道化師系ウマ娘に振り回される話   作:親友気取り。

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宇宙を感じて痙攣を起こしたので投稿です。えらい!
それとエッタのプロフィール!
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=270986&uid=19764


4月前半 スカウト戦

 期待の新星という言葉の“新星”という部分。

 漢字だけ見ると新しく星が生まれたって感じの意味がありそうだけど、天文学的な単語で新星というのは、ざっくり言うとむっちゃ光ってる星って意味。

 

 地上から望遠鏡で宇宙を見上げて、色んな星たちを見過ごしていく中でとても明るい“新星”を見つけたら思わず目に留まって「おっ」ってなるっしょ?

 なんやこいつってもっと知りたいと思うし、もっと「こんな星があったぞ」って広めたくなる。

 期待の新星という言葉はそういう感じの由来があって生まれたのかも知れない。

 

 

 トレセン学園新入生、デビュー前の走り込み。

 在籍するトレーナー達が新しいウマ娘達をスカウトに足る人物か見定めるその視線は、さながら“期待の新星”を探す天文学者のようだ。

 そして目に留まってスカウトされたウマ娘はリギルやスピカといった明るい恒星の名を持つチームへと迎え入れられ前人未到の(そら)を飛び、星座(チーム)を形成する大スターとなり、暗闇の宇宙(ステージ)を照らす神話となる。

 

 が、俺からしたらみんな良さげに見えて困っちゃう。流石は狭き門をくぐってやってきたウマ娘達。

 古来から神聖な種族と言われるだけあって、みんな魅力的。

 

 

 

「……はぁ……」

「んんー? なぜにため息と息? あてが乗ろうや相談を!」

 

 

 柵に持たれかかりながら指先でペンをくるくる回し、スタートの合図で飛び出る新入生達を眺める。地方でのレースならみんな勝てるんだろうけど、その中でもこの中央でって考えると難しい。

 それに4月の前半でまだまだ新入生のスカウト期間としているとはいえ、練習場を走るウマ娘達の数はだいぶ減ってしまった。

 ベテランや中堅的な人物が見どころのある娘を早々に引っこ抜いていくもんだから、慎重に見定めようとする俺みたいな新人トレーナーは置いてけぼり。

 

 まだあの場を新入生が走っている理由は二つ。

 俺のような新人を含むあんまり実績の立てられてないトレーナー陣の誘いを断りスカウトガチャを続けているか、運の悪い事にどこからも声を掛けられていないか。

 新米の俺にはどっちが理由か解らないけど、だいたいはどっちかになる。

 

 

「エッタが走ってるの見た事ないんだけど、お前さんはもうトレーナー決まってんの?」

「うに?」

 

 

 柵にもたれてメモとペンを持ち続ける俺の横で、鉄棒でもするようにさっきからわちゃわちゃ動き続けているのは見覚えのあるウマ娘。

 迷子でお騒がせしたとお馴染み、サニティエッタだ。

 

 こいつがスカウト待ちの走りに参加している所を見たことないんだけど、俺のいない内に一発走って声かけられたのかな。

 性格と口調に癖があるとはいえ、地方から中央までやってくる脚なんだしそうなっていても別におかしくないけど。

 

 そうだとして、俺の横で遊んでる意味が一切分からないんだけどさ。

 サボってんの? それともまた迷子?

 俺の疑問をよそにサニティエッタは何度も逆上がりを繰り返す。スカートなんだからやめなさい。

 

 

「ジョゼじゃじゅトレーナまだまだここに? 眺め続ける幾数日。まだやまだまだ始まらぬ、訓練様子見観測継続」

「俺はまだ見つかってないんだよ、新星」

「町の明かりで星見えぬとは、これが東京新宿区!」

 

 

 ここは新宿じゃなくて府中……と突っ込みたいのは山々。いつもの通り落ち着きがないエッタはさておいて。

 ここへウマ娘達を見続けてるトレーナーも、これまた同じく二択なんだよね。

 スカウトを断られて未だに誰も迎えられてないか、もう何人かチームに欲しいかなって見に来てるか。ああ、あとはライバル出現の警戒とか同期の情報収集。二択どころじゃねぇわもう。

 

 俺の場合はこれの前者だ。新人故に声を掛けても向こうから断られる。

 同じ新人トレーナーでも桐生院さんはお家柄もあってか割と早い段階で「私()決めました!」って先日のハッピーミークを自慢しに来たけど、歴史あるお家というわけでもない平民の出な俺は未だに見つけられてない。

 

 何の実績もない新人が熱意だけでスカウト完遂するのは、やっぱり口が上手くないと無理。

 残念な事に俺はあんまり嘘っていうか大げさな言い方っていうか、つまりは口の上手さなんだけど、そういうのまったく無理。

 この前なんて「ウマ娘に頭を下げるトレーナーなんて見た事ない」なんて言われて、プライドがないのは俺だけかぁってなる位だったもん。

 

 

「おとなしくサブトレーナーにでもなるかねぇ」

 

 

 ベテラントレーナーの補佐をしながら地道に経験を積んでいく感じの、アレ。

 着実に力を付けるには近道だとは思うけど、学園側からはあまりいい顔されないんだよねぇ。

 在学中のウマ娘の数に比べてトレーナーの数はどうしたって少ないので、新人だろうと一人二人は面倒見てくれって雰囲気だし。

 てかコネった手前もあるし、目が怖い。

 

 

「俺にも桐生院さん家の白書みたいなのがあれば、もうちょい箔がつくんだけど」

「なればなられば与えよう? あての鞄にカラフルファイル、中身を渡せとお達しありて!」

「……あ?」

 

 

 逆上がりの途中でぴったり止まり、上下ひっくり返ったままのサニティエッタが器用に片手を離し、その細腕に手錠で繋がれた四角い鞄をこちらへ向ける。

 キャリーケースといいこっちも手錠で繋いでんのか、というか俺が鞄の中を漁るのかこれ。

 

 

「青いファイルに収まり手紙、姉ねがトレーナ渡せと渡したお手紙です」

「なんで手紙?」

 

 

 片手で全体重を支えてるからか、それとも頭に血が昇ってるからか、何かすげぇぷるぷるしてる。

 

 

「んじゃ仕方なく」

 

 

 ぱかっと鞄を開けると、中にはさっき言った通りにカラフルなファイルが沢山入ってた。

 それぞれの中から付箋も沢山はみ出てて、整理できてるのかできてないのか分からない。

 慌ただしいエッタらしいというのはさておき、青いファイル……。あったあった。

 

 油性ペンで「担当トレーナーへ渡すもの」って、書いてあるけど。

 

 あの、エッタさん?

 これってどういう事でしょう?

 まるで近日ずっと俺の横にいるのが、まるでスカウト完了済って言いたげだな?

 

 

「そうですジョゼトレ常禅寺! あての面倒見届けよう? あとは公認公式書類だけ!」

「ちょ、待てよ」

「んふふふふ、わはっはーっ!」

「なにわろてんねん」

 

 

 走ってないのは俺が拾う前提だったからなのな!?

 

 

「……あての事、嫌いて面倒思ひて常禅寺?」

「めんどくさい彼女みてぇなこといいやがるな。でも拾わないとは言ってない」

 

 

 駅で迷子になってたのを保護したのから始まって、縁だしな。

 てか本心言うとエッタの逆スカウト(?)を逃がしたら真面目に誰も来そうにないし。

 

 

「よし。そしたら明日からさっそくお前の走りを見せてもらおうか」

「そうこなくては!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うるる、る、どぅどぅ、どぃ……」

 

 その日は時間もいい具合だったのでひとまず解散し、翌日。まず手始めにと練習場の一角にある練習用のゲートに入って貰ったけど、やはりというかエッタはどうにも落ち着かない。

 あっちをきょろきょろ、こっちをきょろきょろ、そわそわ。ぶつぶつ。

 

 

「よーい……」

「……ん」

「がしゃん!」

 

 

 ゲートが開くと同時、一瞬深く沈み込んでからドンと蹴って飛び出した。

 スタートだけの確認なのは流石に忘れてないらしくすぐに力を抜いて流したが、力の籠った最初とそこから数歩は地面がガリっと抉れてる。

 SNSだと身体が柔らかいなんて書いてあったしもっと滑らかに動き出すもんかと思ってたけど、なかなかにパワータイプだ。

 

 こんだけ力押しだとスタミナ消費も多いし、もっと観察しないと分からないけど今の評価だとマイルがぎりぎり、中距離以降は厳しそうって所かな。

 これからのトレーニングで適正はある程度変えられそうだけど、それでも本人の集中力の問題もあるしどうだろう?

 

 

「んふふふふ。どうです蹴ります地面です、驚き桃の木仰天なさるる道化諸行」

「んー、地元でもずっとこの走り方だった?」

「好評なりぞやあて走り! 力込めねば走りや出せぬ!」

 

 なるへそ。ゴールまで体力は持つ? 何m走れてた?

 

「いつもぎりぎり強心臓! ちょっと長いのちょい苦手!」

「新潟でちょっと長いのって……あれ、1800くらいだっけ」

 

 

 中距離は厳しいかぁ。

 こうして喋ってる間にもくるくる旋回し始めたり靴ひもを気にしだしたので、次へ行こう。

 次に見たいのは噂の大股ストライド走法。果たしていったいどんな感じなのか。

 

 ちょっと移動して直線のダートコース(ここしか空いてなかった)

 フォームの確認に使われる事が多い場所らしいので、確認って意味ではあってるだろう。

 

 

「三脚、カメラ、ぶれないように設置して──」

「──わはぁーっ!」

 

 

 よぉーしサニティエッタ。走りたい気持ちは分かるけどちょっと待とうかぁ。

 今の勢いでめっちゃ土飛んできたぞぉ。

 

 

「いいかぁエッタ。なるべくカメラを意識しないで、真っ直ぐ走ってくれ」

「意識せぬ、意識せぬ? 意識あり、意識不明」

 

 意識不明は重体だからだめな。

 よし、あっちの仮ハロンの前から走ってこーい。

 

「任されよ!」

 

 とったった、と駆け足で素直に移動して、こっちの合図を待たずにはーいと手を上げてスタート。

 

 

「来た来た」

 

 

 ちら、ちら、とこちらを確認しながら走ってきたエッタが駆け抜けていく。

 確かに大股で走ってくお手本のような分かりやすいストライド走法だ。

 さっきも見た力強い蹴りで跳ねて、跳んで、ある程度スピードは出ているのにそれに反して腕の振りはゆっくりで、ちょっと不思議な感じの走り。

 

 こんなのが横走ってたら、確かにペース乱されるかもなぁ。

 

 あと今見た感じ、トップスピード自体はありそうだけど加速力があんまりな印象。

 カメラを気にして集中しきれなかったっていうのもあるけど、そもそも最大速度に乗るまでが遅いんだろうな。

 じりじり伸びて追い上げて、ぶっ差して勝つ。直線の長い新潟で輝くのも分かる。

 

 

「短距離は速度が乗る前に終わりそう、中距離は体力か集中力が持たない、とすればマイル特化……かな」

「おお! 父姉恩師と同意見! “マイルのある時代で良かった”そう言われ」

「あとは芝とダートどっちが良いかって話だけど、どっち行ける?」

「どろんこ土っこ雨天を走る!」

 

 土遊びする訳じゃないぞー。

 

「分かっていますよトレトレナ。泥を踏みしめ輝けば、それだけ印象深なり目に残る!」

 

 

 俺もウマ娘の走りに泥と雨が似合うとは思ってるけどさ。

 じゃあデビュー戦はダートにしておこうか。

 それでちょっと様子見て、やっぱり芝の方が走れそうってなったら路線変えてみるのもいいし。

 

 

「デビューはいつ頃にしようか。早めがいい?」

「7月! 初夏の香りに包まれ走るは大井の地!」

 

 え、もう場所まで決めてんの? 大井レース場がいいの?

 

「……ないですか? ありません?」

「確認しないと分からん」

 

 

 じゃあなるべく7月のダート、なるべく期待には添えようとは思うけど時期と場所は妥協するかもしれない。

 おーけー?

 

 

「やはー!」

 

 

 がしゃん!

 エッタがはしゃぐと同時、どこからか取り出した手錠で俺が捕まった。そして自撮り。

 あんたそうやって俺と自分を繋げて撮るの好きだけど、それ家族さんに見せたらワンチャン俺が処刑されるからやめてね。

 

 

 ……え、何その顔。

 ちょ、もう送ったの?

 うせやろ?

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