道化師系ウマ娘に振り回される話   作:親友気取り。

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阿賀町三人衆の結束 その3

 

 

 

「ジョゼさん、あなたの事が好きです。お付き合いしませんか?」

 

 

 

 唐突な告白に、咄嗟に何も言えなかった。

 以前にスマホ越しで顔を合わせた事があるとはいえ、今日しか付き合いのない子に、ここまでストレートに想いを伝えられるなんて経験ないからだ。

 このハリボテウッドは、いや、エンリカは一体どうしてそんな質問を──

 

 

「ね、至極単純なイエスかノーの答えも言えないでしょ」

「いやおま、そらぁ……ねぇ……」

 

 

 ガチじゃなくて茶化しだったのか?

 一瞬悲しそうな顔をしたエンリカは紙袋を被り直すと、再びハリボテ一族となる。

 緊張が解けたからか俺の耳に環境音が入ってくるようになった。夜風や葉の擦れる音、倒れた何かを直す音。

 

 なんにせよ質問にはすぐ答えられなかった。

 エンリカが何を考えこんな事を聞いたのかは分からないが、理由は聞けないだろう。

 そう思っていたのにエンリカは言葉を続けてくれる。

 

 

「あたしはね、その簡単な白か黒かの答えを確かめるのが怖い」

 

 

 告白というのは確かな答えを求める逃げ場のない袋小路だ。

 さっきのは、それを俺に分かって欲しかったからか?

 

 

「子供の頃の話だよ? 仲の良かったあたし達は、一つ約束をしたんだ」

 

 

 エンリカの確かめたくない答え。

 それがエッタやアイーダさんも言う“約束”にあるんだろう。

 

 

「“みんなで一緒のレースに出よう”って。……たったそれだけの約束なんだ」

 

 

 約束の内容は、単純なそれだけだったのか。

 子供ならそんな約束くらいするだろうなという内容だ。

 だが……人間とウマ娘が同じレースへ出る事は叶わない。

 どうしても種族というか肉体の差というか、ウマ娘の走力に人間が追い付けるはずがないからだ。

 同じ人類にカウントされていても、同じ年齢でも、無理な物がある。

 

 人間はウマ娘に勝てない。

 トレーナーをしていると常々身に染みる。

 

 

「あたし親が分かんないからさ。可能性を捨てたくなかったんだよ。もしかしたら母親はウマ娘かも知れない、それともどこかでウマ娘の血があるかも知れない、耳や尻尾が見えないだけで、実は……って」

「一緒のレースに出られるかもしれないって可能性を、お前は捨てたくなかったんだな」

「だって約束だから」

 

 

 自分だけがウマ娘ではない。自分のせいで約束を果たせない。

 人間だからと言ってしまえば済む話をそうするのが嫌で、でもどうしようもなくて、誤魔化した。

 両親が人間であれば諦めも付くところを、それが分からないからもしかしたら望みとした。

 

 耳と尻尾がないというだけで結論はとっくに出ているはずだ。体格だって違ってくる。

 でも自分が人間かウマ娘かという答えをはっきりさせたくない。

 その答えが出てしまえば、約束は永遠に果たせなくなってしまうだろうから──。

 

 

「それで、車椅子か」

 

 

 紙袋ががさりと揺れて頷く。

 

 

「最初は本当にただの怪我だったんだ。階段で転んで足をぽきっとね。そん時に病院で言われちゃったんだよ、治ったら一緒に走ろうねって」

「あー……」

「それを聞いて、まぁ後は想像できる通りこの姿」

 

 

 一緒に走れない理由があれば約束はその分先延ばしにできる。

 怪我で歩けないんじゃ仕方ない、走れないんじゃ仕方ない。そう言い訳をするために。

 言い訳を続ける為に、みんなの前で車椅子から降りられなくなってしまった。

 

 「この姿」と言って見せる身体は整っていて怪我はとっくに完治している。

 使い古しているランニングウェアを見るに、走り込みは前々から続けているんだろう。

 車椅子に座り約束をうやむやにしつつも、律儀に約束は忘れてない。

 例え叶わない夢だとしても。行動が矛盾してしまっても。

 

 

「ベリーがトレーナーを目指すためにトレセンへは行かなくて、リッちゃんが走るのを辞めようとした時……」

 

 

 一拍置いてとても申し訳なさそうに続ける。

 

 

「あたしは、良かったって思った」

 

 

 みんな走らなければ、自分が走る理由は無くなる。 

 そうすれば車椅子に座り続ける必要も、夜中に秘密基地をベースにして走り込みをする必要もなくなる。

 

 

「東京へ行ってリッちゃんは走って、ベリーも教える為に必要だって結局走り始めた」

「……それは、良かったか?」

「どうだろ。昔みたいなキラキラした目でさ、今日また言われたよ。……片や重賞バなのにさ」

 

 

 常識人ポジのラベリテまでそんな事言うとは珍しいな。

 いや、そうか。

 あいつら、本気でエンリカの怪我が治るのを待ってるのか。

 

 

「おかしいよね。もう何年もだよ? 何年も足折れっぱなしなんだよ? 流石におかしいじゃん。手作りの勝負服着てウマ耳つけて、明らかに偽物だよって言いたげなのに」

 

 

 ……そうだな。

 あいつらはきっと、その約束は果たされるものだと信じている。

 折れたもんが治るのを、ずっと待っている。

 

 しばしの沈黙。事情はわかったが、俺はそれにどう気を利かせれば良いのか分からない。

 エンリカの友達を想う気持ちは本物だ。子供の頃の話だし、とは考えてない。

 静かな空間。

 

 隙間だらけの小屋へ、風と共に歌が聞こえてきた。

 聞き覚えのある声、聞き覚えのある歌詞。

 外で道化師が歌っている。

 

 

 

君と走り競いゴール目指し 遥か響け届けmusic

ずっとずっとずっと想い 夢がきっと叶うなら

あの日キミに感じた 何かを信じて

春も夏も秋も冬も超え 願い焦がれ走れ……

 

 

 

 ……ウマ娘が走るのをサポートするのが、トレーナーの仕事だったな。

 この秘密基地へ誘ったエッタも散歩を促したアイーダさんも、ここまで読んでたならしてやられたもんだ。

 まじで読んでるのかも知れない。この展開を。

 少なくとも表にいるサニティエッタは、小屋の中にいるラベリテと走りたがっている。

 

 ポケットからスマホを取り出しちょろっと操作。

 さてエンリカよ、無理か否かの二択が怖くて聞けない君に朗報だ。

 自分の地位とか立場とか、そんなもんで諦める背はここに無いぞ。

 

 

「え、あの。ジョゼさん? どこに電話をするおつもりで……?」

「決まってんだろ?」

 

 

 ヘイ理事長!

 電話出てくれ!

 

 

『驚嘆ッ! こんな時間に電話とは!』

 

 

 はは……! 出てくれたな、理事長……!

 半分コネみたいな就職の仕方した新人トレーナーのお願い聞いてください!

 

 

「り、理事長って、うぇ!? 何してんの!?」

 

 

 電話越しに雑音が聞こえる。場所は分からないが、何らかのパーティーに参加しているらしい。

 子供っぽいとはいえかなりの立場。年末は忙しそうだ。だが気にしてられない。

 理事長! 新潟のレース場、明日か明後日に一度でいいので走る時間をください!

 

 

「無茶ぶり過ぎるしトチ狂ってんの!?」

 

 

 紙袋が騒ぐし理事長は沈黙した。

 呆れて物も言えない、というより思案している様子だ。

 

 遅れてやってきた緊張が「思ったよりやべぇ事してんな」と顔を青ざめる。思ったよりやべぇ事してんな俺。

 たっぷり数十秒、しばらく経って再び理事長が話す。

 

 

『──偶然ッ! 実は今近くに関係者がいてな、それも! サニティエッタの父だと言う! 常禅寺トレーナーの熱意さえあれば今ここで持ち掛けて良いぞ!』

「お願いします!」

『承諾ッ! しばし待てッ!!』

 

 

 電話が保留になった。

 運の良い事に近くに関係者が、それもエッタのパパさんとは。

 ん。待て、関係者? どういうこと?

 今これどうなってんの?

 なんかすごい俺、してやられた? 謀られた?

 

 

「リッちゃんのパパさん、お偉いさんの秘書。分かりやすく言うと宮廷道化師」

「まじ?」

「クッソ、はめられたぁ!」

 

 

 エンリカが吠える。

 身内から約束について踏み込んで指摘できなかったから、誰かが無理やり走る流れにしないといけない。それをするのが俺だったか……。

 け、けどあれだ。

 ここでヒヨらず電話を掛けて持ち掛けたのは俺の功績だし。おれ、俺があれ、頑張った!

 

 

「まあ男気はあったかな……」

 

 

 ──表から、ずどんと地面を踏みつける音がした。

 やべぇよ。エッタも構ってやらないとやべぇ。

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