【本編完結】サツマンゲリオン ~ 碇シンジが預けられた先が少しだけ特殊だった県/件 作:◆QgkJwfXtqk
+
その話が人類補完委員会を介して秘密裏に国連安全保障理事会に上げられた時、各国の代表は誰もが歓喜の声を上げた。
その歓声の大きさは、第2東京市にある国連ビル ―― その一番に
とは言え、最初の一報による熱狂が去って冷静に事態を考えだすと、1つ大きな問題が挙がって来た。
大金をはたいて第2次E計画に基づいて整備が進められている
第2次E計画の定数として9機。
それに第13使徒戦で損耗分の補充と、
都合11機のエヴァンゲリオンだ。
更には周辺設備への投資。
NERVドイツ支部とNERVアメリカ支部の実戦向け大規模拡張と、ベトナムには新規に整備拠点を設ける為の配電や給水と言った基礎的インフラからの投資しているのだ。
その巨額さは、国が1つ傾くなどと言う生易しいレベルでは無かった。
それが無駄になるとなれば、それぞれの国の有権者が怖いとなるのも当然の話であった。
正に降って湧いた苦悩と言えるだろう。
この為、一時的に使徒との講和を公表せず、10年ばかりは
そこに待ったを掛けたのは追加情報であった。
第17使徒たる渚カヲルによる説明。
それは、使徒を生み出した白き月、そして人類の祖である黒き月、それらは始祖民族による宇宙播種計画として始まりの星から放たれた命の運び手であったのだと言う事であった。
何故、同じ計画で白き月と黒き月と言う差が生まれたかと言えば、それは主義の相違だった。
生命体の、生命力による環境対応力を重視した白き月派と、知性とその蓄積による環境対応力を重視した黒き月派である。
使徒と人間の
兎も角。
問題はその数であった。
この
その全てが脅威となる訳では無いだろう。
だが、脅威となる可能性は全くない訳では無かった。
そもそも、謎の始祖民族と言う始まりの種族が存在するのだ。
何の目的で、これ程に手間暇と時間の掛かった宇宙播種計画を成したのか、全く判らないのだ。
その代わりに、
使徒との生存戦争に関する情報開示時よりも重い絶望感が、国連安全保障理事会の会議室に齎されるのであった。
国連安全保障理事会は苦悩する事となる。
将来に襲来する恐れのある現実的地球外勢力に対し、どの様な対処するべきなのか。
準備をするべきなのか。
方針を定める為の前提情報の策定に苦慮する事となった。
「偶には下の人間の苦悩を理解すれば良いのよ」
そう吐き捨てたのは現場の最高責任者とも言える葛城ミサトだ。
性格の悪い顔をして、ビールジョッキを片手にご満悦と言う塩梅をしている。
場所は何時もの
NERVの御用達とされている、創作居酒屋だった。
戦略調査部特殊監査局による
大部屋で、好き好きに集まって酒を片手に漫談に勤しんでいる。
平和と言える情景であった。
「後は常識的内容の結論と方針を出してくれれば良いのだけど」
嘆息する様に言うのは赤木リツコだ。
本日の慰労会で、声掛けを受けた関係部署代表と言う事であった。
お陰で、お土産と称してビールをケース単位で差し入れする羽目になっていた。
その前の技術開発部の慰労会に、葛城ミサトが日本酒をダース単位で差し入れた返礼を兼ねていた。
「時間も予算も、余裕が大事だわ」
御猪口をクイッと傾けて日本酒を飲み、口の中に残っていた魚の後味を胃へと流し込む。
その様は、ほんのりと酒精によって赤くなった頬も相まって色気が駄々漏れとなっていた。
相槌を打つのは天木ミツキ。
「そうよね。
此方は、普通に作戦局の人間なのだ。
とは言え
此方は洋酒であった。
参加する全員にいきわたる量では無い為、
何とも和風な趣向は、パウル・フォン・ギースラーなどの日本国外からの出向者に大いにウケていた。
「大丈夫っしょ、今までと違って先の長い話だから」
太平お気楽な表情でビールジョッキを傾ける葛城ミサト。
ジョッキになみなみと注がれたビール。
揚げたての唐揚げ。
それだけで幸せを感じられていた。
若く美しいNERVの3女傑が居るテーブル。
だが男衆は誰も寄り付こうとはしなかった。
全員が佐官の、それも上位であると言うのは少しばかり畏れがあったし、何より酒癖が余り宜しくないのだ。
気が付けば
いつの間にか
常識人であるのだが時々に
誰が近づきたいと思うだろうか。
兎角、そう言う話であった。
誰だって酒の席は自由で、楽しく過ごしたいのだから。
どこかで笑っている奴がいる。
歌ってる奴がいる。
趣味の話をしている奴がいる。
誰もが楽しいひと時を過ごしていた。
NERV本部は今、最初の第3使徒襲来時以来の余裕がある体制になっていた。
それは、渚カヲルに関する案件は機密レベルが余りにも高い為、関与する事が無かったお陰でもあった。
「そう言えば」
フト、と思い出したように言葉を口にする天木ミツキ。
その話題は、NERVドイツ支部からお偉いさんの
「教育プログラムは全て公開しているし、施設は以前に出していたと思うのだけど、ナニかあったかしら」
疑念。
と言うか単純に判らないと首を傾げた姿に、葛城ミサトが笑う。
「ミツキにしては珍しいわね」
理由は単純だと言う。
即ち、アスカなのだと。
「前のドイツ出張時に関係が回復したって事らしく、だから今度のアスカの誕生日を祝いたいって事らしいわ」
私情なのだと言う。
その私情を実現する為、緊急度の低いNERV本部での
「あら、凄い良い事ね」
「それだけならね」
ヨアヒム・ランギーは当然の如く家族、妻であるベルタ・ランギーと息子のハーラルト・ランギーを連れて来ていたのだ。
そして、アスカの誕生祝をすると同時に、休暇を取って日本の観光もする話となっていた。
鹿児島、
「あら、あらあらあら」
「これはこれは __ 」
似た様な笑みになる天木ミツキと赤木リツコ。
シンジの実家、隼人碇家にご挨拶に行くと言う模様であった。
「シンジ君も若い身空で大変よね」
言外に、外堀どころか内堀まで埋められる勢いだと笑う葛城ミサト。
「幸せそうだから問題は無いわよ。それよりミサト、貴方も他人事っぽく笑ってるけど、呑気にやってるとヤバイわよ?」
加持リョウジをしっかりと掴まえておかないと、と言う天木ミツキ。
今更にヨリを戻した事を隠しはしない葛城ミサトは、余裕の態度で笑う。
とは言え恥ずかしさもあって声は小さくなっていた。
色々とあってフッた筈の相手だったのに、いつの間に攻略された形なのだ。
それはもう、小声になるのも当然であった。
なし崩し。
だがソレが為された背景には、葛城ミサトの日常に余裕があった事が大きかった。
第16使徒までの討伐も順調であり、その他の仕事も安定していた。
第2次E計画などで仕事が過密化した事もあったが、それは一過性であった。
概ね、安定していた。
だからこそ、加持リョウジに
「ハァ? 私は今、仕事で盛り上がってるだけだもの」
出来ないのではない。
しないのではないのだと言う。
だからこその余裕とも言えた。
「それより問題はリツコでしょ。男の話なんてトンっと出て来ないじゃない。学生の頃からよ。大丈夫?」
「フッ、心配は要らないわ」
だが葛城ミサトの疑念に、余裕をもって答える赤木リツコ。
艶やかな笑み。
そこには全くもって虚勢の色は無かった。
あるのは色気。
思わず葛城ミサトも天木ミツキも頬を染めるばかりの、溢れんばかりの色香があった。
一瞬、動きが止まった2人。
思わず顔を見合わせ、そして頷き合う。
「うっそでしょ!?」
「ホントなの!?」
慰労会は、さらに
何故、自分はここに居るのだろうか。
ある種の哲学的な疑念を抱くシンジ。
場所は、鹿児島で一番のデパート。
その婦人服売り場だ。
視野の端には下着なども売っているのが見える。
アスカとお付き合いを始めた結果、漸く的に年齢相応の思春期へと突入したシンジにとってつら過ぎる環境であった。
居る理由と言うモノを散文的に纏めれば、簡単だった。
アスカの誕生日を知ってお祝いをしたいと思っていた。
アスカの両親が関係回復祝いも込めて来日すると言う話になった。
どうせ祝うなら何処かのレストランでと言う話になった。
シンジもアスカも、第3新東京市のそういう場所は知らない。
その際、鹿児島のであれば幾つか知っている店があると漏らした。
それを聞いたヨアヒム・ランギーが、そう言う事なら鹿児島に行こうと言い出した。
アスカがお世話になったシンジの両親にも会ってお礼をしたいと言う話になった。
鹿児島に帰って来た。
アスカの誕生日の話を聞いて、碇アンジェリカがアスカへプレゼントとして
それを聞いてベルタ・ランギーが、それなら同行して碇アイリに
アスカも碇アイリも美少女であり、着飾りたいと思うのもさもありなんと言うものであった。
そして今だ。
この場に男はシンジしか居ない。
碇ケイジは仕事だと言って逃げた。
碇ケンジはヨアヒム・ランギーとハーラルト・ランギーを観光案内をすると言って逃げた。
逃げれなかったのはシンジだけだった。
圧のある顔でアスカと碇アイリが、一緒に来るわよね? と異口同音に言われてしまえば拒否できる筈も無かった。
哀れなるかなシンジ。
男には
と、影が来る。
「シンジ!」
アスカだ。
碇アンジェリカやベルタ・ランギーが厳選した服を着ては、必ずシンジに見せに来るのだ。
実に乙女心であった。
そして、シンジもそれを見て顔をほころばせる。
アスカは美少女であり、そして服も厳選しているのだ。
正に眼福であった。
「うん。可愛いよ」
今回、アスカが着ているのは上品なモスグリーン系のワンピースだ。
金糸の唐草模様が袖やスカートの裾に、華美過ぎない範囲で縫い込まれている辺り、実にお嬢さまめいた雰囲気があった。
良く似合っていて、可愛い姿だ。
ただ問題は、可愛いで終わらない事であった。
「
先ほどから何度も着替えては、シンジに感想と順位を尋ねて来るのだ。
多弁では無く、思春期に入ったばかりで褒め言葉の語彙も少ないシンジにとって、綺麗とか似合っている以外の感想が出ないのだ。
実にシンジにとってつらい時間であった。
とは言え尋ねるのはアスカ。
最初の3回ほどでシンジの内面を理解し、それ以降は尋ねられた時のシンジの顔 ―― 眉毛の角度などで把握する様にしていた。
「ふん、コレも上位か」
「ごっ、御免」
「アタシが魅力的過ぎて選べないってなら、仕方が無いわよ」
ご満悦のアスカ。
当然であろう。
お披露目をするたびにシンジは顔を真っ赤にしているのだ。
褒め言葉が虚飾ではないのは誠に良く判ると言うものであった。
キスをする仲になってはいても、それでも頬を染めて来る初心さ。
何とも、アスカに加虐心めいたモノを感じさせる所があった。
「私はどう?」
やってくる碇アイリ。
此方は、紫を基調にしたドレスめいた服だ。
良く似合っている。
「可愛いよ」
只、シンジの笑みは違っていた。
親愛と優しさがあった。
自分はシンジの特別。
そう自覚できる情景。
だからこそ、碇アンジェリカと一緒に服を大量に選ぶ楽しさが増すのだった。
シンジの受難はまだまだ続きそうであった。