ペレジア戦争に勝利し、戦後処理に慌ただしい日常の一コマ

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平和な日常

のどかな昼下がりのこと。イーリス場内の一角に駆け足の音が響いた。

「クロム!」しっぽがあったら振る勢いでイーリスきっての軍師ルフレはやってきた。

そんな勢いのルフレを暖かい目で見て聖王代理としての会議続きで疲弊していたクロムの心はほぐれた。

「なんだ、ルフレか。今日は軍の会議のはずじゃなかったのか?」

「少し早めに終わったからクロムに会えるかな〜ってこっちへきてみたんだ、会えてよかったよ」

ルフレはなんの屈託も無い無邪気な顔で微笑んでみせた。

そんなルフレを幸せそうな笑顔にクロムも顔をほほころばせながらルフレの頭を撫で

「そうか、それはよかったな。俺の方も思ったよりも早く終わってな。お前に会えて嬉しい」

「そっか、よかった。クロムはこの後予定ある?一緒にお茶でもと思って」

「そうか…すまない。俺はこれからある貴族の元へ向かうんだ、悪いが今日は時間が取れない」

ルフレの提案にがっかりした様子でクロムは答えた。

「いいんだよ!そういうのも大事なんだ、今後のためにも、ね。僕は宿舎に帰るからまた明日ねクロム。頑張ってきて」

真摯な眼差しを向けてルフレは答えた。

「ルフレも今日はご苦労だったな。また明日会えるのを楽しみにしてる」

立ち去るクロムの背中を見送ると、ルフレもその場から立ち去った。

 

 

城の一階に植えられている花を横目に、城の廊下を1人帰路に就くルフレは一つの考えに囚われていた。

(僕はクロムに助けられてるんだな、今日だって誰からの異議も無く会議に参加出来たし。それに城へ入る時だって何も言われず自由に城内を行動させてもらってる。王立図書館へ入るときもそうだ。王族だけが閲覧できる資料も自由に見せて貰っている…クロムの力がなければ入ることさえ叶わなかった。

クロムに感謝だな…この恩はしっかり返せる様に僕も努力しないと。こんなに新参者がクロムと仲がいいと貴族達から良く思われないだろうけど…って、ん?)

戦争が終わってからついぞ感じなかった殺気をルフレは感じ取った。

(これは盗賊3人…戦闘力42…持ち物鉄の剣…こちらへの命中率25%…)

(対して僕の装備はエルサンダーのみ…戦闘力差は問題ないけど場所が場所だけに魔法は使えないな)

ルフレは賊の気配に気がついてからもまったく歩調を変えずにそう考えていた。

(花壇に隠れてるな。気付いてないふりをして素手で迎え撃つか…)

 

ついにバサッと音を立てて植木から盗賊は飛び出してきた。いつでも対処できる様に身構えていたルフレは、一番近くの盗賊の初撃を躱し、剣を持った手を肘打ちし関節を外した。2人目が突き出してきた剣を3人目に向ける様に腕をつかみ、三人目からの同時攻撃を避けながら、脇腹と膝を思い切り蹴り上げた。暫くは動けまい。

怯んだ3人目には持っていたエルサンダーの書を思い切り頭に叩きつける。

一連の戦闘が終わり、

ルフレは全員が戦闘不能になったことを確かめた後にふぅ、と息をはいた。そして少し上がった呼吸を整えながら盗賊達の身元を探るために衣服を検めようとした。

 

 

一方その頃。クロムは貴族の宴会に向かうため城を1人歩いていた。城内だから安全だと言い張り、お伴を付けずにいるため辺りは静かでクロムの心を落ち着かせた。

(今日もルフレは俺の為に色々手を回してくれていたんだな。わかりやすい書類作りや会議が円滑に進むための案を出していたり。俺がゆっくりできる時間を作る為に。イーリス軍の方針を決める会議に参加していたり…戦闘も内政も俺はルフレに出会った時から助けられてばかりいるな。…ん?あれは…ルフレ?)

クロムは花壇を挟んだ反対側の廊下で三人の盗賊を相手にするルフレを見た。

「ルフレ!!!!」

クロムは反対側の廊下に一早く向かおうと花壇を踏み抜いてルフレに駆け寄った。

「ルフレ!大丈夫か!何があった?!」

「あぁ、クロム。貴族の所へ向かったんじゃなかったの?今誰からの刺客か確かめようとしてて…」

「それはいい!そんなことよりお前は大丈夫なのか?!!」

「僕?怪我とかないし大丈夫だよ。戦闘力差は問題無かったし、対策を考える時間もあったからね」

「そういう問題じゃない!全くお前というやつは…」

普段は人懐っこい性格のルフレだが、戦闘となると自身を顧みず冷静で客観的になるルフレにクロムは頼もしさと不安感を感じていた。

「僕は大丈夫だって。むしろこいつらが誰から雇われたかが、今は重要だよ。相手は城内に刺客を送り込めるんだ。君の命だって危ないかもしれない。だから早く身元を洗い出さないと…っとこれは」

動揺しているクロムをよそにルフレは淡々と盗賊の衣服を調べていくと、あるモノに気が付いた。

「この紙の切れ端薄っすら香水の匂いがする…指示書は燃やすよう指示があったろうけど、破いて燃やした時残りカスが服にくっ付いていたんだろうね。好都合、好都合。この匂いは…そこかで…。あ、これ今からクロムが行く所の貴族が使ってるやつだよ、わざわざ遠方から取り寄せている品って言われてた」

ルフレの言葉を呆然と聞いていたクロムだが、最後にルフレの言葉で現実に戻ってきた。

今から行こうとしていた貴族は、イーリスに古くからある家柄で内政にも大きく関わってきた人物だった。

「まさか…そんなことが…あるのか?あそこは先々代からイーリスの発展に協力してきたところだぞ?」

「今までがどうだったか知らないけど、今僕の存在を最も疎む人物の1人ではあるね。急に出てきて内政に口出されたら、古株たちはよく思わない。まぁ…確実な証拠は今のところ

無いからどうにもできないし」

と言葉を区切ってクロムの目を見詰め、安堵の笑みで

「君を狙うような相手じゃなかったから良かったよ。僕だけが狙いだからね。また来たらまた追い返すだけだよ。警備はより厳重にした方がいいかも知れないけど。警備の穴を付かれたのは確かだ」

淡々と語っていくルフレにとうとうクロムの堪忍袋の緒が切れた。

「お前は何を言っている?!お前の命が狙われたんだぞ!それが何を淡々と”また追い返す”だ!もっと自分自身に気を使ってくれ。で!俺の半身を狙ったのはあの貴族なんだな。今から問いただしに行くぞ!お前を狙った者を放って置くことができん!そこに転がっている賊をこっちに渡せ、連れていく。いい証拠だ。何?賊が正直に話すと思わない?貴族の館に着くまでに時間はある。その間に尋問だ。ほら一緒にいくぞ」

三人の盗賊を引きずっていくクロムの後を慌てて追いかけながらルフレは思った。

(あぁ、やっぱり僕はクロムに守られているんだな)

後ろから走ってくるルフレを見ながらクロムは思う。

(ルフレはいつでも俺を助けようとしているんだな)

そんな二人を茜色の空が見守っていた。ちなみにこの事件が公になりルフレを排除しようとした貴族が重い処罰を受けたことと、ルフレの執務が優れていることもあり貴族達からの排斥は無くなった。

 

 




他にもほのぼの日常書いてみたくなりました。


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