道化師系ウマ娘に振り回される話   作:親友気取り。

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サニティエッタのひみつ

 でかい。


到着! 勝負服!

 運命力というかなんというか。

 サニティエッタの秋華賞出走が確定した。

 本当に滑り込んだように最後のひと枠を抽選で勝ち取ったのだ。

 

 一着が取れない成績が上がらないってんで勝手に俺が焦ってただけで、エッタは上位入着できてる。

 別に勝てなくたってトレセンから無理やり追い出される訳でもない。絶対に重賞を勝ち取らなきゃいけないって話もない。

 勝てなきゃ居場所がないとか重く思ってたけど、ハルウララみたいな明るさとガッツがあれば何とかなるっぽいしー。

 

 夏のリフレッシュで気分を完全に入れ替えられて、そんなこんなで10月の頭。

 ついに、重賞へ挑むための勝負服が届いた!

 

 

「今日はとりあえず着方の確認で、スタジオでの撮影は後日。あとは──」

「開けます開けてる開けてます! 着よう着ましょう着まして脱ぎまして!」

「待てやてめぇ!」

 

 

 いつものプレハブで届いた勝負服を渡したら、速攻で着替えようとしやがった。

 海でも水着を見たからって目の前で脱ごうとするんじゃないよ!

 あとスケジュールも聞いてけれ?

 

 

「んじゃ外で待ってるからちゃんとカーテン閉めとけよ!」

「あらまれま。暇なればこれおばお読みます?」

 

 

 見ないように外へ出ようとしたら、エッタは自分の鞄からノート数冊と一つのファイルを取り出して押し付けてきた。 

 いや着替える間だけ外にいるんだけど──という暇もなく、ぱたんと扉が閉まる。

 まぁあいつの事だ。恐らくは持って帰ってでもこういうのを読んで欲しいのだろう。自己表現の一つだし、もっと構ってと言わんばかりに。

 

 近くの縁石に座って渡された物を見てみる。

 ノートは3冊。そのうちの一冊は前にも読んだことがある全歌集だ。

 もう2冊はそれぞれ“サニティエッタ全歌集最新版”と“サニティエッタ全歌集Vol.2”とマジックで荒々しく書かれている。

 

 ……うん、どっちが先なのか分かんね。

 

 歌集なんだし上下巻とかで物語的な繋がりはない……はず。

 てか全歌集なのに数冊あるのよく考えたらおかしくない? 全部収めた一冊とかって意味やないの?

 

 

「歌集は後でいいか……」

 

 

 これはこれで気になるけど。

 

 

「んで、こっちのファイルは?」

 

 

 見慣れないそれを開いてみる。

 ルーズリーフのような紙に文字が印刷された、短歌とは違う文章。

 前に全歌集のあとがきにあったようなエッタの視点から綴られるものだ。

 

 わざわざパソコンで文字を打って出力したのか、あるいはプレハブの中に置いてある古いタイプライターでも使ったのか、一部が手書きな以外は全てインクの印刷物。中々に凝った作りをしよる。

 恐らくはちゃんと清書したものを仕舞っておく為のファイルなんだろう。枚数は少ないけれど読み応えはありそうだ。

 他人の日記を覗いてしまったかのような罪悪感があるが、渡されたという事は読んでいいはず。

 

 

「着替え終わるまでだけだし」

 

 最初に目に入ったのは3月15日のもの。

 今年、ではなく去年の入学前のらしい。

 俺と会う前のエッタかぁ……。

 

 

 

 

 

 

 

幸運を信じてみる心

3月15日 サニティエッタ 

 

 人というのは我が儘なもので、都合の良さで夕日に向かって急げ急ぐなとヤジを飛ばして時間を願う。走る我々に対する声援は全て走れ差せとの後援だろうけれども、その心中であいつは走るな邪魔をするなと願わない人はどれほどいるだろうか?

 誰も彼もの大勢が邪魔をせなんだらアイツが勝つと信じて激を飛ばす影で、コイツは無理だと吐いて捨てた唾の行く末を気に止めない。

 

 幾百の名前のないウマ娘達が追い切りをする背中に押し出されて夢と言われる中央に立っても、時代の中心はたったのひと握り。他はその他大勢として中心点がずれたコマの隅から弾き飛ばされて、盤外へと転げ落ちては行方が知れぬ何処かへと消える。頂点を囃し立てるには幾千の人柱が必要だ。

 競争は、はだかの王様の話とも言える。その年代最強という豪華な洋服をメディアや民衆という仕立て屋がいくら飾りつけても、いつか誰かが一声打って王制を終わらせてしまう。最強不敗の実在の怪しい透明な服を剥がされた王様はその後どうなるか? よほどの事がない限り、あの時が全盛期だったと過去の栄光しか残らないだろう。

 競争ウマ娘達の表現。実力と努力の裏打ちに運を絡めるのなら、今でもサニティエッタと言うウマ娘は運があり運がなかったという憎愛の形に落ち着く。

 

 

 

 虚勢(きょせい)()る6(がつ)(はる)夏風(なつかぜ)(おそ)

 記憶(きおく)()いひと(つき)のある()風化(ふうか)するのを(かな)しみ

 ()(われ)はいつまで(なが)らえる(こと)ができるだろう

 

 

 

 自分は自身を認めているし、受け入れているし、その上で目立ち舞台に立って騒ぎ立て、注目を浴びサニティエッタという道化演者を通じて()()()()()()()の啓蒙としたい。レースというのもその目的の過程に過ぎず、言ってしまえばレース結果なんて本当はどうでもいいのだ。

 過程の途中にレースがあって、過程の前提に勝利が存在している。

 全く面倒で、ややこしい。歌いたい時に歌ってはいけないのかと窮屈に思う。

 

 サニティエッタという個人は、自身について運が良かったと感じている。

 それはウマ娘であること。

 

 ウマ娘であるが故に走り歌う為の舞台を用意され、迷っても線路を辿って歩いていけば舞台へ辿り着く。

 あとは道化芝居の賑やかしで目立ち、騒ぎ、自由にしていれば周囲は勝手に盛り上がろうもの。抒情(じょじょう)の制御が効かず振り回されていようが、それも愛嬌でまかり通るのだからとても運がいい。

 

 サニティエッタという個人は、自身について運が無かったと感じている。

 それはウマ娘であること。

 

 ウマ娘であるが故に走り歌う専用の舞台が用意され、迷わず線路を辿って歩けと舞台に蹴り出される。

 道化芝居の自己表現技法の前提に走り勝つ事が追加され、走って当たり前、勝たねば歌も踊りも取り上げて、やれ神秘だとされる神聖の存在でいることを()いられる。

 もし仮にサニティエッタがウマ娘でなければ、足の速さも歌も踊りもそれこそ道化も、どれかひとつを手中にすればサヴァンとして褒められもしただろう。

 しかしどれもそうであることが当たり前の存在に産まれたから故、運がなかった。

 

 自身について愛憎入り混じるスコラ学の様相を見せはしたが、かといって過度な自己愛や嫌悪までの存在追及哲学はない。ただ、結論を表するのなら両刀論法(ジレンマ)への嘆きが近い。

 ミスターシービーの勝利を願って結果を見届けなかった、時代の詩人に評論を書いて貰えば少しは落ち着けるだろうか? サニティエッタという歪な道化師の姿を見せて、痛快に皮肉を言って欲しくある。存在の否定をされようが肯定されようが、それを仮の世論と受け入れる事ができるだろうから。

 だが今その詩人はいない。この文章もさして学もなく見せ掛けだけを飾ったハリボテだ。

 

 いないのなら今現在、激を飛ばされようが唾が飛んでこようが走る理由を考えてみよう。

 

 まず一つはウマ娘は走らなければ舞台に立ってはいけないのかという疑問。

 もう一つはサニティエッタという個人、ただ落ち着けず迷惑をかけてしまうかも知れない存在もいる事の周知。

 単に目立ちたいだけ。

 

 他が思いつかないそれだけの、じゃあ走る必要はないだろうとできる内容。

 それでも走るのは、サニティエッタは前述の通り目標の過程にレースがあるというだけ。

 だが世論的にこういった理由はウマ娘としてあまり認められない傾向があるらしい。パンチが弱いのか、あるいはつまらないのか。

 

 こういった事を思うのは、()りしから興味のあるパフォーマーになりたい、つまりは道化師、芸能人となりたい。──そう進路の相談をした際に、面倒くさそうにウマ娘なのだからと行き先をすぐ地元のトレーニングセンターへ向けられた事に反発した陳腐な子供心なのかも知れない。

 大人が言うには自分の思考すら自由にできない程のしがらみはなく、サニティエッタという自分自身ひとりで戦いに出て走れる程度の思考がある。思い付くままの勝手な走りは柔軟な作戦と称され、自分を抑えて地面を踏みつける行為は力強い走りともされる。レースに向いているんだからそうしなさいと言うらしい。

 自身と走りに複雑な心境を持ったままこの時、いっそのこと思い切って走るのはきっぱりやめてしまおうかと思っていた。走りを褒められ持ち上げられたというのに、折角走らされるのなら東京へ行きたいという意思だけは様々な意見があると断られたからだ。

 

 トレーニングセンターへ行けと勧められても辿り着けるのは県内までか。嘆きふて腐っていたところ、中央から推薦を受け取っていた親友のニコルラベリテが口を利いてチケットを譲ってくれなければ、走るのをやめていた。

 受験の勉強にも付き合ってくれた彼女がいなければ、今頃サニティエッタは時代の流れと共に消えていただろう。

 

 合格の通知を受け取った夜、父と姉はついぞ走れとは言わなかった。

 代わりに父は、才能と地位に執着するなと語る。

 少し昔、自身の立場に固着して大失態をしたらしい話をしてくれた。走る理由や道化への思いを少し柔軟にせよとまでは明言しなかったが、そうとも取れた。

 

 姉はいつもと変わらない。

 私は何があっても自分の姉だぞと勇気づけるような手作りのウマ耳は付けたまま、仕送りは何が良いかともう既に捌いた鶏の梱包を始めている。

 きっとサニティエッタはどこへ行こうが、姉の過保護からは逃れられない。田園に死すとはまさにこの事だろう。東京へ行ったら新宿へ行き、あの場の写真でも撮って教えてやろう。

 サニティエッタの言えた事ではないが、少々落ち着いて欲しい。

 

 最後にニコルラベリテ。中央入りを蹴った事に関してはトレーナーになりたかった為と話し、こちらを気にせず楽しんでとあっけらかんとしている。

 そして応援しているから無理に自分を着飾ったり変な事を考えず、素のまま自由に振舞って元気な姿を見せてくれと頼んだ。

 

 

 サニティエッタという個人は、自身について幸運だと信じてみる事にした。

 静心なきしの精神と様々な環境是非。捉え次第の是非次第。

 友と家人に報いる為にも故に。

 

 

 

 

 

 

「……うん……」

 

 

 濃いな! 中身!

 これ本当にあのエッタが書いたのか? やけに字が詰まってるつか、いや言いたい事が一発で分かりにくい湾曲的な事があるのは確かだけど、うん……。

 あいつが今みたいに笑う前は走るのやめる直前な時期もあったんだなとか、ラベリテって実は強えやつなんじゃないのかとか、色々言いたい事がある。

 ある、が。

 

 

「俺はトレーナーとして、足元から紙吹雪を巻き上げるのが役目だしな」

 

 

 トレーナーになったばかりの頃。

 俺はウマ娘を大スターに、満天の星空に浮かぶ星座のように輝かせる事を目標か夢としていた。

 レースで勝たせて舞台を煌びやかに盛り上がらせる、手の届かない高みへと打ち上げるロケットになりたいと。

 

 だがそれは俺の一方的な想いで、ウマ娘全員がそう考えている訳じゃない。

 もちろんそうしたい層も確かにいるんだろうが、サニティエッタの場合はそれが目的とは言い難い。勝利は過程だ。

 あいつの目立ってファンを増やしたい的な発言とじゃあレースに出るぞSNSを使うぞという行動は間違ってないはずだけど、サニティエッタの更なる目標は一口に説明しにくいものだ。

 

 レースに出なくたってイベントに呼ばれる位になれば一応の願いとか目標は叶う。と、思う。

 俺が持つトレーナーとしての目標とは違って宇宙の彼方を目指すようなものではないその望みを叶えるために、俺は人工衛星として観測した存在を地上へ語り掛ける的な……。

 ああ、難しい! 文学ってなによ!

 

 

「なんやかんやで今までの方針と変わる事はないな、うん」

 

 

 エッタとももう長い。ツーカーでゴーゴーな俺のできる事は、レースに勝てなくたって焦らない事のみ。

 勝手に空回りしたって仕方ない。力抜いてこう。

 

 

「レーナー!」

 

 

 お。着替え終わったかな?

 扉をノック。入れと声がしたので扉を開ける。

 

 

「終わりましたよ勝負服! お披露目しさすばどうですジョゼーナ!」

「……うん……」

 

 

 どや顔で胸元のボタンを締めていないエッタがそこにいた。

 胸元が、谷間が、なんと見えているのである!

 

 

「おまえ、そういう趣味だったっけ……?」

「んゆ? あやは? サイズが合わぬか胸元苦し」

「採寸ちゃんとしたのに……」

 

 

 エッタの勝負服は本人が希望したというか絵に描いていた通りの注文をおおよそ叶えた物。

 上は燕尾服の尻尾部分がくっついた赤いベストに付け襟、袖の無い剥き出しの綺麗な腕の手首にはこれまた付け袖。下はストッキングに茶色いショートパンツとショートブーツでシンプルにまとめた、煌びやかより動きやすさを重視した格好だ。

 原案はもう少しゴテゴテじゃらじゃらしたデザインだったけど、本人が気にせず動き回るだろうなとか着やすさを重視して細かい打ち合わせを加えました。

 

 

「締まらぬ閉じぬ、ならば開けとくしかあるまいて」

「ベストの下に着るシャツはどうしたんだよ」

「きゅうくつ」

 

 

 採寸もちゃんとやって、着やすさを重視した勝負服。一張羅。

 到着まで一か月。その間にこいつ、ちょっと成長したのか?

 何がとは言わんが……成長期ってそういうものなの……?

 

 

「んふふふ。視線釘付けジョゼトレどうかや?」

「ちょっと待ってね電話する」

 

 

 警察とお前の姉に。

 

 

「わ、わー! 実は着れますちゃんと着ます! からかい過ぎては毒となす!」

 

 

 あ。急いでボタン閉じた。

 でも何がとは言わんがでかい事には変わりないから、これはこれで強調されてえぐいな……。

 海の時に実は色々思ってたけど、うん。

 

 

「今度の秋華賞、頑張ろうな!」

「んゆ!」

 

 

 机に放置されてる手錠を確認。

 俺はいつでも自首する準備があるぞ……。

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