を見た事がない。
そらホープフルじゃ確かに勝てなかったとはいえ、大健闘の末だったし惨敗って程ではないのにだ。
というかオープンで連戦連勝を飾れてたからホープフルに出られた訳だし。
「何が原因なんだろうなぁ」
レースは勝ってる。ライブの場数も踏んだし、歌も踊りも超頑張ってる。
だから実戦的な云々以外の原因があるとは言いたいけど、でも唯一無二な話題性はちゃんとあるしなぁ。
だってあの喋りは、エッタ語は唯一無二だろう?
世界広しと言えあんなキャラクターしてるやつそうそういない。
そうそうってか絶対いないでしょあんな喋り。いまんところ見たことない。
下手したら現実はともかくとして、どこの小説にも出てこないんじゃないか? あの喋りしてるやつ。
知ってる人がいたらぜひ教えて欲しい。
「何が原因かは神のみぞ知るってか? おみくじでも──」
「──では、占いですねっ!」
ん?
「占いなら任せてくださいっ!」
おみくじコーナーへ向かおうとした矢先、唐突に巫女服を着こんだウマ娘に呼び止められた。
何だろう。バイト中なのかな。巫女のバイトって言うとなんか神聖さが無さすぎるけど、でもそういうのよく聞くよね。
「占いっていうか、おみくじ引こうかと」
「ではお任せください!」
「うん、あっちにあるおみくじをね?」
「ふおぉぉ……! お導きをぉ……お導きをぉぉぉお……! お助けぇええええ~~!」
「聞いてる?」
何やこのゴリ押し占い。巫女服に水晶玉とか、てかそれ私物?
あ、この娘ってもしや噂のマチカネフクキタルか。ラッキーアイテム大好きで暴走しがちな。
先々週だかに皆をハッピーにするとか言って粉末ラムネ配ってちょっとした事件になりかけたウマ娘。
あれはびっくりしたなー。急にフード被った黒装束の奴が白い粉をさっと渡してどっか行くんだもん。
貰ったエッタがすぐに食べかけて超ビビった。
「──あ゜い!」
ん。終わった?
てかその発音どうやったの?
「夢です!」
「……夢」
「夢を見て、その通りにするのです! そしたら未来が開けます! ハッピーのために!」
あいまい~~。
「では! まだお仕事が残っているので!」
「うーん、良く分からんがありがとなー」
夢を見てって、どういうこと?
あと最近ハッピーって名の付く宇宙人がえぐいことする漫画読んじゃったから若干恐ろしいんだけど。
いやまぁ俺の夢はウマ娘を前人未到の
ただでさえエッタ語に触れて宇宙の神秘に触れてる気がするけど。
よく略されるサニティ部分を信じろ。あいつの目的はもっと違うはずだ。
あいつの夢は……。
「……エッタの夢、そういや何なんだろ……」
走って歌って踊って目立てれば何だって良いって感じの雰囲気は確かにある。
けど、本当にそういう意味だけで地元を出て中央へやってきたんだろうか?
「いっちょ新年にかこつけて定めるか、目標」
今の目標は秋華賞出走、及びミークへのリベンジ成功だけどそれとはまだ別。
最終目的、叶えるべき目的、夢。そういうの。
「こればっかりは聞いてみないとな」
あとでメッセージアプリでも聞いてみるけど、多分まともな答え返ってきそうにないからあまり期待せずでいいだろう。
寝た時に見る夢だとかこういう夢を見ただとかでまともな回答にならないというか、仮に返答があっても文字だけじゃニュアンスまで伝わらないし。
あいつが帰ってきてからちゃんと聞くしかあるまいて。
「気を取り直しておみくじ引くかな」
あーあ。ひとりだと独り言が多くなるなぁ。
独り言が多いなって気が付いた時のこの恥ずかしさが悲しい。
せめて誰か、一緒に参拝してくれる人がいればなぁ。
初詣って言ったらさ、家族とか友達とか、あるいは恋人と来るところじゃん?
そうなってくると、折角ならば恋人と来てみたいわね。
私は常禅寺。まだ20代前半で、恋愛経験は無し。
そろそろ一回くらい恋愛ってどんなもんか経験してみたいお年頃ですわね。
お年頃って言うか、若干の焦り。
最近働き始めてから思ったのが、同年代の人間が無数にいる学校ってとんでもなく恵まれた環境だったなって事。
言い方悪いけどえり好みできるっていうか……その時に恋愛の一つや二つしとけば人間として格が上がるというか、人生経験的に人間関係の構築的なアレらがうんぬんかんぬんして一歩大人になれようものを、俺はなんという勿体ない青春を。
職場恋愛は時間とか周囲の目が嫌だし、かといって外部の人間と出会う機会なんてそうそうある訳がない。
必然的に恋愛結婚あれやこれ、するとしたら合コンだなんだの口八丁度胸勝負だ。そして人生経験の勝る連中にとって俺らみたいなのは踏み台足場の数合わせにされちまう。
大人になるってこういう事なんやな……。
「あ! おみくじですね!」
「ヨロシクフクキタル」
「はい! マチカネフクキタルです!」
並んでおみくじを買うと、さっきの巫女キタルさんが受付をやっていた。
さっきはありがとねーと返すといえいえこれもお導きですと返され、でも混んでるから長話はごめんなさいと真面目なバイト魂でささっとおみくじペーパーを渡される。
……いや真面目にバイトしてたらさっきのゲリラ占いはせんか。
「早い話……また独り言だ」
で。早い話がおみくじの待ち人の項目よ。
神様をがっつり信じてるわけじゃないけど、都合のいい時は“夢”を見させてくれ。
宇宙よ! 福よ! 全知よ!
うぉおおお!
全知よここへ、僕の下へ!
今こそ、全知へ至る時!
“待ち人 かねて血を恐れたまえ”
……。
…………。
帰宅。
……。
…………。
食事。
……。
…………。
入浴。
……。
…………。
就寝。
…………え……?
待ち人のコメントって、こういうのなの……?
・・・・・
“人付き合い”は“人好き愛”とも書ける。
そして愛は時に歪み、憎愛とも化し、痛ましい事件の原因ともある。
油断すると包丁でグサリって事だ。怖いね。
「血は見たくないかな」
俺はまだ死ぬ訳にはいかない。
せめてエッタを送り出すまでは、あいつの成長を見守るまでは……!
「──ならばなられば真実見ひて。啓蒙いりまし叡智でしょうか? 言葉に意味などありなして」
エッタがいるのか?
後ろから声がして振り向くと、そこにはエッタに似た姿の少女がいた。
似た姿、というのは耳も尻尾もない普通の人間の少女だったからだ。
「というかここ、どこだ……?」
遠くには富士山。
空には謎の鳥。たぶん鷹?
じゃあここはナス畑だ。
「夢かぁ~」
そういえば変な占いで夢が云々って言ってたなぁ。
夢って、寝てる時のこっちの夢かぁ。
初夢には縁起のいい三つが揃ってるし占いもええやんけ。
「お久しどうです道化でしょう?
目の前のエッタ風少女はにへらと笑う。
良く分からんが、この娘の事は仮エッタと名付けておこう。
「吾の名はじゃじゅじょの仮エッタ? それもはたまた面白道化、つまりはたまたはそれもまた」
「夢の中ですらエッタ語を聞けるとは、俺の頭も宇宙に到達したか……」
「とりま座ってお話しましょ? お話お手紙お客人」
いつの間にか地面に直で設置された畳と、それに乗っかったコタツを勧められたので靴を脱いで上がる。
ナス畑のそこら中には芝居小屋的な小道具だったり舞台の背景だったり、気が付いたら色々ごちゃごちゃ置かれてた。
サニティエッタという道化師系ウマ娘の頭の中も、こんな感じにごちゃごちゃしてるのかな。あちこち物が散乱して。
「さてて、さ、ててて」
ウマ娘ではない少女の仮エッタもこたつに入ると四角い紙の箱を取り出し、一か所だけ開いている穴に手を入れて中から一枚の紙を取り出した。
それは、年賀状……?
「お手紙ですよ? お客さん! の、お声にありて。てりあにおのの」
「季節柄の年賀状とかじゃなくて?」
「今は二月の中旬でしょうかそうでしょう? 終わってますよ、お正月!」
いんやぁ? 初夢の筈だがぁ?
「ふんふふん、んーふふ?」
仮エッタは奇妙な笑いを漏らしながらお手紙(はがき)を次々取り出し並べていく。
なんというかこの光景、あれだな。ラジオのコーナーみたい。
リスナーからのコメントを読んでいくみたいなやつ。
「んゆ?」
することがないというか、何をすればいいのかも分からないのでぼーっとしてたら仮エッタがまたにへらと笑う。
未だにこいつの目的が分からないし、というか本当にここが夢の空間なのか怪しくなってきた。
夢にしては意識もはっきりしてる。
ちょっと頬でもつねってみようか?
いやいや、せっかく変な夢を見てるんだしいけるとこまで堪能しても……。
「……夢を見て、その通りにしてみる……」
マチカネフクキタルがそんな占いしてたような。
「なぁ仮エッタ」
「なんでございましょにまいご? 迷子はそれなりしておきて」
なんかこう、夢特有のお告げとか天啓とかない?
折角なんか不思議な空間なんだし、そういうのちょうだい?
「元よりおそのそつもりその。吾は道化ゆえにや伝達者」
ぱらららら、とトランプのようにお手紙が並べられて何枚か捲られる。
「サニティエッタへご助言です。拝領分別判断そは気兼ね? 最終的にはトレーナー!」
捲られた数枚は、本当にお手紙って感じだ。
おお、確かに助言的なアイデア的なのも書いてある。
音や景色が邪魔で集中できないなら装飾を駆使してレースに集中できるようにしたらいいんじゃないか、とか逆に周囲の状況を把握してはいるのなら武器にできるし、とか。
エッタの能力は一長一短だ。
どう向き合うかは大事だし、このお手紙をどう受け入れていくべきかな。
「ん」
仮エッタは再度にへらと変な笑いをしてから手紙を箱に片付けると、何処かへ仕舞って立ち上がる。本当に耳と尻尾がないだけでエッタと瓜二つだ。
「お時間ですね。終わりです」
「夢の内容って起きたらあんまり覚えてないよなー」
「んゆふふ平気、ですよへき。覚えてまして読み返し。ここに書かれておりましゆえに」
エッタの夢と合わせて色々考えてみるか、よし。
「ありがとうな、仮エッタ」
「礼には及びませぬ場やここを借り。ヘンリエッタに幸あれ道化」
「……めっちゃ変な夢見た……」
ウマ娘じゃないヒト娘のサニティエッタ風の少女からのお告げによると、どうやらエッタの持つ特性と向き合え的な感じだった気がする。
あと富士ナス鷹の初夢三銃士。じゃあ今年はいい年になるな!
「あ、返信きとる」
昨日聞いた夢についてかな。
『夢ですか? みましたよ!
やっぱり将来的な夢じゃなくて、寝た時の夢の話になるよなぁ~。
というか一句についてはスルーされてる~。
……ん? エッタの姿に瓜二つ……?
『それは、耳と尻尾のないサニティエッタさんでしたか?』
『鏡写しにそこだけ差異に! お不思議ですね、ジョゼトレも!?』
『俺も会ったわ、その仮エッタ』
二人して同じ夢を……?
偶然と信じたいけど、こいつの宇宙に巻き込まれたんだと思えばこういう事もある。
……いや、それでも意味が分からんけど。
……いや、意味分からん!
あの人間バージョンのサニティエッタは、一体誰なんだ!?
仮エッタのヒミツ
リンゴと猫が好き