道化師系ウマ娘に振り回される話   作:親友気取り。

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サニティエッタ(クラシック10月時点)

スキル
 奇術 大脱出 Lv5
 視界良好!異常なし!
 伏兵◎
 末脚


逆襲の時!

追奔逐北(ついほんちくほく)カラフルエッタはサニティなりて、敵は真っ白ハッピーミークばなられば打倒し逆襲を!」

 

 

 控室で椅子に座りながら充電しつつスマホを眺めていたエッタが不意に顔を上げて、声を出した。

 それに俺が「そうだぞー」と返すと、満足したのかエッタの視線が再び手元のスマホに戻る。

 サニティエッタが珍しくスマホを充電してでも使っているのは、今現在のSNSではライバル対決がどうなるかという議論が熱く繰り広げられているからだ。

 ホープフルではライバル対決と呼ぶには首を傾げる戦績しか残せず誰も相手にして貰えなかった俺らが、ハッピーミークへの挑戦ないし逆襲というシチュエーションで今日は注目を集めている。

 

 これは単純に対決ってモノが燃える訳だけで燃え上がってるわけじゃない。

 

 功を制するかは微妙な賭けとして、SNSへ以前のミークとの練習試合の動画を匿名で流したのだ。

 それを以前から何故かエッタと仲のいいゴールドシップに対策頑張ってるぞと大げさに煽ってもらい、そしたら予想以上の反響で秋華賞の特集を組んでるあちこちが拾っちゃって、つまり目論見が見事成功を収めて今日の大注目へ至ったのだ。

 

 道化舞台を整えたなら、後は走るだけぞやエッタ。

 大反響の結果には大満足。この裏工作は成功するか分かんなかったしエッタには伝えてない事だけど、まぁこのくらいは察されるだろうね。

 

 

「……」

 

 

 ふいに顔を上げたエッタが俺と目が合うと何も言わずににへらと笑い、誤魔化すように視線が手元に戻る。

 その後も時々顔を上げてきょろきょろ見渡し、足元と身体をふらふらさせながらスマホをぺちぺち。

 

 結局やっぱり胸周りを若干調節した勝負服を着用したエッタは準備万端。今はパドック待ち。

 去年のホープフルと一緒でやるべきことはやったし指示もほぼ同じ。しかし、今回は心持ちが違う。

 それはなぜか。

 

 ここで、以前に受け取ったエッタの日記的な作文から一つ紹介しよう。

 

 

 

 

消えた馬という漢字

10月 5日 サニティエッタ 

 

 養鶏場の姉が言うには競争ウマ娘を指すウマの漢字はおかしいらしい。走るウマ娘を成り立ちとする漢字なのだから点ゝが二つという理由に対し、それなら足りない理由にもなるのだという。

 芝や砂のレース場をひとりが2本の脚で走っている事は一目瞭然だ。4本足のウマ娘がいるとすれば動物園か見世物小屋の中くらいなものだろう──。

 言われた当時からずっと疑問に思っていたが、今ではその意味が分かる。

 つい先日、トレーナーがこの手記を読みサニティエッタの理解を深め、全身全霊で応援してくれると言ってくれた。普通のウマ娘としてを期待し理想像を持っていたトレーナーが、ウマ娘という一括り全体ではなく真にサニティエッタという個人をはっきりと振り向いて見てくれたのだ。その時に、ウマの漢字の意味が分かった。

 二人四脚、二人で歩む道。二人で走るレース。

 ウマ娘のウマを指す漢字は、本当は点が四つの“馬”なのではないか?

 

 

 

 

「二人四脚、人馬一体。トレーナーの足が追加されて馬となったウマ娘は、無敵だ!」

「あ! ミークやはー!」

 

 

 エッタは最後まで聞くことなく立ち上がり、ちょうど控室を訪れたハッピーミークの所に行っちゃった。

 おかしいな、格好いいセリフを調べて使ってみたんだけどな。聞いてくれないのかな?

 まぁそういう所もサニティエッタ。

 学業や寮生活以外だいたい傍にいるのが常な備品の俺より、断然親友ハッピーミークの方が優先度上だよね。

 こいつらルームメイトだけど。

 

 

「……今日は勝ちます。ぶい」

「エッタも勝ちます、えちご!」

 

 

 お、いいねそれライバルっぽい。

 ミークとエッタはお互いに無表情のまま握手をして拳を合わせて、格好よく背を向けた。

 なるほど、決闘前に余計な事は言わないと。

 

 

「で。トレンナジョゼっちあてに何ぞや言いたげ話? げたいぞや?」

「え」

 

 

 同じセリフを二度言うとか恥ずかしいんですけど。

 他のパターンは用意してないので詰み。

 きこ、と椅子に座ったエッタがくるくる回ってペットボトルのお茶を飲む。

 

 

「むふん。言いたげ言葉はお分かりますよ? 言葉に意味などありまして! てりましあどな!」

「そう! 俺達に言葉なんかいらねぇ! ハートと心と魂だ!」

「あてが目指しや道化道!」

 

 

 おぅいえーい! テンション上がってきた!

 おいエッタ、ウマッターにこのテンションを踊りにして乗せようぜ!

 俺達は控室でもハッピーだ!

 イエェェェェェイ!

 

 

 ──再び扉が開いてミークが顔を出す。

 

 

「うるさい」

 

 

 騒ぎ過ぎて怒られた。

 マジごめん……。

 

 

「オチがつきましお後がよろしく?」

 

 

 落ち着いてないからこうなったんだと思う。

 ふたりして謝るとミークはじゃあねと立ち去り、部屋に今度は沈黙が流れる。

 喋るなって訳ではないんだけど、騒ぐのはダメだよね。うん。

 

 

「……んふー」

「なー」

 

 

 ちなみに出走どころかパドックすらまだ時間に余裕はある。準備万端。

 前日のお昼には京都府入りをして秋華賞の会場となる京都レース場の偵察を済ませて復習もバッチリだから、結構時間が空いちゃうのだ。

 

 ……まぁ、時間がある本当の理由は朝からエッタが元気にはしゃいだからなんだけども。

 流石に別室でそれぞれ泊まってたら来ないだろと余裕ぶっこいて布団で寝てたら電話が掛かってきておしゃべりトークバトルが開催され、向こうのスマホが死するのを勝ちと思ってたらじゃあ直接話そうと襲撃され……。

 最終的に俺の布団でエッタは寝たから良い。

 でも、俺自体はズタボロ。

 もういっそのこと下手に寝ようとしない方が良かったんじゃないかレベル。

 

 

「んゆ、電話!」

「電話?」

 

 

 昨日のおしゃべりラップバトルに想いを馳せていたらエッタのスマホが鳴った。

 このタイミングで電話とは面妖な。何者だ。

 

 

「なんぞや誰ぞやあての名呼ぶそわ!」

『ピストルゴルシちゃんだぞー! 撃ち込むぞー! お見舞いするぞー!』

『エッタちゃーん!』

 

 

 お、ハルウララとゴールドシップか。

 ハルウララは良き友として普段から、葦毛のコンニャローも今回の盛り上げといい結構面倒見が良くて助かってる。うれしいぜ。

 友達の登場にエッタのやる気も上がるし、このまま今すぐ走らせたい気分だ。

 

 

「揃いし全面ルービック! お土産お返し期待せり!」

『それまだ持ってたのかオマエ』

『レースがんばってね、エッタちゃん!』

「とくと見よ! あての走りを感動を!」

 

 

 『あ、そだ』とスマホの小さい画面内のゴールドシップの目線が俺へ向かう。

 

 

『差し入れ送っといたからちゃんと食えよ?』

 

 

 ちょうど控え室をスタッフさんが訪れて机に何かを置いていく。

 この緑色に包まれた焼きそばは、まさか……!

 

 

「わさび焼きそばじゃねぇか」

 

 

 一切うれしくないぜ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パドックにて勝負服をお披露目するサニティエッタは歓声を浴びてご機嫌になっていた。

 溢れる嬉しさを全身で抑えきれず、だかだかと足踏みをしながら飛び跳ねて両手を広げる。

 先にあっさりとアピールを終えていたハッピーミークとはやっぱり真反対だな。

 

 

「秋華賞はまさに因縁の対決……」

「最近あまり勝ててないって聞いて心配でしたけど、なんだか大丈夫そうですね」

「ああ。ハッピーミークが鋼の意志ならサニティエッタは銀の意志で勝負だ。金の翼も添えられたらもっとバランスがいい」

「……はい?」

 

 

 今日は重賞なので、毎度お馴染みエッタのお友達が新潟からやってきている。

 手に謎の焼き菓子の詰まった紙袋を持つこのウマ娘は、えっと……ニ……ニコル、ラベ……。

 

 

「ニコバンバン」

「途中まで合ってたじゃないですかぁ!」

「はは、冗談だよベリテネ」

「ニコルラベリテ! その間違い前もしましたよね!?」

 

 

 本気で怒られちゃった。ごめんごめん。

 

 

「まったくもうっ。どんどんエッタさんと似てくるんですから……」

「最近流行りの“てぃえす”かい? トレーナー辞める気はないよ」

「なんの話ですか」

 

 

 ウマ娘パワーを体験してみたい気はあるが、人間を辞める気はないぞ。

 あ、そだ。そういえばラベリテありがとな。

 

 

「何がですか?」

「エッタに中央の推薦譲ってくれたことだよ。あれがなきゃエッタさ、走るのやめてたかも知んなかったってさ」

「ああ、そのこと」

 

 

 俺がなんやかんや振り回されつつもトレーナー続けられてるのは、あいつのお陰だ。

 あいつが自分の幸運と駅で出会った縁を信じて逆スカウトみたいな行動しなかったら、今頃こうしてパドックも見に来れてないかも知れない。

 俺だってもしかしたら、自分にトレーナーは向いてなかったとして辞めてたかも知れない。

 

 

「お前が居なきゃエッタも俺も、今頃どうしてたか」

「ちょっ、急に何言うんですか!」

 

 

 照れるな照れるな。

 いくらラベリテがトレーナー志願とはいえ、推薦貰える実力なんだろ? 気になって当時のデータ調べてみたら、エッタは力強さとセンスが評価されていたけど能力にムラがあるから選外。それに対してニコルラベリテは何でもそつなくこなし安定しているから大舞台へ行っても問題ないって評価だったぞ。

 経験の為に中央行ってみるって選択肢があったのに友達が東京行けるよう取り計らうのは、並じゃできない事よ。

 “安定のニコルラベリテ、不安定な将来”なんて騒がれるレベルってどうなってんのさ。

 

 

「え、エッタさんなら中央でも輝けるって信じてたからです! 友達だからっていうのは、確かに、ありますけどぉ……」

「ありがとうな」

「そんな言わないでくださいよ! そ、それよりほら! 今日のレースはどうなってるんですかっ!」

 

 

 照れたラベリテが瓶に入った飲み物を一気に飲む。

 お礼は言えたしレースに戻ろう。

 えーっと。

 

 

「何の偶然か、今日も前のホープフルと同じで内枠3番だ。しかし人気は上がってる」

「といっても今までの戦績を踏まえた5番人気ですけどね」

「そこは仕方ない」

 

 

 出てくれば一番人気を確実に掻っ攫うブルーファルコンが怪我で欠場しているのは好都合だが、そのライバル枠であるブラックブルは出てきている。

 それにブルーファルコン並の実力を持つドラゴンバードやブラッドホークもいるし、上位人気陣の層が厚いからもうその辺は仕方ないんだ。

 が、しかし。

 それを踏まえてサニティエッタには雲隠れに丁度いい注目具合と伝えてある。

 

 

「あいつの持つ道化師奥義、その名も大脱出は誰にも見られてない隙に消える技だ。注目され過ぎちゃ困る」

「大脱出? エッタさんってそんな技を身に着けたんですか?」

「うむ。人の目を欺くのもまた奇術の一つ」

「注目を逸らすのは手品の基本ですか──」

 

 

 ──がさっ。

 ラベリテの持っていた紙袋が不自然に揺れた。

 もしかしてとパドックを見れば、披露を終えて袖に消えようとしているエッタの口元にお菓子が……。

 流石に暴力で訴えはしないが紙袋の中身のお菓子を奪ってきたか。瞬間移動の応用だな。

 

 

「え! は!? この距離を、え!?」

「出走直前に間食はやめとけと言いたいけど、一個だけならいっか」

「いやいやいや、言うべきはそこじゃないですよね!?」

 

 

 エッタの奇術を手品と言うのが悪い。あいつは道化師だぞ。

 

 

「はぁ……」

「ところでそれ何持ってきたの?」

「え、ぽっぽ焼きですけど……」

 

 

 もっと言う事あるだろと口には出さず、しかしラベリテはずいぶんと蔑んだような目で見てくる。そのジトっとした目、癖になりそうだからやめて。

 てかなんだそのお菓子。細長いパンみてぇな物体を俺は知らないぞ。

 いやまて、前にエッタがそんな感じの名前を言ってたような……ないような……。

 

 

「知らないんですか?」

「メジャーじゃないお菓子は知らない」

「ぽっぽ焼き知らないとか!」

 

 

 うわ、怖いわね。

 

 

「……もしかして新潟以外で売ってないって噂は、本当なんですか……?」

「噂は現実なり」

「じゃあ、このカニ味コーラも……?」

 

 

 恐る恐る下げ鞄の奥底から出てきたのは、カニの絵が描かれたコーラの瓶。

 なんだその見るからに意味不明な組み合わせ。正気か?

 

 

「新潟ってつくづく狂気に満ちてるよな」

「満ちてないですよ!?」

 

 

 どうだろうなー。エッタの姉ちゃんもやばそうだからなー。

 アイーダだっけ? サニティエッタが正気なら向こうは狂った道化師か?

 

 

「っと、そろそろ移動しよう」

 

 

 なんやかんやしてたらパドックタイムが終わりそうなので移動し、出走前に元気な道化師へご挨拶。

 飾った言葉なんて送らなくてもいい。出走まで構ってやればおっけー。まだ勝ってないけどもう先に撫でといちゃう。

 わしゃわしゃわしゃヨーシヨシヨシヨシ。

 

 

「んふ、んふふふふふふふ」

「扱いがもう犬なんですが」

「んゆ? んふふ、ニコルラベリテわからじや? あてを呼ぶ声甘美を頂き道化の頂上! ゆえにジョゼ横ちょうしに乗るな?」

「エッタさんが調子に乗ってるのは分かりますよー」

 

 

 うむ、調子に乗ってもらわにゃ困るのだ。

 

 

「エッタ」

「ん。やれることを全力で」

 

 

 よし行ってこい!

 

 

「サニティマイティーぼんばーしゅー!」

 

 

 エッタが走り光へ向かう。

 だが一人で走る訳じゃないぞ。

 俺が付いてるぜ、サニティエッタ!

 

 

「──なるほど、良い信頼関係ですね」

「だろ?」

「それに、なるほどなるほど……ふーん……」

 

 

 なんだよラベリテ。その目は。

 その蔑む目が癖になっちゃったらどうすんだ。

 

 

「べっつにぃ」

 

 

 ぜってぇなんかあるやつだろそれ。

 言え、言うんだ!

 

 

「じゃあアイーダ姉さんに伝えておきますね」

 

 

 何を!?

 

 

「大丈夫です。エッタさんを東京へ向かわせたボクも責任を1割くらい持ちますから」

 

 

 説明をしろニコルラベリテェ!

 

  

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