TSっ娘が幼馴染男と子作りして雌落ちするよくあるやつ。   作:ソナラ

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21 天高く叫べ。

 それは、始まりの記憶。

 二人の少年少女が、比翼となった、その瞬間の記憶。

 

 ――戦いと呼べる戦いすら起きなかったが、それでも静けさを取り戻した花畑に、一人の男と一人のオカマゴーレムの姿があった。

 一人と一オカマゴーレムは花畑を見渡しながら、その状況に驚愕していた。

 

「こりゃぁすげぇな……こいつらがやったのか?」

「でしょうねぇ、んもう、血は争えないってことかしら」

「言ってる場合か。クソ、こいつもバカやったもんだよなぁ……結果的に良い方向に状況が転がってるのは、白幸か、こいつの天運か……」

 

 花畑には、十人程度の顔を隠した者たちが意識を失って倒れている。

 それぞれ相応に手練だっただろうことは、剣を握っている男の体つきを見れば分かる。

 おそらく冒険者に換算すれば、AランクとBランクの間くらい……Aランクパーティに参加しても末端ならこなせるだろうことを考えると、実に惜しい人材だ。

 

「どっちも、でしょう。貴方の血を引いたこの子と、エレナちゃんの血を引いた娘さんなのよ?」

「違いねぇ。……が、さて、ドレストの野郎にはどう説明したもんかねぇ……」

「流石に、ドレストちゃんにとってもこれは看過できないでしょうねぇ。うまく落とし所を考えるしかないわよ」

 

 正直に言えば、状況はよろしくない。

 男とオカマゴーレムにとって、ドレストと呼ばれる存在は親友と言ってもいい間柄だ。

 だが、それとこれとは話が別。

 親しき仲にも礼儀ありというが、“彼”の取った行動は、それでは収まらないほどの暴挙であることは間違いないのだから。

 

 しかし――

 

「なんつーか、そういう問題は全部すっとばしてよぉ」

「まぁ、そうねぇ」

 

 男とオカマゴーレムは、そんな今後の憂鬱な未来を思ってなお、笑みを浮かべてしまう。

 柔らかな、優しい笑みだ。

 なにせ――

 

 

「――こいつら、幸せそうに寝てやがるなぁ」

 

 

 花畑の中心で、一組の少年少女が眠っていた。

 ユースリットとリーナリア。

 つい先程、命を賭けて運命をつなぎ合わせた比翼の子どもたちは今、あまりにも幸せそうに――

 

 ――向かい合って、眠りについているのだから。

 

 

 ▼

 

 

 ――ひどい話もあったものだと、アタシはそれを見ながら思っていた。

 アタシとユースが、ユースの親父さんよって花畑から連れ戻されて少し経って、クソ親父……父様がやってきた。

 そして、父様がやったことはといえば、

 

 ――ぶん殴ったのだ。怒りに任せて、ユースを。

 

 思わず口を出そうとしてしまったが、父様のアタシさえ殺してしまいかねないような殺意と――何より、ユースが止めるように訴えかけてきたので、アタシは止まった。

 同じ様に状況を見守っていた、ユースの親父さんもだ。

 

「……お前は、何をしたのか解っているのか!?」

 

 怒りのままに、黒髪の、どこのマフィアのボスだってくらいいかつい顔をしたアタシの父親――ドレストレッド・アウストロハイムは叫んだ。

 父様が人を殺したような顔をしているのは今に始まったことではないが、今日の父様は格段にひどい顔をしている。

 こんな顔で王族の前に出たら殺されても文句は言えないだろうってくらい。

 まぁ、そういう意味で、殺されても文句の言えないような事をしたのは、ユースの方だと言えば否定はできないのだが。

 

 顔が怖いってだけじゃない。この国で一番えらい貴族であるところの父様は、海千山千の傑物として恐れられている。

 当然、立ち振舞も雰囲気も、顔に見合うくらい恐ろしいのだ。

 それがここまで怒りを露わにすれば、普通立っていることすら難しい。

 

 ……アタシはといえば、父様の事が嫌いだ。

 その反発心が、目の前の父親を敵対者としてみなしているために恐ろしいとは思わない。

 ユースの親父さんは……まぁ本気だしたら父様より怖いからな。別格だ。

 

 そして、ユースは――

 

「――リーナリアを連れ出し、この屋敷から逃げ出そうとしました」

 

 正面から父様の敵意に向き合って、一切ごまかす事無く事実を報告した。

 それに、父様はもう一度拳を上げようとして、それが単なる怒りであると自覚して降ろした。

 流石にここで殴りかかっていたら、アタシもユースの親父さんも止めていただろう。

 

「公爵令嬢を連れ去る。その意味が解っているのか……?」

「公爵令嬢である前に、リーナリアはリーナリアだと、僕は判断しました。そして、リーナリア自身が今回の縁談を望んでいないとも判断しました」

 

 淡々と、ユースは自身の考えを述べていく。

 この場において、間違っているのはユースだ。

 誰が見ても、罪を犯したのはユースの方で、それを咎める父様は何も間違ってはいない。

 最初の拳以外に私情をユースにぶつけてもいない。

 だけど、それでも、だとしても――

 

「僕は、僕の判断を間違っているとは一切考えていません。なので、謝罪はしません。首を切り落とすのであれば、受け入れます」

 

 ――ユースは、そういい切った。

 その言葉に、もう一度父様は顔をひくつかせて、しかしそれを抑えて語り始める。

 

「……リーナリアが目覚めたそれは、“白幸体質”と呼ばれるものだ」

「…………」

「その体質に目覚めたものは、自身の幸運を未来から前借りする形で、周囲に幸福をもたらすという」

 

 ……未来から? 何かすげーこと言い出してんな?

 後から補足を受けたが、こういったこの世界においても常識の理を逸脱した力は「オルタナティブ」と言うらしい。

 やたらとかっこいい単語だが、多くの場合、オルタナティブといえば「オルタナティブスキル」の事を指し、このスキルは言ってしまえば必殺技だ。

 かっこいいのもさもありなん。

 とはいえ、アタシの体質はそうもいかなかった。

 

「結果、その体質を発現した者は、若くして命を散らすという。お前という命を救うために、リーナリアが捧げたものは命だ! その意味を解っているのか!?」

「…………!」

 

 正直、そう言われてもアタシにはピンとこなかった。

 若くして死ぬ? そんなの初めての体験じゃない。一回目の死は事故によるもので、怖いとか思う暇もなかったが、思い返したところで死は死だ。

 何より、アタシは転生者。もしかしたら死んだって次の人生に転生するだけかもしれない。

 思った以上に、自分の死というものに対しての恐怖感は、アタシにはなかった。

 

 だが、ユースは違うだろう。

 ごくごく当たり前に、一度だけの生を謳歌している少年に、その言葉は余りにも重い。

 目を見開いて、思わずこっちを見てしまったのを、きっとこの場にいる誰も見逃さなかっただろう。

 攻め立てるように、父様が口を開く。

 

「お前がリーナリアを連れ出したことで、リーナリアがあの連中の手に渡ることは防がれた。しかし、どちらにしろその生命の大半が奪われたのだ! お前のやっていることは、あいつらと何ら変わらん!!」

「……っ」

 

 ――それは、流石に違うだろうとアタシは思った。

 確かに、見方を変えればアタシをどうこうして、悪いことを企んでいるあいつらと、アタシを連れ出して逃げ出そうとしたユース。

 結果がこれだということを考えれば、やったことは同じことかもしれない。

 でも、だとしたら父様のやるべきことは、今すぐにもユースをこの場から排除することだ。

 

 アタシについたユースという虫を引っ剥がして、捨ててしまうことだ。

 だっていうのに、そうやって悪い方向にバイアスのかかった言葉で攻め立てるのは――子供にしていいことじゃないだろう。

 転生者として、一応精神年齢はユースより高いつもりだったアタシも、状況を見守っていたユースの親父さんも、同じ考えを抱いたのか口を開こうとする。

 

 しかし、それよりも早く。

 

 それまで立ったまま父様と言葉を交わしていたユースが、

 

 

 ――躊躇うこと無く、頭を下げた。

 

 

 床に膝をついて、土下座の体制だ。

 そのまま、静かに数秒頭を下げた後。

 

「誠に申し訳ありませんでした。すべて、貴方の言う通りですアウストロハイム卿」

 

 そう、言ってのけた。

 ――なんだそれ。

 それが子供の言うことか? 思わず、ユースの親父さんは口を開けて驚いているし、父様も言葉が止まっている。

 そんな中で、ユースだけが顔を上げて、父様の目を見ながら話を続ける。

 ……これが、あのロック野郎のやることか?

 いや、これをやる覚悟があるくらい、こいつはロック野郎ってことなのか?

 

「その上で、リーナリアの問題を僕に解決させていただけませんか?」

 

 その言葉は、あまりにも無礼極まりない言葉だ。

 思い上がりも甚だしいと、切って捨てても問題ないような言葉。

 実際、父様は口を開こうとして――

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 

「そのうえで、一つ教えていただきたい。リーナリアに待ち受ける死とは、寿命によるもの、もしくは病によるものなのですか?」

 

 ……こいつ、正気か!?

 クソ親父の言葉を遮りやがった。

 公爵家当主の言葉をだぞ!? しかも、顔も雰囲気も鬼のような様相の男の言葉を、バッサリ切り捨てやがった。

 アタシとクソ親父……ごほん、父様が思わずほうけてしまう中、正気に戻ったのはユースの親父さんだった。

 

「いや……白幸の幸運の前借りによる死は、事故などの要因による死が殆どだ。実際、リーナリアの母親……エレナシアもそうだった」

「――――アルフ!!」

 

 父様の怒号が、ユースの親父さんに飛んだ。

 だが、親父さんはそれに悪びれることもなく無反応で返す。

 今の一言は、間違いない。

 助け舟だ。それも、ユースが一番欲しかった言葉を的確に投げやがった。

 あの一瞬でそこまで判断できるのは、流石に稀代の英雄といったところか。

 父様の胆力も当然のようにスルーだ。

 

「でしたら、それは周囲の環境で防ぐことができるはずです」

「それが、できたら、そもそもこんなことには……ッ!」

 

 父様の顔が、そこで初めて悲嘆に歪む。

 ああ、解ってるよ。でもな、それは父様の話だろ?

 だったら今は、ユースの話を聞いてやれよ。

 

 

「僕は、やってみせます」

 

 

 ほらな――ここには、お前とは違う稀代の英雄の息子がいるんだぞ。

 父様、お前の負けだよ。

 

「…………白幸体質の人間が、運命を分け与えた人間と離れれば、不幸が急速に降りかかる。白幸体質とその対象を引き離すことは……白幸体質の人間を殺すことと同じだ……」

「であれば、僕はリーナリアにふさわしい立場を手に入れます。Sランク冒険者、いえ、それだけではなく。周囲を納得させる程の存在になり、もう一度貴方の前に立ちます」

 

 ユースは、立ち上がりながら宣言した。

 

「それと同時に、冒険者として仲間を集めることで、リーナリアの白幸体質で、彼女が死んでしまわなくてもいい方法を探します」

 

 アタシは、それを――

 

「それが、僕の答えです。僕が貴方に提供できる唯一の解決手段です。もしも――」

 

 ――それを、

 

「この方法が気に入らないのでしたら、今すぐこの場で僕の首を切り落としてください。それが、貴方の取るべき行動であると僕は考えています」

「…………っ!」

 

 ――――それを、

 

「……ダメだ。白幸対象の“運命の相手”を殺せば……遠からず、白幸体質の人間も、死ぬ」

 

 アタシは、殆ど聞き取れちゃいなかった。

 

 いや、聞けていた。

 耳には確かに入ってくるんだ。

 

 でも、でもだよ。

 聞こえないんだよ。

 だって、――だって、

 

 

 アタシの胸から聞こえてくる爆音と化した心臓の音が、それを邪魔してくるんだから。

 

 

 なんだそれ、なんだそれ、なんだそれ。

 ユースは一体何を言ってるんだ?

 何を思って、そんな事を言ってのけるんだ?

 

 理解できない、アタシとユースはただの友人だろ?

 

 互いにとって、アタシたちは無二の親友かもしれない。

 だけれども、命を賭けて守るような存在かといえば、それはどうなんだ?

 もしそうだとしたら、どうしたってユースはアタシにそれほどの感情を向けるんだ?

 

 胸の鼓動が止まらない。

 どころか加速を続けてアタシを支配する。

 こんな感情、知らない。

 こんな感情、親友に向けていいものじゃない。

 だったらアタシは、こいつのことを何だと思っているんだ?

 

 わからない、わからないわからない。

 

 

 ドクン、と跳ねる心臓の音。

 

 

 その時、アタシはたしかにそれを感じた。

 

 ああ、その感情の名は――――

 

 

 ▼

 

 

「ユースリット・()()()()。わたくしのフィアンセとなるお方です」

 

 ――会場に、アタシの声だけが響く。

 勝利宣言、それはかつて、父様にユースがやってのけた大演説と、どこか重なる物があった。

 それを、アタシは少しだけ思い出していたんだ。

 

 ――結局、父様は負けを認めた。

 

 アタシとユースは、冒険者となることを許され、アタシが15になると同時に家を飛び出した。

 冒険者となる条件は、アタシの正体を隠すこと。

 正直なところ、クソ親父はすぐにアタシが正体を露呈させて、屋敷に戻ってくると踏んでいたらしい。

 

 そりゃそうだ。

 生まれてからずっと、屋敷の外に殆ど出たことのないような箱入りが、庶民的感覚を持っているはずがない。

 そのあたりはユースもユースの親父さんも懸念していたようだが、しかし現実に問題と言える問題は起こらなかった。

 大きな理由は、アタシに前世の記憶があって、庶民の感覚を理解できることができたことが大きいのだが、それだけではない。

 

 アタシが秘密にしたことは、一つではなかったからだ。

 アタシ達は二人で話し合って、()()()()()()()()()も秘密にすることにした。

 

 そうすることで、一つ。

 アタシには大きなモチベーションができた。

 

 秘密を守ることは、ユースの秘密を守ることに繋がる。

 アタシのためだけじゃない。ユースのためならば、アタシは一人の時以上に頑張れる。

 当時はそんなつもり、まったくなかったけれど、今ならば分かる。

 

 アタシは、ユースのために秘密を守ったんだ。

 そして、今。

 

 ――その秘密を守ってきた成果が、ここに果たされる。

 

 アルフリヒト・プラチナ。

 稀代の英雄にして、ユースの父だ。

 ユースリット・プラチナがその父との関係を隠したことで、彼がSランク冒険者に上り詰めたのは、彼の実力であるということが世に認められた。

 もしも世間にその正体が知られていたら、ユースリットの立場は、貴公子ユースリットではなく、父の跡を継ぎ、その才を持ってSランクに上り詰めた、アルフリヒトの後継とみなされるだろう。

 少なくとも、ユースの正体を知っている父は、そう判断するはずだ。

 

 だからそこに賭けた。

 

 実際のユースは、父の存在を隠した上で、実力でSランクとなった父と並び立つ存在として、今この瞬間認められている。父の後継がユースの価値ではなく。

 ()()()()になるのだ。

 

 これこそが、アタシとユースが為そうとした、“Sランク冒険者以上の存在”。

 英雄の息子にして、Sランク冒険者ではなく。

 Sランク冒険者にして、英雄の息子。

 

 公爵令嬢リーナリアにふさわしい、身分の壁すらも越えるほどの名声だ。

 

 さぁ、大詰めだ父様。

 アンタが見ようとしてこなかったこの五年間。

 アタシも、ユースも、多くのことを学んできた。

 

 その事を、今ここで。

 

 アンタの口から、認めさせてやるよ――ドレストレッド・アウストロハイム!!


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