TSっ娘が幼馴染男と子作りして雌落ちするよくあるやつ。   作:ソナラ

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13 思った以上にアイツらはバカだったんだ。

 そこは、暗闇だった。

 なにもない暗闇で、アタシはなにかに締め付けられるような感覚を覚える。

 <国喰い>に飲み込まれた結果、影に取り込まれたようになったのだろう。

 モンスターは邪神の手先、らしいが、そのモンスターがどこから来るのかはよく解っていない。

 もしかしたら、こんな暗闇から、あいつらは這い出ているのかもしれないな。

 

 ……それはそれとして。

 

「――なぁ」

「なんだい、リーナ」

 

 アタシは、

 

「なんでここにいるんだよ!?」

 

 アタシを抱きしめて離さない、金髪色男ことユースを見上げた。

 畜生、何か身長差のせいでアタシが子供みたいだ! 同い年だぞ同い年!

 発育の違いに文句を言いたいところだが、今はそれどころではない。

 

「なんでもなにも、リーナが何かに気付いて動いただろう」

「ああ、周りに話す余裕もなかったけどな」

「そしたら、僕の体も勝手に動いてた」

「どうなってんだ人体!?」

 

 と、驚いたが。

 思い返せばアタシも人のことは言えない。

 リーダーが飲み込まれた直後、それを見たユースが声をかけてきたが、アタシは声をかけてきた瞬間、反射的に動いていた。

 それと同じだ。

 常にふたりでいすぎた結果、相手が考えるよりも先に行動を起こせてしまう。

 

 何だそれ、微妙に気持ち悪いぞ!?

 

「――とはいえ、おかげで助かったみたいだな」

「っていうと?」

「こいつは、アタシ達を飲み込もうとしてる。でも、うまくいってない」

 

 リーダーを飲み込んだときもそうだったが、こいつは一人の人間を飲み込むことに特化している。

 だからユースが突っ込んで二人まるごと飲み込まれてしまったせいで、こいつは機能不全を起こしているんだ。

 

「とすれば、時間に結構猶予があるね」

「その間にどーするか考えるか」

「――――いや」

 

 アタシの言葉を、どういうわけかユースは否定した。

 

「何だよ、外じゃ大騒ぎだろうぜ? 第一、この猶予もいつまで残ってるんだか」

()()()だ。彼らなら絶対に僕たちを救い出してくれる」

「……すげぇ自信だな」

 

 だったら、アタシ達はただ助けを待ってるだけでいい、ってか?

 もしそうできたなら、どれだけ救われることか。

 

「だから、僕たちはその時間を有効に使おう」

 

 ――ふと、ユースの声音がアタシを安心させるためのものから、真面目なものへ変わった。

 少しだけ声のトーンが落ちる。

 静かな、決意に満ちた声だ。

 

「ここなら、誰も見ていない。君に幸運を与えた神様だって、邪神の影の中までは見張ってはいないさ」

「――それって」

 

 それは、

 アタシの奥底に眠り続けてきた、一つの問題に対する、応えを求める声でもあった。

 

 

「――あの時の続きの話をしよう、リーナ」

 

 

 ▼

 

 

 あの時。

 それが何か言われるまでもなくアタシは解った。

 初めてオルタナティブスキルを使ったときのことだ。

 いや、正確に言えば夜空の花畑での覚醒が一回目なのだけど、明確にスキルとして行使したのは、Bランク昇格の時。

 ちょうど先程回想していた、あのときのことだった。

 その時、こいつはアタシに言ったんだ。

 

「今はまだ、答えを出さなくてもいい」

 

 ――と。

 アタシが誰かに迷惑をかけてしまう体質であること。

 そのせいでアタシ自身が周囲から遠ざかりたいと思っていること。

 

 でも、その結論を出すのは後でいい、棚上げしてしまおうとユースは言った。

 

 とんでもない話だ。

 それから先も多くの事件を起こしていって、その度に誰かを幸せにしたり、試練を与えたり。

 でも、何かを失うことはなかった。

 もし誰かが死んでしまったら、その時に改めて結論を出す。なんていうのは余りにも無責任な発想だが、

 

 やれてしまった。

 守れてしまったから。

 アタシはずっと先送りにしてきていた。

 

 それを、今回の一件で精算しようとユースは言う。

 果たしてアタシは、あの夜ユースになんと言ったのだろう。

 一度結論を出せていたのか。

 でも、そのときは酔っ払っていて、理性なんて働いていない。

 殆どその場の勢いだっただろうことは想像に難くないのだから。

 

 今、この瞬間とはわけが違った。

 

「――アタシは」

 

 なんとか言葉をこぼそうとして、口を開いて失敗する。

 そこで詰まった。ユースは何も言わずアタシの言葉を待ってくれるが、アタシはとてもじゃないが次なんて出てこない。

 ああ畜生。

 ちょっと前に進んだつもりでも、結局これなのかよ。

 

 いやでも、あの時言えなかったことで、今なら言えることが一つだけある。

 これだけは今のアタシでなければ言えないことだ。

 

「……怖いんだ」

 

 そう、怖い。

 余りにも単純に、どこまでも純粋に、ただただ怖いという感情だった。

 

「誰かを傷つけるのが怖い。自分の引き起こしてしまう事態が怖い。何より――」

 

 見上げる。

 

「――お前を失うのが、怖いんだ」

 

 びっくりするほどそれは、アタシの口からするっとこぼれ落ちた。

 ……何だよ、こんなに簡単に言えるんじゃないか。

 もっと早くに気付いていれば、こんなに長く悩むこともなかっただろうに。

 

 今はただ、こいつがアタシを抱きしめてくれていることが嬉しい。

 こいつの温もりが、生きているんだという証明が嬉しい。

 

 でも、そんな嬉しいに勝ってしまうくらい、今は怖いって感情が強い。

 何だよアタシ、まるで女の子みたいじゃないか。

 二十にもなって、前世から数えたらもうだいぶおばちゃんな年齢になって。

 いや、そもそもおばちゃんなんて、素直に自分を思えてしまうなんて。

 

 もう、前世からだいぶ遠くまで来たんだってことを、否応なく突きつけられているかのようだった。

 

「なら、簡単だ」

 

 ユースは、アタシを抱きしめながら見上げた。

 上を、なにもない暗闇の中で、ただ上を見上げた。

 そこに何かがあるのか? 目を凝らしても何も見えない。

 まるでアタシの心みたいに靄がかかっている。

 きっとこいつなら、ユースならそれが見えているんだろう。

 こいつは、目も他人よりいいからな。

 

「その怖さを、簡単に拭ってくれる方法を、僕は知っている」

「それは……?」

「それは――」

 

 ユースが、何かを確信して笑みを浮かべる。

 そして、

 

 ――――そして、

 

 

 ▼

 

 

「――リーダー! 二人が飲み込まれて!」

「落ち着きなさい! 解ってるわ、焦らないで、あの子達はまだ死んでない!」

 

 リーダーの叫びと、混乱するパーティの仲間たち。

 それを落ち着ける意味もあってか、リーダーはユースとリーナの生存を叫んだ。

 

「影の蛇ちゃんが二人を飲み込んだ後動かない。これは、二人を消化できてないってことよぉ! アタシも呑み込まれたから分かるわ!」

「じゃ、じゃあ……どうします、か?」

 

 ソナリヤが、パーティメンバーとしてリーダーに問いかける。

 今すぐにでも動けるということを示すように、武器である杖を構えるが、残念ながらソナリヤにできることは少ないだろう。

 単純に、彼女がアタッカーではないからだ。

 

「選択肢としては、このまま攻撃を仕掛けるか、相手の情報を分析して攻略法を探るか、よ」

「……俺たちには、難しい」

「そういうの得意な二人が、呑み込まれちゃってますよぉ」

 

 このパーティは、仮にもAランク、冒険者の頂点だ。

 だからこそ、誰もが愚かということはない。

 むしろ頭の回転は早く、地頭だってよかった。

 

 ただ、情報の分析と考察という分野において、リーナとユースを越えるメンバーはいない。

 ユースは誰よりも直感が鋭く、観察力が高い。

 リーナはあの粗暴さから想像もつかないくらい、分析力が高い。

 彼女が公爵令嬢であることをリーダーは知っているが、その育ちの良さだけではない何かがリーナにはあるとも、リーダーは思っていた。

 

「時間はなさそうね……」

 

 <国喰い>の挙動はリーナの想定を越えたものだった。

 伝聞に残っていた、形態の変化とはこの事を指すのだろうが、この影にはそれ以上の何かを感じる。

 ここまでの大きな変化が情報として残らないことがあるだろうか。

 何よりリーナとユースのスキルを食らった後に動いているというのも、怪しさが勝る。

 本来なら、アレで決着のつかないモンスターはいないのだから。

 

 最悪、すでにS級に近づいている、という見方もできる。

 だとしたら――決断には。責任が伴う。

 それを解っているからこそ、リーダーは果断にも選択する。

 躊躇は一瞬すらなかった。

 

 だが――――

 

 

 それよりも、早くに動いたバカが一人だけ、いた。

 

 

「――“獄炎よ”!」

 

 リーダーが決断するよりも、早く。

 それまで、沈黙を保っていたアンナが、詠唱を終えて魔術をぶっ放した。

 

「アンナちゃん!?」

 

 詠唱の長さを考えれば、二人が呑み込まれた瞬間から詠唱を開始していたのだろう。

 即断即決。

 悩む暇すら、存在していなかった。

 

「リーダー! 何迷ってるんですか!! 二人が閉じ込められてるんですよ!」

「そ、そうね……全員攻撃準備、多少のリスクは承知の上、二人を救い出すわよ!」

 

 ――この場に二人が揃っていないなら、パーティにできることは純粋な力押しだけ。

 それは解っているが、周囲に落ち着く時間を与えるため、自分の決断のために、リーダーは時間を使った。

 アンナは使わなかった。

 お互いの選択はズレていない。ただ迷わなかっただけの違いだ。

 

「……私は、正直リーナとユースが抱えてるものなんてわからない」

 

 続けて詠唱に入りつつ、アンナが口に出す。

 詠唱とは、一種の精神統一であり、集中を重ねれば言葉は不要だ。

 今のアンナは――そういったモノが最小限で問題ないくらい、静かで苛烈な精神状態にあった。

 

「あの二人が、他と違うってことくらいは分かる。でも、正直気にならなかった。二人は私の親友なんだもん!」

「アンナちゃん……」

「二人は、覚悟を決めて仲を進展させた。リーナは何も考えてないかもしれないけど、ユースは絶対すごく覚悟が必要だったと思う」

 

 アンナがリーナとユースをどう見ているのかが、端的に知れる一言だ。

 そしてそれ故に、二人を信頼していることが伺える。

 仲間たちは戦闘態勢に入りながらも、その言葉に聞き入る。

 

「だったら、次は私達の番だ!!」

 

 そして、言葉の端で進めていた詠唱が完成し、

 

「“風刃よ”!」

 

 次なる魔法が飛び出す。

 

「リーナが、自分の幸運体質で悩んでるなら、私達が支える! それで誰かを傷つけてしまうなら、私達が守る! リーナ一人じゃ、いつか誰かを傷つけちゃうかもしれない、でも!」

 

 鋭く影をにらみ。

 捕らえられた親友を思う。

 

 

「ここには、私達がいる! 私達がいる限り、リーナには誰も傷つけさせない!!」

 

 

 それは、あまりにも単純な決意だ。

 ある種絵空事に思える発言だ、だとしても。

 

「その幸運が、リーナ自身も傷つけてしまうなら、私はリーナだって絶対に守る! リーナがいつまでも、笑顔でいられるように、ユースと一緒に、いられるように!!」

 

 そして、

 

 

「――オルタナティブスキル!」

 

 

 自身の切り札を、ここで起動させる。

 

「――皆、聞いたわね。アンナの言葉に反論は? ……異議なし、よろしい! ではこれよりアタシ達はぁ!」

 

 大きく、声を荒げながらリーダーは、満面の笑みとともに宣言した。

 

 

「リーナリアとユースリッド、二人を支え、守り続ける覚悟を決めるわぁ!」

 

 

 そして、一気に状況は動き始めた。

 

 

 ▼

 

 

 ――――上から飛んできた言葉は、アタシ達に正確に届いていた。

 アンナの言葉も、リーダーの言葉も、アタシ達を心配してくれる仲間たちの様子も。

 

 全部、届いていた。

 

「……なんだよ、バカじゃねぇのかあいつら。絵空事もいいところだ、あんなこと」

「バカで結構じゃないか。楽しいバカは、君も嫌いじゃないだろ?」

「そーだな」

 

 ――直後、激しい揺れが影を襲う。

 

「うぁっ!」

「アンナのやつ、派手にぶちかましたな……」

 

 純粋な破壊力で言えば、間違いなくパーティ最強と言えるアンナのオルタナティブスキル。

 それが影にぶっささったのだろう、身悶えする影となった<国喰い>の感情がアタシ達にも伝わってくる。

 っていうか、

 

「呆れながらアタシを抱きしめるんじゃねぇ!」

「いや、変に手を放すほうが不安だろ、この中」

「そうだけどさぁ……こっちの感情とか、色々あるだろ……」

 

 ぶつぶつ。

 

「じゃあ逆に言わせてもらうけど」

「な、なんだよ」

 

 と思ったら、向こうがぐいっと顔を近づけてきた。

 本当になんだよ!?

 

「――僕の思いを、君は一度も聞いたことがないだろ」

「……あ?」

「君は僕を一方的に巻き込んだと思ってる。僕がこうなったのは君のせいだと思ってる」

 

 う、うん。

 それはそうだ。

 アタシがいなけりゃ、こいつはこんな風にアタシに巻き込まれて死にかけてないだろ。

 ユースは天才だ、あれだけ剣の腕がありゃ、どこでだってやっていける。

 

 なんて、思っていたアタシに、

 

「じゃあ、僕の思いを聞いてくれ。それが君の責任ってもんじゃないのか?」

 

 そう、ユースは詰め寄ってくる。

 ああ、なんというか。

 

「…………うん」

 

 今回ばかりは拒否できない。

 逃げることすらできない。

 

「……ぁ」

 

 ――アタシを掴む腕が、また強くなって。

 アタシは、少しだけ嬉しさと緊張で、か細い声音を伴った吐息を、漏らしてしまうのだった。


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