「――――
少女のつぶやきに、眼前の怪物「ガストレア」は気づかない。
「天誅レッド……お主の力を借りるぞ!」
跳躍とともに、抜刀。
虚空より引き抜かれたその刃の名は、「天誅ソード」。熱き正義の心を持った、天誅ガールが一人、「天誅レッド」の愛刀である。しかし今の天誅ソードは、天誅レッドに繰られていない。今のその刀の主は、藍原延珠。愛する男を守るため、失った家族を探すため、我武者羅に生きる少女だ。
「ておりゃあああああああああああッ!!!!」
延珠は握りしめた天誅ソードを、ガストレア目掛けて振り抜く。
ゾンッ
と空間ごと切り裂いたような、錯覚。ガストレアは、自らが二分されたことに気がつかぬまま、絶命。
ヒュンヒュンと刀を持て余した延珠は、そのガストレアの死体すら確認することもなく、投影を終了……天誅ソードを虚空へと還した。
「また1つ、哀しき命を天誅してしまった……」
そんな臭い台詞を吐いた延珠は、ぽてぽてと帰路につく。愛する男が待つ我が家へ。
「ただいま戻ったのだ!蓮太郎!」
「おう、おかえり延珠」
アパートの玄関を開けると、ニコニコ笑顔の男、里見蓮太郎(延珠の恋人だ!)が出迎えてくれた。彼は手にミトン、胴にエプロンを身につけている。その姿を見た延珠は、明晰な頭脳で瞬時に姿のわけを算出する。
「蓮太郎!今日はグラタンだな!?」
「いんや、チーズリゾットだ」
「やったーーーー!!!!」
愛する蓮太郎の作ったご飯なら、ぶっちゃけ何でも嬉しい延珠であった。
「もぐもぐ、うまいぞ蓮太郎!」
「ははは、そりゃ良かった」
蓮太郎とともに食卓を囲む、幸せな光景。延珠の心は満たされる。できれば行方不明の両親も交えて団欒といきたかったが、まだ消息の手がかりもつかめていないので、致し方あるまい。
「あーおいしかった。な、蓮太郎、ご飯も食べて、お腹がいっぱい。後はわかるな?」
「あ、ああ」
蓮太郎は顔を赤らめ、上着を脱ぐ。
「来い、延珠」
「蓮太郎ーーーー!!!!!!」
蓮太郎に飛びつく延珠。数瞬後には部屋の電気は消え、衣擦れと息遣いだけが響いていた。
「いや、それは不味いよ延珠さん」
「ああ!お前はティナ!」
突然蓮太郎が縮んだかと思うと、布団の中身は可憐な金髪ガール、ティナになっていた!彼女は延珠の同業者であり、同じ人を愛するライバルでもあるのだ!
「直死!」
「んぎゃーーーーす!!!!」
ティナの持つ直死の魔眼によって、延珠は卒倒した。
♦♦♦
「って、夢を見たのだ!」
「あほらし」
翌朝、朝食を頬張りながらそんな妄言を吐く延珠に、里見蓮太郎は呆れた顔でそう言った。