TSっ娘が幼馴染男と子作りして雌落ちするよくあるやつ。 作:ソナラ
――私、アンナ・ライネはリーナのことが好き。
大切な親友で、絶対に失いたくない大事な人。
けれど、私は彼女から多くのものをもらって、何も返せていない。
リーナが、他人を幸せに“してしまう”体質であるということは、なんとなく知っていた。
私は素直にそれを凄いことだと思うのだけど、どうやらリーナはそのことで悩んでいるらしい。
リーナの幸福は、まずその幸福を得るための試練みたいなものが訪れて、それを乗り越えることで手に入れるらしい。
なんというか、世の中一方的に幸福を受け取ることのできる人間はいないんだな、と思うけど、もしもその試練で誰かが死んでしまったら、リーナはずっとそれを悔やむんだろう。
でも、そもそもリーナの体質って、どこからどこまでが影響しているんだろう。
私達が体験してきた冒険の中で出くわしたトラブルの全部がリーナによって引き起こされているのだとしたら、まるで私達はリーナがいないと、何の刺激的な冒険もできないみたいになっちゃう。
だから、
確かにリーナには、人とは違う特性があって、その御蔭で誰かが幸せになったりするかもしれない。
でもそれは、あくまで結果に過ぎない。
私達の冒険は私達の選択と、私達の行動によって作られている。その後押しをしてくれるのがリーナの幸運なんだとしたら。
少なくとも、私はしっくり来た。
一つだけ、不安なことがある。
リーナが誰かを幸運にする度に、リーナは不幸になってしまうんじゃないかってことだ。
皆を幸運にするリーナが不幸になるなんて、そんなの絶対認めない。
私はリーナに返せてない。
リーナの幸福を見届けていない。
なのに不幸になるとか、許せない。
初めてであった時、私がリーナに感じたのは“小さい”という単純な感想だった。
でもそれは、ただ背丈が小さいというだけでなく、リーナ自身が、どこか世界に対して縮こまっているところがあるような。
人を遠ざけているような雰囲気を感じたからだ。
多分、リーナ自身はそんなつもりはないと思うけれど、リーナは怖がりなところがある。
自分で何か大きな決断をすることを怖がっている。
――でも、考えてみれば当たり前だ。リーナの行動は幸運と試練を呼ぶ。
それが誰かを傷つけてしまうことを恐れるあの子が、そういう思考に陥ることは不思議なことじゃないと思う。
けれど本当のリーナはそんなんじゃないのだ。
明朗で、快活で、笑顔がすっごく可愛くて、何より男の子みたいにかっこよくて。
そんなリーナだから憧れて、私はリーナと一緒にいたいと思ったのだ。
だから、
「――リーナはさ、やりたいことってあるの?」
ある時、私はそんなことを聞いたことがある。
リーナは髪をセットせずに適当にしていることが多いから、私としてはそれをセットして、キレイなリーナを多くの人に見てもらいたい。
別に、リーナは髪のセットができないわけじゃない。お化粧は適当だけど、髪のセットは幼い頃から多少心得があるそうで、やろうと思えば一人でもできる。
ユースとセ……した翌日のデートも、リーナが一人で髪をセットしていた。
ただ、だからといって毎日するかは別問題で。
なので私としては、可能ならリーナの髪をセットしたいのだけど、やらせてくれるかはその時々だ。
今回はリーナの機嫌がよかったのか、何の躊躇いもなくイジらせてくれた。
そうやって、リーナの髪をセットしながら問いかけた。
リーナはんー? と心地よさそうにしながら答えてくれる。
「急にどうした? いや、んー……まぁ、なんてことはないんだけどさ」
「うん」
サラサラの髪に櫛を通す度に、癖になっている部分はすっときれいになっていく。
こんなにキレイで、素直な髪質をしているのは、やっぱり羨ましい。
でも、それよりもリーナの髪をイジっているのが楽しいから、そんな羨ましさはいつの間にか消えちゃうんだけど。
「こんな風に、毎日を楽しく過ごして、冒険は失敗でも成功でも、やれるところまでやりきって、んで――」
目を細めながら、リーナは笑う。
「――ブロンズスターが、居心地のいい場所であればいい、かな」
「ユースのことはいいの?」
「はぁ? 何いってんだ」
不機嫌そうに眉をひそめる。
素直じゃないというか、この時のリーナはユースのことなんて全く気にしていない風だったけど。
絶対に、否定はしなかったよな……と、思い返してみると気付いた。
本当に素直じゃない。
でも、それもまたリーナらしさ、なのかもしれないね?
「つうかさ、アンナはどうなんだよ」
「私? 私はねー」
リーナがそう聞いてくれて、私は一気に嬉しくなった。
髪を梳かす腕が早くなってリーナからはくすぐったいという文句が飛んでくるけれど、私はついついおかしくなって笑ってしまう。
「だー! なんなんだよ、もう!」
「んふふー、私はね」
そして、
「リーナと一緒」
そう、答えたのだ。
それから、しばらく。
私達――ブロンズスターは、リーナの願うような居場所になれているかな?
▼
「冒険の成功に、乾杯よォ――!」
「イエーーー!」
リーダーの叫びに歓声が上がり、あちこちで乾杯の盃が打ち鳴らされる。
アタシも周囲の仲間たちとグラスをぶつけ合ってから、一気に注がれたビールを飲み干した。
ううん、やっぱこのために冒険してるんだよな、アタシたち。
無事、アタシたちブロンズスター、二度目のダンジョン踏破は成功と相成った。
回収に成功した準S級からドロップしたアイテムは国に送って――こんなもん、個人で管理しても爆弾にしかならない――報奨が約束されて万々歳。
リーダー曰く、今回は色々と国でもその功績が評価されているとのことで、後々をお楽しみにとのこと。
これはもしかして、あるんじゃないか? アタシたちブロンズスターが“英雄”になる展開が。
とまれ、今は祝勝会である。
乾杯を済ませるとふと気になって、キョロキョロとユースの姿を探す。
あいつ、一体全体どこに行きやがったんだ?
――と思ったら、いつものように女連中に囲まれていた。
愛想笑いが顔にがっつり張り付いてやがる。
っていうか気付いてしまったのだが、こいつらアタシとユースの関係を知ってるのに絡んできてやがるよな?
むかむか。なんかイラっとしてきた。
今日は折角だしユースに絡んでやる。
「おいおいユースちゃんよぉ、なんだって今日もご機嫌な女連中に囲まれてやがんだよぉ」
「いや、何でって言われても自然と寄ってきてだな……」
「ケッ!!」
かー、ぺっ。
ともあれ、どっちかと言うと言いたいことがあるのはうちの女どもだ。
「つうか、てめぇらアタシとユースのこと解った上でやってやがるだろ! そもそもおかしいよなぁ、別のパーティとの合同宴会ならともかく、ウチのパーティだけなのにユースが男どものバカに参加しねぇのはどういうことだ、ああ?」
――ユースが貴公子ヅラしてるのは、いわゆる外面ってやつだ。
アタシたちのパーティ内では、ユースがバカの一員だってことはすでに把握されてる。
だっていうのに、前回の宴会もそうだが、女連中がそれをジャマするのはおかしいのである。
そこから逆算すると、こいつらがユースにかまっているのは、ユースが目的なのではなく、アタシをからかうために違いない。
「あら、やっと気付いたの? やっぱ処女すてると大人の階段登ったって感じするわね」
「ほんとねー、で? どうだった? ユースのやっぱりおお」
「黙れ!! ってか覚えてねぇよ酒で記憶飛んでるのてめぇらも知ってるだろ!」
ユースを囲んでいた女連中がキャーと逃げていく。
あいつらアタシが寄ってきたらさっさと散っていきやがる。
覚えてやがれよ……
「……はぁ」
「あはは、おつかれ……」
「お前も解ってんなら、あいつら散らせろよ……」
「いやぁ、君が寄ってきてくれるかと思って」
はっ倒すぞ!?
畜生、こいつもグルだった。
いやそりゃそうか、でなければわざわざ宴会する度にあんなわざとらしい貴公子っぷりを発揮したりしねぇよな。
なんだよなんだよ、そんなにアタシのムスっとした顔がみてぇかよ。
そんなに見たけりゃ見せてやるっての。
ドサッと逃げていった女どもの代わりに、ユースの横に腰掛ける。
適当に足を組んで、手にしていた酒をがぶ飲みする、
はん、女子力が急降下してやがるぞザマァ見ろ。
「それで――」
「――――あ、リーナちゃぁん、ユースくーん、おはよー」
話をしようと思ったら、ほんわかが押し寄せてきた。
ぽわぽわしながらお酒で酔いまくっているのはソナリヤさんだ。
うわ、酒臭い。この人どんだけ飲んでるの?
「二人とも飲んでるー? だめだよー、宴会なんだから飲まなきゃ―、ほらー」
「すごいカワイイ声でアルハラしてくる……ちょ! ダメッスよ!! 溢れるッスから!!」
うわぁアタシたちのジョッキからお酒が溢れていく、何か凄いことになっちゃった。
いよいよ酒の風呂が完成するかってところで、ドタドタやってきたパラレヤさんがソナリヤさんを回収していった。
「あ、パラレヤさん、パラレヤさんだー、えへへ、子作り、子作りしましょ?」
「……今は夜、だ」
子作りって夜するのが普通じゃないかな?
……じゃない、何いってんだ!! あとこの二人の子作りは子作りっていうより光合成だよな。
ともあれ、ドワーフの血を引いているソナリヤさんはお酒が大好きだ。
逆にパラレヤさんは木人なのもあってかお酒をあまり嗜まない。
ソナリヤさんの恐ろしいところは、ふわふわとした声でナチュラルにアルハラをしてくるから断るっていう発想が浮かびにくいことだ。
何か自然とお酒を受け入れている。
下手をすると、このパーティの半分くらいはソナリヤさんに酔い潰されているくらい、お酒を勧めてくる。
本人は開始直後に樽一つを開けて酩酊しているぞ、恐ろしい。
ともあれ、愉快な二人を見ているのは嫌いじゃない。
アタシたちはドナドナされていくソナリヤさんを眺めて笑みを浮かべつつ、入れられたお酒に口をつけた。
うん、美味しい。
「……で? どうしたの? リーナ」
「ああ、それなんだけど――」
「あ、ふたりともこんなところにいた――!!」
おおっと二番手はアンナ選手だぁ。
両手に酒瓶を抱えている。お前もかよ。
「もー、そんなラブラブしちゃってどうしたのよ」
「ラブラブはしてねぇよ! てめぇの恋人は酒瓶かアンナァ!」
「えへへそうかも、んちゅー」
酒瓶にキスをするアンナ。
こいつの恋人これで何人目だっけ? ファーストキスを安物の酒をいれたジョッキに捧げたアンナは、それ以来酒瓶キス魔と化した。
恐ろしいことに本人は覚えてないから、未だにキスの経験はないと思ってることなんだが。
その割には経験豊富を自称するアンナのキス経験談は割とそこそこ現実味があるのは、深層心理で一夜の恋人となった酒瓶とのキスを覚えているからなのだろうか。
ともあれ、アンナはそのままアタシたちのテーブルに倒れ込むと、
「りーなぁ、りーなはしあわせー?」
「ああ?」
そんな事を聞いてくる。
……こいつ、アタシの心を読んでるんじゃねぇだろうな。
「りーなはねぇ、しあわせにならなきゃいけないんだよぉ」
「何だそりゃ」
「だって、りーなにもらったものをかえすには、りーなをしあわせにしなきゃいみないんだからぁ」
「返す、ねぇ」
アンナの頭を撫でながら、ちらりとユースの方を見る。
軽くお酒を飲みながら苦笑する、いつものユースがそこにいた。
うん、アタシもユースも、それからアンナも変わらねぇな。
――ユースに話したかったのは、アタシの幸せのことだ。
ユースは言った、自分たちを信じてほしいと、一人でアタシを守れなくても、パーティの皆が守ってくれる、と。
ある意味、理想論だ。
だけど、こうして酒を飲みながらバカをやっていると、その理想は真実なんだと思わされる。
「……もう、とっくに返してもらってるよ。どころか、こっちの方がもらいすぎてるくらいだ」
「えへへぇ、ありがとねぇ」
「バカやろう、酔って記憶にも残らねぇ状態で言われても嬉しかねぇ」
「はは……」
横でユースが笑ってやがる。
うるせぇ、アタシが忘れたのは飲みすぎたからだっつの。
「でもまぁ、何だ」
それから、周囲を見渡した。
遠くではポージングをするリーダーを拝んでいる邪教者たちがいるし、別の場所ではソナリヤさんがパラレヤさんに抱きついて頬ずりをしている。
……周りには酔いつぶれたバカが大量に転がっていた。どんだけ飲ませたんだよソナリヤさん。
他にも肩を組んでコサックダンスをしているバカ。こっちの様子をデバガメしているバカ。バカ様々だ。
まぁ、アタシも人のことは言えない。
それらを楽しいと思っているアタシは、やっぱりこいつらと同じバカなんだろう。
そうして、アンナが気がつけば寝息を立てているのに気がついて、アタシはほほえみながらユースを見る。
ああ、まったく。
「――ここがアタシの居場所である限り、アタシは幸せものだよ」
そう、言葉にするのだった。
▼
――――翌日。
気がつけばアタシは全裸でユースと寝ていた。
またかよ!! 畜生また記憶にないんですけど!?
ああでも、何かベタベタしてる……っていうか、前回はこれっぽっちもユースの方を観察していなかったから解らなかったが、めっちゃゴツゴツしてるなこいつの体……
と、そこで思い出した。
昨夜、宴会開始当初ユースのところに集まっていた女連中が言っていた――
――ちらり、アタシは思わずシーツを持ち上げて、ユースのそれを眺めていた。
…………わぁ。
と、
「――――――あの、起きてるんだが」
ユースが恥ずかしそうに口に出す。
…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………あ。
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
早朝に、アタシの大絶叫が宿屋を包むのだった。
ここまでお読みいただき誠にありがとうございます。
なんかいい感じに終わりましたが、後少し続きます。
全24話、執筆は終わっているので後は毎日投稿できると思います。
もし、本作を面白いと思っていただけましたら、評価、感想、お気に入り等いただけますと大変ありがたいです。
最後までよろしくお願いいたします。