TSっ娘が幼馴染男と子作りして雌落ちするよくあるやつ。 作:ソナラ
結論から言うと、アタシ達の目論見――デート暇つぶし作戦は大失敗に終わった。
どころか、デート自体がそもそも大失敗だった、と言ってもいいかもしれない。
原因はなんと言っても、ダンジョン内で見つけてしまったアレ。
何もない場所から響く水の音、というのはつまるところ隠し通路というやつだ。
アタシの前世的に言うと、お宝が眠っていたり、強い敵が鎮座していたりする場所。
この世界でもそれは大まかには変わっていないが、もう一つ、この世界では意味がある。
そこは何の調査もされていない未踏破スポットであるということ。
これはまずい、ダンジョンとは火山と同じ、生きている自然だ。
もっと言えばこの世界の自然には意志がある。ダンジョンなんて、殆ど生き物と同じである。
それが通路を隠すということは、何かしらの意図があって隠しているということで。
その場合、たいていはあまりよろしくないモノが隠されていることが多い。
今回の場合、ダンジョンは踏破されそうになっている。
もしも見つけてしまったなら、それはもう一大事。
冒険者には報告の義務がある。
はい、ここまで話せばお分かりですね、アタシたちがデートをサボってダンジョンに潜っていたことがバッチリメンバーにバレます。
結果、アタシとユースは現在正座させられて、針のむしろになっていた。
あああリーダー早く帰ってきてくれええ。
「……何か、弁解は?」
「それっぽい経験を語って、間は適当に膨らませれば誤魔化せると思ってました」
「リーダーはごまかせないでしょ」
「あの人には、きちんと正面から話すよ! お前らをごまかせればそれでいいんだよ誤魔化せなかったけどな!」
――それはもう凄い剣幕で仁王立ちしているアンナと、酒を片手にやれー、ぶっとばせー、と野次を入れてくる仲間たち。
アンナはいい、心配してくれているし、怒るのも当然だ。
けどなぁ、後ろのバカどもは騒ぎて―だけじゃねぇか! 引っ込んでろアホ共が!!
「……はぁ、っていうかユース、あなたもそれで良かったの?」
「いや、何というか……」
で、ユースはユースだ、とアンナは視線を向ける。
アタシがサボろうとするのは解りきっていたんだから、きちんとユースがエスコートすればよかったのではないかといいたげだ。
「あなたがキチンとエスコートしなさいよ」
「目は口ほどにものを言ってらぁ」
「あ?」
「なんでもございません」
こわー……
マジで説教してくる時のアンナは本気で目が怖い。
生来、旦那を尻に敷くことが決定づけられたアンナは、そういうところが好きな冒険者に男女問わず人気である。
これで処女なんだから、出会いがないのではなく本人のやる気がないだけなのでは?
「えーと、その……なんだ」
「ああん?」
そんな怒るなよ、ユースは悪くないんだから……
「……リーナといくなら、下手なショッピングとかよりソッチのほうがいいと思ったんだ」
「てめぇアタシを何だとおもってやがんだよ!?」
“それだ”ってそういうことかよ!
こいつもアタシと同じ穴の狢じゃねぇか。
デートベタかよ! 下手だったなそりゃ経験ないんだから当然だわ!!
昼はカップル限定、夜はこってこてのディナーと言い出すやつのデートプランが完璧なはずがなかった。
「いやでも……楽しかっただろ」
「…………まぁ」
――と言っても、考えてみると否定はできないな。
女同士で出かけると、たいてい着せかえ人形にされるから楽しくないし、男とでかけたとしても“そういう振る舞い”を求められるのは窮屈だ。
気心のしれているユースとなら、むしろこういうのがアタシたちらしいデートなんじゃないか?
あれ? もしかしてそんな怒られるようなプランじゃない?
「…………はぁ、ごちそうさま! 末永く幸せに生きてから死ね!!」
あ、アンナが諦めた。
周りはアンナに野次を飛ばしている、なんなら賭けの対象になっていて、アンナの方がオッズは低かったんだろう、あの野次はそういう野次だ。
きっと、アンナが説教を完遂させるか、アタシたちがその前に理論武装を完成させるかの賭けだ。
とはいえ、アンナの方がオッズが低かったってことは、アンナがアタシ達の説得を成功させた方がいいと思ってたわけだ。
そういう意味では、こいつらには心配をかけているかもしれないな。
少し、反省。
――まぁ。
「うるさいわよバカども!! 蹴られたいんなら一人ずつそこに並びなさい!」
賭けに負けたらしい連中が、おとなしく並び始める。
別に蹴られて嬉しいから並んでいるわけではなく、その場のノリでなんとなく並ぶか、となっているだけだ。
本当にバカしかいねぇなそこのスペース。
「ふん! ふん!」
「あんまり気合い入れすぎんなよ―」
ぱこーんぱこーんと蹴られていくアホ冒険者(男女比6:4くらい、4が女だ。なんでそんなにいるの?)を眺めながら、アタシとユースは顔を見合わせた。
なんか、お互いにおかしくなって苦笑しあう。
うん、日常って感じだ。
「はーい、おまたー!」
その時、ばぁんとすごい音を立てて宿の扉が開いた。
なお、実際には音がすごいだけで扉は結構丁寧に開けられている。
そこには腰をくねくねさせているオカマゴーレムのリーダー、ゴレムが立っていた。
やたら上機嫌なあたり、うまい具合に仕事の内容をまとめてきたんだろう。
「あらもー、まーた変なことしてたの? あんまりはしゃぎすぎちゃだ、め、よ?」
「そうは言うけどリーダー、リーナとユースがさー」
外野から野次が飛んでくる。
ええい、その話はもういいだろ!
「んふふ、でもおかげでまた大きい仕事が入ってきたんだから、貴方達は喜んでいいと思うわよ」
「むしろ休みが吹っ飛んだんですけど!?」
――これから一週間、ひたすらに飲み明かしたり博打に興じたり、女と遊んだりする予定だったりしただろう連中から、そんな文句が出てくる。
まぁ、そういう意味でアタシたちに文句をいいたい連中もいるだろう。
ぶっちゃけた話、踏破したダンジョンに隠し通路があったとか、下手すると失態だ。
時と場合、権力者の思惑によるが、こういうのをマイナスとしてアタシ達冒険者にむちゃを言ってくる奴らは多い。
そうなった時の冒険者は立場が弱いので、一方的にその被害を受けるしかないのだが――
「安心なさぁい、今回の隠し通路は今のダンジョンが発生してから数十年間、一度として発見されなかった通路なのよ、むしろ見つけられなかったことのほうが問題になるわぁ」
「ってことは……?」
「こっちは全面的に悪くない、むしろ発見したことで恩人の立場にまでなったわねぇ!」
リーダーのその宣言に、周囲が沸き立つ。
おお、それは凄い。
普通こういうのはお互いに色々と利益をぶつけ合って、それなりの妥協点を見つけるものなのだが。
完全に10:0で向こうに非があることになるっていうのは、それはそれは凄いことだ。
同時に、それは成功させれば報酬も凄いということで。
「じゃ、じゃあリーダー。この冒険を成功させたら……」
「――二週間」
――――2のジェスチャーをごつい手で作ってみせるリーダー。
つまるところ、それは。
「二週間の休みを、全員平等にプレゼントするわぁ。もちろん、ここで活躍すれば更にボーナスがあるわよ!!」
「お――――」
一瞬の沈黙。
「おォ――――!!」
宿屋一階の食堂に、冒険者たちの歓声が響き渡った。
――しかし、普通ここまでこっちが一方的に恩人の立場にはならないよな。
リーダーがアタシたちを全力で守ってくれた証であると同時に、それを後押しした誰かさんの存在を感じて、アタシは少しだけ難しい顔をするのだった。
▼
――夜。
仲間たちが眠りについたか、朝まで帰ってこないことがはっきりしてきた時間帯。
一人の男性と、一人のオカマゴーレムが並んで酒を入れていた。
「それで、どうだったのユースちゃん」
「…………なんというか、その」
ユースリッドと、ゴレムリーダーだ。
今のリーダーは普段の大げさな動作とは裏腹に、しっとりとした乙女のような所作でユースを眺めている。
対してユースは、どこか申し訳無さそうにしながら、手にしていた酒を一口煽った。
「“また”……ダメでしたね」
「ほんと、うまく行かないわねぇ」
二人の内容は、今日のデートに関するものだ。
昨夜の“アレ”に関しては、デートの衣装を決めるときに、一通り話してある。
とはいえ、
「……けど、まさかリーナちゃんがお酒で記憶飛ばしてるなんてねぇ」
「あいつからいい出したことだったのに、そういうところで抜けてるのは、らしいと言えばらしいですけどね」
リーナが、昨夜のことを完全に忘れていたのは誤算だった。
まぁ、リーナが普段から変なところでポカをするのは、いつものことだとユースは笑う。
そういうところもカワイイ、というやつだろう。
「だから改めて、二人だけになれる場所で話をしようと思ったんですが……」
――ダンジョンに潜ることをリーナが提案したのは渡りに船だった。
今のリーナとユースが二人きりになって、互いに昨夜のことを思い出さない場所というのは限られる。
飲食店などは人目があるし、ホテルや自室は明らかに昨夜のことを連想させる。
ダンジョン、そこ以外に意識せず話ができる場所はユースには思いつかなかった。
しかし、失敗した。
またもリーナが、見つけてしまったのだから。
ダンジョンの隠し通路を発見してしまったというのは、それだけ大事なのである。
ユースたちはAランクの冒険者なので、あくまで仕事として対処しているが、これが本来あの場所を利用するようなDランク冒険者なら、結果的に大きな災害の引き金になっていたかもしれない。
見つけたなら、即座にそれを報告する義務が冒険者には存在する。
デートなんて、している場合ではなかった。
「……といっても、流石に毎回これじゃあ、いやになりますよ」
「あの子は、そういう星の下に生まれちゃってるからねぇ」
――そして、こういうのはこれが初めてではない。
流石に一線を越えるのは初めてだが、リーナとユースの関係を変えようという試みは、リーナもユースも意識しているかどうかの差異はあるが、何度も行ってきたのだ。
お互いに、相手が好きなことを解っているのに、きちんと正面から向き合わないとそれを形に出来ない。
リーナの自意識が一番の壁なのだが、それを悪く言うことはできないだろう。
悪いのは、それを変えようとする度に起こる“ジャマ”のことだ。
「“
「…………」
リーナリアは運がいい。
親譲りのその幸運は、時として多くの事件を引き寄せる。
本人が望もうと望まざると。
そしてそれは、大抵の場合、リーナとユースの関係が変化しそうなタイミングでやってくる。
ユースとリーナが冒険者になる前から二人のことを、そして二人の親族についても知っているリーダーは、こういう時の相談相手として心強い相手だ。
昔を懐かしむリーダーに対し、ユースは少しだけ視線を伏せて、けれども声に力を込めて言葉を紡ぐ。
「けど、リーナは言ってました」
「……何を?」
ユースは、これまでの自分とリーナの足跡を思い出して、そして――あの夜のリーナを思い出して、強くグラスを握りしめながら、言った。
――昨日の夜、リーナは大きな決断をした。
その決断は、ユースもまた、前に進む覚悟を決めるに足るものだった。
「今度は、運命より先に手を出してやったぞ、……って」
そうやって、悲しそうに――けれども嬉しそうに自分の手の中で笑う、幼馴染の姿を思い出して。
ユースは、ただ強く、酒の水面に映る自分を、睨む。
「……今回の件、アタシたちに非がないことになったのは、ひとえに“あの人”の助力あってこそよ」
「…………解ってます。多分、リーナも意識はしてないでしょうけど、察してはいるはずです」
歓声を上げる宿屋で、一人だけ難しい顔をしているリーナを見れば、リーナも事情を察しているだろうことがわかる。
だからこそ、ユースは絶対に逃げ出すことはできないのだ。
「あなたとリーナに与えられた猶予は、もうそれほど無いわ」
「ええ……だから、リーナは焦ったんでしょうし」
リーナは決して、打算で行動できない人間だ。
正直すぎるというか、無垢すぎるところのあるリーナが、それでも焦って――酔った勢いで、というのが大部分だろうが――行動を起こしたこと。
それだけでも、自分たちの置かれた立場をユースは理解せざるを得ない。
「だから……」
――リーナリアとユースリッド。
誰もが認めるお似合いカップル、リーナが男性に対する生まれつきの忌避感を抱いているという障害故に、両思いでありながらいまだ結ばれることの出来ていない男女は、しかし。
「――僕は、絶対にリーナに相応しい男になって、リーナのお父さんに、認めてもらいます」
それこそ、リーナの悪運、性自認と並んで二人の間に立ちはだかる壁だった。
夜は更けていく。
運命は二人に手を伸ばしていく。
幸運に呪われた少女と、そんな少女を世界の誰よりも愛してしまった男。
二人の長い長い旅路は、大きな変革を迎えようとしていた――――
今回で導入が終了となります。
シリアスしたりしますがイチャイチャは欠かさないと思います。
ここからは真面目に話を進めつつ、回想で雌落ち前の部分も掻い摘んでいく感じになります。
皆様の感想、高評価、お気に入りが執筆の糧になります。
よろしくお願いします。