「ベガ、デネブ、アルタイル。夏の大三角、三つの星々。三女神が見守るデビュー戦……」
「おやま謎何トレーナー? 詩をしたためて?」
うぉあ!? い、いたのかエッタ!
「んふふふ。詩を読み韻踏みあての真似? あての真似ならいと嬉し」
「ちげーよ! ただちょっと、アナウンサーっぽい盛り上げのをだなっ」
「あての影響? なおなお嬉し!」
お前のエッタ語(?)はもっと根本ってか本質が違うだろが!
「韻踏み音鳴りリズムを寄せて、目立ってよろしくサニティエッタ!」
ワケわからんが、貴様に聞きたい事がある!
「お前、どっから入ってきた……?」
今日は休日。休憩日。休養日。
デビュー戦へ向けてのトレーニングも大事だけどちゃんと身体を休めようってんで休みにしたはずなのに、どうしてエッタがここにいるんだ?
ここに。
──俺の、家に! 自室に!
戸締りしっかりしてたよな、それなのに何で家ん中にいるの!?
どっから沸いてきた!?
「んふふふふ……」
「いや答えろやお前……」
後ろから抱き着いてくる距離感のおかしいエッタを引き剥がし、ぽいっと空いてる床に降ろす。
子供っぽい私服をしているエッタは、ごろんとそのまま転がって隅に詰んであるレース雑誌をぺらぺらめくって暇そうだ。
何しに来たんだろう。そしてどこから入ってきたんだろう。まじで。
「暇なのか?」
「暇なのですよ、よすでのな」
「ハッピーミークは空いてなかったのか?」
「ミークはトレナとお出かけです。蹄鉄お靴をお探しに」
んー、靴かぁ。
「エッタのシューズは、こっち来るときに新しいの買ってもらってるんだっけ」
「そうですよ? そうなのです。御師様師様が良いのを選んでくれました! たしまれく!」
エッタの言葉は時折説明不足な点がある。
前に走りを見た時にも言っていた「御師様」というのは、新潟でお世話になっていた現地のトレーナーその人を指す。
「部屋でごろごろしててもあれだし、俺らも散歩ついでに蹄鉄でも探しにいくかー?」
「ほう!」
「お前さん、すぐにすり減らしちまうし予備が幾らあっても足りんからなぁ」
ヤケクソみたいな馬鹿力で地面を蹴るというか踏むので備品の減りが、蹄鉄の消耗が特に激しい。
本番用の本命とは別に、練習用として使うガッチガチのかってぇ奴探しに行こうぜ。
エッタのパワーなら丈夫さを基準にして多少重くても平気でしょ。筋トレじゃ筋トレ。
と、言うわけでー。
近所のショッピングモール的な所にやってきました。
ここはトレセンが近くにある影響でウマ娘相手を専門にするスポーツ用品店が多数あるので、うちの生徒は自然とお得意様になる。
甘いの大好きウマ娘もターゲットにしてるのか、ちゃっかりスイーツ店が多いのはアレだけど。
でもここなら安定して色々揃えられるんだよねぇ。
「どうだいエッタさんや。都会のお店はすげぇだろぉ」
「……んー」
って、なんでそんな微妙な顔してんの!?
「天井低い、せまっちぃ! ぽっぽ焼きをも売ってない!」
「田舎のホムセンと同じ扱いすんな!」
あとぽっぽ焼きって何だよ!
「それでトレーナジョゼっトレ。あての買い物どれを買う?」
「蹄鉄だって。ほら、つま先の足裏の、U字の形したアレだよ」
「流石に蹄鉄知ってます。あてはこれでも成績優秀文武両道、聞きたくばは商品名表型番なるや!」
「こまかいなー」
迷子予備軍のサニティエッタを見失わないよう先頭にして移動しつつ雑談は続く。
レースの作戦や走り方を教えたり話し合ったりしてる時のエッタって、なんかいつもちょこちょこ動いてちゃんと聞いてくれてるのか見てて不安になるんだよね。
椅子を引きずったりガッコンガッコンさせたり、動かす音がうるさいから事務椅子に変えたら変えたでひたすらくるくる回るし。
あれがサニティエッタ流の集中の仕方にしろ、不真面目っぽくて見栄えが悪い。
「むむぅ。ジョゼトレ全く信じてなきに! あての成績トップ並! ミークに宿題教えます!」
「わーわー。お前がちゃんと人の話を聞いてるのは分かってるよ。迷子にはなるけど」
見映えが悪いだけでちゃんと勉強はしてるんだよな、わかる! 成績云々については学期末に確かめるけどな!
「では、勉強熱心なサニティエッタさんにどれを買うか選んで貰おうかな」
「ん」
ウマ娘相手を専門にしているシューズのお店には、当たり前のように蹄鉄コーナーがある。
ヒト人間には縁がないので、トレセンのない地域とかじゃお目に掛かれない文字列商品列のエリアだ。
俺は近所に色々とウマ娘の関連施設があったので見慣れたもんだけど、通販に頼るしかない地域の人が見たら結構びっくりするらしい。
場合によっちゃででんと職人の顔写真を乗せて「私が打ちました」とか、気になるあの子に蹄鉄を作ってあげよう! って鉄の塊が売ってたりとかもするし、縁のない人からしたら異質だよね。
手のかかる製品だからそこそこの値段するし。
「練習用、擦り減らない、かたいやつ……」
「真面目に見てるなぁ」
到着したエッタは値段を気にせず、性能票を一つずつ確認しながら横へ縦へと首を動かす。
下手なもんを買って実力を出し切れずも嫌だろうし、ぜひゆっくり自分の目でまずは決めて欲しい。
お金は……。うん……学園に申請して貰えるチームの予算内で収まれば……いいかな……。
「んにゅぃ? ゆんゆん、にー……」
集中しているので何かの呪文が溢れる。
「テラかた頑丈擦り減らない! あての脚力耐えよ鉄!」
「おっと」
選んだのはいいけど商品を投げるんじゃないよ。てか、重っ。
だいーぶずっしりしてんなこれ。蹄鉄ってこんなもんだったっけ?
他に選ばなくていいのかと聞こうとしたら、エッタの視線がふと別の方へ向かった。
「あ」
これはあれだ、気が逸れてしまった合図だ。
一体何に反応したんだろう……って、あれは──。
「ミーク!」
桐生院さんとハッピーミークじゃないか。
とういえば靴を探しに行ってるとか言ってたけど、まさかばったり会うなんて。
「こんなところで再会偶然! エッタは蹄鉄探します!」
「……こんにちは。……おすすめ、あるよ?」
さっそくエッタが絡みに行った。
俺も挨拶しておこう。
こんちゃーす。
「こんにちは、常禅寺さんもお買い物ですか?」
「そんな所っす。エッタの蹴りが強くて蹄鉄の減りが早いもんで」
「私の方はミークの靴を探しに来たんです。ミークの才能を最大限に引き出せるシューズがあればと思い──!」
おお、凄い熱意。
でもおたくのミークさん、目を離した隙にうちのエッタがフランスパンみたいな靴あったーとか言いながらどっか連れていきましたよ。
まったく、一瞬目を離した隙にこれだもんなー。
「ミーク!?」
「迷子センターってありましたっけここ」
「な、慣れてますね」
あいつとの付き合いを短いとするか長いとするかは任せます。
「何があったんですか……?」
お陰で慣れましたけど。
まぁ見ててくださいよ桐生院さん。
まずエッタとミークはこのフランスパンシューズを目指して歩きましたよね?
その後恐らくこっちの物体に興味を惹かれ。
この辺りで一度本命を思い出して。
でもやっぱりこっちが気になり……。
こんな感じで辿っていくと──
──ほらいた。
スポーツウェアのお店で二人は並んで帽子を見ていた。ミークは勝手に離れた事を気にしてるのか、若干困り顔だけど。
帽子かぁ、まだ春とは言えそろそろ日差しも強くなるしどうしようかねぇ。
「本当に見つけられるんですね……」
「もちろんです。プロですから」
おーい、お二人さんやーい。
気になる帽子はあったかーい?
「どうですこれですトレーナー! 耳の穴ある帽子ある!」
「ウマ娘専用の帽子とかあるんだ」
すぽ。なぜ俺に被せた?
「……トレーナー、勝手に離れてごめんなさい……」
「大丈夫ですよ。ミークは、何か良い帽子を見つけましたか?」
「……これが、ふぐみたい……かわいい……」
そしてそっちのお二人は距離感がなんかよそよそしくない?
いやエッタの距離感がバグってるだけでそう見えるだけかも知れんけどさ。
「んふふふふ」
「どした?」
「あてとジョゼのが仲よろし。帽子もお揃いペアルック!」
「え、二つ買うの?」
見れば、俺に被せたのと同じ帽子をエッタも被っていた。
なんでペアルック? って思ったけど、こいつの事だから特に深い意味はあるまい。
「むう」
あるんか?
「道化の誇りは帽子にありて。目立つ帽子は道化の象徴シンボルマーク、目にとまる」
あらそうなの。
なら俺が被る意味はない。
なので、買うのはエッタのだけな。
「むむ」
被せられていた帽子を戻すとエッタも戻した。
どんだけお揃いにしたかったんだお前。
「てか、道化師なら道化師っぽいあの、なんというか、そういうデザインのやつあんじゃん。ああいう帽子が良くね?」
「おお! ならば勝負服なる装飾に!」
あ。
そういや勝負服のデザイン案出さないといけなかったな。
デビュー戦とかオープンを相手にする今しばらくは良いけど、重賞の出てくる二年目からは必要になってくるし。
というか、作っとくと宣伝にもなるしな。メディアのウケが良くて。
目立つのが大好きな道化師娘なら早めに欲しいはずだ。
次に暇だと我が家へ襲撃に来たらお絵かき大会で迎撃だ!
……あれ、先にセキュリティを強化した方が良いのか……?
「んふふふ」
「今度はどした?」
「あてのきっかけあの二人、少し進展仲良し話。へんてこ帽子を起点に前へ。あてらは退散お邪魔虫」
桐生院さんとハッピーミークの距離感は相変わらずよそよそしいというか、桐生院さんが探り探りな感じだけど雰囲気は悪くない。
長くやってくトレーナーとウマ娘の協力関係なんだし仲が良い事に越したことはないな。
「俺らは邪魔しないでやるか」
「そう! でわやさよならまた家で!」
帰宅ッ!
買い物を終えて家に帰ってきたはいいけど……。
「なんでお前までいんの?」
「ダメですか? 良いでしょう!」
「あんま良くはないねぇ」
「んぐぐ」
サニティエッタが俺の家までついてきたぞ、わぁい!
「何、ここで食ってくの? 漢のクソ雑料理しか出ないぞ?」
フライパンに肉ともやしを適当にぶち込んで炒めるヤケクソ野菜炒めか、それとも適当に作るヤケクソカレーか。
大多数のウマ娘が好きな人参もサニティエッタ個人が好きなリンゴもここにはないよ。
「違いますよ? よすまいが! 描きますですなる勝負服!」
勝負服ぅ? 早めにデザインしとくに越した事はないけどさ。
「トレーナーナナ、言っていた。あては目立つの大好きと」
「違うのなら辛口カレーを食わせてやる」
「目立ってなんぼな道化師なりぞのサニティエッタは大人気!」
「評判いいもんな」
「そうですエッタの公演大好評。中央レースも魅せます走り」
地元じゃ凄い評価だもんな。
子供が痙攣を起こしたりするくらい。
「クレヨン鉛筆シャー芯木炭! さてさて描きます描きましょう!」
「じゃあ俺飯作ってるからなー」
漁られても問題になるようなもんは持ってないし、ゆっくりごはんを作ろう。カレーにするか。
いつでもカレーを製造できるように素材は常に揃っているのだよ、ふははは。
……辛口しかないけど。はちみつとかチョコとかで誤魔化せるかな。あったっけ。
「道化師あての名エッタなりー♪ あてを知れ、あてを見よ、そして知れー♪」
「……」
「あてら普通に過ごしてサニティデイズ♪ 何処かにいますよ町の中、電車にも、隣にもー♪」
「……」
なんか、謎の歌が聞こえてくるんだけど。
子供っぽい歌声にしては歌詞がエッタ語混じりなのでちょっと禍々しいというか、若干の宇宙が。
その歌を録音してウマッターに流したらまたどこかで子供が痙攣する事態になっていたかも知れない。
火を止めてちょっと進捗を覗いてみる。
どこに隠し持っていたのか沢山の画材に囲まれたエッタは、何やらサンタ風な衣装を描いていた。
道化師要素があんまりないんだけど。
「分かりませんか? 本質同じ! 夢を届けるサンタはエッタの夢なり!」
「サンタさんになるのか道化師になるのか、どっちなんだい」
「道化師!」
そこは変えないんだ。
「夢を届けるサンタさんのように、道化師として笑顔を人々に届けたいと。そういう事ですねエッタさんや?」
「そう! ようやく分かったあんぽんたん!」
誰に向かってあんぽんたん呼ばわりしとんじゃ。
辛口カレーお見舞いするぞ。
「だめです辛口食べれません。りんごを入れましょまろやかに」
「食べてからのお楽しみ」
「まー!」
次はたぶんレース!!!!!