シニア突入、これからを考える
『ラヴかライクかの判断をするのは、残念ながらサニティエッタには不可能です。貴方が決断してください――』
去り際にアイーダさんはこう俺に告げたが、警告だろう。
本人が分からないからといって誤魔化したりするなって言う。
エンリカからは恋愛に違いないと釘を刺されてるし逃げたりはしない。
サニティエッタは道化師だ。
単純にイメージできるサーカス的な意味だけではなく、古典的な立場の宮廷道化師やもっと古い起源的な要素も含まれている。
それを体現できるからこそ本人も自身が道化師であることに誇りを持ち、手品師と言われれば怒る位には気に入っているのだ。
が、しかし。道化師とは普通は普段の生活で関りを持つことがない存在なのもまた一つ。
基本はどこかで生活しているのは知ってるけど、自分から接する事はないと思うもの。
諸々ひっくるめてサニティエッタがここにいる。
最初に出会った頃からの癖――静かにできない、じっとしていられない。
環境音一つでも気を引かれて楽しくなって歌い出しもする。
新潟での宴会で聞く限り、昔から人は好きだったが人との関り方はあまり得意でなかったようだ。
距離感が全く掴めず突撃していっては、その喧しさしつこさからしれっと離れられていく道化。
だからなのか、自分から離れていかず構ってくれる人間に対しては依存に近い形になってしまうのだそうだ。
サニティエッタはウマ娘であると同時にただの女の子。
思考に幼げがあっても身体は成長している。
もし。本人が何も分からないのを良い事に悪い大人が言い寄ったら――?
アイーダさんが警戒心バリバリだったのも納得だ。
嘘の付けないエッタの報告と定期的に顔を見に来るラベリテのお陰で俺の命がある。
今回の新潟呼び出しは、最後の試練というか見極めの面もあるんだろう。
娘を任せておける人間かどうかの見定め、三人の約束を果たさせる技量ができるかどうか。
共に東京へ返してくれたという事は合格という事かな。
エッタの意志を尊重して全てを突っぱねるという姿勢じゃないのも良い家族関係だね。
「雪降らさじや氷点ならずも冬でに違いなくなり乾き空!」
「たまにある一歩で次の段に行けない階段、マジで由来が分からん」
「なぜでしょう? 不思議です。四足リズムの歩幅かや?」
新潟での一件を終えて帰還、一月の一日の午後。
今年も去年と同じくな神社へやってきた。
ひとつ前と違うのは、隣にサニティエッタがいる事だけ。
去年はできるなら彼女と、なんて思っていたけどこれからはこれで大変だ。
確かにエッタと俺の歳の差は10も離れてない。ちょっと歳の離れた兄妹と言っても通用する程度。
だが、だからと言って告られたらオッケーは難しい。
俺は先生でエッタは生徒。
それだけでなく中央のウマ娘って言うのはアイドルみたいなもんだし……まぁ色々問題よね。
死にかけボディで階段を昇り終え、とりあえず直進するエッタに付いて行って賽銭箱へ。
五円が御縁でご利益だっけ? とりあえず財布から適当な小銭を入れる。
「なむー、がらんごろーん」
「これこれエッタさんや。お賽銭を忘れとるよ」
「ちゃりーん!」
玩具を独占したいのと似たような、構ってくれる人を渡したくない独占欲。
それが恋心に移り変わっていってしまっている事は薄々勘付いていた。
とりあえずシニアを終えるまでは耐えよう。耐えるって言い方はおかしいけど、様子見。
それから現役についての話をする時に、これからを決める。
恋心が変わらなければそれでもいい。本人が成長して勘違いかもと思えばそれもいい。
「おみくじ! どうですどうです結果です? あてらお揃い吉となれ!」
ほら、距離近いし。べったりだし。
ゼロ距離もいいとこだよ。なぁ、だから耐える必要があるんだよ。
「むぅ。あてがいるのに上の空? また思考はどこかへいざゆかん?」
「これからのレースについて考えてて」
「おお! 豊富な抱負でほっふほふ!」
エッタの目標はファンを増やす事。
なので正確にレースを決める必要はないのだけど、一応決めといた方がいいでしょ。
「よく星に触れられたら言葉あり、あては星触れ手に入れたるやば欲しとはなくなる儚き夢なり思うなり」
「え、辞めるの?」
「そうではなくや、そはあてに夢を見せるなるかやなるなるや」
ここにきて分からんエッタ語が出たな……。
俺にどうしろというのだ。
「あての目的目標此度の約束あるてど満足しせりなり、次はトレナの夢みましょ?」
俺の夢?
あー、なんだっけか。もう忘れちゃったよそんなの。
てか曖昧で分かりにくい感じのだった気もするし。
「ジョゼトレあなたの夢叶えましょ? 夢を見よ、叶えよう!」
エンリカやラベリテとの約束を果たさせてくれたお返しにって感じかな。
「あての事をば担当せりとき、そなたあなたは言いました。スターは空へと浮かべるものゆえ、トレーナすなわちロケットなるもの」
「言ったっけなぁそんなこと」
「そんな事とは良いなかれ! あてに任せよ足となろう!」
ふむ。
と言っても曖昧なのは確かだしどうしたものか。
オンリーワンな性能してるエッタは単騎で宇宙行っちゃってるし。
「じゃあそうだなぁ……」
「うむうむ」
「ミークと戦うのはどうだ?」
「ほまれやミー!」
今の所、ミークとの戦いは一対一。同点だ。
ホープフルはミークが一着だった訳ではないけど、着順で。
次はどう決着を付けようか。
「ならば!」
ばばんと手にしたおみくじを見せられる。
大吉だ。良かったね。
「なばらばらな! 帝王賞!」
「……また中距離かぁ」
「んふふふふ。お忘れですか? あて好きコースは大井なり!」
「気持ちの問題ね」
前回で中距離は勝ってるしダートは得意。走れない事はなさそうだけど心配だなぁ。
けど、本人がそうしたいって言ってるし後で桐生院さんに連絡入れとこう。
それにしても見事にG1狙いまくりだな我々。普通こうはならんぞ。
すまんな、初心者ゆえにこうなっちまうのだ。
「ジョゼトレ気乗りはせなんだり?」
「ヴィクトリアマイルの方が距離適性もそうだし、ヴィクトリーな感じして良さそうと思っただけさ」
「んぬならヴィクトリ行きましょう!」
「わおうれしい」
でもエッタが大井出身の元祖アイドルウマ娘を好いて追ってみたいのは分かるし、なもんで帝王賞行こう。
「はーい」
「素直ね」
「あてはいつでも素直でしょう?」
「嘘をつかない所が好きよ」
あ、やべ。
「……お」
今の好きっていうのはね、ほら。意味合い的なのは分かるだろう?
分からんか? 分かってくれ……。
「わかった!」
おお、分かってくれたか!
「帝王賞、あてに任されよ!」
いいぞ! その調子だ!
「任せよ、任されよ、あてに、んふふふふ……」
大丈夫かぁ、なんか雲行きおかしいぞぉ。