道化師系ウマ娘に振り回される話   作:親友気取り。

12 / 29
飲むヨーグルトのヒミツ

 お゛い゛し゛い゛ぞ゛っ゛!


飲むヨーグルト

「あけおめですよ? 新年です! 今年始まりクラシック!」

「おっすあけおめ」

 

 

 冬休みも明けて、チームのプレハブで初邂逅。

 結構ギリギリまで実家の新潟に道化師様はいて、昨日ようやくご帰還なされた。

 今回は行方不明にならず何とか一人でトレセンまで来れた辺り、なんやかんやでエッタも成長している。

 

 ホープフルで落ち込んだ影は見られず、つまり今日からまた騒がしい毎日の始まりだ。

 予定としてはしばらくレースよりもトレーニングに重点を置いて、エッタの弱点克服に努める所存。

 道具やらなんやらを駆使して短所である“視野が広すぎる故に集中できない”と言うのをやはり()()()()していくか、あるいは長所である“とても広い視野”を伸ばし利用していくか。

 クラシックに入ってから悩むには遅い気もするけど、遅すぎる事はない。たぶん。

 

 最終目標もこれから確認してくんだし、色々手探りなんだよ許してくれ。

 あと知名度上げも忘れずにな、やってかんとな。それやったらエッタがよろこぶから。

 

 

 

「まずはこれです年賀状!」

 

 

 ──ズガドァア゛ンッ!!

 とてつもない勢いで叩き付けられた年賀状と机が悲鳴をあげた。

 

 

「律儀だね」

 

 

 机が四角くへこんで年賀状が圧着されてしまったので、丁寧に爪で剥がして受け取る。

 そういえば年賀状って訳じゃないけどさ、一応エッタの家の方には新年の挨拶として手紙は送ってたっけ。

 手紙と言ってもテンプレ的というか何というか、所謂っていうか学校でよく配られるのと一緒なただの事務的な奴だけど。ほら、なんちゃらだよりとかそういうあれ。

 

 そのお返事と思えばエッタ家も律儀なもんだね。

 わざわざガッコー相手に返事なんて普通せなんだろう。

 

 

「お土産は別にございます! でもはまずわやひとまずそれ先なおどうぞ!」

 

 

 持ってきたエッタは椅子に飛び座ると、いつもの通りがこがこと何の気もなく動き出す。

 いつも通りの日常再開……と言いたいけど、俺にそんな余裕はなかった。

 なぜなら、手にしたこの年賀状がとっても恐ろしいからだ。

 

 

『新年あけましておめでとうございます。

 機会があれば、是非こちらの方へ遊びに来てください。家族一同で歓迎いたします。』

 

 

 ここまではいい。

 ここまでは、まだ微笑ましいタイプのやつだ。

 ただの新年のあいさつ。

 問題は、その背景に使われている写真。

 

 写真には2人写っている。

 

 ひとりは晴れ着姿で綺麗に着飾ったエッタ。

 無表情がデフォルトの道化師が不器用ににへらと下手くそに笑っていて、絶妙に微笑ましい。

 

 だがその横、時折話してくれる姉と思わしき女性が超恐ろし過ぎる。

 何で左手に猟銃を持つ必要があるのか。

 どうして右手に日本刀をがっちり握る必要があるのか。

 そもそもメイド服を着ているのはなんなのって突っ込みもしたいし、カチューシャに針金が剥き出しのお手製ウマ耳を装着しているのも何なのか。

 

 どこから問い正せばというか、もはや不気味過ぎて触れたくないんだけど。

 これにオーケーを出したパパさんは正気か?

 言うまでもなく、娘に手を出したらどうなるか分かってるのかっていう敵意でしかない。

 

 こうなると本文の遊びにおいでよも死にに来いと言ってるようなもんだ。

 新潟は恐いところだ。みんなも新潟から逃げよう。田舎は排他的。

 お米だけ輸出して鎖国してくれ。俺は新潟から逃げるぞ!

 

 

「アイーダ姉ねが伝えよ伝言託してりんごんごん! リンゴ? ごーん!」

 

 

 しゅばっとエッタが謎のポーズを取りつつ、机に今度は少し大きめのボトルを置いた。

 これはお土産なんだろうけど、その前に伝言ってなんぞ?

 

 

「“お分かりですね”とお伝えくださいそうですよ? あては何にも分かりませぬがや、にもももも」

 

 

 うん、それはねサニティエッタ。

 僕がなにがしか君に罪ありきな事をした瞬間にムッコロすぞっていう脅迫だよ。

 あの猟銃で撃たれたりポン刀でぶった斬られたり。だいたい姉さんの殺意が高すぎる。

 

 あれか? 男は獣だし獣相手なら狩猟OKとかそういうあれか?

 

 もうやだ新潟。

 家族一同で歓迎ってやっぱりそれ、「騙して悪いが死んでもらおう」じゃんかさ。隠す気ないやんけもう。

 鎖国どころじゃないね。新潟を切り離して日本海に浮かべよう。流刑だ。

 

 

「それより土産を受け取りたまふぞや!」

 

 

 俺は命の危機があるんやぞ。それよりで済まされてたまるか。

 

 

「これはお土産やわっこヨーグル! 新潟土産は笹団子? ぽっぽ焼き? あてが持ちゆるそれは、あても大好きやわっこヨーグルト!」

「飲むヨーグルト……って、新潟のお土産だっけ」

「お山の方に工場ありましよく行きまして。おいしいですよ? 作りたて!」

 

 

 へー、それは知らなんだ。

 

 

「お飲みましょ? ヨーグルト!」

 

 

 壁際の棚から紙コップを取り出して机に置くと、待ってましたと言わんばかりにダバダバ注がれる。

 それちゃんと振った? 乳製品って底の方に固まってないかい?

 

 

「いただきまーす!」

 

 

 お、良い飲みっぷりだね。

 俺も飲むか。

 

 

「んにし、んふふふ……」

 

 

 一口に飲み終えたエッタは自分用の二杯目を注ぐ。

 たぶんというか、自分が好きな物を買ってきたんだろうな。工場によく行くって言ってたし。

 

 あまりにも良い飲みっぷりというか、あまりにも必死に飲もうとする姿が微笑ましくてつい眺めちゃう。

 

 

 それにしても、んー……。

 

 こうしてちゃんと観察すると、他のウマ娘の例に漏れずエッタって美形だよな。ビジュアルは良い。

 無表情で眠たげな瞳に長いまつ毛っていうのはチャームポイントとして推せるし、動作がうるさいのは前述に対するギャップ萌えに変換できるだろう。

 できるのか? 分からんけど。

 

 基本的に無表情貫いててたまーにしか自然に笑顔を作れないのだけが玉に瑕。

 いつしかのレース後にくれたVサインの笑顔を常にくれ。

 

 当の本人はそんな事は全く気にせず、なお飲むヨーグルトを飲み続けていた。

 折角だしちょっと動画撮っておくか。

 スマホを取り出してカメラを向ける。

 

 

「んく、んく、んく」

 

 

 三杯目を注いだエッタがまた調子よく飲み始め、眠たげな瞳はそのままに眉だけが真剣に傾いている。

 めっちゃシュール。

 

 

「……んく?」

 

 

 あ、こっちに気が付いた。

 

 

「飲みますか? 飲みましょう! おいしいですよ? よよよよう!」

 

 

 にへらと笑って飲みかけのを俺に、つまりカメラの前に渡してきた。

 うーん、何かのCMみたいな出来過ぎてる構図。いいねこれ。

 

 

「どうされましたかトレーナー! あての飲みかけ飲めなし……あ!」

「ちょっと待って」

「間接駄目ですそれ駄目です!」

 

 

 この動画、アップしたらバズるんぢゃね!

 

 

「エッタ、今何となく動画撮ったんだけどさ、これネットにあげようぜ……」

「そいえば前にも出汁飲みまわ──! んゆ?」

 

 

 貴様の可愛さをここすきして人気者にいたしましょう……。

 

 

「んん、よろしくて! 道化は目立ってなんぼの商売ぼんなんぼん!」

「俺のアカウントじゃバズれそうにないから、エッタの方から出してくんねか? データ渡すから」

 

 

 いかに今取れた動画がいい感じだとしても、しかし俺の力じゃ無理だ。

 ウマッターのアカウント、前に適当に公式とかニュースサイトのアカウントを一通りフォローしただけで結局全然使えてないんだよな。

 ちなみにフォロワーは1件だけ。それもウマ娘やそのトレーナー達を無作為にフォローしてるっぽい、なんか良く分からん怪しいやつ。

 そんなもんで俺に拡散能力はないから、エッタの方からよろしく。

 

 

「あれ、てかその前にお前さんウマッターやってるっけ?」

「んー……。以前に作ったものがあり、せんぬばりらはらエッタあか……」

 

 

 鞄からスマホを取り出したエッタがぺちぺちと操作する。

 でもそのスマホ、電池が一瞬で溶けるんだよな。変なアプリが大量なせいで。

 

 そっか、そのせいでウマッターやる隙が無いのか。

 

 ……てかそれじゃあ知名度低い理由、もしかして俺ら二人ともマーケティング活動できてないからじゃねぇか?

 傍からしてみればレースで勝って知ってはいるけどってレベルで終わってるし、売り込みもしなければ取材の申し込みをしようにも連絡先が無いし。

 そうだよ、売り込みが足りないんだ。

 

 

「ありました! アカウント! 復帰でき? 覚えてましてよパスワード!」

「お、ええやん」

 

「最近全然使ってませぬ、教えますよ? パスワード!」

「待ったッ!」

 

 

 俺そういうの疎いけど、パスワードは他人に言うものじゃないとは知っているぞ!

 

 

「んむぅ……。でもや、あてのスマーホホンでは更新頻繁目立てぬ出来ぬ。目立って目立てぬ道化家業……」

「それなら大丈夫だぜ」

 

 

 スマホの画面を見せてくれて分かったけど、フォローもフォロワー数も俺よりずっとマシだね。

 なので。

 

 

「ここにノートパソコンがある」

「デスクトップ!」

「ではないんだなそれが」

 

 

 新潟ってパソコンないの?

 PCが無いのは島根だけだと思ってた。

 

 

「俺のスマホでログインするのはアレなので、いつもトレーナー業で使ってるこのパソコンを使ってウマッターする事を許可する」

「あてにも使えて電子機器! 苦手ですよ? 慣れがなく!」

「……お主が触っていいのはウマッターだけだぜ……?」

 

 

 そわそわふらふらで興味最優先なサニティエッタを自由にさせたら、情報流出とかウイルス感染とか、何か色々やらかしそうだ。

 ウマッター以外には後でロック掛けておいたり対策する。

 インターネットにつないでログイン画面に移行し、エッタに渡す。

 

 スマホが使えないならそれ以外を使えばよろしくてよ。

 

 何て単純な答えなのだ。

 これでエッタの知名度は上がり、本人は嬉しがり、大スターに……は簡単ではなかろうが一歩前進。

 

 

「できましログインたらりや道化道! あいさつですよ? ……文字打てず……?」

「キーボード分からんかぁ……」

 

 

 俺なんかは仕事でもよく使うから慣れてるけど、島根と同じくパソコンがない新潟だもんな。

 分からないのに人差し指でとりあえず押しまくるエッタに合わせ、古のかな入力を起動してやる。

 これなら日本語は書けるだろ。

 

 

「では挨拶! なりてやぞりにてひにしや!」

 

 

 かたかたやって、エッタなりの言葉で挨拶を……古のエッタ語やん。

 自分のスマホでエッタのアカウントを探してフォローし、過去の呟きを見てみる。

 

 

 

『路地裏猫いてリンゴいて、空き瓶お手玉ジャグリング! どうでしょう? 慣れてます!』

 

『ニコルはラベリテベリテット! 御師様師様のお弟子になられやならる!』

 

『アイーダ姉ねがニワトリ捌きしその名前、あての名をばや与えたまふ……。

 なぜゆえあてに似た名を与え、あてに食さんとば与え……?』

 

 

 

 ……うん、文章でもこんな調子なのな!

 この前のサニティエッタ全歌集はまだ読める文だったじゃんかー!

 なんで、なんでこうなるの……? どうしてそんな道化師に拘るんだい……?

 

 他にももはやよく読んでも意味が汲み取れないのも多いし。

 口頭だったら勢いで何となく分かるのに、文章だと途端に分からん。

 特に「は」を普通に“はひふへほ”の“は”で読むのか、それとも“わ”で読むのかとか、分からないんだもん。

 

 あ、更新された。

 

 

『トレーナパソコンお借りして、舞い戻りしやはサニティエッタ! 道化でしょう? 奇術でしょう! 先程ジョゼトレ動画撮り、それをば見せたい語りしなりて!』

 

 

 エッタを見る。

 にへらと笑って親指を立てられた。

 なるほど、その流れで動画を投稿しろと。

 

 

「ちょっと待ってな―」

「楽しみですね? 反応有名知名度上昇、つまりは道化の一歩道!」

 

 

 えー、フォルダに入れて、アップして、こうか?

 いけたいけた。

 

 

「これでバズすればいいなぁ」

「……バズはや動詞?」

 

 

 さ、人気方面のあれこれはさておき次はお前さんの方針ぞ。

 

 

「決めまして、秋華賞! その道中にはレースが沢山ゆえでしょなりしょ!」

「それは短期目標だよ。俺が言いたいのはもっとこう具体的にさ、ほら。トウカイテイオーとかみたいな何冠ウマ娘―とか、他の連中もよく言う凱旋門とか、そういうあれない?」

 

 

 夢だよ夢。

 分かりやすい大目標。

 

 

「あての目的聞いて無し? 目指すは道化の大道芸。なぜという? それはあてが道化師ゆえに」

「うーん……。目立てれば良い感じ? ほら、トレセンに来た志的なのとか」

「推薦でしてよ走りましょう!」

 

 

 ああ、なまじ才能があるからもっと伸ばしてこいって感じ?

 

 

「というか、ついでにその道化師への拘りも聞かせてくれないか」

「ふふ、んふふふ、んふふふふふ、興味ありとな」

 

 

 すまん、長くなりそうだしやっぱ聞かん方がよいかも──

 

 

「──良いでしょう良いでしょう! 聞かせましょう? 聞かせます!」

 

 

 椅子をがたがた鳴らしていたエッタが飛び上がると背もたれを支点に宙返りを披露し、着地と同時にどこからか取り出したリンゴを数個投げてお手玉を始める。

 藪蛇は道化師を引っ張り出した(?)

 

 見ろよあのサニティエッタを。

 すっげぇ目をきらっきらさせて道化師が何たるかを語り出した。

 それより新年というか一番聞きたい大目標をよぉ、夢をよぉ、定めたかったのによぉ。

 

 

 

 

 ・・・・・

 

 

 

 

「つまり!」

 

 

 ……つまり……?

 

 

「あてが道化なのは節理」

 

 

 分かりました……。

 

 

「あ、姉ねから電話!」

 

 

 スマホに着信があったエッタは頭にリンゴを乗せながら話し込む。

 エッタの道化師に関する語りは何というか、納得はできる……できる? 

 わがんね。

 

 あー、まぁあれよ。

 サニティエッタは生まれつき落ち着けない性分で、それゆえに空回りする事も多くて道化だったと。

 だけど同時にウマ娘であり走る素質があったので、ならばその性分を隠さずむしろ目立ってやろうと。

 

 なんかそういう感じよ。道化師的啓蒙活動。

 正直エッタ語だらけで分からん事ばかりだったけど、何らかの強い意思は感じた。

 

 ひとまずの所、エッタの目標は“有名人になる”というのに間違いはない。

 レースで目立ちファンを増やしていく。そういうコースでいこうか。

 その目標ならハッピーミークへのリベンジは良い宣伝と言うか、とっても目立つチャンスにもなるし。

 

 

「動作と共に伝えればよし? 動画見て? んんー……」

 

 

 電話を終えた道化師様はスマホを置くと、頭のリンゴを机に並べながらそれに手刀を振り下ろす。

 何の動作かは分からんが、リンゴを斬るなら果物ナイフがそっちの棚に──

 

 

「──“お悔やみ申し上げます”」

「ホワァアアッ!」

「と、姉上からの伝言です」

 

 

 俺の首! 狙ってキタヨ!?

 とんでもねぇ勢いの手刀でッ!

 

 

「姉からの指令で俺の命を狙うのか!?」

「でもでもそうする必要ありと」

「ナンデ!?」

「先ほどウマッタ乗せまし動画、それ聞きし姉ねはお悔やめと」

 

 

 ああ、なんてこった……。

 そうだな、そうだったな、あの動画、俺が撮ったって事はエッタの飲みかけを俺が受け取ったかも知れないっていう、あれなー……。

 

 もうやだよぉ、新潟絶対近付きたくないよぉ。

 殺されるじゃん……てか今殺されかけたじゃん……。

 

 越後のえはエッタのえ。

 越後のちは血のちだ。

 

 

「あ! 先程動画はおおバズり!」

「それは、おめでとう……」

 

 

 俺はそれどころじゃないんだ、俺は殺されるんだ……!

 エッタ! お前の姉が東京に来ることがあったら事前に言えよ! 絶対だぞ!

 じゃないと俺、撃たれたり斬られたりするもん!

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。