TSっ娘が幼馴染男と子作りして雌落ちするよくあるやつ。   作:ソナラ

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5 それはさながら、お似合いバカップルのようだった。

 余りにも恥ずかしすぎたので、正直その後のことはよく覚えていないが、アタシたちはさっさとリーダーのお使いを済ませたらしい。

 この世界はステータスとかアイテムボックスが存在する世界なので、購入したものはアイテムボックスに詰め込み、今は適当に二人で街をぶらついているところだ。

 手? 手は繋いでないよ、店に入るところで正気に戻って、何食わぬ顔で放しましたね。

 店員にカップルと思われたらはずいじゃん。

 手遅れ? 知るかバカ!

 

 んで、そのまま勢いでお使いを済ませてしまったのだが。

 ……一時間もかからなかった、これはまずい。

 

「おいおいどうするよユース。これでこのまま宿屋に帰ったらそのまま蹴り出されるぞ?」

「……難しい問題だね」

 

 アタシのため息に、ユースも難しそうな顔をする。

 現在アタシたちは尾行に警戒しながら、街の路地裏で壁にもたれかかって作戦会議をしているところだ。

 どう考えてもデートじゃないが、そもそも普通のデートはアタシたちの間に求められていない。

 

「ってか、ユースもこんなことならもう少しそれっぽいデートコースを考えといてくれよ」

「できるものならしてるさ! 普通、そういうのはある程度時間をかけて計画を立てるんだよ、その日に決めてその日に実行できるものじゃない!」

「計画、ねぇ」

 

 そもそもの話、こいつの女との付き合いは、言ってしまえば仕事の接待だ。

 プライベートで女性と一対一の付き合いなんてしたことがないだろうこいつのことだ、もし完全にスイッチをオフにしたまま計画していたら、どんなデートになっていたことか。

 

「というか、たとえ考えてても、君に不意を突かれて全部とんでってたよ……」

「ん、なんか言ったかー?」

「なんでも無い。リーナは本当に普段どおりだね」

 

 そりゃだいぶ落ち着いたからな。

 とりあえず、冷静になって少し考えてみよう。

 ここは色男さんを煽って、なんかそれっぽいことを考えてもらおうじゃないか。

 

「んで、色男さんよ。もしここから、実際にデートプランを考えるならどうするよ」

「……って言われてもな、思うんだけど普通のデートじゃないからね、ただでさえ慣れてないのに、正解なんて僕にはわからないよ」

「っていうと?」

 

 まぁ普通じゃないってのはそうなんだろうが。

 

「行ってこいって言われて行くデートって、デートっていうのかな?」

「まぁ、言わないよな……」

「そういうこと。これは僕たちが始めたことじゃなくて、リーダーが僕たちに出したオーダーなんだから」

 

 言われてみればそうだ。

 これはオーダーとして出されたタスクである。

 言ってしまえば仕事の一つ。

 ただし、やってることは子供のお使いみたいな代物。

 お使いに必要な資金以上の資金を渡されているので、おつりで何か買って食べていいというお駄賃まで渡されている。

 

「その上で、そうだな。如何にもそれっぽいことを考えてみるとするなら」

「うんうん」

「まず、相手はデートと言う行為そのものに慣れていない。男性にエスコートされるっていう行為自体がピンとこないだろうから、大事なのは経験じゃないかな」

 

 要するに、“デートした感”を出すべきだというのがこいつの意見。

 なんか子供扱いされているみたいな気がしてならないが、実際男女交際に関しては子供以下の経験しか無いのだからしょうがない。

 

「ポイントは二つ。昼は恋人限定のサービスをやっている店にする」

「ガキの相手じゃねーんだぞ」

「僕らは互いにデートって点に関しては子供以下だぞ?」

「ごもっともで」

 

 ちなみに、現在アタシたちは昼を何も食べていない。

 まぁデート先で食べるだろうってことで、お互い抜いてきているのだ。

 ともかくユースが指を二つ立てて、もう一つを語りだす。

 

「もう一つは、夜の食事は最高級のレストランにする。昼とのギャップで、如何にも大人の階段を登ったって気がするだろ?」

「うーむ、聞いてる限りではそれっぽいが……ちょっと物語の読みすぎじゃないか?」

「しょうがないだろ!? 女性との付き合いなんて、一緒にお酒を飲んで話をする、くらいしかないんだから」

 

 うーむ、ある意味最低の発言だな。

 こいつは思いの外ロマンチストで、男女交際にはそこそこの幻想をいだいているらしい。人のことを言えない気もするが、まぁこいつのデート観なんてアタシには関係ないしな。

 

 というか、よし。

 

 

「――んじゃ、それにするか」

 

 

「……え?」

 

 思わず惚けるユース。

 何だよ、自分で言い出したことじゃないか。

 

「だいたいそのコースで行こうってことだよ。昼は恋人限定のサービスをやってる店、だったな。なんか知ってるだろ? 今まで何も食べてないから腹ペコなんだよ、さっさと案内してくれ」

「い、いやでも――」

 

 実際に行ったことはなくとも、酒の席でそういう店の話題、一つくらい出たことはあるはずだ。

 アタシは、今度はユースの手を引かずに路地裏の外に出る。

 またあんなはずい事してたまるか。

 

「――なんだ、自信ないのか? 色男」

 

 だから、挑発するように笑ってやった。

 はは、ポカーンとしてやがる、いい気味だ。

 

 

 ▼

 

 

 ――なんていい気になっていた時期が、アタシにもありました。

 

「な、なぁユース」

「何かな、リーナ?」

 

 ううむ、ううううううむ……

 

「……これ、ほんとにやらなきゃだめか?」

「頼んだのは君じゃないか」

 

 ごもっともで。

 ――現在、アタシたちはカップル限定サービスをやってる店にやってきていた。

 この世界は文化レベルが現代とスキルツリーは違うけど、根底は同じ、くらいまで高いのでこういうのは当たり前に存在する。

 風呂とブラジャーと生理用品のある異世界バンザイだ。

 ともあれ、そんなわけでお出しされているサービスなんだが、

 

 ――いわゆるあれだ、ストロー二つが突き刺さってるジュース。

 ストローがハートマークを描いている。

 ちょっとどうかと思うくらいコッテコテのサービスである。

 

「だってよ、頼むじゃん! こんな如何にもみたいなメニュー、あったら即頼むじゃん!」

「君ならそうするだろうと思って、ここを選んで正解だったね」

「謀ったなぁユースぅ!!」

 

 こいつ解っててやりやがった!

 デートって言うからには、デートっぽいことをするのは必須。

 じゃあ、どういう内容にするか、如何にアタシたちがそれを経験してデートっぽいと感じるか。

 そりゃもうあからさますぎるくらいに、それっぽい方がアタシたちらしい。

 だって、普段はデートのデの字も出てこないような関係なんだから。

 周りにそういうことをしたと語る時に不自然になるし、自分たちでもしっくり来ない。

 

「っていうか、よくもまぁこういうの、うまい具合に思いつくよな」

「まぁ、酒の席で嫌でも女の子から聞かされるし、男の自慢話なんて、冒険譚か女性との恋愛譚のどっちかだからね」

「……こういうの、誰にでもするのかよ」

 

 アタシは文句をいいながら、ストローに口をつける。

 なんというか、一度言ってしまえば後はするすると飲み干していける。

 こうなったらユースに殆ど飲ませずにケリをつけてやる。

 ははは、ざまぁみろ。

 

「こういうのは経験がないよ。僕と一緒にお酒を楽しもうって人は、圧倒的に年上が多い」

「向こうも、これが遊びっていうか、一夜の相手だってことを割り切れる相手、か」

 

 ユースはムカつくが顔がいい。

 あまりにも良すぎて、本気でこいつが女を口説いたら、一日で一人の人間の人生を狂わせてしまうレベルだ。

 そんなことになっては相手に申し訳がたたないし、何よりユースが責任を取れない。

 しかしまぁ、

 

「……楽しいのか? それ」

「興味深くはある。冒険者ってのは、一人ひとりが違う考えを持っていて、信条もスタイルも全く違うからね」

 

 が、やっぱり楽しくは無い、と。

 

「まぁそりゃ、お前はそもそも冒険者になりたくて冒険者になった口だしな、そういう交流ってのはいい経験か」

「そうだね。ありがたいことに、いつも色んな話を彼女たちは聞かせてくれるよ」

「アタシは、今のパーティで楽しくやれれば、それでいいんだけどな」

 

 そもそも。

 アタシとユースでは、冒険者になりたい動機が異なる。

 アタシは、まず窮屈な故郷から抜け出したかったんだ。

 せっかく魔法も異種族もなんでもありなファンタジー世界に転生したのに、一生故郷で暮らすとか、耐えられなかったんだ。

 対してユースは、憧れから冒険者になった。

 父親が高名な冒険者で、そんな父の背を追いかけて大きくなったのがユースだ。

 冒険者とは目的であり、手段ではない。アタシとは真逆のそれである。

 

 ただ、幼馴染だったからというだけでアタシはユースと冒険者になった。

 それは、果たして胸を張って語れるような動機だろうか。

 

「まったく、リーナはいつもそれだな。現状の不満を口にしながら、現状維持を第一に考えてる」

「悪いかよ。人間、誰しもそんなもんだろ」

「かもね。悪いわけじゃないさ」

 

 むしろ、それも一つの信条だろう、とユースは肯定する。

 なんだよこいつ、またいつものようにアタシ全肯定か……って、口にする余裕もない。

 

「でも、変化なんて望まなくたって起きるぞ」

「……そうだね」

 

 ――今のアタシたちは、昨日までのアタシ達とはまるっきり違う関係なんだから。

 殆ど生まれた時から、アタシはこいつと一緒にいた。

 男だからとか、女だからとかそれ以前に、こいつは幼馴染だったのだ。

 その関係が、否応なく変わってしまう出来事がおきた。

 

 それは善いことか? 悪いことか?

 

 わからん、さっぱりだ。

 少なくとも今のアタシたちに応えはない。

 

「僕は――」

「――急かすな、バカ。ここで結論を出すとか、明日には死ぬつもりか?」

「いきなり物騒なこと言わないでほしいな!?」

 

 お、また顔が崩れた。

 さっきから、こいつは普段と違って余裕がない。

 いい気味だ。

 

「とにかく、今は楽しもうぜ。アタシ、別にアンタにヤられて嫌じゃなかったからさ」

「――――っ! そういうのを何気ない感じで言わないでほしいんだが!?」

 

 やーいやーい、顔真っ赤にしてやがる。

 カップル用のストローで顔真っ赤とか、子供かよこいつ。

 

「……くせに」

「ああ?」

「君だって真っ赤にしてるくせに、何を得意ぶってるのかって言ってるんだよ!」

 

 ――は?

 いやいや、ウソはよくないぞユースくん。

 アタシはほら、この通り、余裕のない幼馴染をからかって――

 

 

 ちらり、視線を向けた窓には、二人して顔を真赤にしているカップルが、そこにいた。

 

 

 ――――――――

 

 ずずず、

 

「あ、まだ一口も飲んでないんだけど?」

「ざまぁみろ、人をからかった罰だ!」

「君なぁ……」

「とにかく!」

 

 バン、と机を叩く。

 ――いかん、周囲の視線がこっちに向いた。

 いや、だいぶ既に向いていた気がするが、ええい散れ散れ!

 

「……夜まで、何するよ」

「え?」

「夜、レストランでディナーなんだろ!? そこまでまだ時間山程あるぞ」

 

 ああ、とうなずくユース。

 アタシは適当に、いくつか候補を口にする。

 

「観劇」

「今、見たいものあったっけ? リーナ」

 

 ない。

 パス。

 

「カジノ」

「間違いなくパーティメンバーとブッキングして、後でリーダーに怒られるけど」

 

 だめだな。

 パス。

 

「っていうか、半日デートって名目で時間潰すって、ハードル高くね?」

「こういうのは、普通服を見る時に女性が時間をかけることで、時間をつぶすものじゃないか?」

「やだ!」

 

 服とか普段着一着でいいんだよ。

 

「とすると、そうだなぁ……メンバーに見つからず、適当に時間を潰せて、君も僕も退屈しない場所かぁ」

「あ、一つだけあるぞ」

 

 ふと、思い立った。

 いや、思い立って何だが、デートの選択肢としては最悪だな。

 今のアタシ達、それはもうすごい勢いで着飾ってるぞ?

 

 最悪、見つかる前に洗濯する時間まで込みで、時間をつぶすって意味ならありかもしれないが。

 ともかく、思いついたものは口にしてみるに限る。

 

 

「――ダンジョン」

 

 

 アタシ達が数日前に踏破して、踏破済みダンジョンに指定された、この街の象徴とも言えるダンジョンが、今も冒険者を待ち受けているじゃないか。

 きっと、イケメンなユースは何だそれ、みたいな顔をするだろうなぁ。

 うむ、無しだ無し、デートでダンジョンとかパーティで一生バカにされても文句いえないぞ。

 やっぱりなかったことにしようと、口を開こうとして、

 

「……それだ」

 

 ユースは、ハっとしたような顔でそういった。

 ……え、マジで?




多くの高評価、お気に入り、感想ありがとうございます。
多くの人がTS娘の雌落ちを求めていることが解り大変うれしいです。
なお、ここまでお読みならお分かりかもしれませんが、幼馴染くんは酒の席とかで女の人を相手するのは得意ですがデートプランとかはクソです。
デート経験がないからしょうがないね。

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