☆サニティエッタ
今日は自由にしていいと言われたので、行きたい所へ行くことにした。
☆常禅寺/ジョゼトレ
大井が品川にあるせいでOTAフェスタにウマ娘を呼べない事を嘆く大田っ子。
その日の待ち合わせ場所としてサニティエッタが指定したのは、商店街にほど近い裏路地だった。
まじで何でこんな所を選んだのか全く理解が及ばない何にも特別感ない場所だけど、本人がそうしたいって言うんだからそうしよう。
俺は常禅寺。俺はトレーナー、俺はサニティエッタのトレーナー。
かの者が望むのであれば命も差し出す所存。
「命ダメです差す出しさらりばさらずあて。どうでしょう? 空き瓶ジャグリグリンゴ食べ!」
「まずはお菓子か。いいねぇ、林檎おいしいねぇ」
さりげなく脳内を読まれた気がするけど、それはそれとして手渡された林檎を齧る。
何でもない裏路地で朝から切られてもない林檎を丸かじりしてる二人組とは一体……?
ちなみに今日はエンリカが焚きつけたというか計画したというかケツを蹴っ飛ばした、お出掛けの日です。
お出掛けでエッタの独占欲を満たしつつ、最後にシニア後の契約とか将来とか、まぁつまり俺とこれからも組み続けるかってのをゴーする予定。
どこへ行こうかとかいい感じのデートスポットとか、まず待ち合わせ場所とかすら全然わからないからエッタに希望を聞いてみた所こうなった。
裏路地で林檎を食べる行為に何の意味があるのか?
というか待ち合わせした場所から動いてないんだけど?
疑問はあるがサニティエッタは何も答えてくれない……。
「がふ、がっふ、んふふふふ」
「ちょっと待って? これ丸まる一個食わないと終わんない感じ? まじ?」
エッタの耳がくにゅんと動き、尻尾が揺れる。
どうやら楽しいらしい。
「うまいけど顎痛ぇ……」
「んゆ?」
「エッさんはもう食い終わってるのん……」
流石はウマ娘、林檎なんてペロリだよ。
「ではでは見ましょうあてジャグリング? 裏路地披露はリンゴの対価。見よ! 集まれ! 猫の集会あての始まり!」
エッタは謎の宣言をすると空き瓶をどこからか取り出してひょいと放り投げると、どんどん増やしてくるくる回していく。
素直に凄いなそれ。最初は二個とか三個だったのに、今はもう何個同時にやってんの?
てかいつの間に増やしたの? 残像がそのまま実体化して増えたりしてない?
一回ちょっと止めて貰っていいですか。
「なんでしょう? どうしまししょう!」
「いや増えてるっ!」
「サニティエッタは道化にありてや技術もありますこの通り!」
空き瓶、増えとるやん!
拾ったり投げ入れたりしてないのに、ジャグリングで回す数増えてた!
なにその技術。
「もっと投げますですでしにてあてできよう!」
「待て! そのなんか剣みたいなのは置け!」
「流石に本物ありまぬがゆえ、偽物ぱっぱぱ投げてもよい!」
「あ、ならいいや。……いいのか? わかんね」
いつの間にか集まってきた猫共がエッタの足元をうろつくが、それを踏まないようにステップを踏んでジャグリングが続く。
俺もさっさと食べ終わろう。
なぁエッタ。まだ待ち合わせ場所で駄弁ってるだけだけど他に行きたい所とかある?
「大井!」
「……今日はまだ開いてないんじゃないか?」
そういえば夜にライトアップで開放されたりしてたし、日が暮れたら行こうか。
「後は、とは? んむむむむ」
「無難に水族館とか動物園とか、なんかそういうのどう?」
「ん!」
おお、反応は良さそうだ。
最後に大井へ寄ってくならそこ中心、とすれば海岸沿いの地区で考えて……。
どこを提案しよう?
んふふふふ……。
あてはあちらへ足運び……。
と言う訳でやってきたのは──
「ラウンド1!?」
「どこでしょかってばゲムセンター!」
ば、バカな、俺は確かに提案した道順で電車に乗って向かったはずなのに、全く別の場所に辿り着いてるっ!
しかもこのゲームセンター、歩いてたら誘導されて辿り着いちゃったとかできない僻地にあるんだけど。ここ川崎の端っこだよね? 何で府中から急にこんな所辿り着くのさ。
まさか現実が捻じ曲げられた……? まさか、エッタのよくやる大脱出で気が付かない内に移動させられたのか……?
いやいや、これはあれだ。
無意識に俺がエッタの行きたい場所へ導いたのだ。
伊達に年単位でこやつの専門トレーナーをしてないのだ。
「ゲームにカラオケ、ボーリング。上にはスポーツできるところもあるし、楽しめそうだなー」
「でしょう! あてについてこられか遊びの大全!」
「まず何やる?」
「わはー!」
若干分かりにくい玄関から店内へ踏み入った直後、エッタが早速クレーンゲームへ吸引されていった。
中に詰まってるのはトレセンでも見る顔達のぬいぐるみ。ぱかプチのぱかってなんだろうか良く分からんが、よくできたぬいぐるみ達だ。
お、エッタのもちゃんとあるじゃん。制服と勝負服バージョンあるけど、さっそく取るのかい?
「ぺぽ!」
「もうやってた」
へー、今って物理100円を入れなくてもパスで支払えるんだ。
「ぐんゆんうんゆん」
「揺らすと警報なっちゃうぞー」
よほどクレーンの動きがとろいと感じているのか足踏みしてる。
「でもエッタ。このぬいぐるみならもう持ってなかった? 試供品で」
「あげるために!」
「あげる?」
なんだあげるって。
それにしたってクレーンゲームのアームってどうしてこう、弱いんだろうな。
力籠ってなさ過ぎてつるんと抜けちまうしいつまで経っても取れそうにない。
実家が実家なだけにほっとくと無限にお金を使いそうだから程々で止めるのが俺の役割だろう。
なぁなぁサニティエッタさんや。
なんかこう、いつもやってる手品奇術でこういうの何とかできないの?
「インチキしませぬ真剣勝負、あては卑怯を嫌いせり!」
「さいですか」
真面目なエッタならそういう事もしないか。
かといってこうもつるつる滑るアームで続けてもなぁー。
「取れた!」
え、マジ!
「ちっ」
取れたのはエンリカ(エルフ風勝負服ver)だった。
舌打ちと共にぶん投げられ、筐体の隅に引っかかっている持ち帰り用の袋にぶち込まれた。
扱いが適当過ぎやしませんかね。てか舌打ちはやめなさい。
「ゆーん……取れた!」
「お、もう二体目かぁ」
「ぷえっ」
取れたのはエンリカ(スポーツウェアver)だった。
ツバ吐きの真似をしながら投げ、さっきの袋にぶち込まれる。
気持ちは分かるけど扱いが可哀そうじゃないかね。てか真似でもツバ吐きはやめなさい。
君はラマ娘じゃなかろう。
「いやてかなんでこいついんの。ウマ娘じゃないだろエンリカ」
「この前新潟レースのムーブ、年末新潟行事となりそうなられ。人バ混合長距離合戦その創始」
「はへー、そこまで盛り上がったんだあれ」
「それで記念で作られました」
三つめに取れたのはニコルラベリテ(勝負服特大サイズ)。ちょっと悩んでからポケットにしまった。
うん、どう見たって抱える位の大きさなのをポッケにしまうのはおかしいね。
そろそろサニティエッタの前では物理法則を気にしない方がいいのかも知れない。
「あて取れた!」
「やったじゃん!」
途中途中でハルウララやハッピーミークといった仲のいい面々のぱかプチも回収してはポケットへしまい、ついにようやく自分のぱかプチが取れた。
いやはやここまで長かった。
分かる、この欲しい奴だけ上手いこと手に入らないアレ、超分かる。
今回の場合は物欲センサーならぬ物欲物理か。道化師もそういうのには負けるんだね。
「は……はいな!」
「ん。俺?」
せっかく取った自分のぱかプチを俺に渡してくる。
えっと、俺にプレゼントしたくて取ってくれたの?
最初に言ってたあげるって、そういうこと?
「察せ!」
「ふ、ふふはは! ありがとうなエッタ」
どれ撫でてやろう。なでなで。
ふははそんなことを考えるとはかわいいやつめ。
「お気に召し? あてを褒め! お手間とらさせましさたさ!」
んじゃあ、ちょっと手持ちするにはかさばるからこっちの袋に──
「ん」
持ち帰り用の袋へ入れようとしたら、ダメってされた。
よほど俺にずっと持ち続けて欲しいのかい? ……って、ああ。袋の中に
エンリカと一緒の扱いは嫌だと。色んな意味で。
俺、断ったもんね、あいつのこと。同じ扱いは縁起が悪いよね。
だから今見せたてじ……じゃなくて奇術について解説をお願いしていいかな?
地面へ置いた後、どこからか取り出した風呂敷で隠したと思ったらぬいぐるみが綺麗さっぱり消えたんだけど。
どこやったねん。おっきいのが消えたぞや。
「んふふふふ。あての奇術に驚きなられば観客歓声拍手喝采調子を揃えてはいどーぞ!」
「すごいぞエッタ!」
よく分からんけど、すごいから良いか!
「ちなみにどこやったの?」
「暗黒空間」
こっわ……。
「い、一応聞くけど、エンリカと仲が悪い訳じゃないよね……?」
「あやつはちょっと雑な方が喜ぶ」
「ああ、突っ込んでくれるから安心してボケに回れるあれね。良かった」
「そうそれ!」
確かにエンリカは良い反応してくれるから面白い。
最初は新潟トリオの中じゃニコルラベリテが突っ込み訳かと思ったけど、あいつもあいつでウマ娘なんだなって雰囲気出してるからな……。
「じゃあ次行きましょジョゼトレさんや、あての行き先こちらぞどーん!」
「おっしゃ、どんどん行こか」
「お・お・いー!」
大井は夜に行く予定てか、このゲーセンへはぱかプチ目当てだけで──
──夜になった。
「なにぃいーーーっ!?」
ば、ばかな、昼や夕方の時間は……!?
「おやまどうされましてやジョゼさんや! イルミネーション見とうございましてや夜が映え!」
「そうだね、綺麗だね」
気が付けば日が暮れた町、ここは大井レース場。
夜はイルミネーションが輝く映えスポット。ナイターレースとはまた一味違う雰囲気だ。
エッタがお客さんとしてここへ来るのは初めてじゃなかろうか。
……さっきだって気が付けばゲームセンターにいたんだ、時間も場所もエッタの前じゃ意味がない……。
「んっふふー。このや地下通路をば見たくて来まして」
「そして経路も無視ィ……」
本来なら光のトンネルとかモニター近くの噴水とか古民家を模した小屋とか色々、全体的に江戸の雰囲気を模した見どころがいっぱいあるのに初っ端からコース終盤へやってきてる。
が、エッタが足を取られたのはなんて事のない地下通路。
いつも走ってるコースの下を通るここはお客人を飽きさせない為なのか色々と絵が描かれており、ここが本命なようだ。
なんというか、普通の人なら何でもない所に目を向ける辺りエッタらしい。
「なんか面白いもん描かれてんの?」
「ここ!」
エッタが指差したのは……。
「……ホワイトシルバー牛乳?」
屋台の看板が描かれた中に書かれていた文字がそれだった。
ホワイトシルバー牛乳、ホワイトシルバー……どっかで聞いたことあるような……。
「あ」
「そう! この地走ったおウマ、の、壁画!」
「壁画……というか、パロディ?」
大井出身でいい感じに成績を残したウマ娘の名前をこうやって残してるのか。
確かにいちいち銅像立ててたらキリがないというか、お金や場所の関係があるもんな。
中々面白い。
「んふふ! いなり
「生徒会長が見たら変なネタ思いつきそうだな……」
配達の自転車に付けられたプレート、そこに書かれていたのはイナリワンをもじった“いなり椀”。
こういう小ネタ好きよ。
「で、で、でー」
「あのクソでかツリーはスルーなのね」
地下通路を抜けた先にあるデカい木のオブジェは何とガン無視。あれこそ目を引かれても良さげなのに……。
「して、あてやレースに関係なきし?」
「そりゃあ……そうだなぁ」
あの木、なんなのん……?
「あてがあてが見たく場ばばば! ほん! めー!」
「真打はこっちか」
こっちまで歩いて来れば目的も分かる。
エッタはレース以外で中々お客さんとして大井へは来ないから、そういえばまだ立ち寄ってなかったんだな。
歩いた先にはカラフルに照らされた一つの銅像がある。
サニティエッタが大井で走りたいと言い、好きだと前に言ってたウマ娘の銅像だ。
最近学園でライブのイベントを企画してるライトハローってウマ娘のお婆ちゃんって噂も聞く。
もうずっと昔のウマ娘なのに、その存在はこうして形で残っているのだ。
「並んで撮ろうか?」
「んーん。並べませぬや」
「そうか。じゃあこっちきて」
銅像を照らすパネルは裏も光ってる。なのでこっちにエッタを誘導してぱしゃり。
あのウマ娘の横には並べずとも、殆ど一緒の構図というか照らされ方というか、なんかいい雰囲気で撮れたでしょ。
「わおー!」
さて、切り出すならこの辺がいいかな。
なあエッタさんや。
「んゆ?」
俺はシニア級を終えるまでずっとお前と組み続ける気がある。戦績が振るおうがどうだろうが。
むしろシニアと言わず俺はエッタの走りを引退まで追ってみたいまである。エッタと組むのは面白いからな。
けど、サニティエッタ的にはどうだ?
「んん? と、言ふのは……」
あー、あのー。あれだよ。
シニア級終わった後も俺と一緒にいるかどうか、その時に答えて欲しいの!
ちょっと言葉が見つからなくてあれだけど、どうかしら。
「いいよ?」
あ、意外とあっさり。
もっと複雑な言葉で追いつけないかと思ったのに。
「あても聞きとう申す事あり、それはあてと関わる勇気」
勇気?
「あちこちふらふら目的地、常識も無きにあて追う勇気」
ああ、振り回される覚悟はあるかと。
それは今更じゃん?
最初は確かに戸惑ったけど、今はそれが楽しいのさ。
もっと色んな景色を見せておくれ。
「なら! まずはあてがジョゼの夢を叶える」
夢っていうのは俺がトレーナーを目指した切っ掛けのね。
「もっと夢を見ていいか?」
「もちろん!」
「のんびりやってこうな」
「んふふ」
いいね。エッタはこうでなくては。
「手始めに次の帝王賞、明日から調整してくぞー」
「おー! ならばこの地この場所働いている、帝王賞に縁ある引退ウマ娘! ボンちゃん会いにいきたきゴー!」
働いてるなら邪魔はしないであげてー!
☆アイーダさん
デートと聞いて駆けつけ影から見守っていた。刀を片手に。