目が覚めた時、おれは鎖で全身縛られていた。
酷い仕打ちだ。ぶん殴って気を失わせた挙句こんな雁字搦めに束縛するとか、野蛮すぎるだろ。
こうも訳のわからない状況に追い込まれると、焦ることよりも逆に冷静になってしまう。
ふー…………
マジ終わった。
おれの脳内を埋め尽くす言葉はそれだけだった。
神様は言った。
『やり残した事はあるか』って。
おれは答えた。
『世界を救う事くらい』って。
不用意なことなんか言わなければよかった。
幸せな家庭を築く事とか、社会人として立派な勤めを果たすとか。
あり触れた難しさをしっかりと肯定していればよかったのに、愚かにもおれは大きすぎる目標を口にしてしまった。
おれが気絶してどれくらいの時間が経ったのかはわからんが、薄暗い密室に閉じ込められたこの状況じゃ何も出来ない。
胸が痛い。
以前追い詰められてることを自覚した時も同じような現象があった。
ストレス性の圧迫的な痛み、だっけか。
あー、くそったれめ。
冷静になれ。
落ち着け。
結局のところ、どこまで行ってもおれには『転生した』事実が付き纏った。
どれだけ凡人であっても、特別な優位性なんか何一つ持っていなかったとしても、神様(?)が直々に選んだというのは間違いじゃないらしい。
両手足が一纏めに縛られてるせいでゴロゴロ転がることしか出来ないし、ここがどこかもわからない。
揺れてるから乗り物なのは確かだ。
おれ車酔いするタイプかな、どうなんだろう。
今生はバスに乗ることもたまにしかなかったから全然わからない。
三半規管ととのってんのかな。
仮に脱出したとして、外国だった場合最悪だ。
アフリカ大陸の僻地に放置されたらもうどうにもなんねーぞ。
一生加古ちゃんに会えないじゃん。
あ〜〜〜〜〜、くそがくそがくそがっ。
言っときゃ良かった〜〜〜〜〜マジで。告白しとけば後腐れなかったのにさぁ……
攫うときはせめて事前に言えよ!
「何を喚いてんだ」
うおっびっくりした。
いつからそこに居たんだと突っ込みたくなるくらい唐突に扉の向こうから声が聞こえてきた。
どちら様ですか?
「……お前、抵抗してたくせに気味悪いやつだな」
ン。
ってことはおれを拐った張本人か。
言葉が通じるってことは日本人、または日本語を勉強した奴だと思うんだがどうだ?
「ニホン人……ああ、お前の住んでいる場所はそういう名称なのか」
…………?
日本語が喋れて日本を知らないってどういうことだ。
英語みたいに公用語として世界中で認知されてるならまだしも、こんな極東の島国の言語マスターしてるのにその国を知らない筈はないだろう。
「まあいい。お前は大事な
人権意識もクソもないんだが?
これ売り飛ばされるやつじゃん、一番最悪なタイプじゃん……
はー、胸のズキズキが収まらん。
ぼんやりと頭に感じる程度だったストレスも、おれの身体に直接害を与えてくるようになった。
でもそのおかげかわからんが、少しだけ頭がクリアになった気がする。
「まずは簡単な挨拶……は、要らないだろうが。一応名乗っておこうか」
ガチャリ、と扉が開いた。
日本人離れした顔つき。
西洋人ってのも少し違う気がする。
ルーツが違うんだろうな、ということだけはハッキリと分かった。
「俺はポリティス。数時間の関係だ、覚えなくていいぜ」
あっそ。
おれが名乗る必要はあるか?
どうせ抑えてんだろ、わざわざ目標確認、なんて言いながら捕まえにくるくらいだ。
特別な力もな〜んにもないおれになんの興味があるんだ?
「お前の名前なんざ知らん。
ミデン…………
なんだそれ。
日本じゃないのか?
「フム。事前に
おれの疑問に対して、ポリティスと名乗った男は思考を巡らせている様子。
日本を知らない。
名前も知らない。
でも言葉は通じる、そして売り払う。
ミデン、という謎の呼び方。
なんもわからん。なんもわからんけど、いい方向に進んでないことだけは確かだ。
たっぷり一分ほど男が黙り込んだ後、よし、と意気込んで何処かへ歩いて行った。
どうなってやがる。
ポリティスの言うことを全て信じるわけじゃあないが、あまりにも噛み合わなすぎる。地球に住んでて日本語をマスターしてて日本を知らないなんてことあり得るのか?
いや、仮に有り得たとしてだ。
名前も知らない日本人を誘拐して売ることをどこに国でもやっているって発言。
何が起きてんだ……?
あー、くそ。
考えるための情報が無さすぎる。
おれは頭の回転は早くないんだ。将棋も得意じゃないし、先読みが出来るような知識も持ち合わせちゃいない。
ぐでんぐでん転がってあーでもないこーでもないと考えるおれの場所にポリティスが戻ってきたのは二十分ぐらい経過した後だった。
両手にパンみたいなものを持ってきて、ちょっと美味しそうな香りがするのが腹立つ。
「ちょっとこっちこい」
この状態で?
「……悪かった」
そこで謝れるなら攫うなよ。
漫画的展開ならこいつが実は仲間でウンタラカンタラって感じになるかもしれんが、生憎おれの人生は不幸の連続だ。
中三になってから幸せなことばかり起きていた影響か? これ。
そんな能力いらねぇ〜〜〜!
ガチャガチャとおれの鎖を弄る。
右腕が自由になったので、せっかくだからポリティスに反抗する仕草を見せる──が。
「やめとけ。トリオン体に生身じゃあなんも出来ねぇぞ」
トリオン体……
つまり、今お前はその『トリオン体』とやらなんだな?
おれを測定するときに『トリオン測定』って言ってた筈だ。お前がやってた行動はおれの中にある、もしくはおれに付随する『トリオン』という何かしらのエネルギーを測る行動だった。
そしてなぜトリオンが重要なのか。
見たことも聞いたこともないエネルギーだけど、トリオンとやらで身体能力等が向上する身体を得るのならその量で価値が変わるって訳か。
「…………意外と頭が回るな」
おれも驚いてる。
普段はこんなんじゃないんだけどな、追い詰められて覚醒したんじゃねーの。
それよりもだ。
おれはどこに行って、どこに売られるのか。
それが大事だ。
この乗り物はどこへ向かってる?
「それは教えねーよ、と思ったが……別に教えて損する情報でもねーんだよな。どうしても聞きてーか?」
当たり前だろ、誘拐した側なんだからそんくらい責任持てよな。
「なんでコイツこんなに自信満々なんだ……」
はぁ、とため息を吐きながらパンを両手に持った男はそのままパンを食べ始めた。
ぐううぅ、とおれの腹が鳴る。
「お前に片方やろうと思ったけどうるせーからやめた」
おい!
ざけんなお前!
ペットは飼い主が責任持って飼わなくちゃダメだろーが!
「あー、うるせー奴。一つだけ言っとくと、お前が玄界に戻れることは二度とねーぞ」
────…………はーん。
そうかよ。
「露骨に気分落ちてんな。好きな女でも居たか?」
ま、二度と会えねーから忘れちまいな。
そんな風に吐き捨てて、アイツは部屋から出て行った。
右腕が自由になったがそれでも全身雁字搦めであるため、何も行動することはできない。
しっかり扉の鍵も閉めていきやがって。
ざけんな、もっと油断しろ。
二度と帰れないから忘れろだと。
忘れられる訳がないだろ。
おれにとって命よりも大事な人達だ。
自分が死ぬことなんかどうでもいい。
二度と会えなくなる事実の方がよっぽど辛い。
逃げ場がないどころか、おれが一番大切だと思う友人関係すら絶たれた。
今、おれは本当の意味で孤独になりつつある。
一人は嫌だ。
寂しいのに誰にも分かち合えないから。
いい景色を見ても共有する相手が居ない。感動を共有し、感性を褒めたたえる相手が居ない。
胸がズキズキ痛む。
気が付けば、動悸のようなモノも起き始めた。
苦しい。
なんでおればっかりこんな目に遭うんだ。
前世の記憶も朧気になり、交友関係なんてものはとっくの昔に忘れた。
両親の顔なんて覚えてないし、生まれた瞬間新しい両親は死んでしまった。
折角築き上げた心優しい友人達との関係すら、強制的に断ち切られてしまったんだ。
おれにはもう、何も残ってない。
じわりじわりと滲み寄ってくる焦燥。
乱れる呼吸がおれの精神状態を如実に表している。
ここまで酷くなることは無かった。今年の夏、先生に直接言われた時でもここまではならなかった。
落ち着け。
気を動転させるな。
自暴自棄になってはいけない。
冷静沈着を心がけるんだ。
まだおれの人生は終わっちゃいねぇ。
あんな奴の言うことを信じてどうする。
自由に動く右腕だけを利用して、左側の鎖が外せないか試す。
神様曰く、おれに特典を授けたらしい。
今のところその恩恵を実感したことはないが、こうやって異常なことが起きたのだから可能性は高くなった。
『トリオン』────おれには全く覚えのない名前だが、これが関係している。
なんだか脳が冴えてきたな。
これくらい常に頭脳明晰なら成績が落ちることもないだろうに……
己の愚かさに呆れが出ちまうな。
仮に売られるとして、だ。
どうすれば帰れるかが問題だ。
この際そうなっちまうことはしょうがねぇ。
飲み込みたくないけど認めるしかない。
世界を救うなんてたいそうなことが出来るとは思わないけれど、捕獲して売り払える程度にはおれに価値がある。
コイツが誘拐するのに手慣れてそうだし、少なくとも手慣れてるやつから見ても「おれは金になる」と判断されたんだろう。
知恵の輪的な感じで外せないかと粘ってみたが、これ無理だわ。
硬すぎなんだけどこの鎖、やばない?
ガッチガチ。
何で作ってんのコレ。
仕方ないから右腕だけで這いずり回る。
扉を押してみるがびくともしない。
頑丈な扉だ。
押して引いてもなーんにも起きないだろうな。
オラっ!
右拳で思い切り殴りつけるために振りかぶったんだが、痛みを予想してしまって寸前で止めてしまった。
いや、痛いのは嫌だし……
そういやいつの間にか胸のズキズキ無くなったな。
精神的に少し取り戻したと言える、か?
まあくよくよして何も出来ないよりはマシだろ。安心しろ、まだ人生詰んじゃいないぜ。
かつておれに手を差し伸べてくれたみんなは此処にはいない。
わかってる。
もう会えるかどうかも怪しい。
わかってるさ。
あーあ、元旦の晴れ着見たかったなー。
加古ちゃんおれに気を配ってくれていたとは言えさ、女の子だしさ。変なことできないじゃん。
加古ちゃんママはおれが手を出さないと思ってるのか知らんが普通に何でもかんでも許可出してるっぽいし。おれの部屋は加古ちゃんの持ち込み品が大多数を占めつつあるぞ。
気に悩まなきゃいいけど……
最後におれを見たの加古ちゃんだし、変に責任感じないで欲しいな。
行方不明扱いになったとしても親はいないから、どうにもならん。
と、なると。
攫われてしまった事実は仕方ない。
おれじゃあんなの抵抗しても無駄ってレベルだろ。
屋根から地面まで音もなく一瞬で移動する化け物相手にどうしろってんだ。
逆に聞きてえよ、なんでアイツに勝てると思ったんだよ。
おーい!
えっとなんだっけ……
ポ、なんだっけ。
ポなんとかー!
聞きたいことがある!
頼む!
教えてくれー!
扉の小窓から面倒くさそうな視線を向けてきやがる。
「ンだようるせーな」
売られることに対しての文句はもう言わないからおれが生き残るための知識をくれ。
「……フーン。ま、いいぜ」
まじで?
「どのみち説明程度はしておかなきゃいけねーからな。教育済みって箔付けりゃ多少は値上がりするだろ」
あ、そう言うことね……
まあいい。
おれの価値が上がれば上がるほど適当な扱いはされないような気がする。
1000円の靴と1万円の靴じゃ、歩く場所が違うだろ。
砂場に履いていくのが前者で、ある程度人目に付く文明的な場所に履いていくのが後者ってのが一般的だ。
男がガチャガチャとおれの鎖を弄る。
両手を縛るだけの形になり、立ち上がることが出来るようになった。
ここまで自由にしていいのか? おれの奇行で乗り物を弄るような無茶をするかもしれないぞ。
「お前も死ぬからやらねぇ癖に何言ってんだ。死んででも俺を殺そうって気概のある奴が知識を求めるかよ」
仰る通りです。
死ぬつもりは毛頭ないね。
死んだら加古ちゃんに会えないじゃん。
せめて死ぬ前に顔を見て挨拶して告白してから死ぬつもりだ。
「俺は雇われの傭兵だ。使い勝手のいい『個人船』持ちの」
船……
え、これ船なの?
船酔いとかするやつ。海?
「黒い海──俺達はそう呼んでる。お前の住んでた
星??
ちょっ……と、待ってくれ。
理解が追いつかねぇ。
めっちゃ急にSFになったな。黒い海って宇宙のこと?
「で、俺の雇い主はフェニキアって商人国家。乱星国家だ」
お、おう。
訳分からんけど。
つまりおれは星の外に連れ出されてるってことだな。
「だから二度と会えねーつったんだよ。どの国がお前を買い取るにしろ、
??????
さっきまでの頭の冴えは何処に消えたのか、おれの脳は与えられた情報を処理できずにいた。
外国に売り飛ばすとかそう言うレベルじゃないんだけど。
星の外に売り飛ばされてるんだけど。
じゃあこれ宇宙船じゃん。
誤操作なんてしたら即死。
迂闊なことなんてできねーよ。
困惑顔で虚空を見つめるおれに呆れたのか、ポなんとかはため息を吐いた。
「わかった。どうせ着くまで暇だからとことん教えてやる」
そうすりゃ俺の評価も少しは上がるだろうしな、なんて利己的なことを言いながら、ブリッジのような場所へと連れてこられた。
おお〜……SFっぽい。
宇宙船っていえばガンダムとかそこら辺を想像してしまうが、おれが思ってるより整理整頓されている広めの空間だ。
ていうか、お前一人しかいないの?
「傭兵だしな。他国から人間を攫うときに足がついたら困るだろ」
…………ンン。
足がついたら困る、そりゃそうだ。
でもそれがなんで一人であることに繋がるんだ?
隠密行動しやすいにしたって、
「玄界はまだトリオン文明がないみたいだからな」
……あー、わかったかもしれん。
つまり、お前は何処に所属してるか分からんから失敗して捕まってもリスクが低いってことか。
「正解だ。頭の回転は悪くねぇな」
へっへ、褒められちった。
ヤツは謎の飲み物を飲みながらパネルのようなものを操作している。
タッチパネルが立体的すぎるだろ……すげー技術。
iPhoneでもそこまでじゃないぞ。
「星は
図を使って説明してくれるあたり、こいつ本当は結構優しいんじゃないだろうか。
わかりやすいね。
理解できた、つまりおれは生贄にされるのか?
それだけは勘弁して欲しいんだが……
「それはないだろ。お前を
めっちゃ安心した。
つまりおれが向かう世界は、トリオンとトリガーとやらが中心の世界ってことだな。
「数値で言えばお前のトリオン量は12くらい、まあまあってトコだな。軍事国家の精鋭とかには敵わないが中堅国家ならエース張れるくらいにはある」
神様さぁ……
ここに特典渡したな? さては。
攫われることが前提じゃねーか! いい加減にしろよ本当に。
「で、その上サイドエフェクトらしき反応もある。それに関しては検査しねーとわかんねーが、高くつくぜ。ウハウハだ」
やっぱこいつ全然いいヤツじゃねーわ。
おれを売り飛ばした金でウハウハとか言ってやがる、人権意識とか無いのかよ。
「サイドエフェクト持ち、トリオン量も多い、頭の回転も悪くない────そうなると大国が競りに参加する筈だ。だからお前の扱い自体は悪く無いとは思う」
マジか、ちょっと助かる。
ちなみに捕まえた中で一番高額はどれくらいだったんだ。
「この船買えるくらい」
宇宙船買えるくらいか……
誰もが船に乗って移動できる訳じゃ無いんだな。
でも単独で渡航できる程度には技術はある、と。
「距離が近くねーとダメだけどな。戦争するならデカイ船にひたすらトリオン兵とトリガー使いを詰め込んで出撃する」
戦争とかやっぱあんのか。
どんな大国に行っても苦労しそうだな、これ。
「……大国は、大国であることを維持するために戦争をする。他国の優秀なトリガー使いを捕らえる、まだ幼い子供を拉致して一から兵士として育てるために」
……ちなみに、
「星が消し飛ぶ」
ヤバすぎだろ。
天国のお母さん、お父さん。
どうやらおれはやばい世界に飛ばされるみたいです。
じゃあ攻め込まれたら死ぬ気で守らないとダメなのか、結構どころかかなり戦略的にむずかしいな。
「だから兵士の数が必要で、優秀なトリガーが重要になる。いくら戦力があっても足りねぇよ」
シビアな世界だな…………
生きていける気がしねぇ。
中学校の成績ですら中途半端だったのにどうにかできる気がしない。
命のやり取りとかしたら頭おかしくなりそうなんだが。
「弱小国家に買われない限りは搾取する側に回れるだろうさ。そっからはお前次第だな」
…………搾取する側、か。
ロクな道は歩めなさそうだ。
地球に帰れたとして、おれは胸を張って生きられるかな。
仮に戦争することになれば、国に攻め入るようなことになれば。
当然人を殺す必要も出てくるかもしれない。
そうなったときにおれは、人を殺せるのか。
「…………さ、そろそろ到着だ。お別れだぜ」
船が大きく揺れ、着地したかのような音が響く。
ついてこい、というので素直に従う。
こいつはおれを殴って拉致した張本人ではあるが、正直、恨みといった感情はあまり無かった。
こいつが何かしなくてもおれはなんらかの形で此方側にきていただろう。
神様が与えたのかどうかは知らんが、おれはトリオンというエネルギーが優秀らしい。中堅とはいえ国のエースになれるくらいの素質を秘めているのなら、離れることは出来なかったさ。
だから、恨みを重ねるのなら神様に対してだ。
船の入り口が開き、少し風が入ってくる。
地球の建造物とは違う空気感、建造物、そして文明。
どうやら、おれの転生ライフはこれからが本番らしい。
「ようこそ、商人国家フェニキアへ。数日の滞在になるだろうが、満喫して行けよ」
◇ ◇ ◇
ポなんとかと別れ、鎖で両手を縛られたまま変な部屋の中に連れてこられた。
扱いは完全に奴隷だし、人身売買の対象なのですげ〜最悪。
でも手荒いことはしてこない。
理由を聞いたら、「お前は大人しいから無駄に傷をつける必要はない」そうだ。
まあ恨み買うしね……
将来的に復讐してやる、なんて思われた方が損か。
謎の機械に手を通して、色々検査を行われた。
トリオン量の時に多少のざわつきはあったが、あくまで『おお、優秀だ……』みたいな感じ。
おれTUEEEはできないんですか?
転生知識TUEEEの快感なんて小学校で終わっちまったからもう一回できるならやりたいね。
どうせ追い付かれるし、おれより強いやつなんて大量にいる世界だ。
ビギナーズラックくらい付与してくれてもいいんだぜ。
数時間の検査に連れ回された後に、また独房みたいな窓のない部屋に入れられた。
暇だな。
連れ去られてから半日くらい。
新聞も取ってないし、連絡手段もない。
気まぐれでおれの部屋に遊びにくるやつがいない限り気付かれることはないだろう。
約束破っちまうな。
堤くん、おれがいなくなったからってアホみたいに賭けるなよ。
前にメダル全部32倍に賭けようとしてたよな。おれが止めなかったら破産してたぞ。
来馬くんに返すべき恩もある。
友人として彼が困ってる時は手を貸したかったし、お金っていうめっちゃシンプルな恩がな……
本人は気にしないだろうけど来馬パパにも申し訳ない。
はした金だとしても、感謝の気持ちをちゃんと伝えないと。
二宮はあんまり気にしねーだろ。
気のいいやつだしおれの事情を知ってから発言内容もかなり気遣ってくれてたけど、割り切りができるタイプだとは思うんだよな。
帰ってよっ、久しぶりって挨拶したらどんな顔するかな。
うわ〜めっちゃ見たい。
二宮が動揺して目を見開く瞬間写真に撮ってやらないと。
加古ちゃんは…………
ごめんな、としか言えない。
いつか帰れるといいけど、ていうかそもそも彼ら彼女らが誘拐されないとは限らない。
もしもそういう目に遭っていたらどうしよう。
あ、だめだ。
やめようこの考え。
暇でやることないから妄想するのはいいが、悪い方向へと思考が向くのはダメ。
おれがどうにもできない範囲のたらればを考えてもしょうがない。
この先どうするかを考えるべき。
ストレスを感じすぎたら心が疲弊しちまう。
それを和らげてくれる友人はここにはいないし、自分の力だけで解決しなくちゃな。
おれのトリオンとやらは12。
中堅国家ならエースを張れるくらいの素質らしい。
絶対的な立場を手に入れちまったら、もうそこから動けなくなりそうだ。
最終的な目標は地球に帰ること、中目標は強くなること、小目標は生き残ること。爺さんになるまで別の星で暮らすとか死んでも嫌だ。
戦争に参加しない、かといって雑兵でもない、いなくても困らないけどいた方が便利程度の立場を狙うのが一番か?
む、むずかし〜〜〜〜!
そんな器用に立ち回れる気がしないんだが……
でもやらなきゃいけない。
遅かれ早かれトリオンとやらに触れることは確定していた(おそらく)のだから、割り切るしかないな。
おれを買った金額分(物々交換?)の働きはしなくちゃならん。
最低限その程度はしないとおれ自身の価値がどんどん下がっていって最終的に処分されちまう。
ポなんとかは数日の滞在だと予想していたな。
数日間で『星』そのものがどれだけ動くのかは知らん。
ていうかおれが知ってる『星』と一致してんのか? 月や太陽とか、そこら辺って大雑把なようで緻密な関係性してるからそんな好き勝手できないんじゃないの。
はー…………頭痛くなってきた。
情報が少なすぎる。
本当に必要最低限のことは教えてくれたけど、それだけじゃ何も解決にならん。
せめて自分の中の疑問くらいは解消しておきたいんだがなぁ。
・玄界(地球)はどれくらい大きいのか。また、移動して観測できない距離に行くことはあるのか。
・トリオンの詳細、トリガー(?)の詳細。
って感じ。
一つ目は帰るための目標を見失わないか、また、見失ったとした場合再発見できる距離なのかを知りたい。
これは余裕がある時に調べれればいい。
初めはそれどころじゃないだろうし、仮にあれを大事な戦略として扱ってくれる国ならばしっかり教育は施してくれるだろう。
二つ目は今すぐ知りたい。
トリオンとは、トリガーとは何か。
詳しく知れば知るほど有利になれる。おれはこの世界で生まれ育った人間と比べて圧倒的に知識が不足してるから、戦う力を身に付けるより先に知らなきゃいけないことが多いだろう。
床に座るのもムカつくので、簡易的なベッドに倒れ込む。
おれの使ってた布団よりも柔らかいんだが……
危険だ。
この生活水準は玄界(おれ基準)を超えている。
帰ってもお金ないし生きていくの苦しいし、よっぽど人権を無視したエゲつない戦場に飛ばされたら詰みだけど。そうはならない可能性が高い自分の才能を信じるしかない。
布団から他人の匂いはしない。
新品同然って感じがする。
ずっと放置されてた布団とか毛布とかは埃被ってたりしてるんだけど、これはそんな感じしない。
商品一人一人に新品を渡す……か。
いやわからない。
単純におれの部屋が当たりだったって可能性もあるんだが、まあ、勘定に含まなくていいか。
無駄に期待しすぎてもしょうがない。
あくびを大きくしながら寝っ転がる。
寝てないんだよな、おれ。
気絶はしてたけど寝てはいない。
深夜テンション的なアレだったのか、さっきまで。
安眠はできない。
でも、寝なくちゃ体力がもたない。
寝る暇も惜しんで勉強を────なんて無茶はしてこなかった。
しなくてもいいような環境を頑張って作ろうとしてたんだが、一人じゃできなかったからな。
やっぱり友達って大事だよ。
「1番、起きてるか」
うとうとして寝ようとしていたタイミングで、誰かがノックしてきた。
おれ1番扱いなのか。
優秀さでの1番か、シンプルに順番での1番か。
とりあえず返事をして意識があることを伝える。これ、部屋の中で自殺する奴がいたらどうすんだろ。
ちゃんと監視の目はつけてるのかな。
監視つけられてる前提で生活した方が良さげだな。
「お前は玄界出身だったな。此方の文明に理解はあるか?」
ありません。
軽い説明は受けたから基本の基本は理解してるけど、詳細は全く知らない。
「報告通りだな……」
扉の向こうだから様子が伺えん。
何かに納得したのか、少しの間を置いてから再度話を始めた。
「本来ならば多少の
ふーん。
商品に対して丁寧じゃねーの。
でも人格矯正って言葉があまりにも危なすぎる。
え? 科学力とかちょっとやばくね?
人格とかに手を出せるし、手を出すことに躊躇いのない倫理観。
どこかへ行ってしまった連絡係。
……これ、あれか。
不用意に暴れるなよって脅しも込めてんのか。
こちとら十五歳だぞ。未成年だぞ。
子供にいう言葉じゃねぇだろ。
まあ、めんどくさいことも出来ないし……
トリオンとやらで構築されたものが生身でどうこう出来ないって話だし、大人しくしてるしかないか。
おれが誘拐されてから、体感一週間ってところか。
毎日ちゃんとした飯が出てくるあたり、おれはそれなりに大切な商品のようだ。
神様に感謝するべきなのか、神様を恨むべきなのか。
加古ちゃん達に出会えたのは間違いなく神様のおかげだが、こうやって虚無にまみれているのも神様のせい。
マッチポンプって奴だな。
個人的な恨み節は飲み込んで、目の前の情報に集中するとしようか。
暇を持て余していたおれの元に連絡係がやってきた。
曰く、おれの買い手がついたらしい。
どれくらい星が移動したのかは知らんが、まだ地球からあまり離れてないと嬉しいんだが……
おれの心配を他所に、ドスンと偉そうに座った
「アタシはディアドラ。アフトクラトルって国で研究者やってんだけどよ」
ディアドラと名乗った黒髪の女は、頭から生えた特徴的な捻れ角をコツコツ叩きながら横柄に言葉を続ける。
「ぶっちゃけ安い雑魚でも良かったんだが、必要以上に上から金を回して貰えてな。せっかくだから高級品を使わせてもらうことにしたのさ」
めちゃくちゃ不穏なこと言ってるんですけど、この人本当に大丈夫ですか?
隣に立ってる連絡係は一切おれのことを見ていない。
あっ、これもう売られるの確定だわ。
にっこり楽しそうに笑いながら、ディアドラは言う。
「成果だけは出さなきゃならんから素体を適当に選んじまうとうまくいかねーかもしれないし、な? わかるだろ」
わかりたくね〜〜〜!
…………はー、頭いてぇ。
要するに、おれの人権は徹底的に無視して人体実験するからそのために買うって話ですよね。
笑顔で首肯する。
「悪く思うなよ〜。どっちかって言うと金で買われる立場になったお前が悪いんだから」
めっちゃ理不尽なことを言ってきやがる。
だが、こちら側ではそれが普通なのだろう。
力のない人間は搾取されるだけで、力があり立場があり知恵もある奴が上にのし上がっていく。人格などは二の次で、合理的に現実的に成果を出した人間が評価される。
日本とは、少し違う。
成果が命に直結する世界だ。
勉強をしていれば平和に過ごせる世界じゃない。
友人と和気藹々と暮らしていれば生きていける世界じゃない。
人攫いが横行してる倫理観、人の命を躊躇いなく取引する残酷すぎる縦社会。
おれがこれから生きていかなきゃいけないのは、そういう世界だ。
覚悟はしてた。
どんだけ過酷でも、受け入れるしかないってわかってる。
…………おれは、人体実験されるだけの素体
ニヤニヤいやらしく笑みを浮かべるディアドラに対して、真正面から向き合う。
お前がおれにどれだけの価値をつけたのかは知らん。
この世界でおれがどれだけの価値があるのかも知らん。
知恵はない。
強さもない。
戦う力も持ってない。
今のおれは奴隷が一番適した身分だろうさ。
「おーおー、ガキんちょが一丁前に考えてやがる」
何わろてんねん。
こちとら命が懸かってんだぞ。
本気にならないわけがないだろ。
「……ま、玄界出身でそこまで考えられんなら評価してやるよ。実験はするけど」
…………ふむ。
倫理観は欠如してるけど、人材を評価することに躊躇いはないんだな。
これはこっち側の世界で共通なのか?
ポなんとかは雇われの人攫いだが、それなりにおれを評価していた。
この国は商人国家だから、そこそこの利益を出せる商品に丁寧なのは納得できる。
この女は口調や態度こそ粗野で乱雑に見えるが、自身の立場と国への貢献度とかはしっかり考えてるっぽい。
先程までの腹の立つニヤケ顔をすっかり収め、真面目な表情になった粗野で乱雑な女は立ち上がった。
「こいつはこのままウチで連れて帰る。輸送は必要ねぇ」
連絡係が紙を手渡しする。
トリオンとやらで何もかも終わらせてるわけじゃないんだな。
ちゃんと紙とか、日本でも使ってたような技術も使用しているみたいだ。
面倒くさそうに紙に書き込んだ女は連絡係に渡した。
僅かなチェックを経て、連絡係は満足そうに頷く。
女はマントの下でゴソゴソ体を動かして、何かを取り出した。
「うし、じゃーお前これ持て」
両手は相変わらず鎖で繋がれているが、女が差し出してきた変なちっこい道具を手に取る。
……なんだこれ。
「トリガー。お前を
どうやって使えばいいんだ、これ。
困惑しているおれの表情に気が付いたのか、ガリガリと後頭部を掻きむしってから乱雑に告げた。
「あ〜、あれだ。トリガー
オッケーっす。
トリガー
その瞬間、視界が明滅を始める。
真っ白に染まり切った視界では何が起きているのか捉えることが出来ず、身体に力が入らない。
え、何これ。
騙された?
いきなり問答無用で実験台コース!?
身体の感覚が無くなった。
『聞こえてるか、ガキんちょ』
誰がガキんちょだクソ女。
しまった、突然聞こえてきたから驚いて反抗しちまった。
おれの明確な罵倒に対して、女は特に不快感を示すわけでもなくカラカラ笑った。
『活きがいいなぁ、いつまでその余裕が持つのかたっぷり楽しませて貰うが……今お前どうなってる?』
む。
どうなってる、って言われても……
そもそもこの声が普通にそっちに届いてるのかどうかもわからん。
何もできないって状態。
『よしよし、それは正常な状態だから気にすんな。本国に輸送中に脱走されても困るだろ?』
まあ確かに……
輸送に適した状態なのは間違い無いけど、これ、どういう状態なんですかね。
詳しく無いから教えて欲しいです。
『簡単に言えばトリオン体の状態を弄りまくってる。今のお前はトリオン体に換装してる状態ってワケさ』
あ〜〜〜……
トリオン体万能すぎない?
姿形その他情報にも干渉できるのはめちゃくちゃ便利だ。
障害を抱えた人間とかトリオン体に換装すれば日常生活を過ごせるってことだよな。か、革命…………
つまり、今のおれは視覚情報を遮断し身体の感覚も遮断したトリオン体に換装した。
そしてさっき渡された機械みたいなやつ──これがトリガーか。
『楽でいーや。普通は暴れるようなアホに使うトリガーなんだが、アタシはめんどくせーからお前にも使った』
ざけんなや。
もっと丁重に扱えよ。
こちとらトリオン12のサイドエフェクト持ち(サイドエフェクトが何かは知らない)だぞ!
『しらねーし。言っておくけどお前のサイドエフェクト、普通に扱いづらい面倒なモンだからな』
判明してる部分だけだが、と付け足した。
えっ。
…………と、特殊能力だよね?
おれの声の震えが伝わったのか、脳内に直接笑い声を響かせてきた。
う、うるせ〜〜!
おい神様、話が違うだろうが!
おれに才能ないじゃん! トリオン12って謎の数字しかマウント取れるものないだろ!
『神様ぁ? あんな伽藍堂の置物が人間に祝福を授けるわきゃねーだろ』
変なことを言う奴だな、と鼻を鳴らしてバカにされた。
一週間くらい前にポなんとかが言ってた事だな。
星は
生贄として捧げられた人間は数百年単位で生かされ続け、『神』と呼ばれる。
…………そうか。
おれにとっての『神』は、人一人を転生させた挙句人生を左右するような特別な才能を自由に分け与えることができる上位生命体という認識だった。
でも、こっちの世界は違う。
『神』は祈りを捧げる相手でも、信仰を捧げる相手でもない。
どこまで行っても、星を動かすための生贄という認識から外れることはないのだ。
『じゃ、そろそろ
え?
落とす、何を。
『何って……お前の意識だよ』
えっ。
『本国まで三日くらいかかるし、その間この状態でいるのは流石に苦しいだろと思ったんだが……』
た、確かに……
いきなり意識を落とすとか言われて驚いたが、そりゃそうか。
意識も落とせるの? トリオン体って。
これトリオン体を管理してる人間が一番強いだろ。
好き勝手弄ったら相手の情報破壊し放題だし、やばすぎ。
トリオン体の情報だけはとにかくかき集めなきゃいけない。換装した時に遠隔操作できるようにされたらもう何もできなくなっちまう。
『……なんか、よくわかんねーガキだな。普通はもうちょっと遠慮したり怖がったりするだろ』
まあ、伊達に玄界でも追い詰められてなかったからな。
おれは勉強が苦手だった。
やりたいこと以外に集中できないってどうしようもない欠点があったから、家族も親戚もいないって状況で一人で生きてたから。
好きな女の子はいたけど誘拐されたし、もう自棄になってる部分もある。
おれの事情を当たり障りない言い方で説明すると、意外にもディアドラは耳を傾けてくれた。
おれはアンタのこと粗野で乱雑でデリカシーのない女だと思っていたけど、意外とそうじゃないかもしれん。
悪かったな、第一印象で決めつけてよ。
『ガキに舐められた所でどーでもいいからな』
へいへい、どうせおれはガキんちょだよ。
でも年齢で言えば十五歳だからな…………
そういやそっちの国で一人前って幾つ? 18?
『16だな。アタシは今年で22になる』
若いな〜。
もう少し上だと思ってましたわ。
貫禄があるって意味でね。老けてると感じたわけじゃないよ。
『殺すぞクソガキ』
気にするじゃん…………
『年功序列だバカが。異常なまでに強い爺さんとかいるんだぜ』
マジっすか。
まるで漫画の世界だな。
漫画っていうかSF宇宙の世界観だけど。
『ま、安心しろよ。一番とまでは言わねぇが、上から5番目程度の強さには底上げしてやるさ。アタシの研究でな』
わ〜〜安心、なんて言うわけないだろが。
全然安心できませんけど。
そんな安直に強さを手に入れたらどんな代償がおれを待ち受けてるかわかったもんじゃねぇ。
『よくわかってんな。なーに、ちょっと視力を失ったり記憶が欠けたりするだけだ』
一つわかったことがある。
アンタは粗野で乱雑で横暴で横柄な女だ。
『ダッハッハ!! 今更後悔しても遅い、もうお前はアタシのものだからな』
全然嬉しくない。
全然嬉しくないぞ。
『そんじゃ、後は着いてからのお楽しみって奴だ。じゃあな、ガキんちょ』
◇ ◇ ◇
ディアドラって女に買われて、一週間ほど経過した。
目が覚めた時は地下牢みたいな所に留置されてたんだが、色んな検査をする上で一々監視の目を手配したり護衛したりするのが面倒くさくなって家の中なら自由に動いていいと言われた。
まあ寝る時はここに戻ってきてるけど。
ベッドがそこそこ綺麗なのが腹立つ。
おれの部屋はなんだったんだ?
ため息を吐きつつ、自由になったとは言え暇なので筋トレをして一日を過ごす。
おれが最終的に連れてこられた此処、アフトクラトルは神の国と呼ばれており
近界ってのはこっち側の世界、要するに黒い海に支配された場所。
そこを泳ぎ回る星の中でも随一なのが我が国らしい。
支配権を握る『王』のような役割が一人、それに従う『四大領主』とやらが四人。
更にその領主から枝分かれして貴族がウンタラカンタラ……詳しい話は面倒くさかったので、大雑把に覚えることにした。
ディアドラはハイレインという領主の部下らしく、トリオンやそれに付随する研究を主導で行なって来た一族のためそこそこに重要視される立場にいるらしい。
あいつの頭にある角はトリオンを増幅させるための外付け装置で、後々おれにも取り付けるそうだ。
鬼みたいで格好いいけど、悪影響ないのかが気になるよな。
「よーっす、起きてるかーガキんちょ」
起きてますよ。
なんスか朝っぱらから、いい加減外に出してくれたりしませんかね。
身体が鈍っちまってしょうがねぇや……(コキ)
怪訝な目でおれを見てきた。
「あぁ? お前そんなガリガリなのに何イキってんだよ」
いやですな〜、ノリですよノリ。
まあこっち側にお笑いとかないだろうししょうがないか。
娯楽レベルが低くて困っちまうな〜笑
「脳みそ削るぞクソガキ」
大変失礼いたしました。
これ以降生意気なことは一切口にしないので、おれが加古ちゃんに会うまでは生命を約束してください。
「生涯お前の面倒見る気はねぇよ」
一生会えないとか言わないでくれますか??
おれ傷つくんですけど、そういうの。
現実に打ちのめされてきたおれが耐えられるわけないでしょ。
「いーじゃねぇか、お前追い詰められた方が役に立つんだから」
おれは辛ぇんだわ。
こんなサイドエフェクトなんて要らなかったよ……
ここ一週間のうち、三日間はおれのサイドエフェクトの詳細を調べるのに使用していた。
結果として判明したのだが…………
「『外的刺激強化』────いや〜、おもしれーサイドエフェクトだわ」
ケラケラ笑いながら茶化してくる。
おれのサイドエフェクトとやらは、特殊体質というものに分類されるものだ。
めっちゃ簡単にいうと、『ストレスを感じれば感じるほど自分の能力が研ぎ澄まされる』。
なんなの?
まじで。
胸がズキズキ痛むくらい精神的な負荷が掛かると能力はゆっくりと動き出す。
思考が速くなり判断力が上昇し、普通なら処理できないくらいの情報量も問題なく処理できるようになる。
並行しての思考も可能になるが、その分負荷はでかい。
ストレスを感じて陰鬱な気分になればなるほど強くなるってなんなの? 誰も得しないだろ。
サイドエフェクト────要するに副作用なわけだが。
文字通り副作用だ。
トリオンが12という微妙に多い数字のおかげでおれにはこの能力が発現してしまった。
「いいじゃねーか、戦場で殺し合うなら最高のサイドエフェクトだ」
動揺してストレスを感じれば感じる程冷静になるからな。
実際に色々実験されたが、今のところ一番最悪だったのは加古ちゃんとか二宮とかが死ぬ映像を永遠に見せられるところだった。
しかも頭に角をぶっ刺してトリオンを増幅させようとしてた副産物で、この国は脳や記憶への干渉する技術がかなり高い。
おれも例に漏れずしっかりと日本の情報を抜き取られた挙句トラウマ級の映像をひたすら見せられた。
ぴえんだね。
「そのうちもっと弄る予定だから、しっかり楽しんどけよ。人生は長いようでみじけーからな」
強制的に短くされてるだけなんだが……
ディアドラはくつくつと笑いを噛み殺しながら、おれの部屋に入ってきた。
「ほらよ」
投げ渡してきた道具を慌てて受け取る。
腕立て伏せの途中だったので、片腕だけで自重を支えることになってしまった。
ぐ、ぐええ。
これは……腕輪?
なんか白い真珠みたいなのが、ブレスレットみたいになってる。
「お前のトリガーだ」
え、おれの?
どういう風の吹き回しですか。
監視がびっしり着いてる状況で、しかも簡易的な剣のトリガーしか持たせてなかったのに。
「領主サマ……ハイレインにお前の情報とかこれからの予定とか提出したら、これを扱わせろだってよ。確かにそっちの方がデータも共有できるし都合がいいからな」
へぇ……
おれがここで暴れる可能性は考えてないの?
「今更やるタマじゃないだろ、お前。生きて玄界に帰りたいって思ってる奴がそんなアホなことするか」
バレてーら。
おれの頭の中を精査した割には前世とかそこらへんには全然触れてこない。
神様の都合でもあるのか、それとも、おれの脳にはそこらへんの情報は保存されてなかったのか。魂に存在してるのかも、なんちゃって。
「それにまだ起動できないようにしてある。ある特定の条件が揃わなくちゃ使えないようにも、な」
ちゃんとしてるな。
もちろん暴れる気など毛頭ない。
人体実験とか脳を弄られたりとか色々不安は大きいが、無駄な殺害はしないだろうということもわかってきた。
こいつらは横暴で倫理観がない部分もあるが、それと同じくらい人並みの情を持っている。
家族はちゃんと家族だと認識しているし、単に現実主義者が多いだけだ。
「ま、領主サマはお前を生きて帰すつもりはないみたいだが」
その情報ちょっと聞きたくなかったな。
この国で2番目に偉い人がおれを殺そうとしてるとか絶望する。
おれを庇ったりしてくれませんか?
姉御!
「死ななきゃ生かしてやるよ。死んだらそこまでだ」
ですよね〜〜!
アンタそういう人だもんね、知ってるよ。
おれが泣き叫んでる姿を録画したログをみながらぶつぶつ呟いてデータ纏めてたもんな。こええよ。
不機嫌そうに鼻を鳴らしたディアドラは、ベッドに腰掛けるおれに小さな装置を投げつけてきた。
受け取るのに失敗してあわあわしてたら殴られた。
ひでぇ。
「そんくらいちゃんと取れ!」
ウッ、だっておれ……捕虜だし……
長い船旅で身体が鈍ってしまったのだな。
もう一発トリオン体での殴打を喰らい激痛に悶えている最中、ため息と共に先程の装置の説明を始めた。
「そん中にはお前にどんな実験をするのかって計画が全部載ってる。目を通したら速攻返せ」
どれどれ……
例の如くトリオンで超技術を誇るアフトクラトルでは立体図は当たり前である。
ブォンという音と共に展開された文字の羅列はわかるはずもなく、なんとなく図がちょびちょびある部分だけフィーリングで読み取った。
文字が読めないから詳細はわからんけど、おれに角を取り付けてどうにかこうにかするのか。
もうわかってる部分しか読み取れねぇ。
「あー…………めんどくさ」
おれからべちっと装置を取りあげて、ディアドラは口を開く。
「トリガー
初めから大きいわけじゃないんだ。
まあ確かに歪だし影響ありそうだね……
そんな影響出そうなものをおれに後付けしようとしてるんだけど。
「トリガー
へえ〜。
冷静に考えてみれば、トリオンで全てが決まるこの世界で多少のリスクはあってもトリオンを無条件で増幅させられるアイテムってずるくないか。
RPGで言えば魔力を永遠に拡張し続けるのと同じだろ。
そんなん無敵じゃん。
「それを達成するには、脳に関連するサイドエフェクトを持つ人間が必要だった。ただでさえ貴重で希少なサイドエフェクト持ちを厳選しなきゃならんし、いくらアフトクラトルでもそこまでの余裕はない。だからアタシも
ギラギラ目を光らせて、嫌悪を滲ませる声で叫ぶ。
「テメェが現れた! トリオン量も多い、サイドエフェクトも望ましい、それでいてその中身が複雑で価値を理解されづれぇモンと来た! 最高のタイミングでやってきやがって……!」
襟が無い服の胸ぐらを掴まれて、トリオン体の性能による脅迫を受ける。
あ、頭ぶつけた……
ディアドラの顔はなんとも言えない表情をしている。
全身の血液が沸き立っているような、ひどく興奮している様子。
ぐ、ぐえっ……苦しい。
トリオン体には逆らえん。
立場的にも逆らえん。
おれは無様に攻撃を喰らい続けることしかできない。
なんてことだ。
「擬似的な
おれが痙攣を始める前に地面に落としてくれたのは感謝する。
地面に顔面をぶつけてしまったので痛みに悶えるおれを完全に無視して、ディアドラは語りをやめない。
「どんだけやったところで、後天的な付与が一切不可能な要素────人工的なサイドエフェクトの発現を脳に働きかけることが、アタシの最終的な目標だッ!」
サイドエフェクトの、後天的な発現。
どうやらディアドラがおれを購入した理由はそれが主題のようだ。
そしておれのサイドエフェクトはデータを収集するのに都合がいい。
通常時・発動時の差が脳から取り易かったりするんだろう。
精神的な負荷を得ているか否かだけだし、刺激するのも楽。やられてるこっちはたまったもんじゃない。
「…………悪い」
謝られた。
モルモット扱いする割に自分に非があると認めたら謝ったりするの、なんなんだ。
情緒不安定すぎる。
普段の口調は粗野な女だが、なんていうか……チグハグに感じる。
吐き出した目標を達成するのが本音ではあるのだろうけど、おれにはこの女の全てを測ることはできない。
「チッ…………」
舌打ちをしたまま、ぐちゃぐちゃな表情で地下室から退室していく。
日本だったらヒステリック女扱いされるだろうが、この世界は違う。
完全な実力主義、そして成果主義。
トリオンという絶対的な数値に振り回されながら、この世界の人間は生きている。自分の身体を改造してでもより高い地位を求め、研究を重ね、強さを手に入れる。
ディアドラは粗野で横暴な女だ。
だが、トリオンというエネルギーへの向き合い方と、自身の好奇心に対しては何処までも直向きだと思う。
おれは今世、どうにも個性的な女と縁があるみたいだ。
掴まれた服がちょっと伸びてヨレてる。
こういうだらしなさは出来るだけ改善したんだが、そこまで気を配れるほど贅沢は言えない。
「よー、クソ猿」
ああん。
なんかまた知らない奴入ってきたよ〜〜。
ディアドラに似て失礼なコミュニケーションをとってきたのは、恐らくトリオン体では無いであろう子供だった。
誰が猿だ、誰が。
「あの女のお気に入りだってな。俺はエネドラ、黒トリガーの適合者さ」
前に説明してもらった奴だな。
優れたトリオン能力を持つ人間が命を賭けて生み出すっていう。
え、じゃあエリートじゃん。
おれが無邪気に褒め称えると、エネドラとやらは得意げな表情になった。
「クソ猿の割に物分かりはいいじゃねぇか」
褒めるなよ、照れるぜ。
どこかディアドラと似てる部分があるから、親戚か兄妹の二択にしておこう。
黒トリガーってそんなポンポン手に入るもんじゃないんだろ。
お前の使ってる奴はどんな性能なんだ?
教えて減るもんじゃないし教えてくれよ。
おれ、いまだにトリガーとかに詳しくないんだよね。
「あぁ? ンで俺がわざわざテメーに労力割かなきゃならねーんだよ」
いいじゃんか、そのうち俺の人体実験の成果がこの国の役に立つかもしれないんだしさ。
それともエネドラくんは、あまり知識のない素人に知識を与えるほど見聞深い人ではないのかな。
おれの見込み違いか?
「……ンだと」
ふっ。
生憎おれはお前みたいなタイプとの交友経験がある。
あいつはクールで仏頂面なイケメンに見せかけた天然俺様おもしろ男だが、エネドラくんはシンプルにプライドが高いと見た。
顔面に青筋を立てているあたり短気でもある。
あ〜あ、天下のアフトクラトルで黒トリガー適合者もそんな程度なのか〜。
残念だな〜〜、玄界の方が優秀な同年代は多かったな〜〜!
「黙れ低脳が、ぶっ殺すぞ」
グギギ……
二宮ほどわかりやすい奴ではないらしい。
あいつは煽ったら乗ってくれるからな。わかりやすくて面白いいい友人だ。
細身長身のエネドラくんは、ぱっつんの前髪でショートへア。
そういう髪型が流行りなんかな?
「…………まあ、どの道テメーの人生は終わりだ。あのクソ女のやる事だ、五体満足とはいかねぇだろ」
嫌なこと言うね。
君にとってディアドラはどういう人なの?
ここは研究施設とかじゃないし、君らが普通に住んでる家なんだろ。
気がついたらここに入れられてたし、トリガーって形で小型化した機材を持ち運べるから簡易的な研究部屋もある。
おれを拘束しない理由はおれの頭の中を覗いた結果判断した。
最低限合理的に現実を判断する能力がある、って程度にはおれのことを評価してくれてんだろ。
それなら少しは教えてくれてもいいんじゃないか?
「ハッ。そもそも捕虜ですらねぇモルモットの一体を警戒してる奴なんざハイレインくらいだろーが」
こいつら揃いも揃って上司に対して口調が雑だな。
領主に対して裏とは言えタメ口呼び捨てはやばいだろ。もしかしてこっちの世界ってそれがデフォルトなの。
それはそれとして、エネドラも会話を続けてくれるみたいなので乗る事にする。
暇だしね。
おれの危険性を唯一理解出来てるのが領主サマだけだって説もあるんだ。それはこのトリガーが証明してるんじゃ無いのか?
そう言いながら先程受け取ったブレスレットを見せびらかす。
奴のは黒トリガー……つまり特別製だ。
おれの持ってるのはほぼ確実に別物だろう。
いくら実験対象として優秀でも、国に百とない貴重な武器を渡すはずがない。
黒トリガーではないが、トリオン体に換装可能で尚且つ使用されると危険性が多少発生する機能が搭載されたトリガー。
たぶんこれが答えだ。
じゃなかったらわざわざ安全装置なんてつけないだろ。
何が言いたいのかというと、完全にブラフです。
エネドラくんはディアドラと関係が深いだろうが、研究自体には干渉してないとみた。
戦闘要員兼研究員なんてエリートオブエリートだったらもうおれは詰むんだが、そうじゃないと信じていく。
外れてたら恥をかきます。
でも試すもんね。
試さない方が勿体ない。
無知がゆえの愚かさでアホだと思われるか、ワンちゃん底知れない奴だと思わせて気に入ってもらうか。
さあ、どっちだ。
「…………見た覚えがねぇな」
だろ。
領主サマ直々に渡すように命令したらしいからな。
「…………チッ」
姉弟か、って思うくらいに似てる。
ディアドラも似たような舌打ちよくしてるし、やっぱ血の繋がりは感じる。
おれが手に持つブレスレットを一睨みしてからおれの顔を見て、苛立ちを隠さずに背中を向けた。
あ~らら、駄目だったか。
別にディアドラの事を知らなくてもいいけど、知ってればいつか手遅れになるような場面で待ったをかけられる可能性があるだろ?
なら聞いておこうって算段だったんだけどな……
「あの女は俺の姉だ」
おっ。
応えてくれるとは素直じゃねーな。
「もしテメーが猿じゃねぇって言い張るなら」
顔を向けないまま語り続ける。
だが声色は先程までの嘲りの籠ったものではない。
「這い上がってみろや。俺のいる場所まで」
…………ん。
なるほどね。
そこまでいけば、教えてくれるんだな。
「ンなことは言ってねぇ。証明もしてねぇ猿に言う事はないってだけだ」
まあ任せておけよ。
おれも死にたくないからな。
絶対に、どうしたって玄界に帰るつもりだし。
その為ならどんな手段を受け入れてでも力を手に入れてやるさ。
ぶっきらぼうに、それでいて先程とは違い明確な意思を持ちながら手を振って上がっていく。
エネドラくんね、覚えた。
この家にいる人はそう多くない。
ディアドラが常に自室に籠っていて、それを咎める人がいない感じ……アイツが一番偉いのか。
年配の人を見たこともないし、平均年齢はかなり若めで構成されてる。
全員モルモットってことは無いんだろうけどな~。
おれはまだ、そういう込み入った事情に立ち入る事が許されない立場だ。
最低でもそこら辺に踏み込んでも許される程度のポジションは確保しないとな。
そこそこ貴重なモルモットとはいえ、おれは所詮金で買われた存在。
いつ気分が変わって殺しに来るかわからねぇ。
ベッドに仰向けで寝っ転がる。
真珠みたいな球体を繋げて形作られたブレスレットの付け心地は悪くはない。
これからおれの価値を証明するためには、この小さなトリガーを活用しなくちゃならん。
領主サマに殺されないためにも有能で尚且つ敵対心の無い扱いやすい駒だって思わせる必要がある。
やる事は山積みだ。
非人道的な扱いをされても構わない。
おれの中に、友人達の記憶がある限り諦める理由は出来ないから。
強くなりてぇ。
どこまでもどこまでも強くなれば、この縦社会で上に行ける。
強くなるための最低限のパラメーターは存在してる。
大丈夫さ。
おれはきっと生きて戻れる。
ズキズキ響く胸の内、
◇ ◇ ◇
アフトクラトルに来てから、一ヶ月ほど経過した。
未だにトリガーを使用する条件は教えてもらえず、毎日ディアドラの検査に連れ回されて地下室に放り込まれ、たまに暇潰しにエネドラくんが遊びに来るくらいである。
このブレスレットがおれの命を守ってくれるのか、確証は持てないままだ。
加古ちゃ~~~ん、会いてえよぉ。
炒飯が恋しいよ。
おれは二割の失敗を劇物だと表現していたが、無ければ無いで寂しくなる。
リンゴを剥くスキルもすっかり抜け落ちてしまった気がする。
せっかくウサギ型に剥くのが上手になったのに、やれやれだぜ。
今因数分解とか言われても解ける気がしない。
一か月間ほぼほぼ何もせずちょっとの筋トレしかしてないもんね。
最近は頭の検査してばっかだし、そろそろ本格的に角を取り付ける実験が始まるのかも。
もしも取り付けることがあるなら、せめて麻酔くらいはして欲しいね。
おれのサイドエフェクトがビンビンに反応しちゃうから。
「────よし、セッティング完了したな」
バタバタと忙しなく動き回る周囲の人間。
その中心で、立体映像に囲まれながら各所に指示を出しているのはディアドラだ。
その傍ら、手術台みたいなところにガッツリ縛り付けられてるのはおれ。
両手足、首を強制的に抑えつけられてるのでもうどうすることもできない。
先程までの現実逃避は、確実にこれから酷い目に遭うと予想しているがゆえの独白である。
「
「滞りなく」
至極真面目な表情で頷いて、真っ白な手袋をぎゅっと嵌めた。
こ、怖いよ~~~!
こちとら十五歳だぞ。まだ精神的に未成熟なんだぞ。
誘拐されて金銭で売買された挙句人体実験に使うなんてお前ら人の心がねぇのか!
「あ゛ぁ?」
あ、ごめんなさい。
睨まないでください。
「成功すりゃ無条件で強くなれんだ。博打打たねぇ理由があんのか?」
アリマセン。
少なくともいまのおれにはないよ。
生きて戻るために強くなりたい。
強くなるために、命を賭けて博打をうたなきゃならん。
金で買われた身分ってのもデカい。
おれが自分の価値を証明する方法もないし、そもそもそっちからすればおれに大層な役割は期待してない訳だ。
最初から実験体として購入されてるんだから要望通り色々弄られるのは仕方ない。
「一応お前用に調整してやってんだ。それともなんだ、アタシが意味なくお前を殺そうとしてるとでも言うのか?」
滅相もございません。
いや~ディアドラ様ならちゃんと部下への気配りできると思ってたんですよ~!
美人で人柄もよくて粗野で横暴!
「殺すぞクソガキが」
やべっ本音が漏れてた。
青筋を浮かべて握り拳を突き出してくるディアドラに必死に懇願しつつ、本格的におれの人生が予想不可能なものになっていくのだと思ってしまった。
角か。
角が付いちまったら、帰ったとしてもどういう扱い受けるんだろ。
異形扱いかな。
偽物呼ばわりとかされるのかな。
てか、どういうタイプの角付けるんだろ。
ディアドラは額からまっすぐ二本生えてるタイプ。
頭から角が生えてる、でおれが一番最初に想像する感じだな。
エネドラくんも同じ。
姉弟揃って黒い角だもんな。
気になるので訊ねて見た。
「あー? アタシらと同じタイプじゃねーよ」
ふーん。
そんなたくさんバリエーションあるもんなのか。
でもそうだよな。野球とかも基本の形は変わらなくてもメーカー違ったりするし、そんなものか。
「ヤキュウ……? ンだそりゃ」
玄界のスポーツだ。
身体を動かす娯楽って言った方が伝わりやすいか。
「知らん。お前に付ける角は忌々しいことに
縛り付けられて完全に動けないおれの眼前に掲げる。
禍々しい捻れ角、真っ黒に染まり切ったその風貌はとてもではないがマトモな品物には見えない。
人体につけちゃいけない感じの見た目してる。
なんでこれでゴーサイン出したの。
二人のと比べてもめっちゃ禍々しいじゃん。
「注文通りのスペックにしたらこうなったんだよ」
何詰め込んだんだよマジで……
詳細教えてくれないか?
「こないだ見せただろ」
あっ、ずりーぞ!
あれはおれが読めないんだからノーカウントだろ!
じたばた暴れようとするが動けないおれに対して興味なさげにそっぽを向く。
ちなみにエネドラくんは周囲にいない。
やっぱり研究員って枠ではないみたいだな。
そもそも
基本的なトリオンを増幅させる機能とか、そこら辺だけ教えてるんじゃないかな。
そうでなければ、他の国に奪われた際に一瞬で技術を流用されてしまうだろう。
おっ、なかなかいい線いってるんじゃないか、これ。
彼は黒トリガーの適合者だといっていたが、そもそもその黒トリガーへの適合ってのも疑い深い話だ。
この角にどんな拡張性があるのかは知らん。
でもディアドラは確かにいっていた。
『既に黒トリガーの擬似的な模倣はできた』って。
機能的な問題なんだろうけど、黒トリガーってそんな簡単に真似できるようなもんじゃないだろ。
そうじゃなかったら命を削って生み出すなんてデメリットにしかならねぇ。
だからエネドラくんが適合したってのも、ある程度出来レース的な事なんじゃないだろうか。
胸がズキズキと痛んでいる。
ここまで無駄な思考に集中できたのは、どうやらサイドエフェクトが働いていたからのようだ。
外的刺激、ねぇ。
思えばおれのサイドエフェクトも不可解なものだ。
ストレスを受けたら思考能力が強化されるってのは、ちょっと関連性が薄いように思える。
文字通りの
デメリットではない。
ストレスを感じた際に冷静になれるのはいいことだ。
殺し殺されという極限のストレスの中で、おれだけは常時よりも冷静なアドバンテージを保てる。
神様が選んで与えたとしたら、これほどまでに最悪な贈り物はないな。
だってそうだろ。
神様が必要だって思ったから送ったんだ。
つーことは、おれが戦いの最中に死ぬような可能性が大いにあるってことで。
おれの試練はまだ始まってすらいない。
ここアフトクラトルという異国で、異星で、血で血を洗うような戦場が待ち受けてるんだ。
「調整終了、人員配置完了、設備設置完了、と……」
おれが無駄な思案を巡らせている間に、無慈悲な施術の準備を終えてしまったらしい。
はぁ…………
嫌になるな。
おれの人生、こっからだと思うけどさ。
おれの地球での生活は無駄な努力になってしまうのだろうか。
こっちの世界で殺し合いばかりしていて、生き残って、加古ちゃんに会えるかな。
二宮〜〜、お前ならなんか無言で殴った後に説教してくれそうだわ。
来馬くんはすごい正論も言うけどしっかりおれの気持ちに寄り添ってくれる気がする。
カチャカチャと独特の金属音と共に、おれの周囲にトリオン体へと換装した人員が次々とやってくる。
なるほどね。
トリオン体で一から作り直してしまえば汚れや菌が付着してないから、しつこく管理する必要がないのか。
便利なもんだぜ。
「……この施術のログは残らねぇ。だから、先に言っておくぞ」
メスのようなものを手にしたディアドラが、おれの頭に手で触れる。
不思議な感触だ。
暖かいような冷たいような、人の手とあまり差はないはずなのにどこか無機質。
トリオン体ってのは、つくづく不思議に包まれている。
「お前のトリガー
先程見せられた角を思い出せば納得する。
ディアドラの角は細長いのに、おれの角は太い上に捻れてる。
明らかにオーバーサイズ。
人の頭に取り付けるには不格好だ。
「基本的なトリオン拡張機能、言語の自動翻訳。これは誰にでもついてる当たり前の機能だ」
言語の翻訳って初めて聞きました。
だからおれたち言葉通じてるのか、もしかして。
これ、トリオン体とかが無かったら言葉通じてないのか…………
そりゃあ皆デフォルトでトリオン体になってる筈だよ。
圧倒的に便利だもん。
「これに加えて、アタシのタイプには別の機能も付いてる」
おれの頭に触れていた手を放して、ディアドラは自身の角を小突いた。
黒に染まった角。
エネドラくんも黒に染まっていたような気がする。
「
…………なるほど。
じゃあアンタは、黒トリガーの適性があるにも関わらず研究員を選んだのか?
それとも、選べなかったのか。
中々デリカシーのない質問だが、今なら聞いても怒らないだろう。
一ヵ月程度の付き合いではある。でも、少しくらいはこの女の事を理解したつもりだ。
「ハッ。黒トリガー適合者なんざ幾らでも生み出せんだよ」
エネドラくんは嬉しそうだったけどな。
どうやら姉弟であっても思想に相違があるようだ。
当たり前だけどな。
これくらい殺伐とした世界なら寧ろそれが正常なのか。
そして本題と言わんばかりの顔で、ディアドラはおれの事を覗き込んだ。
「テメーのトリガー角はな」
ニタリと、悪意に満ちた表情へと変化する。
「最初からデータ収集を目的とした、
…………つまり、だ。
おれは玄界に帰っても、生きてはいけないってことか。
「ああ。そういう事だ」
くるくる手の中でメスを遊ばせてから、おれの額に突きつける。
冷え切った感触だ。
ディアドラは情緒不安定で、何処か狂ってる部分がある。
ただ粗野で横暴なだけでは説明できないくらい、心根で捻れ切っている部分があるんだと思う。
ずぶり。
幼稚で愚かな表現だがそうとしか表すことが出来ない。
痛い。
麻酔も打たずに、おれの額に侵入を始めた刃物を見る。
心臓が、脈打つ。
明らかに異常な速度でバクバクと鼓動を奏でる心の臓は、おれの精神に明確な負荷が掛かっていることを指し示していた。
そして、そんなおれの表情を見て──ディアドラはにこやかに、先程までの恐怖すら抱く邪悪な笑みを消し去って微笑む。
「せめてもの温情だ。死なれても困るから、玄界のガキ共と一緒にいる記憶
……帰ろうと思うなって?
いいや、違うな。
お前の考えそうなことだ。
おれが帰ろうと足掻けば足掻くほどいいデータが取れる。
だからおれに最後の選択肢だけは用意した上で、絶対にその選択をとっても損がないようにした。
これはお前の意思か?
それとも、領主サマの指示か?
「いいサイドエフェクトだ。この状況でそこまで考えが回るんだから、やっぱお前は優秀だよ」
モルモットとしてってか。
アホが。
いいかディアドラ、覚えておけよ。
どれだけおれの頭をいじってもいいさ。
おれを絶望させてストレスをかけてくれてもいい。
サイドエフェクトの情報なんざくれてやる。
こんなん、おれが
でもな。
おれは玄界に帰るぜ。
どれだけ苦しもうが、どれだけ辛かろうが関係ねぇ。
おれの生きていく世界は此処じゃねぇ。
世界を救うような出来事も、
おれはな。
何も持ってないおれなんかと、仲良くしてくれた友人とまた会いたいから生きていくんだ!
お前らに協力するために黙って改造されてる訳じゃない!
勘違いすんじゃねぇぞアフトクラトルの角付き共!!
ディアドラの冷め切った瞳と正面から睨み合う。
ケッ、今更その程度にビビるかよ。
これは今まで気が付かなかったんだが、どうやらサイドエフェクトの発動中に少しだけ気が大きくなるらしい。
ストレスを受ければ受けるほど気が大きくなって冷静になって思考能力が増すって、よくわかんねーな。
額を割るようにメスが振られ、流れ出した血液が目元まで流れてくる。
目に血が流れ込んでくる。
しかし、不思議と不快感はなかった。
おれはこのサイドエフェクトを文字通りの副作用だと呼んでいたが、思いの外便利なものかもしれない。
「…………惜しいな」
その時、聞き覚えのない声が聞こえてきた。
ディアドラの声じゃない。
男の声だ。
深い、沈み込むような声色。
「ディアドラ。今からでも遅くはない、記憶の改竄をするべきだ」
「前に答えただろうが。使い捨ての駒として扱うならそれが正しいが、今回はあくまで副次的な要素だ。本題を『後天的なサイドエフェクトの付与のためにデータ収集をする』で了承しただろ」
「今気が変わった、と言ったら?」
「殺すぞクソ野郎」
おれを置いて喧嘩始まったんだけど……
さっきまでクールに情熱的に保っていたおれの高揚感は一気に冷め切って、後に残ったのはこれから地獄のような苦しみを味わうという事実とそれに対する心構えができてない脆弱なおれの心だけ。
こっ、こわいよ〜!
頭かち割られるんだろこれ。
え、やだやだやだ。
痛いとかそう言うレベルじゃないでしょ。
麻酔もないし、痛みでショック死するよこんなの。おいそこの男、止めろ!
せめて麻酔は使え!
「……これだぞ」
「…………なるほど」
何を納得してんだ。
こっちはこれから死ぬかもしれないのに、お前ら人の心がないのかよ!
「これだけ急激に変化するのなら、サイドエフェクトの価値は高い」
「だろ? まあ任せておけよ、ハイレイン」
お前が領主か〜〜〜い!!
見にきてたのかよクソッタレめ。
「完全無欠に取り付けてやるさ。
「……そうだろうな」
先程と同じようにくるくるメスを手の中で回転させて、ディアドラはおれの眼前に突きつけてくる。
「始めるぜ。そしてその前に、一個だけお前に言っておく」
うわ、うわうああああ!!
近づけんなやめろ本当に!
痛いって!
ガチで痛い痛い!!
スッパリと額が割れて、血が滝のように流れ始める。
おれの瞳に血液が逆流して、目の前が真っ赤に染まった。
今のおれは感触で世界を測ることしかできず、しかも、その唯一の感触すら冷たいメスの反応しかない。
「玄界での名は忘れろ。今日からお前は────
そうしておれは、■■■■の名を忘れ。
玄界出身、玄界育ち、アフトクラトル所属。
研究用実験体・ノスタルジアとしての人生を歩むことになった。