TSっ娘が幼馴染男と子作りして雌落ちするよくあるやつ。 作:ソナラ
「でもですね、私達、ちょっと安心してるんです」
ぽけぽけ夫婦は、アタシ達の阿鼻叫喚を気にせずそんな事を言う。
安心、安心というと――
「私達がこうして一緒になれたのは、リーナちゃんとユースくんのおかげなのに、二人はちゃんとカップルになれてませんでしたから」
「……心配だった」
ぽつりと、付け加えるようにパラレヤさん。
ああ、そういえばそうだ。
グラフ夫妻は、冒険者になってから知り合い、そして夫婦になった仲だ。
互いに、優秀なヒーラーとエンチャンターとして、昔から相性は良かったらしいのだが、それがきちんと交際にまで進んで、結婚に至った経緯には、アタシとユースが関わっている。
主に、アタシの起こした事件のせいなんだが。
「ありがとうございます。でも、心配されることの程じゃないッスよ、アタシもユースも、付き合いは長いし」
「でもでも、子作りできるようになったのは、大きな進歩だと思いますよ」
「……と、とりあえず子作りから離れてもらっていいッスか?」
ああ、また恥ずかしくなってくる。
この二人の子作り観は一般と異なるから、こういうときに事故が起きるんだ。
まさかアタシたちに対してそういうことが起きるとは思っても見なかったから、一瞬混乱してしまった。
普段は茶化す側だったのが、痛いしっぺ返しである。
「それに、やっぱり私達のキューピッドさんには、幸せになってもらいたいですからー」
「……俺たちだけでは、ない」
むぅ、少し気恥ずかしくなってくる。
「そうねぇ、リーナちゃんも、ユースちゃんも、胸を張っていいと思うわよぉ」
「り、リーダー……」
苦笑するユース、アタシもなんか思わず愛想笑いを浮かべてしまった。
――休憩時間の一幕。
なんとなく、アタシの胸に、温かいものが染みていくのだった。
いや、ココアだなこれ、あったけぇ……
▼
――私達のパーティ『ブロンズスター』には幸運のキューピッドさんがいます。
私、ソナリヤ・グラフは、故郷の家族に仕送りをするため冒険者となったのですが、同時に両親からはいい人を捕まえてくるように、と口酸っぱく言われていたのです。
私の家族は結構な大家族で、妹や弟たちを養うためには、少しでも人手が必要だったのですねぇ。
もちろん、素敵な人との出会いには私だって憧れがあります。
ブロンズスターの名前を知ったのも、ちょっと失礼な話ですけど、すっごい色男さんがいるから、って評判だったからなのです。
そうして、実際そのパーティにはすっごい色男さんがいらっしゃいました、それも二人。
パラレヤさんと、ユースリッドさんです!
特にパラレヤさんは、それはもうかっこよくて、ひと目見た時から私、ドキドキしちゃったんです。
ユースリッドさんも絵に書いたような色男さんだと思いますが、私はパラレヤさんが世界の誰よりも大好きです!
えへへ、言っちゃいました。
それに、ユースリッドさん……ユースくんには私なんかよりもずっとお似合いの相手がいましたから、恋をするっていう発想も浮かばなかったかな?
リーナリアちゃん。
私と同じで、小柄で可愛らしい女の子です。こっちはひいおじいちゃんがドワーフさんだったんだけど、リーナリアちゃんはお母さんの祖先がエルフさんだったんですって。
ちょっと言葉遣いが男の子みたいなところがあるけれど、男の子にも負けない強い意志があって、女の子の憧れみたいな女の子。
そんなリーナちゃんとユースくんですが、二人はパーティでも有名な恋のキューピッドさんなんです。
パーティで仲良くなりたい人がいると、自然と二人がそれに関わって、仲を取り持ってくれるの。
凄いんです、二人がいれば失敗する恋愛はないんですから。
それこそ横恋慕ですら、円満に失恋に導くことができるのは、本当に胸をはれると思いますよ?
もともと、リーナちゃんはトラブル誘引体質なところがあるので、それが周りの人たちの関係を改善したり進展するきっかけになるんです。
ときには恋愛どころか、村や街を救っちゃうこともありますが、リーナちゃんが関わった事件では、周りの人が絶対に幸せになります。
その分、リーナちゃんやその周りにいる人は、いっぱい大変なんですけど、そういう人助けができるのは私としてもすっごい楽しくって、やりがいですよ。
ただ、やっぱりそれを引き寄せちゃうリーナちゃんは、周りに遠慮をするところがあるんじゃないでしょうか。
私達がBランク冒険者になるきっかけになった事件があるのですが、その時リーナちゃんは、リーナちゃんに一切責任はないけれど、色んな人を危険にさらしてしまいました。
結果的にリーナちゃんは、危険に晒した人の倍くらいの人を救って、その功績で私達はBランク冒険者になれたのですけど、リーナちゃんはそれを気にして、パーティを去ろうとしてしまったんです。
幸い、ユースくんの説得と、去ろうとしたときに起きた出来事が、リーナちゃんを引き止めるきっかけになったのですが。
リーナちゃんは悪くないのに、どうしてリーナちゃんだけが気に病まなきゃいけないのでしょう。
多分、リーナちゃんはそれが初めてじゃないのだと思います。
なにかある度に、その原因になるのはリーナちゃんです。
誰もその事を責めたりはしませんが――むしろ喜んでよくやった、と笑いますが――リーナちゃん本人がどう思うかはまた別問題で。
もちろん、本人はそういうのを態度に出しませんし、多くの場合は気にしていないと思います。
だから私達の間では、不文律があるんです。
リーナちゃんに、トラブルメーカーは禁句。
リーナちゃんはごくごく当たり前に私達の仲間で、普通の女の子なのだから、と。
これは、ユースくんにだって当てはまる絶対の不文律。
もし彼がそのことに踏み込んだのだとしたら、たとえどんな語り口であろうと、その本質はとても大事な話のはずで。
二人の様子を見る限り、きっとユースくんの試みは“また”失敗したのだと思います。
今回の一件が、リーナちゃんの発見によるものであることからもそれは明白で、だからこそリーナちゃんも普段より難しい顔をしているときが多いんだと思います。
――リーナちゃんには、問題が多いです。
本人の性自認もそうですが、こうして幸運という名のトラブルメーカーで、雁字搦めにされるのもそう。
後は、私達には話していませんが、リーナちゃんとユースくんには秘密があるみたい。
これも、決して単純な問題ではないみたいで、二人は色々と悩んでいるんです。
事情を知っているリーダーからは、この事には、リーナちゃんとユースくんが話してくれるまで待つように、とのことでした。
私とパラレヤさんもそれは同意です。
というより、私達はたまたま気付くことができましたが、二人はこの事をきちんと気をつけて秘密にしているので、知っている人は殆どいないのではないでしょうか。
少なくともアンナちゃんは知らないみたいでした。
リーナちゃん一番の親友が知らないのだから、パーティで知っているのは私とパラレヤさんくらい、だと思います。
とはいえ、そんなリーナちゃんとユースくんが一歩前進したことは事実です!
そう、子作りをしたのです! 二人は二人っきりで愛し合ったのですね!
子作りはすごいです、大好きな人と一緒にすると、心がとってもポカポカします。
いつか、きちんとパラレヤさんとの子供が欲しいな、と思う私ですが、今は一緒にポカポカするだけでもとっても幸せです。
そんな幸せを、リーナちゃんたちも分かち合ったと言うなら、それはとても幸せなことだと思うのですが、どうしてか二人はとっても恥ずかしがってしまいます。
もちろん、人前でそれを口にするほど私も分別はありますが、家族同然である私達パーティの間で、隠す必要もないのではないでしょうか。
あ、でもでも、恥ずかしがっているリーナちゃんは可愛かったですね。
といっても、話が変われば、すぐにリーナちゃんはいつもどおりに戻ってしまいましたが。
リーナちゃんがユースくんと子作りをした時、ユースくんは土下座をしてまでその事を謝ったそうですが、リーナちゃんは全く気にした様子がなかったそうです。
これって、リーナちゃんの切り替えがすごく早いからなんですよね。
良くも悪くも、リーナちゃんは起こった出来事を引きずりません。
というよりも引きずれないのだと思います。
そうしないと、過去の出来事で押しつぶされちゃうのだと、そう言っていた時がありました。
今回のことでリーナちゃんが普通にしているのは、それも大きいのでしょう。
――リーナちゃんが抱える問題は一つではありません。
ユースくんも、リーナちゃんも、それを解決するために多くの時間をかけてきました。
それが、子作り一つで変わるかはわかりませんが、でも大きな前進であることに違いはないのでしょう。
だとしたら、この事件は果たして――
二人の関係に、どのような変化をもたらすのでしょうか……
▼
「――いたな」
「いるね」
覗き込むように、アタシ達は物陰から、そいつの存在を視認していた。
そいつは、一言で言えば蛇だ。
大蛇、オロチ、なんと読んでもいいが、ヘビ型の超大型モンスターであることは事実。
っていうか、アレは……
見るからに、このダンジョンのボスですよ、といいたげなそいつは、
「……おかしいわね、このダンジョンの
リーダーが、腕組みをしながら訝しむ。
こいつらは“主”と呼ばれる存在だ。ダンジョンを構成する中心に当たる存在であり、こいつらを倒すとダンジョンは踏破済みダンジョンとして扱われる。
アタシ達は先日、このダンジョンの“主”を撃破してきたはずなのだ。
であれば、あそこにいるのはなんだ?
「先日、僕たちがダンジョンに潜った時、明らかにモンスターは数を減らしていました。後詰め調査のクエストを受けた冒険者の報告も確認しましたが、このダンジョンは明らかに踏破済み状態に移行しています」
「モンスターが沸かなくなって、ただの洞窟になる前段階……ってことだよね」
アンナの言葉に、アタシは少しだけ補足をする。
「一応、多少ならモンスターはポップするよ。ダンジョンは火山に例えられるが……この場合は残ったマグマの余熱みたいなものだな」
「……相変わらず、リーナからそういう教養のある言葉が出てくると、理不尽を感じる」
ふはは、土台になっているものが違うのだよ。
もともと普通の町娘だったアンナとでは、学んできた知識の量が違う。
まぁ、こういう時のマウントにしか使わないムダ知識なんだが。
「ど、どうするのですか、リーダー……」
「……討伐準備は、できている」
問いかける夫妻に、リーダーは難しい顔をしている。
討伐、当然の選択だ。問題があるとすれば、このエリアのモンスター全体が前回の踏破のときよりランクが上がっていること。
つまりあの大蛇の強さが未知数であるということだ。
とはいえそれも、一度の討伐で終わらせるのでなければ問題ない。
今回は強襲偵察に専念して、次の討伐で決着をつけるというのは間違いではないのだ。
「……そうね」
だからこそ、アタシは決断をしようとしているリーダーに呼びかけた。
「リーダー、一つだけいいか」
「――あらぁ、どうしたのぉ? リーナちゃん」
ぽつり、と。
「あいつ――文献で見たことがある」
そう、告げた。
おもわず、といった様子でリーダーが目を見開く。
本当にめずらしく、リーダーが驚いたらしい。
いつだって腰を据えてドカっとしているリーダーが、揺れるなんてことはそうそうない。
ただ、
アタシの正体はリーダーとユースしか知らない。
アタシがこういった具体的に知識を伝える時は、それ相応に相手がやばい時ってことだ。
普段は、知られないために黙っているんだから。
アンナへの知識マウントとはわけが違う。
あれは、街の図書館に行けばいくらでも学べる知識の一つ。
対してこれは――
「あいつは、<国喰い>。……間違いねぇ、準Sランク級モンスターだ」
これを知っている人間は、この国でアタシの一族と、アタシの一族より一つだけ偉い連中しか存在しない。
それを口にすること事態がタブーそのもの。
それを、わざわざ口にするってことは、
「ここで倒さないと、大きい戦争になるぞ」
そうしなければいけない事情が、アタシ達には生まれてしまったということに、他ならないのだから――