道化師系ウマ娘に振り回される話   作:親友気取り。

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サニティエッタのヒミツ

 この前お店で見かけたニワトリのチャームにヘンリエッタという名前が付いていて、親近感から買ってしまった。


目標 ホープフルSに出走
連戦連勝と……?


「今回注目する相手はアストロロビン。元は子役の出でファン層もあるし一番人気は掻っ攫われるだろうけど、そこは気にすんな?」

「あてに注目あらぬやなられば、あての雅楽(ががく)で画角を奪おう奪いましょう!」

 

 

 

『一着はサニティエッタ! 後続を突き放しての大勝利!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レッドガゼルはコーナーでのコース取りが上手いらしい。前を塞がれるなよ?」

「んふふふふ。あての特技をお忘れ忘れ? 奇術脱出大得意!」

 

 

 

『なんと! ひと塊となったバ群を抜けて飛び出しゴールしたのはサニティエッタ! サニティエッタ破竹の連勝だ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んー。今日は……ワンダーワスプかな……」

「んゆ? どうされましましトレーナー? お腹痛くばお手洗い?」

 

 

 

『サニティエッタ絶好調! 本日も一着を掻っ攫っていきました!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……」

 

 自分の机で大きなため息。

 目の前に広がる雑誌には道化師快勝の文字があるけど、でもため息。

 

 

「あの、常禅寺さん?」

「ん? ああ、桐生院さん」

「ため息ばっかりですけど、何かありましたか?」

 

 

 何か、というのは……まぁエッタの事だ。

 3月にサニティエッタというウマ娘と偶然出会い、4月から本格的に顔を合わせ、あっという間に今日で12月。

 数か月の間で出走したレースは6つ。そしてそのいずれも、あの道化師は全て勝利している。

 

 勝利はしているが、なぁ……。

 

 

「トレーナーの俺もってより、サニティエッタ本人の性能だけで勝ってる気がするんだよな……」

 

 

 沢山レースに出て注目を集めたいと言うエッタ側からの真面目な懇願と、レースには慣れさせておきたいしなという方針からの承諾。

 そんなこんなで予定より気持ち多めでレースに出させた結果、この結果よ。

 

 

「若葉マークのピンバッチで七冠取ってる俺よりもっと、あの才能に相応しいトレーナーが()()()いるんだよ……いるはずなんだよ……」

「えっ、と。若葉マークを沢山つければいいってものじゃ……。それと、あの子には常禅寺さんしかいないと思いますよ……?」

「そう! それなんだよ!」

「わ!」

 

 

 俺の嘆きブレスで桐生院さんがビックリしたけど、そう、それ!

 若葉マークの是非はともかく、問題はエッタを受け入れられるチームがこのトレセンにいないって話!

 より腕の良いトレーナーのいるチームに移籍させらんないっていう!

 

 

「俺以外からのけ者にされてるみてぇでオラ悲しいだよ……!」

「わ、私ならいつでも相談に乗りますよ!」

「桐生院さん……!」

 

 

 がしぃ! ……ってしたらセクハラで軽蔑される恐れがあるのでなし。

 

 俺が言いたいエッタの才能っていうのは身体の動かし方や視界の広さ、直感。

 つまりは天性的なレースセンス。

 

 レースに大事な才能を持ち寄っているのに、唯一の欠点である落ち着きのなさで色々と台無しにしてしまっているのがあの道化師様だ。

 数ヶ月接し続けて対応に慣れた俺がマンツーマンで対応していれば揉め事もなくいいっちゃ良いんだけど、それじゃ折角中央よトレセンまで来た意味がよって。

 もっとこう、上京してきたからにはより実力をつけたかろう筈ってのがあるじゃん?

 

 友達付き合いは同室のミーク含めて悪くはないんだけど、性格からトレーナー陣に敬遠されちゃってるのが悲しい。

 

 

「エッタの事が嫌いだとかめんどくさいとか、そういうのはないんだけど……。でも、俺ってやっぱ若葉マークトレーナーな訳じゃん。ワカーバーじゃん」

「……ものすごい道化的な影響受けてませんか?」

 

 

 それは仕方ないぞ桐生院さん。

 だってエッタと会話してるとコメディアンになっていくもの。

 

 自分で話題をずらしつつも話を戻すと、俺がエッタを実績ある他のトレーナーに預けてみたいと思うのは今後を思っての事でもある。

 今はまだ駆け出しのジュニア級だからゴリ押しでも勝てているけど、クラシックに入るとこれからは途端に厳しくなっていくはずだからだ。

 周囲が作戦に対する理解力を深め、努力し、本格化し始め本格的に重賞を目指し始めるクラシック級。これまで才能だけで勝ち進み慢心していたウマ娘がどうなるかなんて、悲しいことに子供の頃から何度も見てきた。

 エンターテイナー気質のエッタが誰にも注目されずに泣いて新潟に帰るところなんて見たくない。

 

 帰りも電車だろうからまた迷いそうだし。

 

 

「チームの所属、性格上難しいのは分かるけどこのままじゃなぁ……」

 

 

 腕の良いトレーナーは複数のウマ娘を管理してチームを形成している。

 腕の良いトレーナーの下への移籍は、当然イコールでチームへの所属を意味する。

 

 サニティエッタの自由奔放で落ち着きがないという特徴は、悪く言い切ってしまえばチームという枠組みでの行動に支障をきたす。

 迷子や忘れ物、遅刻、集中力……。ここはまだある程度個人の責任とできるけど、エッタの自由奔放というのは常に他人を巻き込むものだ。

 興味を引かれればそちらへふらふら、じっとしていられずそわそわ、目を離した隙に行方不明。

 大多数の人間が無意識にできる、自分の主張をほんの少し妥協して周囲に合わせるという行為がエッタにとってはとても難しい。

 

 エッタひとりの為にチーム全体の方針やルールどころか予定までその都度変えるのは、よほど手際が良いかチームに所属する全員の意識が合わない限りは無理。仮に最初はそこをクリアできたとしても、いつまでその輪が持つものなのか。

 折角集めた逸材を、サニティエッタというひとりを招き入れたが為に瓦解させたくはないだろう。

 

 

 考えれば考えるほど難儀なことよ。

 エッタという下限に合わせれば上へはなかなか行けないし、俺がチームを率いる立場だとして何の前触れもなく紹介されれば確かに警戒する。

 

 

 はぁ。

   

 

 俺がチームを率いる立場に成らず、スカウトも成功させず。

 最初に偶然出会ったウマ娘だからマンツーマンできている。

 

 くさい言葉を信じたくはないけど、これは運命か試練かそういうものとして受け入れるしかない。

 俺がよわよわトレーナーなら、なんとかしてつよつよトレーナーになるしかない。

 

 俺はウマ娘を無限の世界へ連れていくロケットの筈だ。

 サニティエッタは単独宇宙飛行してるけど。

 

 

 

「桐生院さん、勉強会しません?」

「勉強会、ですか」

「俺しかあいつの面倒見れないなら、そうするしかないっすし」

 

 

 桐生院さんはしばらく言葉を詰まらせた後、照れ臭そうに承諾してくれる。

 やろう、宇宙事業!

 宇宙を脳に植え付けてくるサニティエッタと、戦おう! 俺達は全知へと挑む!

 

 

「本当にただの勉強会ですよね!?」

 

 

 宇宙ゥーーーーーー! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「分かるぜ、アンタの気持ち。ゴルシちゃんだってゴルゴル星に帰るために色々考えてんだけど、やっぱりペットボトルじゃ無理だった」

「そう……」

「あンだよその気の抜けた返事。お前信じてねーな? ゴルシちゃんは夏休みの自由研究でロケット打ち上げて月に叩き込んだ実績があるんだぜ?」

「……はい」

「瀬戸内海の連中驚いてたなぁ。月にウサギと亀が! って。でもアイツら、月に取り残されて必死に手を振ってたアタシのこと無視しやがってよ……!」

 

 

 うん。

 なんか、絡まれてるんですけど!

 変な葦毛の美人さんに!

 内容は意味不明だけど!

 

 勉強を始めるための勉強というか、基礎に立ち直るというか、桐生院さんとの勉強会の予定は先なので空いた時間にトレセン内の図書室へ来たら絡まれた。

 

 さっき変な葦毛とは称したけど俺はこいつの名前を知っている。

 ゴールドシップって名前のウマ娘で、エッタと同じく実力はあるのに性格がヤヴァイの民。

 はっちゃけ具合と話の通じなさはサニティエッタ以上という破壊力だけど、空気を読んで道化してる節もあるらしくチームには所属できているらしい。

 何でこんなやつが、とは思っても空気の読めるコメディアンはチームに確かに欲しいかも知れない。

 

 ……囲碁でオセロやって「終わんない」とかキレてたりとんとん相撲の土俵でベイゴマしてたり、練習してるのかは不明だけど。

 

 

「あのー、ゴールドシップさん?」

「ん? ゴルシちゃんになんか用か?」

「いやむしろ俺になんか用あんの?」

「あ?」

 

 

 いやあんたが絡んできたんでしょうが。

 会話をせぬか?

 

 

「あのおもしれー奴のトレーナーだっつうから顔色見に来てやったのに、あんま面白くねぇなー。もっとこう、首がバネみたいになるかと思ったんだけど」

「俺は見ての通りただの人間だぞ?」

「アタシのトレーナーだって人間だぜ? 頭がTの字してるけど」

「それ本当に人か!?」

 

 

 失礼なやつだなーとゴールドシップは呟くが、よく考えたらここって全身発光人間とか幼児退行トレーナーもいるしそんなもんだったわ。

 サニティエッタの繰り出すエッタ語の応酬で若干宇宙の真理に近づいたくらいで、俺自身は特に何もないぞ?

 それなのに人外の類に片足を踏み入れているってのは癪だ。

 

 

「んじゃ、これからマックイーンのやつにワサビソフトクリームやんなきゃいけないから帰るわ」

「じゃあなー」

 

 

 自分の鞄を引っ掴むと、適当な足取りでゴールドシップは去っていった。

 結局何のために来たのかは分からないけど、本人の言う通り本当に顔色見に来ただけなのかも知れない。

 ゴルシの発言は深く気にするな――この学園に伝わる古くからの言い伝え、じょぜおぼえてる。

 

 

「ウィーン、ガチャ、ガチャ」

 

 

 ……。

 ……なんか、ダンボール被って帰ってきたんだけど。

 

 

「アタシハ、思考停止ロボット、デス」

「あ、どうも思考停止ロボットさん。こんにちはー」

「アナタノ、脳ヲ破壊シテ、思考ヲ止メマス」

 

 

 うわー!

 思考停止ロボットは自分の思考が停止してるんじゃなくて、俺の思考を停止させるロボットだー!

 なんだその明確な殺意を持った思考停止ロボット。

 

 

「アナタニ、コノ新聞ヲサシアゲマス」

 

 

 顔面に新聞を投げられ、受け止められずに地面へ落としてしまう。

 拾って顔を上げた時にはもう思考停止ロボットさん(ゴールドシップ)は背を向けていたけど、一体何がしたいんだか。

 ……ん?

 

 

「ハッピーミークとサニティエッタ、ホープフルで対決か……?」

 

 

 ……え、ナニコレ。

 GⅠの予定なんて入れてないし、狙ったなんて事も……。

 

 

「ハッピーミークさん!?」

 

 

 エッタと対決したらどうっすかみたいな質問に対して、あの人「それはホープフルでやってやらぁ」って感じにも取れる答え方しちゃってるよ!

 たぶん模擬レースで競ってみたい的な事を言いたかったんだろうけど、上手く言えずに! 口下手ァ!

 

 

「ホープフルっていつだっけ、年末……?」

 

 

 これ完全にライバルに対する挑戦って言うか挑発って言うか、そういうのしちゃってる雰囲気だよ!

 うわ、ネットでもめっちゃ色々言われてる。

 道化師が逃げる訳ねぇよなぁ! とか書かれててもう出走が決定気味なんだけど!

 

 

「い、急がないと」

 

 

 えっと、出走登録とかエッタとミークの担当の桐生院さんに連絡して、えっと、えっと。

 うわー! 思考停止ロボットになるー!

 宇宙ゥーーーーー!!!!

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