TSっ娘が幼馴染男と子作りして雌落ちするよくあるやつ。   作:ソナラ

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※直接的な描写はありません。


1 隣には全裸の幼馴染が眠っていた。

 一人称って、個人を表現する上で凄い大事なもんだと思う。

 俺って言えばそいつは男だし、アタシって言えばそいつは女だ。

 男でアタシって言うやつも、女で俺っていうやつも、それはそれで個性だと思う。

 でもそれは、いわゆるマイノリティってやつで、多くの人間に受け入れられるものじゃない。それを貫けるほど、強い意志のある人間は、ごく少数だ。

 

 だから、二十年前まで“俺”は俺だったし、今の自分は、俺ではなくアタシだ。

 

 転生なんてものを経験したのが今からだいたい二十年前。

 前世で自分は男だった。一人称は俺、正直、どこにでもいる普通のオタク男子だったと思う。

 それが転生によって女になったなんて、創作の中じゃもう数えるのも飽きるくらいありふれている話で。

 でもまぁ、当事者になるなんて想像もしていなかった。

 当たり前だ、誰が転生もTSも起こるなんて本当に思えるか。

 その上で、TSという概念を知っていたとしても、受け入れられるかは個人の問題だ。

 

 少なくともアタシはムリだった。

 自分の性別って概念が無茶苦茶になって、周囲はアタシに女らしくしろというけれど、アタシは女より男だった方の時間が長い。

 言動なんて粗野なものだし、態度だってとても女とは思えない。

 唯一の妥協点として、自分を“アタシ”ということにしたのは、何ていうか周囲の抑圧に負けたのか、はたまたアタシ自身が多少は女であることを受け入れたのか。

 

 でも、どっちかというとそもそも、アタシは自分の性別というものを見失ったのだ。

 特に、今のアタシの職業に性別なんて関係ない、強いやつが正義、それが今のアタシが生きる世界だ。

 

 冒険者稼業。

 異世界に転生して、そこが剣と魔法のファンタジー世界だったらまず最初に思い当たるのはこれだろう。

 ダンジョンに潜ったり、討伐依頼や採取依頼を受けて、ランクを上げていく。

 最終的にはSランクと呼ばれる一番上のランクの冒険者になって、うはうはチートでアタシTUEE。

 実に安易だが、アタシが転生した世界はそれが当たり前の世界だった。

 

 実際に冒険者になるまでは色々と山あり谷ありのあれやこれやが合ったわけだが、なんやかんやの末にアタシは現在冒険者として活躍している。

 転生者特有のチート的なアレなのか、アタシの才能は非常に恵まれていて、今のアタシたちはAランク冒険者だ。

 拠点にしている街で知らない者はいない、天下無双の冒険者パーティである。

 

 総勢二十名程度、パーティとしてはそこそこ大きめだが、決して大きすぎるほどの規模ではない。

 メンバーは男女種族(この世界には人間以外にも様々な種族がいる)問わず、様々な連中が寄り集まって作られた、そこそこ歴史の長いパーティだ。

 

 んで、

 

 歴史が長いということはメンバーの付き合いが長いということでもある。

 それぞれにそこそこ気心の知れた相手がいるし、中には付き合っている奴らもいる。

 これが数人だけのパーティってなると恋愛は泥沼になりかねないが、このくらいの規模ならそれは自然なことだ。

 つまり、男と女が一緒にいれば、周囲はそういう目線で見てくる。

 

 だが、しかし。

 だけどなぁ、アタシは一つ言いたいことがあるんだよ。

 

 

「だからぁ! アタシとユースはそういうんじゃねぇつってんだろ!!」

 

 

 ダンッ、と勢いよくコップを机に叩きつける。

 中に入った酒が大きく揺れて、少し溢れた。あ、勿体ねぇ。

 

「大体なんだよてめぇら、アタシとユースが二人でいれば毎度毎度夫婦だなんだの囃し立てやがって! つうか見てみろよ、あっちで女連中に囲まれてちやほやされてるじゃねぇか!」

 

 とはいえ、ついて出た口は止まらない。

 酒がそうさせてくれない。

 思い切りがなり立てる、が周囲の視線がアタシに向くことはない。

 これくらいの叫び声、この宴の場においては当たり前の喧騒だからだ。

 

 アタシたちパーティは、大きな仕事を終えた。

 ダンジョン一つを踏破したのだ、これはとんでもなく凄いことで、偉業と言ってもいい。

 なのでこうして大宴会、祝勝会が開かれていた。

 今日は無礼講、ひたすら飲んで食って、騒いでも許される。

 しかも明日からは一週間の休みとくれば、もう騒がないわけにも行かないだろう。

 んで、アタシが何をしているかと言えば、周囲でアタシに対して色々言ってくる連中を切って捨てているところだ。

 

 ――アタシには幼馴染がいる。

 ユースリッド、名前負けしない金髪イケメンで、周囲の女性陣からは王子様だなんだと言われる完璧超人。

 アタシたちのパーティにおいて、最も剣の扱いがうまいと言われる程の達人で、前衛のエースだ。

 憎ったらしいことに、モテる。前世における“俺”がモテなかった分までモテてるんじゃないかってくらい。

 

 今もパーティのフリーな女子の大半があいつの側であいつをちやほやしている。

 恐るべきはあいつが、それをうまく受け流していることだ。

 誰か一人に偏った対応をすることは一切せず、全員に満遍なく気配りをしてみせている。

 何だあれ、モテるに決まってるじゃないか。

 羨ましい羨ましい、アタシもあれくらいできれば前世ではモテモテだったのに!

 

「あんなスケコマシのどこがいいんだ、ったく……」

 

 ぐびぐび、今日はとにかく酒が進む。

 アタシがそうやって、吐き捨てて話を切り上げると、周りの連中がやれやれと首を振る。

 何だよ、まだ文句あるのか?

 

「だいたいさぁ、幾らアタシとあいつが幼馴染だからって、当たり前のようにそれが恋人だなんだって行き着く方が飛躍しすぎだっての」

 

 ――こうやって、パーティにからかわれることは、これが初めてじゃない。

 どころか。アタシとユースはどういうわけかパーティに加入した当初からカップルとして扱われてきた。

 そりゃあ幼馴染として男女二人だけで冒険者を志すなんて、なにか無いほうが不自然かもしれないが、実際にうちはなにもないんだからしょうがないだろ。

 

 というか、まずもってありえないというか、アタシはそもそも恋愛とか興味ない。

 

「まずな? 恋愛ってのはお互いに意識し合う男女……じゃなくてもいいが、とにかく恋愛を意識してる人間が二人必要なんだよ」

 

 その点、アタシとユースの場合、まずアタシが恋愛に興味がない。

 前世が男だった影響か、そういう異性を意識する気分にならないのだ。

 そして元が男なら、女の子を好きになるかといえばそういうわけでもなく、このあたりは肉体が女性であるという部分が大いに影響しているのだろう。

 つまり、どちらにせよアタシがそういう気分にならないのだから、アタシとユースがどうこうなるってことはないってことだ。

 

 ユースの気持ちはどうなんだよって?

 そんなもん、今更確認する必要もないだろう。

 

「んで、ユースのヤツもアタシと十八年いて、さっぱりだ。あれだけ女にいい顔できるのに、アタシにはこれっぽっちもそんな様子みせないんだから、よっぽどだぞ」

 

 脈なんてないに決まってる。

 直接聞いたことはないが、あいつは女なら誰にだっていい顔をするやつだ。

 もし、少しでも、ほんの少しでもアタシに気があるってんなら、少しくらいアタシを女扱いしてみろってんだ。

 ま、そんなもんマジで願い下げだけどな。

 もしほんとにそんなことやってきたら蹴飛ばしてやる。

 

 ――――あ? 試しにあっちに絡みに行ってこいって?

 

「てめぇら他人事だと思って、適当言ってんじゃねぇぞ! ……だあもう、解った解った! 飲み比べで負けたら行ってやるよ!」

 

 と、アタシがいったところ、アタシを煽っていたメンバーの一人がどこかに行ってしまった。

 そして、なんとアタシたちのパーティのリーダーを連れてきやがったのである。

 おいちょっとまてそれは卑怯だろ!? リーダーは酒で酔わない体質なんだぞ、勝てるわけねぇじゃん!

 リーダーもなんかいってやってくださいよ、こいつらアタシに失礼なことばっかりいいやがるんだ。

 ……え? 受ける? ちょっとまって? あのリーダーが? 公明正大、堅実を名実ともに体現するあのリーダーが?

 

「…………やってやろうじゃねぇか!!」

 

 逃げるのか? と煽られたアタシに、飲み比べを断る選択肢はなかった。

 

 ――んで。

 

 

「おうおうユースちゃんよぉ! なぁにデレデレしてやがるんだちくしょー!」

 

 

 アタシはベロンベロンになりながらユースに絡んでいた。

 周囲の女どもが、なんというか苦い顔でこちらを見てくるのがわかる。

 うるせぇ、アタシは悪くねぇ、アタシを酔わせてここに差し向けたあっちの連中が悪いんだ。

 ま、今は酒が入って気分がいいからどーでもいいんだけどなーーーーー!

 

「女連中をまとめて囲いやがって、アタシも女だぞ? ちっとはちやほやしろよチクショー!」

 

 ふふーん、と勢いよくあいつが座る席の一角を陣取る。

 いやー酒が入りまくって気分がいい、アタシ、今何を言ってるんだ?

 

「……酒臭いよ、リーナ」

 

 それまで、へらへらへらへらへらへらへらへらしてやがったイケメンの顔が呆れ顔に変わる。

 ほーらこれだ、すぐこれだ、こいつは女の扱い方が解ってるのに、なぜかアタシのことは適当なんだ。

 

「うるせー! それが女にかける言葉かよ!」

「だったらもう少し女扱いされる立ち振る舞いを身に着けてほしいんだが……ほら、皆が困っている」

「アタシがちやほやしろってのに、周りを気遣うとかいい度胸だなぁおい!」

 

 はー、なんかもうなんでもいいや。

 視界がぐるぐるしている、目の前にいるのがユースなのか自分なのかもはやわからん。

 

「顔が近い。息が酒臭すぎる。女の子がしていい顔をしてない」

「うるせー!」

「――むぐっ!」

 

 おらー、酒を注ぎ込め、こいつは普段自分が飲める量しか呑まないんだ。

 飲んでも呑まれるなとかそんなこといいやがる真面目ちゃんにはこうだ、おらおら!

 

「……っ、おいリーナお前なぁ」

「あ、怒ったか? やるか? 飲み比べなら付き合うぞ?」

 

 けらけらけら。

 ははは、もうなんかなーんもわかんねーや。

 たのしー、

 

「って、リーナ……リーナ? おい、リーナ!?」

「ひゃー」

 

 ――ぱたり、なんか、誰かに受け止められた?

 倒れそうだったけど、途中で止まった感じ。

 なんだこれ、どうなってんだ?

 

 うーん、ダメだわからん。

 

 おやすみ、アタシはここまでだ。

 

 

 ▼

 

 

 ――もぞもぞ。

 頭が死ぬほど痛い、昨日は結局飲みつぶれたってことだろう。

 布団に入ってるってことは誰かが部屋までアタシを運んだってことだ。

 リーダーかアンナかな? 後で礼を言っておかないと。

 

 っていうか、途中から完全に記憶がない。

 リーダーに酒をしこたま飲まされたことは覚えてるんだけどなぁ。

 いやなんで飲まされたんだっけ?

 

 まぁいいや、今日は休みとはいえ、遅くまで寝ているとアンナに文句を言われる。

 朝食くらいは、さっさと起きていただくとしますか。

 

 なんて考えて、ゆっくりと起き上がった。

 

 

 ちらりと、視界の端に合った鏡に、全裸のアタシが映っていた。

 

 

 ……あれ?

 なんで何も着てないんだ?

 

 鏡には、前世の“俺”基準で見てもそれはもうとびっきりの美少女が映っている。

 自慢ではないが、容姿はすごくいい、ユースにだって負けていないくらいのパツキン美少女だ。

 ちょっと胸は薄いが、すらりとしたスレンダー体型、髪は適当にざっくり切っているが、それでも絵になってしまうくらいキレイだ。

 実は若干エルフの血が入っているアタシは、容姿が常に最高の状態でキープされるというパーティの女性陣から滅茶苦茶うらやまれる特性を有している。

 

 おかげで、今日もアタシは美少女だ。

 20にもなって、未だに美少女って表現が似合ってしまうくらいに小柄なのは悩みどころだが、まぁそれはそれとして。

 ――ともかく俺は服を着ていない。

 っていうか、なんか変な匂いがする。

 どっちかというと不快よりの……どこかで嗅いだことのある匂い。

 どこだっけ?

 

 とりあえず、服を着ようってことで、布団をひっぺがして立ち上がろうとした、その瞬間。

 

 

 ――ずきり、と股から痛みがする。

 

 

 ――――思考が停止した。

 痛みもそうだが、なぜか布団には血痕が付着している。

 というか、布団を引っ剥がして解った。

 

 

 アタシの隣に、全裸のユースが眠っていた。

 

 

 ……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………これって。

 つまり、あれ?

 一夜の過ちとか、そういうやつ?

 

 

 …………うっそだぁ。

 

 

 …………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………いや、でもまぁ考えてみると、女になったんだからいずれはそういう時もあるよな。

 とりあえず……シャワー浴びるか。

 ベタベタする体にため息を吐きながら、アタシは部屋に備え付けられたバスルームへ向かうのだった。




自称雌落ちしてないTS転生娘が、自分の雌落ちと向き合って受け入れる話です。
本編開始時点での雌落ち度は自己評価で20%、実際は50%くらいです。
なお世界観はよくあるステータスとかスキルとかあるライトな異世界ファンタジーです、よろしくおねがいします。

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