道化師系ウマ娘に振り回される話   作:親友気取り。

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 愉快な登場人物

☆常禅寺
 土日は大井の駐車場でやってるフリマに行くのが趣味。それ以外では基本的にトレセンに出現する。最近また仮免落ちした。

☆サニティエッタ
 阿賀町の道の駅で鯉の餌が売り切れていたら、それはこいつが買い占めたからだ。実家で飼っている黒猫の名前は「義賊」。

☆ニコルラベリテ
 自分用の畑で枝豆を育てる趣味を持っていたが、秋華賞の際に父が酒を飲み過ぎたみたいなので来年からは別のを育てようと硬く決意した。

☆エンリカ
 皆とは前世からの友達と自称するエルフの大魔法使い(自称)。爆竹魔法はモグラと茎を焦がし、散水魔法は根を腐らせる。

☆アイーダさん
 道化師の姉でメイド服は趣味。かつて熱で学校を休んで暇そうな妹の為にポピーザぱフォーマーのDVDを借りてきたらガチ泣きされた。

☆エッタのパパ
 お偉いさんの挨拶の為に涙を飲んで東京へ向かっているらしい。


阿賀町三人衆の結束 その2

 

 

 田んぼと畦道、周囲に山しか見えない超ド田舎……という程の田舎ではないくらいの田舎。

 手近な距離に山、真ん中に綺麗な川、一軒家が纏まって建ち並んでは空いた土地と田畑があり、電車は1時間定期でやってきて都市部は遠からず。

 お店は少ないし車は確かにあった方が便利だろうけど、でも自転車ひとつあればなんとかやれないことはない位の場所。

 

 この阿賀町というのは、インターネットのある今のご時世だと静かに暮らすのには丁度良い場所なのかも知れない。根っこから都会っこの俺には新鮮で、でも何だか懐かしく心休まる場所だ。

 市へ出れば仕事があって店がある。移住するにはもってこい。

 

 ちょっと狭い歩道を歩きながらそう色々考える。

 リタイア後はこういうとこに引っ越したいね。

 

 

「こういうのんびりした所で、こうした気のある連中がいて、そういうのって憧れるなぁ」

 

 

 この阿賀町三人衆の賑やかさがとても眩しく、尊い。

 

 

「ジョゼさん何さこっち見て。……ははーん、さてはあたしに惚れたな?」

「なぬ!?」

 

 

 びっくりした。俺とエッタの関係じゃなくてエンリカ自身が攻めてくるとは。

 安心するがいい袖を引っ張る道化師。エンリカへ特にそういった感情は向けてない。

 だから隣ですんげぇ蔑んだ目で見てるニコルラベリテをどうにかしてください。

 

 

「そうじゃなくてさ。普段からその車椅子で過ごしてるんだろうに、中々良いトモしてんなって」

「トモ? ベリーもリッちゃんも良いやつらだよ。車椅子(これ)関係なしにね」

 

 

 そうでもなくてさ。

 膝のブランケットとマントで分かりにくいけど、今にも走れるくらい身体は整ってるって言いたくて。

 

 

「エンリカ。トモっていうのは脚の事ですよ」

「まさかそなたはそ知らぬか? あてら業界常識ぞ!」

「し、知ってるし! ていうかさり気なくセクハラしてた事について!」

「……」「む……」

 

 

 すまん! 職業柄つい見ちゃうの! 脚を先に!

 だからみんなしてそんな目で見ないで!

 最近そのジトっとした目がちょっと癖になってきたんだぞ。

 

 

「それより! それよりさ、エッタくん。君の想い出の地を紹介したまえ」

「んゆむ。誤魔化し混じりの話題ぶり」

「いやー俺ちゃんエッタの地元の事知りたいなー」

「わは! 任されよ!」

 

 

 よし、誤魔化せたようだ。

 車椅子とそれを押してるウマ娘はなんだか納得いってない顔だけど。

 

 

「まずはこの下、阿賀野川! あてら夏の遊び場楽しく水浴び!」

「だいぶ上流の方だからか綺麗だなー」

「船もあります遊覧船!」

「たまに溢れる(たま)(きず)

 

 

 駅を出てエッタハウスへ向かう道すがら現在は橋の上。つまり真下は川。

 川が目に沁みやがる……綺麗な川だ……。

 

 

「ジョゼの旦那は何を言ってるのかね」

 

 

 分からないのかエンリカ。

 それだからお前はエンリカなのだ。

 

 

「いや意味分かんないし」

「なるほど」「ほむ。良い解」

「あんたらは納得するんかいっ!」

 

 

 エンリカはツッコミが冴えるから楽しいな。

 遠慮なくボケに突っ走れる。エッタだと乗ってきて収拾がつかないからな。

 ……どうしたエッタ。そんなに腕を引っ張って。

 

 

「こちらお土産道の駅! そして向こうに秘密基地!」

 

 

 地元紹介の続きか、ありがとう。

 道の駅はなんかそれっぽい繁盛の仕方してるから分かるんだけど、でも秘密基地って遠くの森を指差されてもどこだか分からんよ。

 どこも道の駅って人が沢山いるよなぁ。どこからみんな来るんだろう。

 

 

「秘密の基地はあちら向こうの沢沿いに! ありますよ? ありまして!」

「子供の頃によく遊びましたけど最近はもう使ってませんね、秘密基地」

「ソダネ。秘密基地、行かないネ」

 

 

 地元を離れてそも遊べないエッタ、車椅子ゆえ舗装されていない道へは近付かないだろうエンリカ。残ったラベリテだけでというのもな。

 にしても秘密基地かぁ、俺も子供の頃はよくやったなぁ。

 近所に平和の森っていう公園があってさ、東京じゃ珍しい自然の触れられる所かつ木が沢山あって……。

 この話はいっか。それはまた俺の地元に近付いた時にでも話そう。

 

 

「そしてあちらがあての家」

「よし、秘密基地行こうぜ!」

「諦めて斬られなってジョゼさん。秘密基地の事は忘れてさ」

 

 

 牛歩戦術も虚しく歩き続けて時刻は17時前。山の影に町は沈み、闇が辺りを支配する。

 エッタハウスが見えた以上、もう俺に時間は残されていない──

 

 

「んふ」

 

 

 エッタが笑みを漏らす。

 

 

「んふふ」

 

 

 うずうずしてる。

 

 

「ああ、これはあれだな」

「あれですね」

「あれかー」

 

 

 サニティエッタ、走る! 俺の手を引いて!

 説明しよう、エッタは堪え切れずに走り出してしまう事があるのだ!

 落ち着いて欲しい!

 

 

「いだだだだ腕千切れる!」

「ちょちょちょちょ、ベリー速いって怖いって!」

 

 

 エッタは俺の手を引き、並走するラベリテは車椅子を爆走させる。

 隣のエンリカと目が合った。

 おお、我らはウマ娘に振り回される同盟。

 エンリカの頭にはウマ耳付いてるけど。お前は味方で良いのか?

 

 

「人間がウマ娘に勝てるわけなかろう?」

 

 

 そうだなエンリカ。その通りだ。

 成す術はない……。

 

 

「アイーダ姉ねえはどこにおられる! エッタはこちらぞこちら! りんごんごーん!」

「おっじゃましまーす!」

 

 

 養鶏場らしき場所を通り、塀を超え、大きな玄関と駐車場。ちょっとした池。

 野良だろう猫が沢山おられる家へ、サニティエッタの家へ辿り着いてしまった。

 見るからに豪邸だ。武家屋敷だ。ただもんじゃねぇ。もんじゃになるぞ俺は。

 生き残るためならモモンジャにだってなってやる(?)

 

 

「あれ、いないんでしょうか」

「アイーダ姉ねえーっ!」

 

 

 砂利に叩きつけられた俺を放置してエッタは再び走り、それを追いかけてラベリテも続く。

 俺達? なぜか放置された。

 

 

「……このまま逃げたらそれはそれで死ぬよな、俺ら」

「無理だよ。逃げ切れないよ。アイーダの姉御は6キャラ分高速移動して攻撃できるから」

「その説明は分からんが、無理なのは分かった」

 

 

 家の裏手の遠くで「わはー!」という歓声が聞こえてくると同時、曲がり角からラベリテが帰ってきた。

 どうしたの?

 

 

「あー、アイーダさんはいたんですけど、現場が……」

 

 

 現場?

 

 

「もしかして、捌いてる?」

「やってますね。がっつり」

「じゃ、あたしは──」

「覚悟してついてきてください」

「ちょ」

 

 

 有無を言わせずラベリテが車椅子を押し、覚悟して俺もそれに続く。

 石畳に沿って進み、先ほどエッタが走っていった裏手。

 まだ、まだ希望はある。

 アイーダさんが実は勘違いされやすいだけで、実は優しいとかある。

 

 そうだ。この現代日本で人が行方不明になればすぐ分かるのだ。

 何の心配もない。

 さぁ、ご対面!

 

 

「……」

「……うぇ……」

「連れてきましたよー」

 

 

 そこには何かの肉が置いてあった。

 その傍らに立つメイド服の女性が斧を持ち上げ、重力に任せ振り下ろし、潰れる音がする。

 肉の解体として明らかに雰囲気がおかしい。

 

 

「──お待ちしておりました」

 

 

 色っぽく息を吐きこちらへ振り返る、が。返り血でえぐい。

 どうみたって狩猟というか殺戮後なんだけど。

 何というか、人間一人分の血が増えた所で分かりませんねって言いたげな雰囲気がある。

 やっぱりワイは死ぬんか……?

 

 

「こうして直接話すのは久方振りですね。一年程経ちましたでしょうか?」

「うむ! あては一年越しなる期間帰還! 姉ねお疲れ解体ショー! イノシシですか? とてもでか!」

「この動物はサニティエッタのために探してきました。感謝して頂きましょう」

「んふふふふ、相変わらずでし安心す!」

「私は変わりませんよ」

 

 

 隣でわきゃわきゃしてるエッタよ、その人がかなりヤバ目な事に気が付いて欲しい。

 

 

「さて」

 

 

 瞼を閉じたままなので視線は分からないけど、確実にこっちを見た。血まみれメイド服が。

 無表情殺意マシマシのこの人と俺やっていける自信がない。

 

 

「初めてお目にかかりますでしょうか?」

「はい、はじめまして」

「私はアイーダと申します。聞き及びでしょうが、サニティエッタの姉をしております」

 

 

 去年の年賀状で見た針金のはみ出ているウマ耳は明らかに偽物。

 つまりアイーダさんは人間で、その名前はたぶん偽名。だからどうしたって話なんだけど。

 

 よし、俺も名乗ろう。

 ここで「誇り高きトレーナー」とか肩書加えたら死ぬので普通に。

 アイーダさんに殺されないためには、普通に振舞うしかないのだ。

 

 

「俺は」

「お悔やみ申し上げます」

 

 

 咄嗟に付近の物陰に隠れる。

 一瞬で移動してきた斧による斬撃は、何とか目の前で止まってくれた。

 

 

「チビりそう」

「あ、すまん」

 

 

 俺が隠れたのはどうやら車椅子だったようだ。人の乗ってる。

 つまりエンリカを盾にした形。マジごめん。

 

 

「……この者なら別に……」

「あの、アイーダ姉さん? あたしなら別にってどういう?」

「冗談です」

「漏らすよ!?」

 

 

 ちら、と血の滴る斧を見せつけないで欲しい。

 

 

「んふふふふ。アイーダ姉ねの動きは俊敏しゅびびん恐れゆる」

「長旅でお疲れでしょう。荷物を置いたらお風呂へどうぞ。沸かしてありますよ」

「わはー! ありがたし!」

「ニコルラベリテもどうぞ」

「はーい」

 

 

 待て、エッタ。置いていかないでくれ。

 ストッパーがいないとガチで死ぬ。エンリカはあてにならん。

 

 

「貴方はこちらを手伝ってください。どうぞ、こちらへ」

 

 

 どうぞと手のひらを向けられたのは、血まみれの解体現場。

 俺からすると処刑台にしか見えないんだけど。断頭台なんだけど。

 待てエッタ。お風呂は分かるが置いていかないで。ラベリテも助けて。

 十字切らんといてくださいよ。

 

 

「じゃ、あたしはもう帰るね」

 

 

 待てエンリカ。この場を後にするのはこの際いいけど、お前も風呂に入っていけ。

 そんで上がったらすぐ盾になれ。なるべく身を守る術が欲しいんだ

 

 

「いや帰るよ。親友幼馴染とはいえ、流石にあたしは裸の付き合いまでできないからね」

 

 

 じゃあ送ってくよ? もう暗くなってきたし。な?

 

 

「いいよいいよ。ちょっと寄り道もしたいし」

「俺が良くない」

「本音が出た」

「どうかされました?」

 

 

 アイーダさんが怪訝そうな声を出す。

 テンション高めなエッタを追ってラベリテも行ってしまったし、グロテスクな解体現場に顔色を悪くしてるエンリカも足早に(椅子早に?)去っていく。

 我が身を守る盾はない。さようなら……。

 匂い立つ血の香りが目にむせやがる……良くない景色だ……。

 

 

「ハイ」

 

 

 肉の前に立ったアイーダさんに並んで立ち、何を手伝えっていうんだろう。

 素人にできる事とすれば……肉になる事?

 死ねと?

 

 

「ジョゼさん。いいえ、常禅寺さんでしたね」

「自己紹介が遅れました。常禅寺です」

「素で良いですよ。首を取って斬らんとする訳ではありません」

「そ、そう?」

 

 

 アイーダさんの右手に握られた斧が振り上げられ、重力に任せた一撃が骨を断つ。

 跳んだ血が頬についた。グロい。

 

 

「おっと……。申し訳ありません、解体は苦手なもので」

「苦手ってレベルじゃないような」

 

 

 本当に狩猟免許持ってるのかな。

 

 

「常禅寺さん。貴方をお呼びしたのは礼を言いたかったからです」

 

 

 ……え、礼?

 思わず顔を見て、でも無表情なので何を考えてるのかは分からない。

 今まで散々殺意を向けてきて、礼、とは……?

 

 

「私は、崖の下にいた彼女へ何もしてやれなかった」

 

 

 血濡れの禍々しい斧が足を絶ち、首を飛ばし、血を増やす。

 良い話なんだろうけど光景がやばい。

 

 

「ニコルラベリテの助けもそうですが、大舞台へは貴方のお力添えのお陰です。礼を」

「そんな、別に俺はそこまで大したことはできてないというか」

 

 

 秋華賞は流れ流れの部分もあるし、勝ったのは実力を出し切れたエッタのお陰だ。

 礼は受け取るけど、そこまで大した事はしてない。新人トレーナーにできる事は少なかったし。

 

 

「いいえ。それだけでなく、あの子達が約束を果たせるよう整えてくださったのも」

「約束? それは何のことか分からんのですが」

「そうですか。ではそうしておきましょう」

 

 

 といわれても“約束”については何も知らない。何考えてるか分からんなぁアイーダさん。

 黙々と作業を進めるから俺が手伝う場面はないし。

 礼を言う為だけにここへ残したというのなら、変わった人だ。

 

 

「礼は終わりましたので居間でお休みください」

「え、そう? 肉多いし運ぶの手伝うけど」

「ありがとうございます。ではこちらをお願いします」

 

 

 何というか、思ったより殺意が少ない。生き残れてよかった。

 肉を謎の布で包み、台所直通の勝手口は誰かが日々積み重ねたガラクタで塞がっているそうなので玄関から家へ入る。がらがらがら。

 

 おお、凄い。玄関スペースに謎の屏風的なの置いてある。屏風っていうか仕切り?

 サニティエッタ作の句が刻まれたそれは、家へやってきた者へ挨拶をしているかのようだ。

 

 

「ところで常禅寺さん。秘密基地は御覧になられましたか?」

「エッタ達が昔遊んだっていう? 沢にあるとは聞いたけど、見てはない」

「それは都合が良いですね」

 

 

 都合が良いとはこれ如何に。

 

 

「夕食までは時間があります。サニティエッタがお風呂を出たら、散歩や星の観察へ出てみては如何でしょう」

 

 

 星、いいねぇ。そういや出発前にエッタと月がどうの星がどうのって話したっけか。

 月が綺麗ですねは言わないようにしないとな。詩に詳しいらしいあいつは暴走しかねん。

 そんで迫られでもしたら今度こそ殺される。

 アイーダさんは確かに優しい人だろうけど、やる時はやる人に違いない。

 

 

「……そう怯えなさらなくてもよいのに」

 

 

 真っ赤なメイド服を見て言ってください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お星、光、満天? ぞ!」

「まだ七時にもなってないってのにもう星が見えるんだなぁ」

 

 

 冬の夜は早い。ちょっと見上げただけだと分からないけど、暗闇に一瞬目を慣らすとすぐに星々が見える。

 東京に生まれ、東京に育った俺にはとても新鮮な光景だ。

 星については詳しいと自負していたが全く何が何だか分からん。冬の大三角どれよ。

 あ、あれか? こっちとこっちと……うーん?

 

 

「ジョゼトレここではまだ見えにくく、されば行きましょ秘密基地!」

「分からんし案内してくれエッタ」

「ま、か、されよ!」

 

 

 秘密基地か。アイーダさんも意味深な事を言ってたね、都合が良いって。

 一体何があるんだろうか。

 あ、ラベリテは来ませんでした。料理を手伝うとかで。

 

 

「えっと……場所覚えてる?」

「覚えてますとも思入れの地! ほられ見よ、獣道!」

「ほんとだ」

 

 

 十数分ほど歩き、今度はこの林を抜けていくらしい。

 正直くっそ寒いし暗くてよく分からんし、本音を言えば秘密基地まで行く必要ある? って感じ。

 

 

「……獣道?」

「人が通れば道はでき、あてらその道辿り行き。雪を積もらせ音拾い、一つ約束その為に」

「約束って何さ」

 

 

 林を抜けた。

 沢、小川、水辺の横に小屋がある。

 使われなくなった小さな山小屋を秘密基地と呼んでいたのか。

 鍵のかかってない扉をエッタが開けると、中は意外にも綺麗なままだった。

 

 

「確かこの辺この木の箱に、あてが持ち込み望遠鏡。カメラもありましフィルムどこ? でもや望遠星見ればすれ!」

「……待て、待て待て待て」

 

 

 おかしいと思わないのかエッタ。

 なぁ。ラベリテはもうここへ遊びに来ないし、エッタもこれなかったろ?

 なのに何でこんなに綺麗なままなんだっていうさ、そういう疑問は無い訳か?

 さっきの獣道もさ、人が通らないはずなのにまだ残ってるのは何故かみたいな。

 

 そのテーブルに乗ってるペットボトルとか軽食の入った紙袋とか、特におかしいじゃん!

 しかし俺の訴えは聞こえてないのか気にしてないのか、エッタはガラクタの詰まった木箱をいじって動じない。

 

 

「エンリカが来られる道じゃ、な……い、し……」

「ありました! 望遠鏡!」

 

 

 手持ちのランタンを机に置いて、壁に服が掛けられているのを見てしまった。

 壁に掛けられていた衣装。それは、エンリカが着ていた勝負服だったのだ。

 あの、ファンタジー世界のエルフ風の、マントの付いた、アレ。

 

 

「じゃあ、こっちのこれは……」

 

 

 掛けられたエンリカの勝負服の下、畳まれて形が変わっているが車椅子が置いてある。

 放置された物ではないしこれもエンリカのものか?

 

 

「どうされまして?」

「い、いや、何でもない」

「天体観測楽しみお月、綺麗でしょうか? どうでしょう?」

 

 

 光を当てないようにして衣装を隠し、エッタの明るい声に上手く返そうと言葉を悩ませる。

 これは、告げない方がいいだろう。衣装も車椅子も置きっぱなしはじゃ誤魔化しようがない。

 獣道を作ったのも、この小屋を綺麗に保っているのも、エンリカなのか。

 その理由は不明だけど──

 

 

「──いやぁ走った走った!」

「んゆ?」「タイミングゥ!」

 

 

 コンマ零数秒。圧倒的な大人の判断力で俺はテーブルに乗っていた紙袋を引っ掴み、中身を遠心力でまき散らしながら小屋を訪れた人物へ被せる。

 ウマ耳も、尻尾も、車椅子も、勝負服もない姿のその人物に。

 

 

「うえっ!?」

「おやま?」

 

 

 いいか? 大丈夫か? ランタンの光当てるぞ?

 

 

「なんぞこの者誰でしょう! あてらしか知らぬこの秘密基地へや曲者なりて!」

「そ、そうだー。おまえは、なにものだー」

 

 

 小屋を訪れたのは一人の人間。

 ランニングウェアと紙袋を身に纏ったその姿は、どう見たって人間だろう。

 決してエンリカじゃない。見た事あるトモだけどエンリカじゃない。

 

 

「この山進入禁止の個人山!」

「エッタん家の山なんだ」

 

 

 って、それはどうでもよくってだ。

 おい妖怪紙袋。何とか誤魔化せ。

 

 

「え、えっと。あ、あたしは……エン……」

「んん?」

 

 

 声で正体がバレかけてる! てか一人称!

 仕方ない、俺が手伝ってやろう。

 

 

「もしかしておまえは、あのハリボテ一族のものかー」

「そう! その、ハリボテだ!」

 

 

 ハリボテは冠名だからそっから続けて!

 

 

「え。ハリボテ……ハリボテウッド!」

「なんと! そんな者がここへ何用か!」

「えっと、ランニングしてて……将軍杉まで往復」

 

 

 どこだよ将軍杉。

 てか丁寧に答えなくていいからこういうのは。

 適当な事言って帰ればいいんだよ。

 

 

(いや帰ったらあれ回収できないし)

(やっぱりあれお前のなの?)

(うっ)

 

 

 内緒話してたらどんどんエッタの首が傾いていく。

 そうだよね、正体も知れない相手の肩をなんで俺が持ってるか不思議だよね。

 仕方ない。ここはもう流れで何とかしよう。

 

 

「エッタ、望遠鏡見つかったなら先に表で準備しといてくれないか?」

「んん。それは良いけどジョゼトレいかに?」

「ちょっとさっき紙袋の中身ばら撒いちゃったからさ、それの片付けしてからいくよ」

「りょ! ……して、そちらのハリボテは?」

「……片付け手伝わせてから帰らせるよ」

 

 

 不思議そうな顔をしながら、やけに大きな望遠鏡を背負ってエッタが表へ行く。

 紙袋の中身を撒いてしまったは確かだし、これで時間稼ぎはできただろう。

 なぁ、エンリカ。

 

 

「……みんな家にいるだろうしって、油断したな……」

 

 

 ハリボテウッドは紙袋を揺らしながら歩き、壁の勝負服を撫でる。

 

 

「いつかはバレるだろうとは思ったけど、まだセーフかな」

「俺が言っちゃうって線はないのね」

「そんな度胸ない癖に」

 

 

 俺から理由もなく言うつもりはないが、でも気にはなってしまう。

 エンリカ。お前はどうして車椅子に乗って皆の目を欺き、夜中に走り込みを──

 

 

 

「それ以上は言わないで」

 

 

 

 頭に被った紙袋ががさりと揺れる。

 理由もなくこんな事はしないんだろうが、この件に関しては本当に触れて欲しくないようだ。

 人間、隠し事の一つや二つある。俺は、阿賀町三人衆のヒミツから手を引いた方が良いのか?

 

 

「ジョゼの旦那はさ、理由を知りたい?」

「まぁね。こういう状況じゃ気にもなる」

 

 

 深入りしない方がいいなら手を引く。

 でも気にならない訳じゃない。言ってくれるなら、それはそれで助かる。

 

 

「そっか。いいよ、理由を教えても」

 

 

 それはありがたい。

 でもいいのか?

 

 

「……代わりに、だけどさ。これにすぐ答えられたら教えてあげてもいいよ」

 

 

 紙袋を取り、ハリボテウッドがその素顔を表す。

 ウマ娘の耳は無い。

 出てきたのは、人間のエンリカだ。

 その人は、俺と正面から目を合わせ真面目に言う。

 

 

 

 

「ジョゼさん、あなたの事が好きです。お付き合いしませんか?」

 

 

 

 

 ──表で、がしゃんと何かが倒れる音がした。

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