感謝感激痛み入る、クハハハ!!!
なので急いで書きました(錯乱)
「
「なー、乗り物の窓際ってなんでこんなクソ暑いんだろうなぁ」
「次はジョゼトレ一句の番目」
学園から出発した貸し切りバスで俺の横に座るエッタが、ぶつくさ言いながら無茶振りしてくる。
「めちゃホット、ベリーめちゃアツ、クソ暑い」
「ぐえー……お茶ちゃん飲みたしや……」
くはは、思い知ったか。暑いときに熱いって言いまくるとなかなかムカつくだろう。
……俺にもダメージあるなこれ……。
「あてに5月を……5月の気候を……」
流れる景色、周囲に人がいる、閉じた狭い環境、駆動音。なんやら気を散らす要素満載な乗り物というのはエッタを落ち着かせない。
いつも電車内で移動する際、たぶんそういう理由で常に何かを口走っているサニティエッタさんが、夏には勝てず敗北してダレた。
ダレながら、俺の取り出したペットボトルを受け取る事なくキャップを開けて飲ませろと言わんばかりに唇を突き出して停止する。
むせないように気を付けながら傾けていくと、めちゃくちゃな勢いで中身が吸われていく。赤ちゃんかお前は。
「レース負け、夏にも負け!」
「あ、それ言っちゃう?」
トレセンに通うウマ娘の数々は、4月に入ると何故か途端にパワーアップするらしい。
なんでも三女神像にお祈りすると縁のある先輩ウマ娘が脳裏に浮かんで、力を授けてくれるとか……なんとか。
並行世界にいるウマ娘に似た存在の関係が云々ってらしい。
こっちじゃ先輩後輩でも、別の世界だと親子だったり姉妹だったりして想いを受け取るってウワサ。都市伝説。
この噂が本当か分からないけど、4月になってから急にレースが手厳しくなったのは確かだ。
サニティエッタ、不調中。
というより、ライバル全員が絶好調。
「いやー、あぢ~な~」
「夏暑からしやカンカン帽追いひして……」
「カンカン照りだもんなぁ……」
あと一歩とまでは食らいつけているものの、クラシックに入ってからは中々勝てずに8月になってしまった。
レースでの集中力と作戦問題を完全な解決と決着できないまま、頭を悩ませる次として努力の差が出ている。
努力とはサニティエッタ個人として難しい問題だ。なんせ生来の性質上、トレーニング漬けも頭ごなしの詰め込みもできない故に。
俺の指導不足もあるんだろうけど、桐生院さんや他のトレーナー達に聞いても「難しい」や「本人次第」でどうにも……ぐぬぬ。
才能だけで勝つことはできない。
天才はいると言わせたトウカイテイオーだって、ただ寝て起きて走った訳ではない。
今まで殆ど才能任せだけで走ってきたサニティエッタがここで覚醒できるか否か。
──てなわけで。
成績不振で煮詰まってるであろうエッタのリフレッシュもかねて、学園所有の合宿場へ向かうのだ。
チームの規模と成績と予定の兼ね合い的に二泊三日が限界だったが問題ない。今回はエッタに掛かっている精神的な負担を解放するのが目的なので。
にへらと笑って前の席に座るハッピーミークにちょっかい出してるこの姿からは想像つかないけど、結果を出せなければ中央に居場所がないというのは理解できてるはず。
「んふふふ、やはっはー!」
「……わー」
理解、しているよね……?
危機感、あるよね……?
あ、ちなみに合宿は他チームとの合同です。チームの人数的にやれって言われた。
そしてその合同の相手はご存知、桐生院さんとハッピーミークのペア。
実は今回の合宿、向こうから声を掛けられたのが発端となります。
「ミークや食べるやお菓子もあるよ? ありまししょうじてよるあもお菓子!」
「待って……酔う……」
ぐわんぐわん揺らされてるミークが可哀そうなので止める。
「むぅ、もしやか嫉妬かしかやもシット!?」
「苦しみを人に与えるでない」
「ん……。失礼ミークや調子乗り」
「大丈夫」
仲が良いのはいいけど、程々にね。
特にバスの中は。酔うから。
俺が。弱いから、俺も。乗り物。
「自分で運転する分には良いんだけど、どうして他の人の運転する自動車って酔うんだろうな……」
「あれ、常禅寺さんって車運転しましたっけ?」
「仮免落ち」
そこは笑ってよ桐生院さん。緊張してアホみたいな凡ミスしたアホの事をよ……。
「あ、そだ。桐生院さんに聞きたい事があって
「なんでしょう?」
「ハッピーミークって4月に入ってからパワーアップしました? 急に調子上がったりとか」
「うーん、急に……という感じはしませんけど……」
「何ぞや顔色伺いいつものシー!」
「変わりなし、と」
ハッピーミークもエッタと同じく変わりなし、か。
そも女神像にお祈りしただけで実力が上がるなら苦労しないよね。
並行世界からの恩恵を受けられないのは、なんか別世界に彼女らが存在してないみたいで悲しいけど仕方ないんだ。
元々受け取る予定の無い物を周囲が受け取ってるからと嫉妬してはいけない。
人間心理的に難しいしつまりは不公平だとは思うけど、しゃーない切り替えてけ。
「んゆ? いえいえしっかりパワアップ! あてはなぜならサニティエッタ、道化は道化師実力増して!」
「道化
『サービスエリア入りまーす』
きっ、とバスが停車して揺れた一瞬。
倒れるように視界から消えたサニティエッタが消えた。
忽然と、唐突に。
座っていた筈なのに、視界から外れたその一瞬でいなくなった。
「……え……?」
「あれ……?」
「?」
何を詰め込んでるのかパンパンの手持ちの鞄、さっきまで俺を捕まえていた手錠、お菓子。
なにもかもその場に残されているのに、本人だけがいない。
消え……た……?
「──奇術、大脱出!」
「うわぁ!?」
開いたバスの扉から、サニティエッタが帰ってきた!
「え、ちょ、ええ?」
「んふふふふ、どうですどうでしょどうしましょう!
「まじでどうやったの……?」
「視線がばっつん切れたので」
てくてくと歩いて再び席に着いたけど、まじで今の瞬間移動的なのはどうやったんだ。
窓から出て行ったにしてはそんな暇が無さすぎるし、ほんと、急に消えたぞ。
「でも、道化師っていうより手品師だよな」
「死にたいのか?」
ひえ……。
「うみだー!」
「……くらげ」
「チンクイおらぬかや? うつつかや?」
「ヒトデ……」
こいつら普通に魚とか探せんのか?
「魚は水族館で見られますから。ミーク! こっちにヤドカリいますよー!」
おかしいの俺だけ?
海で探すのって魚とか綺麗な貝殻じゃないの?
合宿先の海岸に到着したので、早速着替えてみんなで浜辺にやってきました。が。
みんな水着なんだけど、俺以外みんな女性なのですっげぇ気まずい。
いやさ、ウマ娘のトレーナーをしてチームを率いるって事はこういう事態もあるとは理解してたけどさ?
ウマ娘の水着はいいよ? だってプールでよく見るし、もう見慣れてるし。
でも桐生院さんは違うじゃん? 同期ぞ? 人間ぞ?
「あ、あの、常禅寺さん? なにか……?」
じっと見つめてたら顔を赤くされた。
いや違うんだ、桐生院さん。その、ね? 変な目で見てるとかじゃなくて……。
綺麗だな、とかそういうのは、思っちゃったりしたけど、いや深い意味はなくてね?
「──ふぬけ!」
エッタに構うのを忘れていた────
握り締めた手錠はメリケンサックとなり俺のボディを捉え────
まるで弾丸のように俺を沖へと吹き飛ばす────
「常禅寺さーん!?」
「我が魂はウマ娘の為にありぃいいいいいいいいいいい!」
……
…………
………………
「ハッ! 生きてる!?」
「むしろどうして生きてるんですか……?」
砂浜に立てたパラソルの下、どうにか目覚めた。
おはよう桐生院さん。何で生きてるかって?
それはね、生きてるから生きてるのさ……。
「エッタ達は?」
「岩場で遊んでますよ。フナムシで虫相撲するそうです」
「それ勝負になんなくない?」
今の子の感性が分からん。
でもリフレッシュできてくれてるならいいや。
……そして仲良し故に、負けたくないって気持ちになってくれれば……グフフ。
「ミークにゃ負けませんよ」
「え、虫相撲にそんな自信が……?」
「もっとミークをライバルとして戦ってもらって、バチバチぶつかって貰わんと」
「虫相撲の話ですよね……!?」
じゃないと、そうしてレースで結果を示していかないと、トレセンに名前だけ残しても仕方がないんだ。
人気を取りに行こうにも、まずはレース。
いくら歌と踊りが良くても、いくらコメディアンとして振る舞えても、そもレースで勝てなきゃ舞台に立てない。
競争ウマ娘の現実だ。
「ま、今回のバカンスくらいはゆっくりしてもらいますがね」
「もの凄い戦いが繰り広げられてるんですけど。フナムシで」
爆音と共に飛び上がったエッタとミークが空中でフナムシをぶつけ合う!
岸壁は抉れ、海は割れ、砂は巻き上げられ、気象変動による嵐が吹き荒れ、フナムシ達の戦いはさらに過激さを増していく。
「虫相撲ですよね!?」
「桐生院さんって虫相撲ご存じでない? 子供の頃よくやったなー」
「え、おかしいの私だけですか?」
砂煙に身を隠したサニティエッタ所有フナムシが奇術・大脱出で瞬時に背後へと回り込み、ミークのフナムシを地上へ叩き落とす大ワザを決めた!
「良いわざカードを持っているな……」
「わざカード……?」
やはりタイマン勝負ならエッタは勝てる。
だがレースでタイマン勝負に持ち込むのは難しい。
一対一での強みを他にいかせれば、うむ。
「次は勝てるぞ……」
「常禅寺さん?」
「せかやそやでなるほどジョーゼ!」
ミークに勝利したエッタがドヤ顔でフナムシを見せてくる。
良くやったぞエッタ。ちゃんと撫でてやろう。だから手錠を見せるのをやめなさい。
水着で手錠はまずい。流石にそろそろ理事長が怒るというか、警察がくる。
「ジョゼトレあなたもリセットフレッシュリフレッシュ! 最近レースにお熱は怖い顔? 暗き未来や想像無きにやしらばず怖い顔!」
「怖い顔?」
「あての事をば考えうる故ないがしろ。今夏も今回あてのことよろジョゼトレそはどうでしょどうでしょう!」
「そうだな……」
「え、今ので会話できてるんですか? ミークは分かりました?」
「たぶん」
「ええ……?」
色々と俺も考え過ぎて、最近煮詰まってたってのを見抜かれてたか。
てか、暑すぎて物理的にも脳味噌が煮られてるし。ぐっつぐつ。
「かき氷、お食べましょう? 海の家にはおつきもの!」
「おっけー。色々味あるしゴーゴーだ」
そしてミーク!
今度レースで会ったら負けねぇかんな!
「おー」
「え、あの、私達もかき氷食べますか?」
「わーい」