TSっ娘が幼馴染男と子作りして雌落ちするよくあるやつ。   作:ソナラ

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6 ダンジョンのススメ!

 冒険者の花形、ダンジョン探索。

 モンスターの討伐と並んで人気の高いそれは、今日も多くの冒険者を誘った。

 

 そんなダンジョンにはいくつかの種類がある。

 活性化ダンジョン、休眠ダンジョン、そして踏破済みダンジョンだ。

 火山で考えるとわかりやすいだろう。

 活火山が活性化ダンジョン、休火山が休眠ダンジョン、死火山が踏破済みダンジョンといった具合。

 

 火山においてもそうだが、活火山というのは非常に危険だ。

 活性化ダンジョンも同じで、ダンジョンが活性化しているということは、ダンジョンの外に魔物が溢れてくるという可能性を有しているという意味でもある。

 その可能性が無いが、ダンジョンとしては生きているのが休眠ダンジョン、一般的に冒険者が潜るのはこの休眠ダンジョンである。

 踏破済みダンジョンは、完全にダンジョンとしての機能を喪ったダンジョン。

 

 ダンジョンとしての機能とは、主に二つ。

 宝箱をランダムポップすること。

 モンスターが定期的にポップすること。

 生きているダンジョンとは、それ一つが大きな鉱脈である。

 だから、多くの場合ダンジョンは休眠状態で維持されている。

 

 ただ、永遠に休眠状態にできるわけではないのは火山もダンジョンも同じこと。

 活性化がどうにもならなくなったら、諦めてダンジョンは“踏破”される。

 アタシたちが先日まで取り組んでいたクエストは、このダンジョンの踏破作業だ。

 

 当然ながら非常に難易度が高く難しい任務だったこれは、成し遂げられるのは限られる。

 それだけアタシたちのパーティは凄いってことだ。

 んで、そんなパーティにおいて最強と称されるのが、ユースリッド、“貴公子”様なわけで。

 

 なお踏破済みになったダンジョンは、宝箱もモンスターもポップしなくなる。

 既にポップしたモンスターや宝箱が消えるわけではないので、流石に踏破して二日でモンスターが消えることはないが。

 それはそれとして、休眠中だった頃よりも冒険者の数はがくんと落ちる。

 そうなれば、ダンジョンにより付く冒険者は殆どいないということだ。

 更にはうちの連中はただ今全員が休暇中。

 休暇中にダンジョンへ潜る冒険バカもいないわけではないにしろ、それは潜ることへのリターンがそこそこあるからだ。

 少なくとも、時間と暇を潰すためだけにダンジョンへ潜ったりはしない。

 

 そう、アタシたちみたいに――

 

 

「――そっち、行ったぞリーナ」

 

 

 一薙ぎだけで、無数のモンスターを切り伏せるユース。

 その言葉の通り、アタシの元へモンスターがやってきていた。

 獣型の、ダンジョンでもそれ以外でもよく見かけるオーソドックスなタイプだ。

 アタシはそれに対して、剣を振りかぶりながら手早く詠唱を済ませる。

 

「“風よ”!」

 

 起動のためのフレーズを高らかに宣言して、生まれた風とともに振るった剣が、ユースと同じ様にモンスターを薙ぎ払った。

 これで敵は全滅である。

 見れば隣でユースがアタシでも見切るのが難しい速度で剣を振るってモンスター――スライム型のやつだ――を斬り伏せている。

 

 スライム型、剣で切っても切れないから、前衛とは相性が悪いんだけどな。

 つってもこのあたりの魔物は、だいたいDランクの冒険者が相手をするような魔物だ。

 それくらいでないとむしろユースのほうが心配になる。

 

「よ、そっちはどんなもんだよ」

 

 アタシは何気ない調子で声をかける。

 まさか傷なんて負ってないと思うが、戦闘後のパーティの状況把握は必須だからな。

 

「正直、気晴らしに素振りをしているのとそう変わらないよ」

「違げーねぇな! っていうかそのために来たんだからなー、このくらいはサクっとやって貰わないと、見てて気持ちよくない」

「見栄えのための剣術ではないんだけどなぁ。まぁ、楽しそうなら良かったよ」

「おう!」

 

 ――アタシ達は、今自分たちの実力からすると滅茶苦茶楽な階層で戦っている。

 Dランクの冒険者が戦う、といったが今アタシ達がいる場所はなんならEランクでも入ってこれる場所である。

 ちなみに、Eランクが一番した、実質的な一番上がA、その上に特別な階級としてSがある。

 まぁよくあるやつだな。

 一般的に、Dランクで一人前、Cランクなら一流だ。

 

「受付の人、凄い顔をしてたよなぁ」

「ありゃ傑作だったな。口止め料も払ったんだし、バラさないでくれるといいんだけど」

 

 今のアタシたちの姿は、デート用のお洒落着の上にレンタルで借りれる胸当てと、同じくレンタルの剣だ。

 普通、こういうのは冒険者登録したばかりのEランク冒険者に貸し出されるものだが、制度上アタシたちでも借り受けることができる。

 が、当然普通ではないのでビックリされる。

 そもそも今の服装でダンジョンに潜ることすらびっくりされる。

 誰にも見つからず時間を潰したいのだと説明して、なんとか納得してもらったが。

 

「……口止め料って。僕の顔は売り物じゃないんだけどな」

 

 というか、正確に言うとユースのイケメンスマイルでゴリ押しした。

 ありがとう受付のお姉さん、ユースのイケメンスマイルは普段酒の席じゃないと見れない貴重な代物なんだぞ?

 

「その割には、すげー慣れた口説き方で口説き落としてたけどなー、お前」

「そういうつもりはない! 第一、慣れちゃったんだから仕方ないだろ、そういうことに」

「べっつにぃー、アタシが不満だなんてー、一言も口にしてないがぁー?」

「さっきからあたりが強いなぁ、ホント」

 

 うるさいうるさい。

 今は適当にダンジョンをぶらつければそれでいいのだ。

 

「っていうか、さっきから無軌道に進んでるけど、このあたりのマッピングってどうなってるのさ、リーナ」

「ん? ああ、いいのへーきへーき、ここは昔作ったマップがあるからな」

「あれ? そうだっけ?」

「いやお前、もしかして忘れてるのか?」

 

 適当にずんずんと進んでいくアタシとユース。

 多分、ダンジョンに潜ってから既に二時間くらいが経っている。

 夜まであと二時間くらい、だから一時間も時間を潰せば十分だろう。

 残りの一時間は、汚れとかを落として素知らぬ顔で外にでるための準備に使う。

 

 とはいえ、どれだけモンスターとの実力差があったとしても、マッピングをしていないと迷うのは必至。

 ユースはそれを気にしているのだろうが、問題はない。

 既にマップがあるからだ、アタシはアイテムボックスを漁って、古ぼけたマップを取り出した。

 今見て見ると、あまりにも拙い内容だが、今いる場所から出口までの道はきちんと記録されている。

 

「ずっと前に、ここに来たことがあるだろ」

「そうだっけ?」

「アタシたちが冒険者になったばかりのころだよ」

 

 今からだいたい五年ほど前。

 冒険者になりたてのアタシとユースは、たどり着いたこの街で冒険者としての第一歩を踏み出した。

 

「いきなりEランク冒険者が潜れる一番深い階層に、自信満々で潜ったじゃないか」

「あ? あー……そういえばそんなこともあったような」

「あったんだよ。お前、ほんとどうでもいいことはスグに忘れるよな」

 

 記憶力が悪いというわけではないのだけど、過去を振り返らないタイプなのだ、ユースは。

 もしくは、単純に思い出したくない過去だったのか。

 

「んで、大失敗したんだ。アタシとユースは冒険者になる前から強かったし、これくらい余裕だろって思ってな」

「……ああ、そうだった。この街にやってくる道中で戦った魔物は全然苦にならなかったから、ダンジョンに潜っても大丈夫だって思ってたんだよね」

 

 ――が、実際はそんなことなかったが。

 冒険者において、もっともランクに隔絶した差があるのがEからDランクと、BからAランクの間だ。

 半人前と一人前。超一流と頂点の差。

 才能の壁ってやつだ。

 半人前から一人前になるには、適性ってやつが必要になる。

 適性のない人間はどれだけやってもそれを身につけることはできないし、どこかできっと命を落とす。

 人は努力すれば一流や超一流になることはできるが、その中から最高の頂点に立つには、才能と運が必要である。

 当時の私達は、前者だった。

 

 冒険のセオリーを何も知らない状態だったのだ。

 確かに、当時のアタシ達でも一戦だけならこの階層の魔物と戦うことができた。

 だが、ダンジョンではそれが何度も続く。

 補給がなければどこかで力尽きるし、慢心しまくっていたアタシ達にろくな補給手段なんてなかった。

 

「――で、途中からひたすら逃げることにだけ集中して、道に迷いながらなんとかマップを作って出口を見つけた」

「いや……お恥ずかしい。忘れてたっていうか、思い出したくなかったんだね」

「アタシは、忘れたくたって忘れられねぇよ、人間、良かったことより悪かったことのほうが記憶に残るものなんだ」

 

 お前みたいな単細胞でなければな、と背中を叩いて先に進む。

 後ろから、むっとしたような気配が伝わってくるが、無視だ無視。

 どうせ逃げた先で起きたことも忘れてたんだろう。

 そんなヤツの反論なんて聞く耳もたん。

 

「んで、ここだ」

 

 アタシはマップを見ながら立ち止まる。

 そこは、なんというか聖なる祠みたいな場所だ。

 ここのダンジョンは無骨な坑道みたいなダンジョンなのだが、そこだけ遺跡みたいになっている。

 なにかといえば、安全地帯である。

 どういう理屈かはよく覚えていないが、ダンジョンにはこういう安全地帯が存在する。

 

「ここに逃げ込んだんだよ、モンスターに追いかけられながらな」

「あと一歩遅かったら、今ここに僕たちはいなかったんだっけ」

 

 そうそう、とうなずきながら中に入る。

 静謐なその空間は、中央に焚き火のための薪が積み上げられている以外に、何かがあるわけではない。ちなみにこの薪は燃やして灰にするとそのうちリポップする。

 火種があるわけでもないから、火をおこすのも何かしらの手段が必要だ。

 ――当時、アタシは炎系統の魔術しか使えなかったのだが、もし使えなかったら死んでいたかも知れない。

 詠唱をして、

 

「“炎よ”」

 

 炎を魔術で生み出し、薪に火を付けると、それを囲んで向かい合いながら座り込む。

 アイテムボックスから椅子になるものを取り出して、ふたりともそれぞれに腰掛けた。

 

「文明の利器最高! 地べたに座らなくて良くなったのは間違いなく進歩だよな」

「まぁね」

 

 当時は冷える床にケツを押し付けて座り込んでいたのだ。

 ダンジョンは洞窟の中だけあって肌寒いのだが、おかげで火にあたっているのに寒いなんてことになって、気分は最悪以外の何物でもなかった。

 今は――まぁ、悪い気分ではない。

 

「しかし、なんとも不思議な気分だよな」

「っていうと?」

「二人でダンジョンに潜るとか、それこそこのダンジョンで死にかけた時以来だぞ?」

「ああ」

 

 原因は色々とある。

 ダンジョンから逃げ帰ったアタシ達はスグに自分たちの無茶を反省し、パーティを組むことにした。

 幸いなことに、リーダーが立ち上げたばかりだった『ブロンズスター』がこの街で募集をしていたから、二人でまるっとそこに滑り込んだ。

 アンナと出会ったのもこの頃だ。

 リーダーはランクこそDランクだったものの、冒険者としてはそこそこベテランだったらしく、冒険者としてのノウハウをみっちり叩き込まれた。

 その中で、ダンジョン探索はパーティを組んで行うのが当然だと教え込まれた。

 

「――二人だけで悩むな、って口酸っぱく言われたっけ」

「冒険者は一人で生きていく必要はないんだから、だっけ」

 

 もちろん、反発する理由もなかったからアタシ達はそれを当然だと受け入れた。

 おかげで五年もの間二人っきりで冒険をする機会もなかったわけだが、

 

「なんていうか、新鮮だ」

「っていうか、こんな下層で暇つぶしをすることも、初めての経験だしなぁ」

「アタシ達、結構生き急いでたよな」

 

 冒険者になって五年でAランクまで上り詰める。

 正直、かなり異例のスピード出世だ。

 中核となった発足当時のメンバー全員が才能に恵まれていたというのもそうだが、色々なタイミングで幸運に恵まれたのも大きいだろう。

 

「生き急いでいるというか」

 

 なんだよ、アタシに原因があるとでもいいたげだな。

 ユースは、何というか、どうにも形容しがたい顔でこっちを見ていた。

 ――呆れるような。()()()()()()()()()()()()。そんな、どうにも表現し難い表情を、していた。

 だが、すぐに引っ込めて、口に出す。

 

「君が、次から次に色々と事件を持ち込んでくるんじゃないか」

「本当にアタシが原因だって直接言ってきやがったなこいつ」

 

 おい、なんで首を横に振る。

 アタシがいつ、トラブルメーカーみたいなことをしたって?

 

「じゃあ言わせてもらうけれど、僕たちがDランクに昇格する原因になった事件、君がアンナにいいところを見せようとして無茶した結果、Cランクのモンスターを発見“してしまった”のが事の発端だっただろう」

「してなかったら、下手すると村一つが全滅してたかもしれないけどな?」

「Bランクに昇格する時だって、Aランクの時だってそうだ。Cランクになったときだけだぞ? 何事もなくランクが上がったの」

「どれもその時の最善を尽くした結果じゃないか!」

 

 アタシは悪くない! 原因になっただけだ!

 

「第一」

 

 ビシっと、ユースはアタシを指差す。

 一瞬、焚き火の音も、アタシ達の口論も何もかも、すべての音が停止した。

 本当に一瞬のことだ。

 一秒にも満たない間隙の中で、たまたま生じた空白。

 

 

 ()()()()

 

 

「あの時も――」

「――し、静かに」

 

 アタシは、続けようとするユースの言葉を遮った。

 ええい、そこまで言えばその後何がいいたいのかは全部わかるから、それ以上言わなくてよろしい。

 だから少しだけ、アタシに集中する時間をよこせ。

 

 沈黙。

 

 視線で不満を訴えかけてくるユースをさしおいて、アタシは目を閉じて意識を研ぎ澄ませる。

 ああ、しかし。

 ……しかしだ。

 また、こうなってしまった。

 どうか違っていてほしい、そんな気持ちが湧き出してくる。

 ――アタシ達、久しぶりに誰にも邪魔されず、二人っきりになれたのに。

 

 そんな思いを裏切るように。

 

 

 ()()()()

 

 

 かすかに、聞こえた。

 

「――今の」

「…………水の音だ。あっちから、聞こえる」

 

 ぶっちゃけ、人間的な性能はユースの方が高い。

 集中して聞き取ろうとすれば、ユースだってアタシと同じものが聞こえるだろう。

 そうしてユースが指差した先に、

 

 道はなかった。

 

 二人して顔を見合わせる。

 ああこれはまた――

 

「……また、なんか見つけちまったみたいだな?」

 

 そう呟くアタシに、ユースはそれはもうこれみよがしに、ため息を付くのだった。

 

 ああ、でもしかし――

 ……またこの展開かぁ。

 これまでのアタシの人生で、何度も起こってきた事態。

 幸運の妖精は伊達ではなく、

 

 ユースの言う通り、アタシはトラブルメーカーなのだ、それもどうしようもなく救いようのない。

 今回も、ユースとのデートはこれ以上続けることは出来ないだろう。

 

 

 ――やっと、二人きりになれたのに。

 

 

 口には出さなかったけど、きっと。

 ユースもそれは思っているのだろうな、と思った。




実はダンジョンに潜るほうが楽しい系カップルです。
色々と問題を抱えていたりします。
詳しくは次回。

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