そんな賢い隊員は新人達を育てながら二度と後悔しない様に頑張り続ける。遠吠えを上げて。泣きながら尻尾を巻いて逃げない様に。
この作品は龍流氏主催のワートリ杯参加作品です。書きダメ無いので出来次第投稿していくスタイルのでのんびり読んでください。
木虎藍の対人欲求は、相手の年齢によって変わる。
年上なら舐められたくない。同い年なら負けたくない。年下なら尊敬されたい。
故に彼女は自分と同年齢、もしくは年上相手には強気に出て「生意気な奴」と言われ、年下に冷たくされると心にヒビが入るという割とめんどくさい性格をしていた。
また、自分の力と立場に誇りを持っており、A級である自覚は時に相手と衝突を生む。
さて、ここまで長々と彼女の人となりを紹介したが、現在木虎はとあるA級隊員とランク戦をしていた。
その隊員は本部に所属しながらも滅多にお目に掛かる者ではなく、いわゆるレアキャラであった。そして、割と最近A級になった木虎はその者が本当に自分と同じA級隊員としての実力があるのか気になり戦いを挑み──。
「くっ……!」
現在、9対0で惨敗していた。
左腕は斬り落とされ、右足には風穴が空き、トリオンもかなりの量が漏出している。
対して相手のトリオン体はほぼ無傷であり、こちらをクリっとした目で見上げていた。
『これで終わりだな』
目の前の相手の横にアステロイドが展開される。かの者のトリオン量はNo. 1射手二宮と同等の数値。自分よりも大きなトリオンキューブを慣れた様子で構えると、最後に木虎に対してアドバイスを送る。
彼女よりも長く、そして厳しい戦いを繰り広げて来た先輩として。
『君はセンスがある。努力もしている。しかし戦闘中は常に冷静でいろ。そうすれば、私に一勝はできたかもしれない』
「……はい」
『再戦を待っている』
その言葉を最後に、木虎の視界は光に飲まれて──彼女の戦闘体は砕け散った。
10対0。それが嵐山隊木虎藍と──無所属ソラのランク戦の結果であった。
◯
『少しやり過ぎただろうか』
立ち去っていく木虎の背中を見送りながら、ソラは呟く。
彼は迅悠一や小南桐枝と同様に旧ボーダー時代からトリガー使いとして戦ってきた経験がある。故に同じA級だとしても比較的新人である木虎とは経験の差があり、今回の結果は分かり切ってはいた。だからあえて最後は厳しい言葉を送ったが、後になって不安になった様である。
人間は難しいな、と思いながら欠伸を一つする。
「木虎に勝った……」
「マジかよ……」
「あんなにちっちゃいのに」
「でも可愛いよね」
先ほどの試合を見ていた隊員たちが遠巻きにソラを見ながら小さな声で話す。人より耳の良いソラはその話し声をしっかりと聞いていたが、特に吠えたてる事なくそのまま聞き流した。自分の姿を顧みれば当たり前の事だからだ。
ソラはランク戦室を出るとボーダー基地にある長い廊下を歩く。その際すれ違ったC級隊員は笑顔を浮かべて話しかけたり頭を撫でて来たりし、B級隊員は普通に挨拶をしながらも何処か慣れてなさそうな顔を浮かべる。その光景に改めて自分の異質さを感じながらも、彼はとある部屋に来た。
そして少し高い位置にあるインターホンをジャンプして押すと、扉が開く。
「はーい……ってソラくん!?」
出て来たのは嵐山隊オペレーターの綾辻遥だった。彼女はソラを見ると喜色の声を上げて彼を持ち上げると思いっきり抱き締める。
「どうしたのソラくん? わたしに会いに来たの?」
『久しぶりだな遥。申し訳ないが、用があるのは君の隊長だ』
「えー、残念。でもソラくんと会えて嬉しい! あー、癒される……」
だらしなく頬を緩ませるその姿を知る者は少ないだろう。メディアに露出し、さらに美少女である彼女は人気者だ。そんな彼女のあられもない姿を見る事ができる現状に少しの優越感に浸っていると、部屋の奥からソラの目当ての人物が出て来た。
「ソラ! 久しぶりじゃないか」
『やぁ准。少し頼みがあって……遥、下ろしてくれ』
「えー。話だったらわたしの膝の上でもできるよ? 撫で撫でさせて〜」
『……仕方ない。准、構わないか?』
「ああ、俺も構わない。それに綾辻はここ最近忙しくてな。リフレッシュできるなら幸いだ」
二人に促されてソラは綾辻の膝の上に乗った状態で、嵐山とテーブル越しにソファに座った。
軽くここ最近の世間話をした後に、ソラは本題に入った。
木虎が此処に来ていないのは把握している。人より嗅覚の優れている彼は、ランク戦の際に覚えた匂いが此処に無い事を察知していた。
『最近嵐山隊に入った木虎だが、さっきランク戦をした』
「あー……」
「そうか。いつかその日が来ると思っていた」
ソラの言葉を聞いて綾辻と嵐山はそれぞれ反応を示す。
正隊員になった者がソラを知ると今回の木虎の様な行動をする者が居る。存在を認める事ができず真偽を確かめようと話をしようとし、そして戦う。そして──負ける。
ソラにとって今回の様な出来事は初めてではない。過去にも何度か経験しているのだ。その中でも記憶にこびり付いているのは二宮や香取だろうか。どちらもプライドが高く、初めはこちらを認めなかったが、今では良い友である。……香取は自分を抱き枕にし、二宮は敬語で話して来て割と可笑しな状況になっているが。
ともあれ、ソラとしても将来有望な新人が自分のせいで潰れるのは避けたい為、嵐山にそれとなくフォローする様に頼みに来た次第である。
「なるほど。そういう事なら任せてくれ」
「藍ちゃんなら大丈夫だと思うよ?」
爽やかな笑顔を浮かべて了承する嵐山とソラを抱き締めながらそう言う綾辻。
彼らの反応を見てそれなら良かったと安心するソラ。どうやら彼の杞憂に終わりそうだ。
以前とあるボーダー隊員が自分を見ると顔を真っ青にさせて逃げるという事件があって以来、新人隊員とのコミュニケーションに気を配る様になっていた。
「ソラ。今度また散歩に行かないか? コロも副も佐穂も会いたがっている」
『ふむ。後でスケジュールを確認しておこう』
「それと桐絵も偶には遊びに来いと怒っていたぞ」
『む……それは、善処しよう』
小南の名前を出され、ソラは少し言い澱んだ。彼は少し彼女の事が苦手なのである。普段の自分の扱いが雑だし、ランク戦をすると負けず嫌いが発症して長い時間拘束されてしまうから。
それでも、妹の様に思っている彼女には会いたいと思っている為、偶には顔を出すかと心に決めた。
「此処にも何時でも来て良いからね?」
『仕事の邪魔にならない程度には、な。……さて、そろそろお暇させて貰おう』
「えー! もうちょっと居ても良いのに」
『そうも言っていられないだろう。また来るよ』
綾辻に惜しまれながらもソラは嵐山隊室を後にした。お互い多忙の身である。
綾辻は最後までソラの小さな背中に手を伸ばしながら、嵐山に苦笑されつつ仕事に戻される。
◯
そして、数日後。
ソラは嵐山隊と防衛任務に就いていた。
本来ならソラだけでも一区画を担当できるのだが、嵐山隊のうち佐鳥と時枝が急な用事で参加できない為ヘルプが入ったのである。
「今日はよろしくなソラ!」
『オペレートは任せてね?』
『ああ、よろしく頼む。准、遥。それと木虎も』
「……はい」
返事をする木虎だが、表情も歯切れも何処か悪い。
嵐山がフォローを入れたようだが、まだ効果は出ていないようである。
仕方ない事か、と内心ため息を着いていると──綾辻から警告。
『門発生! 方角西、距離30!』
「よし、行くぞ!」
「木虎、了解」
『ソラ、了解』
嵐山を先頭に木虎とソラは門に向かう。
すぐに現場に着いた三人の前には6体のモールモッドが現れ、市街地に向かう動きをしていた。
「ソラが前に出て、俺たちは援護だ!」
「了解!」
『了解!』
嵐山の指示が出ると同時に、ソラはグラスホッパーを起動。彼の小さな体はグラスホッパーにより弾丸の様に射出され、モールモッドの目の前に着地。
そしてそのまま転身し右前足にスコーピオンを展開し、モールモッドが反応を示すよりも早く急所である目を切り裂く。
それに他のモールモッドが反応し──その隙を嵐山と木虎の弾丸が射抜く。此処でモールモッド達は挟み撃ちにされている事に気付くが──ソラの高速移動と斬撃、嵐山の銃撃、木虎の拳銃とスコーピオンを織り交ぜた格闘術によって瞬く間に蹂躙される。
『敵影無し。このまま警戒を続けてください』
「了解。二人とも、このまま巡回するぞ」
「木虎、了解」
『ソラ、了解』
モールモッドを倒した後、三人はそのまま警戒区域を巡回する。
その道中、嵐山を着いて行く木虎とソラは自然と並び歩く様になり沈黙が続く……かに思われたが。
「本当に、強いですね」
その沈黙を木虎が破った。
ソラは木虎には視線を向けず前を見続ける。嵐山も綾辻も何も言わない。
木虎だけが口を開く。
「正直、貴方に負けてショックでした──でも、それ以上に自分に腹が立ちました。見た目で判断し、相手の実力を見誤った。A級であるこの私が」
『……』
「でも、そんなの関係無いって嵐山さんの話を聞いて気付かされました……先日は無礼なことを言って申し訳ありません」
木虎は、考えて、嵐山の言葉に耳を傾けて、事実を飲み込んで──前に進むことを決めたらしい。
かつて、ソラに負かされた隊員たちの様に。
「それと、またランク戦を挑ませてください──その時は勝ちますから」
木虎の年上相手への対人欲求は「舐められたくない」。故にこのまま負けたままなのは彼女のプライドが許さない。
人によっては生意気なその態度を、ソラは──。
『──ああ。時間があればいつでも受けてたつよ』
とても嬉しそうな表情で受け止めた。
その声色を聞いて嵐山と綾辻をひっそりと笑顔を浮かべていた。
それから数度門が開いたが、彼らは問題無くトリオン兵を駆逐し、任務を終えた。
◯
任務を終えたソラは、寝床である自分の部屋に戻る。どうやら部屋には自分しか居ないらしく真っ暗だった。
『また残業か。体を壊さなければ良いが』
相部屋の男の事を思いながらそう言いながら、彼はトリオン体を解除する。
すると途端に眠気が彼の体を襲い、欠伸が出る。彼はそのまま敷かれた毛布に体を横たわせると目を閉じ……る前に、壁に飾られた写真を見る。
そこにはかつての彼の仲間……旧ボーダー達の写真があった。
何人も死んだ。何人も救えなかった。……何人もの仲間を想い、泣き叫んだ。
もう、あんな想いはしたくない。
だから彼は過去の自分に言い続ける。
「──きゃん!」
過去に後悔する前に、未来を変えてやる。
そう自分を奮い立たせるようにソラは一つ鳴き声を上げて──眠りについた。
彼の名前はソラ。
旧ボーダーからの古株であり、A級隊員であり──ボーダー唯一の人外隊員だ。
ちなみに犬種はチワワである。
チワワに薫陶を受けた二宮