TSっ娘が幼馴染男と子作りして雌落ちするよくあるやつ。 作:ソナラ
昔のことを思い出していた。
ユースと花畑で出会って以来、アタシたちは定期的にそこで会って遊んでいた。
「よ、ほ、と――どうよ」
くるくると、器用にレイピアを振り回して見せる。
やることと言えば、主にユースによる剣の手ほどきと、アタシの魔術披露だ。
ユースと出会って数年、ようやくアタシは魔術を習えるようになった。
そりゃ魔術は下手すると誰かを傷つけてしまうのだから、ある程度分別がついてから教えるのは普通なんだろうが、こちとら転生者である。
幼いウチから学習を初めて、習い始めるころには教師なんていらない……くらいのチートは体験したかった。
そういう意味では、ユースは幼い頃から剣術を学べて羨ましくはある。
「うん、体幹が凄いしっかりしてきた。リーナは筋が良いね」
「筋がいい、じゃ困るんだけどな」
アタシの目標はユースなので、ちょっと才能があるくらいじゃ困る。
とはいえユースの評価は的確で、実際それから練磨を続けたけど、未だにユースに剣術で勝てたことはない。
魔術を織り交ぜて、お互い本気でやるなら五分に持ち込めるだろうか、といったところ。
こと、何の小手先も使わないただの剣の競い合い、技量のぶつけ合いでアタシがユースを上回ることはついぞなかった。
逆にユースは魔術が全くと行っていいほど使えないのだけど。
そもそも、冒険者としてアタッカーを目指すならそこまで魔術を学ぶ必要はないから、それで問題ないのだ。
アタシみたいにオールラウンダーになる方が普通ではない。
「僕には剣しかないけど、リーナには剣も魔術もある。それって凄いことだと思うけどね」
「解ってるって。でもやっぱユースの剣はすげーからさ、どうしても目指したくなっちゃうんだけど」
「目標にされるのは……嬉しいけど」
照れるな、とこぼして視線をそらしたユースが可笑しくて笑う。
「何さ、なにか文句あるの?」
「べっつに、おかしなヤツだよなーって。アタシみてーなのに褒められて喜ぶなんて、随分酔狂だ」
「いや君は……その、……えっと」
「あ? 何だよ」
ボソボソと何かを口にするユースに、マジで何いってんだと返す。
ただ、そんなユースの顔をみているとどーしてか、これっぽっちも、微塵も理解できないが――アタシはそのことを口にしなくては行けない気がしたんだ。
「……そういえばさ」
「どうしたの?」
伝えなくてはならないことがあった。
いや、伝えるべきではないことなのかもしれないけれど、どうしても伝えるべきだと思ったことがあった。
アタシは、ある意味そこで初めて決断したんだ。
その行動の意味が、前世男の自意識故に理解できなかったために、
「――婚約者が出来たんだ。父様が決めた」
そう告げた時の、ユースの顔を、アタシは絶対に忘れないだろう。
呆けるような、悲しむような、絶望するような、そして、
「……そっか」
そう呟いた時の、どこか覚悟したようなユースの顔を。
アタシは明日、その婚約者と初めて顔合わせをすると伝えた。
そして、その日の夜。
ユースによって、アタシはアタシの家から連れ出された。言ってしまえば、誘拐である。
いや、驚いたね。
目を覚ましたら、おもっきし武装したユースが窓を叩いてたんだから。
アタシを連れ出して逃げたユース、アタシはもはや何がなんだか解らないまま走っていた。
こいつがロック野郎なのは重々承知していたが、こんな事をするとは思っても見なかったんだ。
というか、こんな事をする理由が解らない。
何より――
下手したら死罪とか言われかねないことを、こいつはしているのに。
どうして、ちょっとうれしそうに笑ってるんだ?
「はぁ……はぁ、ユース、ストップ、ストップ……これ以上はムリだ!」
「……解った、ちょっと休憩にしよう」
そう言ってアタシとユースは立ち止まり、あたりを見渡した。
月明かりに、アタシとユースの秘密基地である花畑が照らされていて、そこは普段とは少し違った光景になっていた。
なんていうか、不思議な感じだ。
ここはいつだって、アタシ達の場所だったのに、そのときだけはどうにもそれだけではないような気がして。
美しい景色を目に入れながら、アタシは隣に立つユースに視線を向けて問いかけた。
「なぁユース。どうしてこんな事をするんだ? お前にこんな事をする、意味も理由もないだろ」
「な、そ、それは……僕が……君を……」
「はぁ? 何いってんだ?」
「…………君が!」
アタシがブツブツ言うユースに、わけがわからないという反応を見せると、ユースは諦めたように首を振った。
なんだよ、と思うがまぁ、今になって思えばクソボケだったのはアタシの方で。
こんなアタシを好きになった当時のユースが、少しだけかわいそうになるな。
とはいえ、ここで素直になれないあいつにも問題があると思うのだが、どうだろう。
「君が、婚約者の話をした時、すごく悲しそうだったんだ!」
「……は? アタシが?」
「そうだよ! 僕の勘違いかもしれないけど、でもそう思ったら、いても立ってもいられなくて……」
やがてしどろもどろになっていくユース。
それが、どうにもアタシは――
「……ぷ、あはは」
可笑しくて、笑ってしまった。
「笑わないでくれよ! こっちは本気なんだ!」
「悪い悪い。いや、それでここまで無茶をするってのも、ユースらしいっちゃらしいかもしれないけどさ」
とにかく、悪い気分ではなかった。
むしろ愉快痛快、最高に楽しかった。それまでアタシを縛っていた鎖を、こいつが引きちぎってくれたのだから。
でも、やっていることは余りにも幼稚で。
こんな花畑に逃げ込んだら、見つけてくださいと言っているようなものじゃないか。
ああしかし、だからこそアタシは、そんなユースに希望を見たのだ。
「んで、これからどうするんだよ」
「……今考えてる」
「おいおい、しっかりしてくれよな。お前が始めたことだろ?」
こいつは優等生みたいな面をしながら、やることと言えばこんな無鉄砲極まりない蛮行だ。
だからこそ、きっとユースなら、アタシの今を変える何かを持っていると、信じていたんだ。
それはきっと、やがて“好き”になる想い。
“愛”と呼ばれる、暖かな花束だ。
――――でも、それは、
幻想に過ぎなかった。少なくとも、このときは。
「――――――――危ない!」
でも、そんな幻想は、まやかしとして切って捨てられる。
気がつけばユースは、アタシを庇って――魔術によって作られた風の刃に、貫かれていた。
▼
驚くべきことに、このユースの暴走は結果としてアタシを救うことになる。
なんとアタシと婚約しようとした連中が、悪いやつだったのだ。
大胆にも婚約者としてお目通りがかなったその日に、アタシに変な細工をしようとしていたらしい。
そんな大それた計画を見抜けないとか、お父様も大したことないですわね、と思うものの無理からぬこと。
仮にも一国の公爵令嬢に、それと釣り合うレベルの家格の家がそんな大胆な手をうつはずがないという盲点をついての、決死の賭けだったのだから。
むしろ相手を褒めるべきで、父様には同情するのが正しい反応だと思う。
もっと言えば、そいつらのしようとしていたことは、父様が絶対に周囲へバラさないよう秘密にし続けてきたアタシの秘密にまつわるものだったから、父様もまさかと思ってたわけだ。
どうやって見抜いたかって? 聞いて驚け“当てずっぽう”だそうだ。
まぁ、本当にあてずっぽうなのかは定かではないが、少なくとも事件を起こした貴族は最後までそう主張していたのだから、そう言うしかあるまい。
裏にある思惑はさておいて、この場において大事なのは、そんな大仕事を決行する前夜、
自分たち以外にも、アタシを狙う誰かがいたのかと焦ったそいつらは行動を起こした。
結果として、花畑に逃げたアタシとユースに追いつき、アタシを捕獲するために行動した。
何というか、今聞いてもそいつらの行動はバカじゃねぇの、と思う。
あまりにも無防備で、荒唐無稽。だが、しかし。
結果を見ればー―よりバカだったのはユースの方だ。
本当に、アタシはそんなバカに救われた。
ーーでも、その時はまだ、アタシ達はそんなことつゆとも知らず。
そいつらに狙われたアタシを庇って倒れた、というのがその時のユースだ。
致命傷である、急速に弱っていくユースと、突如目の前に現れた謎の敵。
それまで、アタシはどこかこの世界にいることを夢見心地でいた。
転生なんていう不条理を経験し、男から女になって、この世界が現実であることを認識する前にユースと出会った。
物語の中から飛び出してきたかのようなそいつに、アタシは憧れて、
なんてことはない、バカで愚かな、男とも女とも言えない、現実を見ていない異常者の末路である。
だから、目の前でユースがアタシを庇って死にかけた時、そんな幻想は木っ端微塵に打ち砕かれた。
「――なんだよ、どうしてユースが死ぬんだよ。なぁ、ユースは凄いやつなんだろ。アタシの憧れなんだろ? こんなところで死ぬはずないよな。こいつらをぶっ倒して、アタシと一緒に逃げてくれるんだよな?」
夜、驚くほど静かな満月の晩。
倒れ伏して血を流すユースと、それを抱えるアタシ。
周りの連中は、油断なくアタシたちを見下ろしている。アタシが何かをすれば、即座にユースを殺すだろうことが見て取れた。
こいつらが動かないのは、こいつらの目的がアタシだからだ。
アタシに死なれたら困るから、あくまで警戒にトドメている。
しかしそれが、アタシにはユースをあざ笑っているようにしか見えなくて。
「何見てんだよ……何笑ってやがんだよ! 見世物じゃねぇ、ユースはそんなんじゃねぇ!」
叫ぶ。
みっともない、余りにもみっともない。
ユースを見世物のように扱って、自分とは違うんだと思ってたのは誰だ?
――アタシじゃないか。
「第一、ユースは負けてねぇ、てめぇらの卑怯な不意打ちにやられただけだ。ユースはな、てめぇらなんかより強いんだよ!」
叫ぶ。
どうしようもない。余りにもどうしようもない。
ユースに勝手な期待を押し付けて、ユースにこんな事をさせたのは誰だ?
――アタシ以外に、ありえないじゃないか。
愚か。
余りにも愚か。
――ユースがこんな事になったのは、全部アタシのせいだってのに、八つ当たりにも程がある。
「なぁ、ユース……アタシが悪かったからさ……目を開けてくれよ。またあの時みたいに、パッと立ち上がって、すげー動きでこいつらを倒してくれよ。……あの時と違って、今ならアタシもそれを手伝えるからさ」
空を見上げて、ぽつり、つぶやく。
「ああ、キレイだ。キレイだよ、夜の花畑はアタシ達が知ってる花畑とは、また違った。また、こんな風にきれいな場所で、アタシはアンタと剣をふるいたかった――」
そして、今にも泣き出しそうな瞳を鋭く細めて、その情動を怒りに変える。
「――なぁ、もしもアタシをここに連れてきて、笑ってるやつがいるなら。こんな巫山戯た結末、認めるんじゃねぇよ」
そうだ、もしもアタシが転生したことに意味があるなら。
ユースとの出会いが、運命だっていうのなら。
「それができないなら! クソみたいな絶望も! アタシを縛る鎖も全部! 引きちぎって!」
――直後。
花畑から、白金の光が漏れた。
一瞬にして、漆黒に塗れた月下の花畑に、幻想的な光が灯る。
アタシを中心にして、爆発的に広がっていくのだ。
――まずい、と敵は思ったのだろう。
即座に武器を構えたり、魔術を行使したりするが、手遅れである。
そのことごとくを、アタシ達を覆う、白金の光が弾いてしまうのだから。
「運命を、ぶっ壊してやる!!」
そして、その時。
致命傷を負っていたはずのユースが、目を開いた。
アタシは、自分の中から湧き上がる形容しがたい情動に身を任せていたから気が付かなかったが。
その時アタシを目にしたユースははっきりと覚えていたという。
奇跡を起こすアタシの瞳は、アタシからあふれる光と同様に、
▼
――――その時、初めて行使したそれこそが、アタシのオルタナティブスキル。
そして、アタシが命を救うためにスキルの“対象”としたのが、ユースだった。
アタシのオルタナティブスキルは非常に特殊だ。
まず最初に対象を決める。何の対象かといえば、
そう、アタシのオルタナティブスキルは他人のスキルを書き換えて、自分と同じスキルにしてしまう効果がある。
そしてその対象は一度決めれば、生涯永遠に変える事ができない。
ある意味で、とんでもねぇプロポーズだ。
もちろん、当時のアタシはそんなこと知るよしも無かったが。
ともあれ、そうして目覚めたスキルは非常に強力だ。
なにせ二人分のスキルなのだから。
ただでさえ人智を超えた力を有するオルタナティブスキルが、更に強力となる。
他でもない、アタシ達にしかない利点である。
そしてその効果は、とても単純。
互いに剣を構えたアタシとユース。
ユースの掛け声によって起動したスキルによって、二人の剣が白金に光る。
効果時間は、凡そ十秒。
アタシたちは即座に飛び出して、戦場を駆ける。
やることと言えば非常に単純だ。
まず、ユースが敵を切りつける、今の敵――<国喰い>はリーダーのオルタナティブスキルによって引き止められ、身動きが取れない。
ユースならば、それは容易だ。
続けて、アタシが<国喰い>を一突きする。
ユースが一撃を入れた直後ということもあってか、激しく<国喰い>が動くために、狙いづらいが構わない。
「――オオオオオオオオッ!!」
叫びとともに、アタシのレイピアが<国喰い>に突き刺さった。
直後。
国喰いが突如として影に染まって、消えていく。
これこそ、アタシとユースのオルタナティブスキル。
まず、ユースの剣には今、
そしてアタシのレイピアには、
よって――ユースの剣によって確率による即死の可能性が生まれた敵に対し、アタシが一撃を入れることで、その確率が確定する。
即ち、アタシ達のスキルは言うなれば
もちろん、確実に剣を当てなくては行けない以上、リーダーのスキルなどによる足止めは必須。
更にAランク以上のモンスターはある程度ダメージを与えないと即死効果そのものを無効にする特性が備わっているため、ダメージ蓄積も必要だ。
結果として、使用はこのタイミングしかない状況だった。
その上で、このタイミングにさえ持ち込んでしまえば、アタシたちは絶対に即死を成功させる。
また、ユースの方は即死ではなく昏倒も選べるので、人間相手に使う時も安心だ。
これが、アタシ達のスキル――
「――オルタナティブスキル」
「“死がふたりを分かつまで”――」
かくして、
アタシとユースは隣り合ったまま剣を振り抜いて、戦闘の勝利を宣言した。
主人公以外が持ってると噛ませにしかならないけど主人公が持つと絶対的な切り札のなるタイプの必殺技です。
もちろんある程度外したりもしますが。