実は、周囲が気を付けてないと生焼けで肉を食べかける。
ボクの名前はニコルラベリテ。ニコルは母さんから受け付いだ名前で、ラベリテは別の国で「
親しい人は幼い頃の呼び名であるベリテットやラベリテのベリって部分からベリーと言うけど、個人的にはどっちの由来でそう呼んでいるのか分からないしやめて欲しい。子供っぽいし。
ベリーが子供っぽい云々はさておいて、ラベリテの名前らしく真実を語って見ましょうか。
といっても、今日の主役であるサニティエッタことエッタさんの事しかネタがないんですけど。
父さんが実力のあるトレーナーだという事で注目されていたボクから中央入りを無理やり奪った、という誰が言い出したかも分からない噂の悪評価と突拍子もない行動とヘンテコな喋り。それらで軽んじられていた彼女が中央で新人トレーナーの下についたと知れた時には、もう無理だろういつ帰ってくるだろうともう期待すらされてませんでした。
周囲は「道化で終わる」「俳句はクロスワードではない」「子供が痙攣を起こした」と散々な言い様でしたよ。
連戦連勝を飾ってホープフルへ出走するというのに、地元紙が取材にも行かないくらいには……。
しかしそんな暗い話題も終わりです。
ホープフルの負けを皮切りに負けが込み始めてやっぱりかという風潮の所、今日の華々しい大勝利で見返してやったのですから! 晴れて重賞ウマ娘の仲間入り!
弱点が確かにあるとはいえ素質はありましたし、やると思ってしましたよ。地元の誇りです。
これで我らが新潟もさらに活性化しようもの。将軍杉にょきにょき。
「んふふふふ、お肉、お肉食べたしやらりやお肉!」
「レースの後は焼き肉ですね」
「重賞制覇は沢山ごちそうそうでしょジョゼよ? あてに貢ぐが良いおにく!」
「おう、折角だからお高い所へ行くぞー」
ウイニングライブやインタビューを終えて日も暮れて、一番疲れてへとへとだろうに道化師様はとっても元気。
林檎に続く何番目か好物のお肉にありつけると復活を果たしてます。
そして応援に来ていたボクも同伴できるらしいのでついてきました。
今は誰かと待ち合わせをしているようですが……?
「仲間意識は食卓囲んで同じ肉! お少しお待ちよミーク待ち!」
「負かしたライバルと、食事を?」
「実は俺らじゃ良いお店が分からないんだ。今まで無関係だった庶民なもので」
「あても知りゆるお食事知れぬ、知りうるお店はうまっ子大将だけでして」
それ実家の近所にあるラーメン屋さんでしょ。
「ミークん所なら知ってるかもって聞いたら案内してくれるっていうからさ、仕方ないじゃん?」
「うむ。それにミークとお話会話はしたくばお祝い共に友」
「向こうもそれならって乗り気だったし」
「んむー? 夏の合宿引き続き、ジョゼはキリューを狙いより?」
「狙い?」
エッタさんが少々意味を含んでそうな事を言った所で、向かいから見覚えのある白いウマ娘と女性がやってきました。
今回二着だったハッピーミークと、そのトレーナーでしょう。
あれ。中央のGⅠ上位二人とそのトレーナーの食事に同伴しているボクは一体、どういう立場で名乗れば……?
「あの! はじめますて! ボクわぁ、ニコルラベリテ……と……」
噛んだァーっ!
「初めまして。ハッピーミークのトレーナーをしてる者です」
「……」
「ア、ドウモ……デス……」
「……うん。よし! 行こうぜ!」
微妙な空気を読んだジョゼさんが仕切り直し、合流できたのでお店へ向かう。
今からやっぱり帰るって事は……駄目だよねこれ。無理だよね。
しまった、いつも相手がエッタさんとジョゼさんだから油断してた。
「おいどうしたラベリテ。なんかおかしいぞ」
「いえ気にしないでください」
「そう?」
ジョゼさんが小声で気に掛けてくれるけど、やっべ、中央のトレーナーさんだって認識したらジョゼさん相手にも緊張してきた。
ファーストコンタクトが上手く行ってこれまで普通に接してこれたのに……!
「んゆ? あてら今更馴染であらぬと言ひたりしますか。それともミークと話したし?」
「……こんばんは」
「あ……こんばんは。えっと、今日は……」
「……」
残念でしたね、は煽ってるみたいだし、言える立場じゃないし、えと、なんて続ければ?
道化師の仲介へるぷ! エッタさん!
「この者あての親友ニコルラベリテ、実力知識はあて以上! よろしくどうぞとハッピーミーク!」
「ど、どうも、いつもは地方で活動してます。今の実力はエッタさんが上ですけど」
「……よろしく、なりぞや」
なりぞや……?
「ミークなりの仲良しアッピル道化語学ぞ! メイトですよ? ルームのです!」
「ルームメイト、ラベリテ……。エッタの親友?」
「あ、そうです。地元でずっと一緒でした」
「……」
「……」
やべ、会話が続かない。
ボクの周りはエッタさんを始めとして自分から喋る人ばかりだったから、こういう場合どうしたらいいのか分からないな。
ジョゼさんへるぷ……はたぶんいらないけど、いざの時はフォローお願いします!
「ここです」
「お店着いたぞー」
ナイスタイミング!
お店に入れば少しは誤魔化せる!
「予約していた桐生院です」
「きひゅっ……!?」
「ラベリテ?」
あの、き、桐生院さんって。あの方。
「そだが?」
いやいやいや、ジョゼさん何当然みたいな顔してるんすか!?
桐生院っていったらバリバリの名門じゃんか! 有名どころだよ!
そらこういうお高い店も知ってるというか、慣れてるというか、あれだよ!
ボクの語彙と経験が不足してるからあれだけど、このお店普通に庶民は入れない所でしょ!?
「らべべりりんりんどうしまし?」
「……お腹空いた?」
この二人も何当然って顔……!
ああもう、トレーナー志願からしてみれば雲の上の存在なんですよ! その名前!
「いや、ちょっと待ってください……?」
トレーナーの名門一族の桐生院家とハッピーミーク。
それとライバル関係を結んでるジョゼさんって、何者……?
桐生院さんが新人でも中央に所属してるのは名家だからと納得するけど、ジョゼさんも新人って何か怪しくない? 庶民って言ってたけどそれで中央って。
え、てかジョゼって本名? どっからどう見たって日本人なのに、ジョゼ……?
いやもしかしたら色々理由とか事情があって本名が普通に横文字の可能性もあるけど、でもそういうのって可能性としては低いし。
「ねえエッタさん」
「んゆ?」
「エッタさんのトレーナーさんのお名前、何でしたっけ」
「自慢しよう? あてのトレトレジョゼとれっと!」
あーだめだ。わかんね。
「もしかして……」
偽名、とか。
エッタさんの姉さんもウマ娘じゃないけど、妹に合わせたいとか妹のためとか言って作りものの耳つけてアイーダとか名乗ってるし、そういうあれ?
もしや最初に会った時「ワンチャン俺もウマ娘で事で誤魔化せないかな」って言ってたのは、そういう!?
いや、本人がいるんだ。確かめよう。
ボクの名前はニコルラベリテ。真実を冠するウマ娘。
真実の為に臆する必要はない。
「あのー、ジョゼさん」
「どした?」
「ジョゼさんのフルネームって、そういえば何でしたっけ」
「忘れちまったのか?」
一拍置いて、答えてくれる。
「常禅寺だよ」
……っすー……。
うん、フルネームで聞いたのに、常禅寺だけって。
もしかして「ジョウ・ゼンジ」とか? いや、ありえないね。
「もしかしてエッタがちゃんと名前教えてなかったか」
「聞いてないッス……てか本人に聞いたら覚えてなかったッス……」
「エッタ……担当の名前くらい覚えておいてくれ……」
「年とか月の単位で呼びなし故にて忘却」
いくらエッタさんでも担当の名前を覚えてないのはどうかと思いますよ。
ジョゼ、あるいは常禅寺っていう本名か怪しいのもあれですけど。
「……はじめて知った」
「ハッピーミークまで……」
「わ、私は覚えてますよ! 常禅寺さん!」
「桐生ちゃぁあん!」
うわ、桐生院家の者をちゃん呼び。
もしかしてやっぱりジョゼさんこと常禅寺さんは、正体を隠してるだけで良い所の出なのでは?
これでもし実はコネで中央に入ったんですーとかだったら、ドン引きしますけど。
ウマ娘の人生掛かってるトレーナー業をコネで解決するのは許せませんよね。
「にっくだーにっくだー」
「おにっく肉ですお肉です? すでおくに!」
「……おにくー」
「ミークも楽しそうですね!」
座る。
対面にはトレーナーのお二人と、ボクの左右にミークさんとエッタさん。
完全に囲まれた。中央の化け物共に。
「……」
え、なにこの状況。
ボク別にメインじゃないでしょ。むしろ一番メインから遠い存在でしょ。
「では今日は、秋華賞の打ち上げということでー」
いやいやいや、何普通に進行しようとしてるんすか常禅寺さん。
向かい側を見てくださいよ。明らかに浮いてるというか真ん中に座るのおかしいウマ娘いるから。チームメンバーどころか中央所属ですらない、地方でトレーナー目指してるだけの一般ウマ娘が居心地悪いポジションにいるから。
せめて一着取ったエッタさんを真ん中に据えて、端っこにボクを配置するべきでしょ?
なんで囲んだのぉー?
『かんぱーい!』
「……かんぱーい……」
もういいや、諦めよう。この人達全く気にしてないし。
気にしてるのがボクだけなら、何とかなるでしょ。
適当でごーごー。わーい。
「お肉ぁあああああ!」
「落ち着けエッタ。犬食いすんな。金網に顔面から突っ込むな」
「……生焼け」
「ミークのは私が焼いてあげますね!」
ボクもお肉食べよう。あ、白米は新潟県産に限ってお願いします。
適当にカルビやらなんやらを金網に並べて、空いた隙間にニンジンも入れていく。
ミークさんの好みは分かりませんが、ニンジンなら外れないはず。エッタさん用にリンゴも焼いておきます。
……裏面ー。
…………これはもうちょっとかな。
良し、焼けたぜ!
「あ」
狙ってたのが取られた。
箸が宙をふらふら漂うだけなので手元に戻す。
「……そういえばエッタさん」
「んゆ?」
「今日のレース、どういう作戦でバ群に潜り込んだんですか?」
「あ、それ俺も気になるわ」
かつん。もう一度伸ばした箸がまた空振りに終わり、金網を突く。
箸がふらふら漂うだけなので手元に戻す。
「簡単ですよ? 単調出来事大幅一歩のかき乱し」
「……みんな、ペース乱れてた」
「あてが中距離走れぬならば、あての以外が疲れるが良し」
「そうだったんですね」
そういえばエッタさんの超大股のストライド走法。あれって横を走ってるとペース乱れるんですよね。
ピッチ走法のボクがたしたしたしたしって走ってて横でずしーんずしーんってされた時なんか特に実感しますねぇ。
「それ、抜け出せなかったらどうする気だったんだ?」
「んふふふふ。ミークならば抜け出すと思ひして」
「後ろにくっつかれた」
ミークさんならバ群から抜け出せるから、同じルートを追いかけていくと。
練習してるって話もレースで狙ってるって所も見たことないけど、土壇場でスリップストリームを狙ったのかな。
もしかしたらエッタさんの事だから道を見つけて走ってくれるミークさんについていくってだけで、そこまで考えてなさそうだけど。
それで成功させるんだから直感が良いって言われるんですよ。
焼いてたお肉が隣の容赦ない道化師に取られて無くなり、箸の先が燃えた。
代わりに端っこで放置されて燃え始めてるニンジンを……ニンジンも取られた。
「あはは、間が悪いんですね。はい、どうぞ」
「い、いえ! 桐生院さん……である貴女の手を煩わせる訳には!」
ミークさんはいっ。
「……もぐ」
「ラベリテどうして食べじなり?」
「いえ。食べないとかそういうのじゃなくてですね」
金網に肉が並べられていくので、白米で間を繋ぐ。
やはり地元で慣れ親しんだものが一番ですよ。
お肉? ああ、肉なんてエッタさんの姉さんに言えば幾らでも貰えます。鶏肉限定で。
「なに拗ねてんだよ。ほら」
「いえ!」
「エッタ。食わせてやれ」
「葉っぱくるみー」
サンチュに包んだ肉を素手で……!
「……これも」
もがぁ! ミークさんの悪ノリわかりにくいィ!
「そういえば常禅寺さん、これからのレースはどう考えてますか?」
「しばらくはオフかな。本人にその気があればマイルCSに出ても良いけど、エッタはダートがメインだし」
「次は負けません」
「ククク。何で挑む? あ、長距離は流石に抜きで」
あー、正面のトレーナートークに混じりたい。絶対ここから育成方針とかの話になるって。
ボクを見てみ? ひたすらサンチュ攻めされてるから。食物繊維たっぷり。
「もがもが」
「……サンチュのニンジン添え」
エッタさんを癖ウマ娘としていたけど、ミークさんもちょっと変わり種というか……。
ゴールドシップとかいう娘もヤバいって聞くし、こんな感じでウマ娘が多く所属しているのが中央なの……?
これが、真実!?
「──そういえばエッタ。年末はまた新潟に戻るのか?」
「お戻りますよ? 年末年始! そうせなばじしな姉ねがお怒りでした。心配性なり父もまた」
「そっか。じゃあ12月と1月は空けとくか」
「あそれとそれと。今回帰郷せしならトレーナ共にと言伝ありて」
「え゛っ」
常禅寺さんの顔がみるみる青くなっていく。
過保護なエッタファミリーにどう扱われるかを想像したんだろう。
だけど。
残念な事に。
たぶんその想像は、合ってますよ……。
「これが、真実……!?」
です。