TSっ娘が幼馴染男と子作りして雌落ちするよくあるやつ。   作:ソナラ

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18 舞踏会前夜

 ――夢、それは随分と不確かな夢だ。

 断片的で、アタシの記憶すべてを再生しているわけではない。

 

 そこにいるのは、アタシとユースと父様と――

 

 ぼやけているが、多分ユースがアタシを連れ出して、花畑で白金に目覚めた後のことだ。

 ユースの顔には青あざがある。

 父様に、正面から殴られたことを覚えている。

 

 そして、

 

『……お前は、何をしたのか解っているのか!?』

 

 父様はユースのことを攻め立てた。

 当然だよな、娘に勝手なことをして、命こそ助かったがそれ以外の多くのものを奪ったのだと思ったら。

 父として、公爵貴族として、父様がそういう反応をするのは当然だ。

 間違っているのはユースで、正しいのは父様だ。

 

 ああ、でも父様――ユースはまだ子供なんだよ。

 

 転生した前世の記憶があるアタシや、アンタのような連中とは違う。

 アタシの精神年齢が大人かといえば疑問だが、それでも。

 この場にいる純粋な子供は、ユースだけだろ。

 なのに、何でそんなことするんだよ。

 たとえどれだけ正しくっても、大人が子供にやっていいことじゃねぇだろ。

 

 なぁ、父様。

 

 ……それは、いくらなんでも癇癪ってもんだぜ。

 

 

 ▼

 

 

 木剣のぶつかり合う音がする。

 甲高く、そしてなんとも泥臭い音だ。

 否応なくそれが稽古の場だということを認識させてくれる。

 そしてそんな状況で、起きていることは荒唐無稽と言って良い状態だった。

 

「おおおああああああああ!」

 

 大の大人が、凄まじい勢いで吹っ飛んでいく。

 そのままゴロゴロと転がって、気絶し動かなくなった。

 案外これで骨とかは折れてないし、治療すればまたすぐに動けるようになるのは、ここがファンタジー世界だってことを認識させてくれるな。

 あいつの“加減”が絶妙だってこともあるんだろうが。

 

「……ちくしょう! なんなんだよあいつ!」

「ほんとに同じ人間かよ……」

 

 ジリ、と位置取りをしながら二人の男がそう言葉を交わす。

 弱音を吐いてはいるが油断なんてしていない、完全に集中して、相手の次の行動を予測しようと必死だ。

 それでも、

 

「……来ないならこっちから行くぞ」

 

 そういって、そいつは――ユースリットは、気がつけば男二人の目の前に肉薄していた。

 

「なっ、はや――――」

「クソ、何で……!」

 

 慌てて迫りくる木剣に、自分の木剣を合わせるものの、遅い。

 気がつけばユースは、二人の剣を派手に吹き飛ばし、ケリを一発叩き込んでいた。

 そのケリの衝撃でまとめて二人薙ぎ払ってしまうのだから恐ろしいというほかない。

 仮にも、今吹き飛ばされたのはアタシのパーティメンバー、つまりAランク冒険者だぞ?

 

 だが――

 

「もらったぁ!」

 

 それは隙だな、ユース!

 

 そこにアタシが突撃する。

 あいつらが無用な隙を晒してくれて助かったぜ、おかげでユースが多少無茶でも攻めなくちゃ行けなくなったからなぁ!

 そうやって、剣を振りかぶったアタシは――

 

 直後、自分の振るった剣をユースに真っ二つにされていた。

 

「あっ」

 

 二人分の声が響いて、アタシはその場に停止する。

 これが戦場ならそれで死んでいるが、それ以前に。

 また木剣をダメにした、という思考が先に来た。

 ユースもそれは同じようで、お互いに静止している。

 というか――気がつけばアタシ達以外の全員が動かなくなっているんだから、これ以上の稽古は不可能だろう。

 うーむ、今回もダメだったな。

 

「リーナ、頼むから稽古に戦場の戦い方を持ち込むのはやめてくれないか?」

「バカ言うな、これがアタシの戦い方だっての。稽古でそれを磨くのは普通だろ」

 

 現在、ユースはうちのアタッカー全員を相手取って、剣の稽古をしている最中だった。

 恐ろしいことに、単純な技術で言えば今のように全員でユースとやりあってもユースの方が強い。

 そこにそれぞれの小手先のアレやコレやを乗せると流石にユースもどうしようもなくなるが、身体スペックは純粋にユースが図抜けていた。

 アタシ? アタシは今伸びてるアタッカー連中とそんなに剣の腕は変わらないよ。

 ただユースの癖とかを知り尽くしているから、他の連中よりは戦闘になるだろうけど。

 でもそれって、稽古っていうよりは演舞だよな。お互いの剣をより美しく見せるための芸術というか、舞というか。

 

「つつ……相変わらずユースの剣はどういう動きをするか読めん……」

「型は間違いなくあるはずなんだけどなぁ」

 

 倒されたアタッカーが起き上がってくる。

 型、というのは即ち剣術の流派。この世界には様々な剣の流派が存在するが、ユースのそれはどの流派とも異なる。

 しかし、かといってアタシみたいな独学に近いタイプではなく、明らかに洗練された技術のそれだ。

 剣術に限らず、武術っていうのは歴史がながければ長いほど、動きが洗練される。

 使いこなす人間の適性も絡んでくるため、それが戦場の優劣を決めることはないが、それでも無駄がないのはより歴史の長い剣術だ。

 その点で言えば、ユースのそれは本当にかなりの歴史を歩んできたと誰もが思うモノ。

 ……実際には、先代が一代で築き上げたんだけどな。

 世の中には歴史なんてものを踏みにじってぐちゃぐちゃにしてしまう化け物がたまにいる。

 

「僕の剣は、かなり扱いが難しい。自分で言うのも何だが、生半でこれを学んだら剣がだめになるよ」

「解ってるよ、才能とスペックのない人間がアレをやったらどうなるかくらい。俺たちだってプロだからな」

「ならよかった。それじゃあ、今回のまとめだが――」

 

 そう言って、ユースはアタシたちを見上げながら、今回の稽古でユースが意識していたことを伝える。

 

「何事も、対人の基本は選択肢を奪うことだ。悪い選択肢と、より悪い選択肢を相手に強要し、より悪い選択肢を取らせないことで選択肢を奪う」

「エゲツねぇ、普段はあんな優男なのに、こと戦闘になるとスグこれだ」

 

 ぶーぶーと仲間たちから飛んでくるヤジを受け流すユース。

 何というか、ユースはとにかく切り替えが早い。

 戦闘時、通常時、女が寄ってくる時、アタシと一緒にいる時。

 などなど、いろいろな状況で自分の精神状態をスイッチさせている。

 過去にはアタシが婚約されるのを嫌がってアタシを誘拐するなんてロックな行動をするバカだが、同時にやたらと頭が回る。

 女相手の付き合いとか、そういう頭の回転の速さによって成り立っている部分が大きいのだ。

 

「だが助かったぜ、休みが長いとすぐ鈍るからな」

「いやこっちこそ、僕も多人数との戦いが一番稽古で負荷になるから、とても助かる」

 

 ともあれ、そうやって仲間たちと礼を言い合って、この場を解散する――というような流れになった時。

 

 

「リイイイイイナアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

 すごい剣幕で、アンナがアタシのところまでやってきた。

 うおお、耳がキーンとする。

 

「な、何だよアンナそんな剣幕で」

「――アンタは、ドレスを、選ぶんでしょうがぁ!」

 

 がくんがくんと揺さぶられる。

 何故か揺さぶっているほうがえらいぼいんぼいんと揺れているんだが、何の嫌がらせだ?

 

「男連中はいいわよ! 一番高級な装備にすれば飾れるんだから! でもね、アタシたち女性陣は違うの! 舞踏会で姫騎士とか呼ばれて笑われたいならともかく、普通はドレスで着飾るもんなのよ!」

 

 ――ドレス。

 ――舞踏会。

 ああうん、色々と頭の痛い単語をありがとう。

 

 詳しく説明すると、先日アタシ達はSランクパーティとなることが決定した。

 これは結構大きな決定であり、国としては英雄であるアタシ達を讃えたいということで――正確にいうと、自国でSランクパーティが誕生したと周辺諸国へしらしめるために――アタシ達を招いての舞踏会みたいな宴会を開くことになった。

 アンナが言っているのは、それに着ていくためのドレスだ。

 

 男どもは適当に装備を着ていけばいい。

 Sランク冒険者がこれまでの冒険で手に入れた最高の装備を着れば、自然と形になる。

 しかし、女性はそうではない。

 なんだかんだ性別的な意識で女性はドレスを着るもの、と決まっているために男と同じ装備では許されない。

 女性冒険者としても、こういう舞踏会で貴族に見初められるってことは玉の輿に乗るってことなので、着飾らない理由もないのだ。

 

 が、しかし――アタシの場合それは不要だ。

 

「いや、アタシ、自分用のドレス持ってるし、選ばなくても問題ないぞ?」

 

 仮にも公爵令嬢だぞ?

 いや、正確には母様がいずれ大きくなったら、と仕立ててくれたものを流用しているだけなので、今の流行とかからは全力でそれているものだが、特別な場で着ていくのにこれ以上のエピソードはない。

 何より、今回は色々なものに決着をつけるための場だ、そのドレス以外を着るつもりはない。

 

 が、しかし。

 

「――――――――へ?」

「……は?」

 

 アンナはそれはもうポカンとした顔をして、周囲の男どもも思わずアタシの言葉を聞き返していた。

 ……お前らアタシのことを何だと思ってんだよ!?

 

 

 ▼

 

 

 それはそれとして、自分がドレスを選べないから見てほしいと言われたために、アンナに連れられてアタシはアンナの部屋にやってきていた。

 

 そこには、ずらりと並ぶドレスの山。

 買った……わけではないよな。

 入り口にはこれを持ってきたと思しき商人が笑顔で立ってたから、たぶんこの中から一つを選んで購入するんだろう。

 

「どれを選べば、貴族のイケメンを惚れさせられると思う!?」

「んなもん、これでも着とけよ」

 

 とりあえず胸元全開のものを勧めてみた。

 

「エッチ!!」

 

 いやそこで躊躇ったら、誰も見てくれないだろ。

 さっきアタシを揺さぶった時に揺れてたお前の胸に対する仲間たちの反応を見ろよ、目をそらしてたぞ? お前が女に見られてない証左だ。

 なんて言ったら面倒になることはわかりきっているので、アタシはため息とともに別のものを選ぶ。

 

「はいこれ」

「……え? なんでこれ? 確かに可愛いと思うけど――」

「この中で、今回みたいな規模の社交界に、部外者の冒険者が着ていくのに一番ふさわしいドレスコードがこれだっただけ」

 

 ぶっちゃけ、アタシ達を讃える会とは言うものの、結局の所やってるのはいつもの政治パーティ場外戦だ。

 言ってしまえばアタシ達はダシにされてる。

 だから、変に目立つとむしろ貴族から嫌われて、冷遇されたりとかするんだ。

 なので選択肢としては、そういうリスクを無視して胸元全開で色気をアピールするか、こういうドレスコードに沿った無難なものを選ぶかの二択だ。

 

「……何でそんなこと知ってるの?」

「さぁて、なんでだろうなぁ」

 

 Sランクになったことで、アタシが自分の身分を隠す必要はなくなった。

 今回の舞踏会で、アタシの正体は十中八九バレるだろう。なので、これ以上こういうところで自重する理由もない。

 

「アタシ達が主役とは言うけどさ、舞踏会は演劇と違うんだよ。誰も彼もが主張の強い衣装を着て、見分けをつける必要はないんだ」

「そうかなぁ」

 

 アンナは少しだけ不服そうにしながら、アタシに手渡されたドレスをあてがって、くるくると回ってみせる。

 

「演劇って、主役が目立てばそれで成功みたいなところあるんだよ。観客は脚本や演出じゃなくて、そういうの含めた主役の演技を見に来てるんだから」

「そんなもんかね」

 

 まぁ、たしかに演劇で観客が意識するのは、主演が誰か、ってことだろうけども。

 

「有名な役者って、それだけで作品にとってプラスだよ。そこに、役がふさわしくないと、役不足なんて言われるし」

 

 この世界にも役不足の誤用とかあるんだろうな……とか思いつつ。

 

「でもありがと、リーナがこれで大丈夫って言ってくれたら、なんか大丈夫な気がしてきた」

「おう。まぁこういうのは慣れだからな、初心者が初心者ですって周りに公言すれば、多少のやらかしも目をつむってくれるもんだ」

「だから、どこからそういう言葉が出てくるのぉ……」

 

 くく、と笑いつつ、アタシは部屋を後にするのだった。

 ……そろそろ、ドレスがちゃんと着れるか試しておかないとな?

 

 

 ▼

 

 

 ――ちょっとだけ胸の部分がスカっとしていたが、それ以外は概ねいい感じだった。

 母様はアタシと同じスレンダー体型だったのだが、どこにそんな夢を見たのだろうか。

 父様の胸板?

 ともかく。夜アタシが目が覚めて、ミルクでも飲もうかと食堂に降りてきたところ、

 

「――リーダー?」

 

 リーダーが、一人で晩酌をしていた。

 ブロンズのテッカテカな肉体が、揺れる小さい明かりに照らされている。

 どこか、アンニュイというか、しっとりとした目つきのリーダーの横へ座って、アタシは持ち込んだミルクを飲む。

 

「あら、眠れないの?」

「いや、たまたま目が覚めて喉が乾いただけ。リーダーがいなかったらすぐに飲み物のんで戻ってたッスよ」

「んふふ、ありがとうね」

 

 とはいえ、会話のようなものはなく。

 ただ、互いにミルクとお酒を飲みながら、時間だけが過ぎていく。

 やがて、ぽつりと――

 

「……いよいよね」

「五年、ッスか、長かったッスねぇ」

「大丈夫? 後悔はないわよね?」

「あはは、この時のために準備してきたんスから、大丈夫ッスよ」

「そういう意味じゃないんだけどねぇ……んふふ、でもそれなら安心よ」

 

 じゃあどういう意味なんだろう、と思うものの。

 リーダーはそのまま続けて。

 

「いい? どんな時も、最後に大事なのは真心よ」

「……というと?」

「誰かとお話する時、どれだけ自分が正しくっても、相手の感情ってものがあるの。最後の最後に、決断をするのは人の感情なんだから。そこをおろそかにしちゃダメ」

「……あの人に、そんな人の心なんてものがあるんスかね」

 

 リーダーの言うことはなんとなく分かる。

 これから、アタシ達が対決しなきゃいけないのは父様だ。

 ユースを拒絶し、アタシとユースの仲を認めてくれなかった、あの人だ。

 

 正直言うと、父様のことは嫌いだ。好きになれる要素がない。

 

 でも、だからこそリーダーは真心が大事だと言うんだろう。

 

「やってみれば分かるわ」

「……がんばります」

 

 自信アリげにウインクをしてくるリーダー。

 ほんと、この人には勝てないな、と。

 どこかそう思いながらも、アタシはミルクを飲み干すのだった。

 

 ――舞踏会は明日。

 いよいよ、アタシ達のもう一つの戦いが。

 五年間の集大成が、始まろうとしていた。


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