道化師系ウマ娘に振り回される話   作:親友気取り。

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サニティエッタ(クラシック時点)

スキル
 気まぐれアタックLv2
 お見通し
 伏兵〇
 寸前×


フルアーマーエッタ

「前に集中できるよう視界を狭めるためのゴーグル、防塵防音に特化したスポーツ用耳カバー。おまけに髪の毛にはボンボン」

「フル装備のゴツさがすげーな」

「なるほど、勉強になります」

「……窮屈そう……」

 

 

 桐生院さんとハッピーミークに頼んで、ついに完成したサニティエッタ・フルカスタムと模擬レースをして頂く運びとなった。

 もう準備万端なサニティエッタはというと、環境というか普段と格好が違うから少し落ち着かない。

 走れば問題ないか、あるいは馴れか。

 

 なんにせよ勢いとはいえ折角買ったんだし、早速これを使わない手はない。 

 つか特に耳カバーなんて輸入だお取り寄せだって結構高かったし。

 

 

「おーいエッター」

「……」

「エッタ?」

「……」

「エッタちゃーん?」

 

 

 あ、これ聞こえてねぇのか?

 

 

「エッ──」

「……危ない」

 

 

 ぼそっとハッピーミークの声がして、エッタに近付こうとした俺の服が後ろから引っ張られた。

 引っ張られて尻餅をつき、頭上をエッタの豪脚が空を切る。

 あれ当たってたら多分弾け飛んでただろうな、俺の体。

 

 

「じょ、常禅寺さん大丈夫ですか!?」

「ミークのおかげで助かったけど……なんでだ……?」

「……見えてないのと、たぶん……不機嫌」

 

 

 ふ、不機嫌?

 

 

「……」

 

 

 不機嫌な理由をミークは教えてくれない。

 たぶん、自分で気が付けマヌケという事なんだろう。

 きっと無口が災いして言い忘れてるとかじゃないはずだ。たぶん。

 

 背を向けたまま無言で佇むエッタの正面へ慎重に回り込む。なるほど、明らかに機嫌が悪そうだ。

 何というか表情は変わってない筈なんだけど、何となく雰囲気でそう感じる。

 耳もすんごい後ろに傾いてるし。

 

 

「目指したる現実狭間のイリュージョン。潰したるやは打ち出の小槌」

「……あの」

「一寸法師一寸のまま幸せならずか? 幸福善意は他者の目線。故にあてやは素のまま道化」

「その」

 

 

 これ、この装備、エッタには逆効果だね!

 めっちゃ怒ってるし!

 

 うーん……。

 サニティエッタは自身という存在を隠したくないというか、自分を誤魔化したくないというか、たぶんそういうことなんだろうけど、でもレースで勝たないとだし……。

 

 色付きファイルとか手錠とか、道具を利用するのに拒否は無かったはずだ。

 あれらはあくまで自主的に利用するという使い手次第なものだから、エッタ的には良しとしたんだろうか。

 その点、今回のフル装備シリーズは強制的な矯正だから嫌がってる……と。

 

 んー、難しい。どうしようか。

 

 エッタの担当となり大体一年。地面を抉るほどの踏み込み過ぎや集中力をトレーニングで直そうってしても、この一年であまり改善は見られなかった。

 それ故にこれはもうしょうがない癖だと割り切って、それ故にじゃあ装備に頼ってみようと思ったのだけど。

 

 

「集中もやずや思考ブレ、しかしやあてはそれ隠す事なかれり。なぜでしょう? 道化ゆえ!」

 

 

 よし、オッケ!

 ウマ娘のトレーナーならウマ娘の意見を尊重しよう!

 

 

「お分かりいただき感謝の極み」

 

 

 そう、俺はトレーナー。スタンスは担当の邪魔をしないで走らせる。

 短所たるこれらへの向き合い方は、もう少し考えよう。

 今までの方向性は「直す」の一点だったので、直らないなら生かすの方向へシフトしてみるしかない。

 クラシックに入って遅いなんて事はない。かのサイレンススズカだって、今の大逃げスタイルに落ち着くまで時間は掛かったんだ。

 

 才あるウマ娘を信じ、その道を整えてやる。

 忘れるなかれ常禅寺。

 

 

「……でもま一度はお試しありぞや」

 

 

 それはそれとしてもったいなかったなぁとぼやくと、エッタが尻尾を揺らしながらつぶやいた。

 なんだか俺が慰められちゃったな。

 

 

「エッタ……走る?」

「ん、ミークよ! 友よ! わが友よ!」

「……走る?」

「る!」

 

 

 落ち着いた頃を見計らったらしいハッピーミークに声を掛けられて、二人がスタート地点へ歩いていく。

 折角買った物だし一回くらい使ってくれるのは助かる。なんだかんだ、勿体ないし。

 高かったんだぞ、あれ。

 幾ら覚悟を決めても財布の中身だけは現実を見せてくれるよ……。

 

 

「ウマ娘へのその姿勢、参考になります……!」

 

 

 桐生院さんはそれメモする程の事かい?

 

 

「いえ、実際に指導している風景を見ないと掴めない事が多くありますから」

 

 

 そうかなぁ。俺とエッタなんて、特殊な関わり方だし。

 特殊、というかエッタとの接し方がオンリーワンな特殊なんだけどさ。

 

 

「個性豊かなウマ娘達はそれぞれがオンリーワンです。なので、全てが参考になるんです」

 

 

 ……うーん。でもまぁ、ウマ娘ってみんな癖あるしそんなもんなのかなぁ……。

 スタート地点で遠目にもわちゃわちゃしてるのが分かるエッタの横で、空をぼーっと眺めてるハッピーミークだってなんかこう、何考えてるか分からないし。

 

 

「始めましょうか」

「んですね」

 

 

 場所はウッドチップの1500m、最後にちょっとした上り坂のみ。シンプルなコース。

 距離的には道化師様にとって得意の場だけど、いつもの豪快な踏み込みが柔らかい地面に馴染むかどうか。

 てかあの破壊力の蹴りを食らってたらやっぱり俺、死んでたよね。間違いなく。……こわっ。

 

 対するハッピーミークは正直隙が無い。

 ここの場面に強い! ってのは今の所はっきりしていない代わりに、ここだと弱い! っていうのもないバランスタイプだ。どこを走らせてもこなしてくれる印象。

 長距離になればスタミナの問題は出てくるんだろうけど、今回は関係ないし。

 

 

「エッタにウッドを走って貰った事ってあんまりないからなー」

「……えっと、影響されてますか? 口調……」

「え?」

 

 

 もしかして、エッタにウッドとかそこら辺?

 いやだわ桐生院さんったら。言葉狩りじゃないの。

 あたしのことからかわないでくださいまし。

 

 

「たまに出るその口調も一体……?」

「じゃ、始めましょうか」

「あ、はい」

 

 

 向こうは準備良いらしいので、近くに転がしていた旗を拾って掲げる。

 エッタもハッピーミークもそれを見て真面目に構えた。

 

 

「ごー!」

「がしゃん!」

 

 

 旗を振り下ろし、桐生院さんがそれに合わせて何故かゲートの開く音真似をする。

 ほぼ同時、ハッピーミークの方が若干先に飛び出た。

 本戦なら先行か逃げと言うくらいにハッピーミークがぐんぐんと飛ばし、その少し右後ろをエッタが追いかける。

 

 二人だけで走っているからこうなっているんだろうけど、普段のエッタにしては少し飛ばし気味だ。

 装備の違いに違和感は覚えているはず。だがどう影響しているのかは分かりにくい。

 元々エッタは自分の判断で作戦を切り替えられるしなおさら。

 

 

「ミークはちょっと焦ってますね。掛かってるような気がします」

「そら後ろからあんなのに追いかけられたらねぇ」

 

 

 サニティエッタが地元で道化師と言われていた理由、それは周囲のペースを乱すためだ。

 超幅広なストライド走法でゆったりとした走りを演出して、横や後ろを走るウマ娘に「あれ、自分速度出せてないんじゃね?」っていう感覚を持たせ焦らせる。

 じゃあ視界に入らない前を走ってる娘には、今のハッピーミークのようなポジションに関係がないかというと、結構そうでもない。

 

 エッタの特徴が一つ、暴力的破壊粉砕踏み込み。

 走ってる時に自分の真後ろから破壊音が迫ってきたら、その正体が分かっていても怖いだろう? 本能に訴えかける恐怖。

 その上相手がエッタの場合、何をするか分からないっていう前提もあるし。

 

 

「もしかしてエッタってタイマンに強いのかな」

「その状況に持ち込めば、ですがレース中にそう上手くは行けませんからね」

「やっぱりどの状況でも安定してるハッピーミークは、ずるいなぁ……」

「ふふ、ミークは凄いですから!」

 

 

 ホラー映画で後ろから迫ってくる殺人鬼から逃れるが如く走るハッピーミークと、それを追うサニティエッタ。

 模擬レースは終盤、ラストの上り坂に入った。

 ハッピーミークはペースを乱されたお陰か少し坂がキツそうに見える。しかし、最初からずっと自分のペースで走っていたエッタにはまだ余裕が残っていた。

 

 ハッピーミークがちらりと後ろを振り向こうと首を回したその反対側、死角になった背面へエッタが潜りこんで加速し一気に抜き去る。

 恐らくあれは偶然じゃない。たぶん、後方を確認してくるタイミングを待っていた。

 

 つい直前まで後ろに迫っていた道化師の圧力が姿ごと消えて、動揺しながら前を見ればそこにはエッタの後ろ姿。

 相手に瞬間移動でもしたんじゃないかという疑問を浮かべさせられる、見事な追い抜かしだ。

 

 

「いやぁタイマン強いなぁ、狙ってたもんなぁ」

「……」

 

 

 動揺して完全にレースの主導権を取られたハッピーミークは抜き返す事ができず、坂に沈む。

 先にゴールしたのはエッタだ。完全勝利、公式戦ではないとはいえホープフルの雪辱を果たしよったわこやつ。

 レースを終えた二人がお互いを称えながらこちらへ向かってくるので、桐生院さんと並んで迎える。

 

「……負けました……」

「仕方ないですよミーク。でも、次は負けません!」

「付き合ってくれてありがとうな、二人とも」

 

 

 さて、勝利したエッタさんですが……。

 

 

「ふん! るる、う゛ぁあ!」

 

 

 突然発狂した。

 

 

「どうしたー?」

 

 

 何やら必死に耳カバーを外そうとしている。

 結構これ硬いというか、ガチガチのガチもんだからきついよね。

 紐をほどいた瞬間、思いっきりヘドバンして耳カバーを吹き飛ばした。

 

 

「どしたよ」

「何も……聞こえぬ!」

「そらそういうやつだし……」

「楽しあらずやレースの地、機械的にや走れと道化!」

 

 

 ……なるほど、レースには確かに集中できるけど、楽しんで走る事はできないと。

 走るのが嫌になっても困るし、これはやめておこうか。

 ゴーグルの方はどうだった?

 

 

「前見て走るにもぶん無し! ……も、本番本戦レースに限りや視界不良」

「これもなしと」

 

 

 俺が周囲を見て細かく指示できるのなら、視界がある程度塞がっても走りに集中してくれれば問題はない。

 けどレース中はエッタ一人の戦いだ。自分でコースを決めて、自分で周囲を見て、自分で決めなければならない。

 やはり短所を生かす方面へ向かおうか。

 勿体ない気はするけど、やっぱりいつものスタイルに戻そう。

 

 

「む」

 

 

 耳カバーを回収し、ゴーグルを受け取り、お守り的に付けた髪飾りのボンボンを取ろうとしたら逃げられた。

 

 

「動くな動くな。取れないから」

「んゆぅ」

 

 

 な、このボンボン取るだけだから。この謎のボンボンチャーム。

 

 

「……もしかして、気に入った?」

「んふふふふ」

 

 

 適当にそこらで買ってきた奴なんだけど……まぁ気に入ったらいいか。

 頭に乗ったボンボンはプレゼントとしよう。

 

 

「んふふふ、ボンボンなりぞて? ゆえや? にて!」

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