『Home for you』   作:王者スライム


オリジナル現代/コメディ
タグ: house Home
とある建築家長門正彦が手掛けた、異常な力を持つ家『Home for you』。その力は家主の為にあるものだが、詳細を理解していなければ時にその力は家主を苦労させることになる──

「しかし、そんな時は私達にお任せを。あなたと『Home for you』の問題、見事解決して見せましょう」
「主に巻き込まれた僕がだがな」

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Home book 3page『一人ぼっちになれないアパート』

()()()()()。そんな恐怖を感じたことがあるか?」

 

 男は開幕一番にそう口を開いた。運ばれてきた珈琲には一目もくれず、目の前の少年へと語りかける。

 

「自分一人しかいない家。時計の音、冷蔵庫の音……そんな音が聞こえるぐらい静かな空間。そこに自分以外の何かが居る」

 

「物音が聞こえただとか、何かを見たとかそういう確証を得られる程の証拠がある訳じゃない。ただなんとなく何かが居ると感じるんだ」

 

「気のせい──もちろん、そうかもしれない。何かが居るというのは俺の考え過ぎかもしれない。けどな、一度()()って考えたら気のせいなんて思えなってくる」

 

 一方、少年は少年で男の話を一言も逃すことなく、一文字一文字をノートへと書き記していく。そのためか、少年の方に置かれているオレンジジュースの量は一ミリたりとも減っていない。

 まるで二人とも『話』そのものが重要で、この喫茶店という場所や注文した飲み物には興味がないかのように──いや、実際にそうなのだろうが。

 

「ふと、後ろを向く。何もいない。ふと、廊下を向く。何もいない。けれど、何かが居るっていう考えは消えるどころかどんどん大きくなっていく」

 

「最終的に俺はその何かの正体を確かめようと思った。タンスだとか押し入れだとか、そういうところも全部開けて探せば見つかる筈だと()()()。もし見つからなければ見つからないで居ないと安心できる、そう()()()()()

 

「結果から言うぞ──()()は居なかった。どこにもだ。だが、俺の何かが居るって考えは全く消える様子が見えやしない。今でさえ、あそこには何かが居ると思ってる始末だ」

 

 男はそこで話を止め、ようやく珈琲を口につけた。ただ苦かったのかすぐに口から離して、ミルクと砂糖を入れてかき混ぜる。

 

「正直、家賃は安いから、まだ引っ越してはいないが最近はネカフェ暮らしだ。この状態が続くならいつか引っ越すだろうな──」

 

「──で、本当にあんたがこの件を解決してくれるのか?そりゃあ、解決してくれたら引っ越す必要もないし助かるが……言っちゃあ悪いが、俺の気のせいかもしれないぜ?」

 

 男は目に分かる程不安そうに少年へと問いかける。解決できる問題なのか、そもそもこんな少年に何ができるのか──そんな男の思考を意に介さないように、少年はペンとノートを置き、一気にオレンジジュースを飲み干す。

 そして、自信ありげに口を開いた。

 

「お任せください。この問題に関しては()()()()()ですから」

 


 

──夕焼け展望所という場所がある。

 

 草臥山(くたびれやま)という山の頂上近くにあるその場所からは、草臥山とそこを流れる川を見下ろすことができる。秋の夕方には、山は紅葉で、川と空は夕焼けで赤く染まり、全てが赤く染まる他にないその景色を見ることができる。

 それなりに長い階段を登る必要はあるが、それでもその景色を見ようと観光客は訪れるのだ──まあ夏である今、観光客など一人もいないが。

 そんな季節外れの観光スポットで人を待つ。電話さえかかってこなければさっさと降りていたというのに、なんと運が悪いことか。内心文句を垂れ流しながら、十数分景色を眺めていると、待ち人はようやくやってきたようだった。

 

「遅いな」

「こんなところまで呼びつけておいて良く言いますよ。わざわざ、走ってきたんですから……白菊(しらぎく)さんが来てくれたら良かったのに」

「けれど、僕に会いたいと言ったのは君だ。なら君の方が来るのは当然だろう」

「白菊さんが山を降りて、同時に私が向かえば丁度麓ぐらいで会えたと思いますが……」

「知らないな、もしも話など」

 

 そう吐き捨てると木榑(こぐれ)はため息をつく。額から流れる汗を見るに、走ってきたというのは紛れもない事実らしい。

 

「しかし、なんでこんなところに居るんですか」

「散歩だ、折角の休日だからな」

「散歩って……山ですよ?登るの疲れませんか?」

「道は整備されてる」

「そうじゃなくて……はあ、もういいです」

 

 想像より疲れているようで、文句を言う気力もないようだ。木榑はゆっくりと木陰へと逃げ、手に持っていたスポーツドリンクを一気に飲み干した。

 そしてしばらく放心状態だったが、疲れが取れたのか突然こちらを向き口を開いた。

 

「さて、本題に入るわけですが。実は──」

「断る」

「私まだ何も言ってませんよ!?」

「わざわざこんなところまで急いでやってきたってことはどうせ、『Home for you』絡みなんだろ?」

 

──『Home for you』。直訳すれは『あなたのための家』。それは建築家長門(ながと)正彦(まさひこ)氏の建築のコンセプトだ。

 例えば、足が不自由な家主ならば車椅子が通りやすいよう廊下の幅を広くしたり、手すりを多くしたり。家族が多い家主なら、部屋を多くしたりリビングなどの共有空間は広くしたりと、その家に住む人が暮らしやすい家を作る。

 もちろん、オーダーメイドになるため高くはなるが、それ以上に暮らしやすいというのは大きな魅力なのか、彼にマイホームの建築を頼む人たちは多い。日々の日常を過ごす個人個人に合わせて造られた家は、さぞ暮らしやすいのだろう。

 だが、建築する建物がアパートなど不特定多数の人が住むような家ならば?その家に住むであろう誰かを予想し、その人の為の部屋を造ることなど不可能──ならばどうするのか。

 

 そこで、長門正彦氏はこう考えた。家に住む人を助ける()()を与え、()()を持った家にそれを使わせることでその家で暮らす人を助ければ良いと。

 荒唐無稽でまともな人間なら思いつきもしないであろうアイデア。だがそれを思いつき、そして実現させ結果的に困ってる人がいると言うのだからたちが悪い。

 意思を持ち、住む人を手助けする能力を持つ家、それこそが『Home for you』のもう一つの意味なのだ。

 

「大正解ですよ、白菊さん。昨日、『Home for you』と思われる家を発見したのでぜひ調査を手伝って貰おうかと。あっ、報酬は出ますよ?」

「断ると言った筈だ。そんな面倒事に自ら突っ込むほど僕は酔狂じゃない」

 

 ほれ帰った帰ったと、手を払いながら山を降りようとする。「帰るのはあなたの方なんですか……」なんて突っ込みが聞こえた気がしたが、無視だ無視。

 折角の休みを無駄にする必要はない。さっさと山を降りようと階段を下りる速度を少し速めようとしたところで──聞き逃せない言葉を耳にした。

 

「報酬はコンビニアイス五種類ですよ?」

「──なんだと?」

 

 思わず足を止め、上を見上げる。木榑は見下ろすだけでなにも言わない。だが、その表情から見て返答に期待しているようだった。

 

「……種類はなんだ?」

「秘密です。そちらの方が楽しいと思いまして」

「期待していいのか?」

「勿論……まあ調査を手伝って貰えるならばですが」

 

 そう言って、木榑はゆっくりと階段を降りてくる。そして、隣で立ち止まった。隣を向けば、どうせ返答は決まってますよね、とでも言いたげな表情でこちらを見ていた。

 それにため息をつき、無言で手を出す。

 

「仕方ない、ノートを出せ。今回もあるんだろう?」

「はい、これです。あっ、ページは付箋のところですので」

 

 ノートを受け取り、二人で山を降りていく。もし五種類全部百円以下のやつだったらぶん殴ってやろう、そう思いながら。

 


 

 件の家には電車を乗り継ぎ、数十分程度でたどり着いた。『菫水アパート』。一部屋が風呂とキッチンありのワンルームのその家は、見かけ上はやはり、いつもの『Home for you』と同じように普通の家にしか見えなかった。

 

「さて、つきましたよ。このアパートの103号室が恐らく『Home for you』です」

「鍵は?」

「ちゃんと借りています。では開けますよ」

  

 そう言い、木榑は扉を開ける。靴を脱いで、中に入っていくと家の中はかなり汚かった。特にワンルームの部屋は物が散乱しており、足の踏み場が見つからない。ノートの内容から推測すると、恐らく何かを探してからもうこの家には帰っていないんだろう。

 適当に物を寄せ、無理やりスペースを作ってそこに座る。木榑は部屋まで来ることはなく、比較的物が少ない廊下で立っていた。

 

「で、調査と言って何をするんだ?この内容なら調べようがないだろう」

「何かの気配がするまで待つ、それだけですよ」

「……はあ、やはりそうなるか」

 

 正直、予測していた答えではあったのでスマホを開いて暇を潰す。ソシャゲの周回やネット小説。会話もなくそんなもので時間を潰して、早一時間。この家に入ってきた当初と変わらず、何かがいる気配など全くしない。

 

「……さて、気配の正体は家主の勘違いだったってことで僕は帰らせ──」

「ちょ、ちょっと待ってください。まだ一時間しか調査してませんよ?」

「これを調査と呼ぶならな。実際にやっていることは、ずっと家で気配がするのを待つだけ……それなら、お前一人でもできるだろう」

 

 他に方法が思いつかないのは分かる。だが、一時間を無駄にした今、この調査方法では時間を無駄にするだけの可能性が高く、それでいてこの家が『Home for you』ではないという確証も得られない。

 さらに、この方法には二人も必要ないと考えると、巻き込むなと言いたくなるのも当然だろう。

 

「そうですけど……」

「それにお前一人だけになれば、男性が家に一人という条も一致する。だから僕は帰ら──」

「条件……なるほど!」

「──木榑?」

「『Home for you』の能力は家主の生活を助けるためのもの。だから、能力の暴走が起きないようにある程度制限や条件があります。これまでは行動や時間が多かったですが、それが()()であってもおかしくない……!」

「おい、聞いているのか?」

「分かりました、人数を合わせることにしましょう。私は外で待っていますね」

「おい!待て!」

 

 外に出ていこうとする木榑を止めようと立ち上がるが、荷物を踏むのを躊躇い動きが遅れ、そのまま外に出ていくのを見逃してしまう。

 まあ、流石にどこかへ逃げたということはなく、扉の前で待機しているだろう。さっさと、木榑に説明して僕は帰らせて貰おう。何かの気配なんて全くしないのだから──そう、思ったときだった。

 ()()()()()がして、後ろを振り返る。しかし、後ろにはベランダに続く窓があるだけで何もいない。

 

「気のせい──なわけがないな」

 

 この部屋を見渡しても、姿どころか影すら見えないというのに何かがいる気配は感じられる。ワンルームからは見えなかったトイレや風呂場も確認したが、何もいない。

 どうやら、何かがいる気配がするというのは家主の勘違いということではないらしい。

 

「条件は一人で、能力は『見えない何かが現れる』か?何をするまでは分からないが」

 

 『何かがいる気配を出す』では何の役にも立たない。ならば、何かがいる気配を感じさせるのはあくまでも副次的な効果であって、本来の効果ではないはずだ。

 気配さえ感じなければ帰るつもりだったが、感じてしまった以上報酬のことを考えると調査はしなければならないだろう。細かい実験まではともかく、この『Home for you』の大まかな能力は調べなければならない。

 

「とはいえ、気配以外の情報はない、そしてどこにいるかも分からない……どうするか」

 

 ノートに書いてある通りならば、家主はその気配しか感じておらず、今も気配以外に何か家に変化があるようには見えない。気配から探ろうにも気配の正体や何処に居るのかは不明。

 

「もしも、行動するのに制限があるのならば、火事や地震などの災害時、家主が病気になったときの対応と、いろいろ想定はできるが、確かめようがないな」

 

 どれだけ考えたとしても確認する手段がない限り推測の粋を出ない。そして木榑はそれで満足するようなやつでもなく、詳細が分かるまで何度も調査を手伝わせるだろう。それは流石に避けたい。

 しかし、なんにせよ手詰まりなのは確かで、とりあえずここが『Home for you』だろうということが確定したことだけでも報告しておくか──そう思って扉に向かおうとしたときに、ふと思考が口から言葉が溢れた。

 

「防犯という可能性もあるか。はぁ、考えるとキリがないな……ふむ、防犯?」

 

 それは考えるに最悪の可能性だった。何故ならもしもこの何かが防犯目的でいるのならば()()()()()()()()()()()()()()が『Home for you』からすればどう見えるかなど考えるまでもないからだ。

 

「まさかな?」

 

 そう言いながらもその可能性を否定はできないでいた。何しろ、この家の能力については一切分かっていないのだから。そうだと肯定する根拠も否定する根拠もない。

 

「……早く出るか」

 

 今の自分にはそうでないことを祈り、家から出ようとすることしかできない。幸い、ドアはちょっとした廊下を歩けばすぐそこだ。この距離なら仮に何かの気配の正体が防犯のためだったとしても捕まることはないだろうと、たかを括っていた。だが、現実とは存外非情なものである。

 

「……まさか、前にいるのか?」

 

 その問いに答えるように、前方からヒタヒタと音が聞こえてきた。そして、その音はゆっくりとこちらに近づいてくる。思わず一歩後ろへと下がった。だが、音は止まらない。いや、()()()()()()()

 後ろを振り向き足を踏み出す。ここは一階、ベランダから逃げることも可能な筈──だったのだが、普段運動を散歩程度しかしていない僕の体に急発進が出きる筈もなく、足を滑らせ転けてしまった。

 痛い、そんな言葉すら言葉にすることなく、すぐに立ち上がろうとする。だが、既に手遅れだった。

 

 背中の上に何かが乗ってきて、地面に押さえつけられる。何かの方が力が強いようで、手や足に力を入れても立ち上がることはできない。詰んだと言っても過言ではないだろう。

 流石に『Home for you』の性質上、危害を加えられることはないだろうが、縄などで拘束ぐらいなら出来るだろう。そうなれば木榑の助けを待つ以外に方法がなくなるが、その分アイスを請求して憂さ晴らしをしよう。こうなっている大半の理由が木榑のせいでもある、あいつも納得する筈だ。

 この『Home for you』の能力の条件は一人。木榑が入ってくればこの上に乗っている何かも消えるは──

 

「──条件は一人?」

 

 不意にそれまで納得していたそれに引っ掛かる。家主が何かの気配を感じていた時家の中には一人だけだった。そして、今日何かの気配が現れたのは木榑が家から去り、家の中に僕一人だけになったとき。それを考えれば条件が一人というのはおかしくはない。そう、条件が一人というのはおかしくないのだ。

 

 だが、()()()()()()()()()()ならばその条件はおかしい。

 

 条件が一人ということは、例えば空き巣などが二人以上でこの家に侵入したときこの能力は発動しないということになる。そんな誰でも見つけられるような欠陥を、こんなバカげた家を作り上げられる長門正彦が見逃すのだろうか──当然、答えは否だ。

 ならば考えられるのは二つ。条件が違うか、何かの正体が防犯目的ではないか。条件は先ほど言った通りおかしくはない。ならば、何かの正体は防犯目的ではないということになるのだが──

 

「この何かは未だに僕を押さえつけたまま……か」

 

 家主のために働く筈の『Home for you』がずっと逃がさぬように僕を押さえつけている理由。それが不法侵入者を取り押さえるという防犯目的でないならいったいなんだというのか。

 いくら思考してもその答えが出てこない。仕舞いには長門正彦がバカだっただけなのでないかと考え出してしまう。結局、一つのある事実に気づくのはそこからさらに数十分経ってからのことだった。

 

「いや、待てよ。そもそもこの何かは()()()()()()()()()()()()?」

 

 何かの気配がしたのは木榑が家を出てから、そして何かが僕へと迫ってきたのは僕がどこにも何かの姿が見つからないことを確認してから。そこには、数分程度の差がある。()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「まさかその数分間は僕のことを家主だと思っていたなんてことはない筈だ。何かその数分間で何かが動き出すトリガーを僕が満たしたとしか考えられ──あっ」

 

 思いあたる行動が一つだけあった。僕はそこから一つの仮説を立てる。そして、この仮説が正しいのならば木榑の助けを待つ必要はない。何故なら、この状況を脱するには一言呟けばいいだけなのだから。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 僕はそう一言呟いた。今さら何を言い出すんだと思ってしまうような一言。だが、その一言で()()()()()()()()()()()()()()

 

「ふむ、そうだな……この家にはもう一人人がいる」

 

 立ち上がり、今度はそう呟いてみる。今のこの家に僕以外の誰も居ないことは確認済みだ。だが、そう呟いた直後お風呂場から全く僕と同じ姿の人が現れた。

 自分と全く同じ姿の人が自分以外誰も居ない筈の家の中から現れる。僕はそんな状況に慌てることなく、現れた人──何かに向かって指差し、いつもの言葉を声にした。

 

「さて、答え合わせを始めようか──」

 


 

「──人が想像した生物を具現化する能力ですか」

「そんな所だろうな。家に入るサイズなら動物どころか透明な何かまで具現化可能。一人で家に居る間しか使えないとはいえ人手を増やせると考えれば便利だ」

 

 思い当たった一つの行動、それは思考だった。何かが僕に近づいてきたのは、僕が何かの正体を防犯目的の可能性もあると考えた直後。だからこそ、想像したものを具現化しているという仮説を立てられた。よくよく思い返せば、何かの気配が現れたのも、僕が何かの気配について考えてからだ。

 

「それならなんで家主の方は何かの気配を感じてたんでしょうか?」

「最初は本当に気のせいだったんだろ。だが、『Home for you』がそれを本当にしてしまった」

「なるほど、それからは何かの気配についてしか考えないから他の生物が具現化されることもなかったと」

「そういうことだ、恐らくではあるが」

 

 そう言って苺味のアイスを口へと放り込む。実に美味しい。味もさることながら、他人の金で買われたアイスだと考えるとなおのこと美味しく感じる。百円以下はアイスが三つあったが、三百円のアイスがあったのでよしとする。

 

「あっ、ちなみに家主にこの能力を伝えたところ便利に利用してるらしいですよ。洗い物をしてくれるのが助かるらしいです」

「便利な能力ではあるからな、詳細が分かれば当然だろう」

 

 『Home for you』はあなたのための家。詳細さえ分かれば当然住む人の手助けになる。ならば、説明書でもつければいいと思うのだが──

 

「『住めば分かる』ね……」

「どうしたんですか?」

 

 長門正彦は記者に『Home for you』がどれだけ住みやすくなるのか問われた時そう答えた。説明書がないのもつまりはまあ、そういうことなのだ。

 

「何、気にするな。こちらの話だ」

「……そうですか。なら気にしないことにします」

 

 四つ目のアイスを食べ終え、最後のアイスへと手をつける。三十円の安いアイス。だが、当然不味いわけじゃない。クッキーの生地に包まれたバニラアイスを楽しめるこのアイスの楽しみは他には無いものだ。安いから買い貯めもできる。三百円のアイスにはない利点だろう。

 そんなアイスにかぶり付こうとした時、木榑がとんでないことを言い出した。

 

「さて、次の『Home for you』らしき家ですが……」

「は?待て、また僕を巻き込もうとしてるのか?」

「ええ、そうですけど」

「今回は乗ってやったが、次も乗るなんて僕は言ってないぞ?」

 

 そう、今回木榑を手伝ってやったのはあくまでも利害が一致したからに過ぎない。詳細が分からない『Home for you』にはそれなりの危険があるし、僕もわざわざ後輩を毎回手伝えるほど暇人ではない。

 

「悪いが一人で勝手にやっ──」

「アイスの報酬は出しますよ?」

「──とりあえず話は聞こうか」

 

 だが、可愛い後輩が危険に晒されると知りながらそれを知らぬ振りできるほど僕も人の心がないわけではない。当然、一般的な善良さというのは持ち合わせている。なんか「手のひら返し早……」という言葉が聞こえた気がしたが気のせいだろう。僕の可愛い後輩がそんなことを言う筈がない。

 

「じゃあ、詳細を話しますが──」

 

 最後のアイスを全て口に放り込み、僕は後輩の話へと耳を向けた。アイ──可愛い後輩を手伝う為に。


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