TSっ娘が幼馴染男と子作りして雌落ちするよくあるやつ。 作:ソナラ
――懐かしい夢を見た。
今から十年と少し前、アタシが転生して少したった頃の事。
アタシの眼の前に、金髪のガキが眠っていた。
ここは、アタシが常日頃から抜け出してサボりに使っている場所で、それはもう色んな花が咲いている花畑である。
四季によって咲く花が自然と変化し、誰も手入れしていないのに常に花が咲き誇っている場所。
明らかに普通ではないこの花畑は、アタシがこの世界に転生して、当時としては唯一と言っていいファンタジーな光景だった。
つまりなんと言えばいいのか、ここはアタシの聖域である。
やたら厳格な家に生まれてしまったアタシは、ファンタジー世界に生まれ変わったにも関わらず、よくわからん経済学だとか帝王学だとかを叩き込まれまくって、魔法も剣も一切触れられなかったのである。
しかも女になったせいで、女らしくあることを強要されて、ふてくされていた。
その中で、ここだけがアタシの癒やしだったのに。
だというのにそこへ、金髪の、ガキ(アタシと同年代)が紛れこんでいるのである。
ふざけんな、ここはアタシの場所だ!
そう思ったアタシは、そいつを思いっきり蹴り飛ばそうとして――
――避けられた。カッ、と目を見開いて飛び退かれたのである。
「――は?」
思わず、声を出していた。
そいつはそのままアクロバティックにバク転しながら距離を取り、剣を抜き放ち蹴りつけてきたアタシを睨む。
警戒しているのだろう、がしかし――即座にそれが呆けたものに変わった。
今思い返せばそれは、アタシに見惚れていたのだろうが、当時のアタシはそんなこと関係ない。
なんたって、今の動きは、どうしようもなく――
「――――か、かっこいい」
アタシが憧れるような動きだったからだ。
いやだって、物語とかアクション映画でしか見ないようなすげー動きを見せつけられたのである。
これぞファンタジー! これぞ転生! ってちょーテンション上がるよね。
「あ、えっと……ご、ごめ」
「――なぁおい! 今のなんだ!? どうやったんだ!? どーすればそんな風に動けるんだ!?」
アタシは思わず顔を近づけて聞いていた。
そいつは無意識に剣を向けてしまったことを謝ろうとしていたんだろうが、アタシはそんなこと気にしない。
間近でまくし立てる。するとそいつは顔を思いっきり赤らめて距離を取る。
「お、落ち着いてくれ! 今のは剣技だ! ぼ、僕のはまだ、到底父に及ぶものではなくて……」
「何いってんだよ、アタシが見たのはお前の剣技だ! んなどうでもいいことを解説しなくたっていいっての!」
「え――」
ぽかん、と目を丸くそいつに、先程まで感じていた苛立ちなど吹き飛んでいた。
窮屈極まりない生活を送っていたアタシにとって、間違いなく新しい風になる存在。
アタシと同じくらいの年齢でありながら、あんな動きができるやつがこの世界にはいるんだ。
きっと、世界はアタシの思う通り、色んなファンタジーがあるはずなんだ。
だから――
「――アンタ、名前は?」
アタシは、こいつを知りたい。
それが始まりだった。
その時はまだ、アタシにとってそいつは新しくできた男友達。
そいつがアタシに惚れているなんて気付くはずも、思い当たるはずもなく。
純粋に、友達になりたいと名を聞いたのだ。
「…………ユースリッド」
「いい名前だな!」
「……君は?」
帰ってきた名前に、笑みを浮かべた。
そいつが更に顔を真赤にしていた。今思い返すと、余りにも真っ赤すぎて、逆に面白い。
「リーナリア・アウストロハイムってんだ」
そして、その返答に――
「あ、あうすとろ……はいむ……? アウストロハイム
「おう!」
――そう、アタシ、リーナリア・アウストロハイムは、貴族だ。
この国で一番えらい貴族、それがアタシの一族である。
聞いたところによれば、ユースの父親はアタシのくそオヤジ……父様と懇意の仲らしい。
故に父親に連れられてここにきたのだとか。
しかし退屈だったので逃げ出して、ここにやってきた、と。
……いや、ロックすぎじゃないか?
仮にも初めて連れられてきた場所で、一発目から逃げ出すとか普通じゃねぇ。
とはいえ、そんなロック野郎ならなおさらアタシは歓迎だ。
つまらないアタシの人生に、風穴を開けてくれるかもしれないんだから。
「じゃあ、ユース。そうだな、アンタはユースって方が呼びやすい。だからユース――剣を教えてくれ」
「剣を……僕が!?」
「そうだ。さっきのすげー動きみたいなの、アタシもやりたい!」
「いや、それは……」
――それは、出会い。
「……ダメか?」
「…………しょうがないなぁ」
アタシとユース。
いずれ一つになる二人の、始まりの出会いだった。
▼
「リーナ、ユース、そっちは任せたわよ!」
「ガッテン!」
「承知してます!」
二人の剣士――アタシとユースが互いにそれぞれの武器を構えて突っ込む。
アタシは細いレイピアで、ユースは両手で構えるような大剣だ。
目の前には硬い甲羅に覆われた亀型のモンスターがいて、アタシ達はリーダーからこれの対処を任された感じ。
「“風よ”!」
「おおおおお!!」
アタシが風の魔術を使ってそいつの足元を乱すと、ユースが剣を下から上に切り上げた。
途端に亀型モンスターは浮き上がり、身動きが取れなくなる。
そこへ――
「せええ!」
「ふん!」
二人が同時に、無防備な脳天へ剣を突き刺した。
ユースは力任せに、アタシは脳天だけでなく眼も同時に貫くように。
この一撃で倒せる算段は合ったが、余裕があればこうして次の手を封じるのもテクニックだ。
“ォォオオオオオオオ”
とはいえ、問題なくモンスターを倒すことができ、モンスターは影に溶けるように消えていく。
確かモンスターは影の邪神の眷属で、影から生み出されるので、倒されれば影に消えていくんだったか。
ぶっちゃけ倒した後に消えるゲーム的な演出と思えばそれで問題ないのだが、こういう設定がきちんとキメられてるとワクワクするよな。
まぁここはゲームじゃなくて現実なんだけど。
「次は!」
「――詠唱完了、まとめて吹き飛ばすわよ!」
ユースの叫びに応えたのはアンナだった。
アタシ達はその言葉に、即座に横っ飛びする。
あいつが詠唱を完了したってことは、大きな魔術が飛んでくるってことだからだ。
「“獄炎よ”!!」
叫び、巨大な炎があちこちを飛び回り、モンスターを焼き尽くしていく。
詠唱の時間が倍以上に増える代わりに威力もそれに比例して増加しているため、アタシのそれと比べると殲滅力が半端じゃない。
気がつけば、周囲のモンスターは全滅していて、戦闘は決着がついていた。
「ユース、そっちはどうだ?」
「傷はないよ、ちょっと疲れたけどね」
「ん、ならよかった」
とりあえずユースの方を見てから、リーダーたちの方へ向かう。
そこでは、無数の攻撃からアタシ達を守ってくれていたリーダーが、表面に擦り傷をつけていた。
それを、ヒーラーであるパーティメンバー、小柄な女性が詠唱の後に癒している。
赤毛の少し地味なところがある彼女は、ソナリヤ・グラフ夫人、アタシ達パーティのトップヒーラーである。
デートの服を貸してくれた恩人である。
ちゃんと洗濯したので、笑って許してくれたぞ、いや本当に夫人には頭が上がらないね。
「パラレヤさんも、ありがとうございました」
ぺこり、とアンナがお辞儀をする相手は、パラレヤ・グラフさん。
“木人”と呼ばれる人型樹木の彼は、ソナリヤさんの旦那さんである。
二人はこのパーティで出会い、結婚した夫婦なのだ。
ソナリヤさんはパーティで一番凄いヒーラー、パラレヤさんはパーティ一番のエンチャンターである。
この世界の戦い方は、それこそゲームみたいだ。
冒険者にはそれぞれ役割があって、その役割にそって戦闘を進める。
基本は四種類、アタッカー、タンク、ウィザード、ヒーラー。
このうち、ウィザードは攻撃魔術を使うアタックウィザードと、補助魔術を扱うエンチャンターに分かれる。
アタシ達の場合、ユースは典型的なアタッカー。
前線に出て、とにかく敵を倒して数を減らすことが求められる。
リーダーはタンクだ。モンスターのヘイトを集めて、仲間が戦いやすい状況を作る。
アンナがアタックウィザード。パラレヤさんがエンチャンターで、それぞれ魔術で状況を動かす。
ソナリヤさんはヒーラーで、パーティの生命力を一手に担う重要な存在。
アタシ? アタシは
つまり、アタッカーとして戦うことも、タンクとして周りを守ることも、ヒーラーとして回復を助けることも、ウィザードとして魔術を飛ばすこともできる。
基本的にはユースと一緒にアタッカーを担当しつつ、リーダーのダメージが大きい場合は変わりにタンクを受け持って――アタシの場合は回避盾だ、正面からの攻撃を受け持ったりはしないぞ――パーティが追い込まれたらソナリヤさんと一緒に必死にヒールを飛ばすし、火力が必要ならアンナと並んで大魔術を行使したりする。
流石にエンチャントはそこまでやらない、バフって基本的に重複しないから、小手先のエンチャントだと何の効果も得られないのだ。
「リーダー、他のパーティはどうですか?」
「んー、斥候ちゃんたちが先に進んでるみたいだけど、報告が無いから、めぼしいものは見つかってないみたい。後は各地で戦闘中ねぇ」
リーダーが、何か石版のようなものを手にしながら、アンナの言葉に応えている。
――現在アタシたちは言うまでもなく、アタシとリースが見つけた隠し通路を探索している最中だ。
どうも、隠し通路は通路と言うよりエリアとなっているらしく、そこにはアタシ達が先日踏破した最下層より更に一つ上のランクのモンスターがうじゃうじゃしていた。
これはやばい、と本腰を入れて調査を開始したわけだが、やっていることはといえば、パーティをいくつかの小隊に分けての探索である。
基本的に、ダンジョンに潜ったり、クエストを受ける際のパーティの人数は六人が最適とされる。
それ以上になると連携がうまく行かないのだ。
だから大きなクエスト――今回のような踏破作業に数十人規模のパーティが挑む場合、パーティを分割するのが普通である。
複数に別れたパーティが、司令塔であるリーダーの指示に従って、お互いにフォローできる状態で進行していく。
これが案外効率的なのだ。
「これ以上進んでも、他のパーティが遅れちゃうわね。斥候ちゃんたちにも、一端待機って言っておくから、一度ここで他の子たちを待ちましょう」
「……解った」
パラレヤさんが珍しく口を開いてうなずいた。あの人、基本喋らないからな。
アタシとユースも互いに視線を交わしてうなずくと、アイテムボックスから椅子を取り出して、その場に座り込む。
椅子っていうか、マルタなんだけど。
最悪その場に捨てていってもいいから、便利なんだ、椅子用に加工されたマルタ。
「ふー、結構きついなぁ……」
「流石にランク一つ上がると、一戦一戦が長引くからな」
正直言うと、今回の探索はあまり成果が芳しくない。
単純に敵が強いのだ。間違いなく、ここがダンジョンの本命なのだろう。
と、そこに。
「――まぁまぁ、私達なら攻略できないダンジョンではないのですから、腰を据えて行きましょう」
そんな柔らかな声が響いた。
二人して顔を上げる、そこには、
「ソナリヤさん!」
ソナリヤ・グラフ夫人、柔らかな笑みを浮かべる、パーティ随一のほんわか美人がそこにいた。
手には、飲み物を持っている。アタシたちのために入れてくれたのだろう。
アンナと二人でそれを喜んで受け取った。
うあ、あっつい。
「猫舌ー」
「うっせ」
からかうアンナを、しっしと追い払う。
んで、ふーふーと、温かいココア――に相当するこの世界の飲み物……以後、そういうものが大量に登場するが、わかりやすさ重視でアタシの認識で前世の近い食べ物に変換する――を冷ましながら口にした。
うん、甘くて体が温まる。糖分が疲れた頭にすーっと効いて、一気に休まるな。
「ふふ、おかわりもありますからね」
「ありがとうございます。ソナリヤさんは大丈夫ですか?」
アンナが、顔色を伺うように聞く、ソナリヤさんは常に笑顔なので、体調の変化がわかりにくいのだ。
いつもテッカテカしてるリーダーや、いつも繁っているパラレヤさんほどではないけど。
「私は大丈夫ですよー、お気遣いありがとうございますね?」
「いえいえ」
「あ、そうです、リーナちゃん」
ふと、ソナリヤさんはニコニコとこっちに視線を向けて、
「おめでとう、やっとユースくんと子供を作れたんですね!」
ぶーーーーーーーっ、凄い勢いで飲んでいたココアを吹き出した。
げほげほ、
「い、いきなり何いい出すんッスか!?」
あまりにもあまりだったから、ちょっとビックリしてしまった。
周囲の視線が一気にこちらへ集まる。
ええい、見るな見るな、特にユースは見るな!
「ええ、でも交尾、したんですよね? やっぱり恋人同士がそういうことをすると、おめでたいって気がしませんか?」
「ちょ、ちょ、ちょっとスト―ップ、落ち着いてくださいッス、ソナリヤさん!」
あ、ユースが顔を真赤にしながら視線をそらした。
ばかやろー、見るなと念は送ったがそういう反応をされるとこっちも恥ずかしくなるだろ!?
「どうして? 恥ずかしがることはないですよリーナちゃん。私達は家族なんですから」
「そうよー! もっと誇っていいと思うわよー!」
ぐあー! リーダーまで乗ってきやがった!
た、助けてアンナ!!
「…………」
うわ、すげームスッとした顔をしている。
一人だけ出遅れてるやつの僻みだこれ、ふざけんなこっちのほうが被害者だっての。
「そ、ソナリヤさん……ええと、そ、そこまでにしていただけると、ほら、リーナがすごい顔してますから……」
「すごい顔ってなんだよ!?」
「恥ずかしがってるって言ったら、それはそれで怒るだろ!?」
うるせー、ばーかばーか! ユースのばーか!!!
「えー? でも、交尾したんですよね?」
ソナリヤさんはそう言って、夫のパラレヤさんと視線を合わせて――
「どこでしたんですか? オススメの
――――アタシたちは、思わず沈黙した。
あ、そっかぁ。
パラレヤさんは木人である。
木人と交尾する場合、それは特定の場所で一緒に日向ぼっこをすることを指す。
つまるところ、パラレヤさんの交尾に関する知識は、“そういう知識”にとどまるのだった。
……そっか、そっかぁ。
……………………アタシと、アンナ、それからユースが一斉にリーダーを見る。
おやゆびぐっ、ってされた。
解ってたなら訂正してくださいよーーーっ!
だいたいご想像の通りかと思いますが、初対面の際にユース少年の性癖はバキバキになり、
父の剣術じゃなくて自分の剣術が凄いと言われた時点で初恋陥落RTAが完走しています。
ワールドレコードです。