【本編完結】サツマンゲリオン ~ 碇シンジが預けられた先が少しだけ特殊だった県/件   作:◆QgkJwfXtqk

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15-epilogue

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 広い和モダン様式のリビング。

 壁際に置かれているのは、内装に相応しいシンプルなデザインのTV。

 だが、そこに映し出されているのは、部屋の雰囲気に似つかわしくないモノであった。

 顔を真っ赤にして興奮状態に陥っている報道関係者の姿だからだ。

 

『何と言う事でしょう!! これ程の吉報が___ 』

 

 さもありなん。

 画面に付けられた(キャプション)には()()()()使()()()()()()の文字が踊っているのだから。

 

「公開されたわね」

 

「うん」

 

 そんなTVを、少し大きめの1人用ソファにチョコンと座って見ているのは碇シンジと惣流アスカ・ラングレーだ。

 右の手と左の手が握り合っている。

 平素な顔であるが、握られている手には力が籠っていた。

 世界が変わる。

 今まで(戦時体制)とは違う世界(平時体勢)になる。

 その事に対する緊張感であった。

 そして、相手を離したくないと言う思いの表出でもあった。

 

 リビングに居るのはシンジとアスカだけではない。

 今日は週末と言う事で碇ケイジが用意した車で出掛ける予定となっており、碇家は勿論ながらもホテルに宿泊しているランギー家の一同も集まっていた。

 真剣な顔でTVを見ている碇ケイジ。

 ヨアヒム・ランギーはリビングから出て携帯電話で何かを連絡していた。

 対して母親である碇アンジェリカとベルタ・ランギーの表情に浮かんでいるのは明確な安堵であった。

 戦争が終わったと言う事は、即ち、子ども達が戦場に行かずに済むと言う事だからだ。

 それは正に母親の表情であった。

 

「終わったの?」

 

 誰もが思う疑問を口にしたのは碇アイリであり、問いかける先は番犬宜しく隣に座っていた碇ケンジだった。

 

「判らねぇ。政府か国連が正式に発表しねぇと何も言えねぇな。TVは信用が出来ねぇから」

 

 幼少期の苛烈な経験から、TV(報道番組)と言うモノを信用していない碇ケンジは目を細めて厳しい顔をしていた。

 

「信じる、駄目?」

 

 子犬めいて不安げな顔をして居るのはハーラルト・ランギーだ。

 碇アイリを挟んで碇ケンジの反対側に座っている。

 今回の来日しての短い時間の内に、いつの間にか碇アイリ第3の弟分に収まっていた。

 シンジも碇ケンジも屈した碇アイリの姉力だ。

 尚、ハーラルト・ランギーがアスカの隣に居ないのは、碇アイリが訳知り顔で「2人の間に入っては駄目」と言ったからであった。

 

「ここまで派手にやる、あー 何だ。Tatsache(事実)Möglichkeit(可能性)groß(大きい)aber(しかし)Ibo(過信)nutzlos(駄目)。こんな感じか?」

 

 日本語に堪能ではないハーラルト・ランギーに向け、拙い発音でドイツ語を操る碇ケンジ。

 大人である碇ケイジ程では無いにせよ、筋骨隆々で肉体派(脳筋)に見える碇ケンジであるが、馬鹿では無かった。

 勉強嫌いの気はあるが、碇アンジェリカに哀しそうな顔をされたり碇アイリに怒られ(尻を叩かれ)、そして碇ケイジにシンジの()として悪い影響を与えてはいけないと諭された結果、それなり以上の水準で勉強をしていたのだ。

 その結果であった。

 尚、最後の言葉は碇アイリに向けられたモノであった。

 碇家3姉弟で一番の出来物めいた頭脳を持つのが碇アイリであるのだ。

 故郷のノルウェー語は碇アンジェリカが教えていたが、それ以外の言語だの何だのを教えているのは碇アイリであった。

 その頭脳に関しては、天才を自認するアスカすら一目置く程であり、ランギー家とのドイツ語の会話にも不自由が一切無かった辺りに、その程と言うモノが判る話であった。

 

Nicht schlecht(悪くは無いわね)。でも、単語を並べるだけで満足したら駄目よ?」

 

「怖い先生だ」

 

 

 自慢げな顔(ドヤァ顔)の碇アイリに、碇ケンジは器用に肩を竦めるのであった。

 ハーラルト・ランギーは、そんな2人をキョトンと見ていた。

 

「シンジは、勉強しなかったの?」

 

 何でドイツ語を仕込まれていなかったのかと、握り合っていた手に二度三度と力をこめて尋ねるアスカ。

 シンジは少しだけ空を見上げて、惚けた。

 

「英語が中心だったから__ 」

 

 勉強では無く鍛錬に時間を使っていたのだ。

 勉強が嫌いな訳では無い。

 ただ、重ねた修練が形になる剣術(薬丸自顕流)が楽し過ぎたのだ。

 

「楽しかったの?」

 

「うん。楽しかったんだ」

 

 握り合った手。

 重ねて来た修練、そして訓練の痕が残るシンジとアスカの手。

 

「楽しかったから今がある」

 

「そうね。だからアタシと一緒に居るのよね」

 

「………そう、そうだと思う」

 

 シンジとアスカ。

 NERV本部の誇る切り札(エースオブエース)、最も使徒を屠って来た最強の双、NERV本部戦闘団エヴァンゲリオン第1小隊であるのだから。

 2人の会話に甘さは乏しい。

 実績に基づいた自負と自信、その相互承認とも言えるからである。

 だが、周りの人間はそう見ない。

 

 ニヨニヨと見ている碇アンジェリカとベルタ・ランギーの母親組。

 思春期真っ盛りとして、兄として、弟と弟の彼女の親密さを見て見ぬふりをする碇ケンジ。

 そして耳年増たる碇アイリは満足げな顔(後方姉貴顔)で見ているのだった。

 

「ラブラブね」

 

Liebe(love)?」

 

Genau(そういう事)

 

 隼人碇家は今日も平常運転であった。

 

 

 

 

 

「とうとう正式公開ね」

 

 嘆息する様にTVの速報を眺めている赤木リツコ。

 仕事は一休み。

 そう言わんばかりに、今日の珈琲を淹れているのは上品な珈琲カップであった。

 NERV本部内では、内々に使徒との停戦 ―― 使徒襲来の終焉が開示されており、各種業務の緩和が図られていたお陰とも言えた。

 最近の過密スケジュール対策として、代休や有休の消化が推奨されていたのだ。

 とは言え、赤木リツコの服装はNERVの制服であり、居る場所は上級者用歓談休憩室(A Mad Tea-Party)であったが。

 

「仕事が増えるのは先にして欲しいわよね」

 

 合いの手を入れるのは葛城ミサト。

 此方は、すこしばかり緊張感の無い顔になっていた。

 仕方が無い。

 この何日も、シンジがアスカの誕生祝いでアスカと共に鹿児島に帰って居て独り身であったが為、晩飯に加持リョウジを連れて飲み屋を梯子し、そして加持リョウジを喰らっていたのだ。

 使徒、最後の使徒たる渚カヲルが白旗を振り(敗北を認め)、復讐の完遂を実感し、その上で食欲その他が充足したのだ。

 NERVへと入隊し、そこから張りつめて駆け抜けていた日々が終わったのだ。

 緊張感が消えるのも仕方のない話であった。

 

「先ずは太陽系全域の哨戒網の構築でしょうね。ウチには振られないんじゃないかしら」

 

「流石に宇宙だと国連宇宙軍(UN.SPACY)が主役しょ」

 

 大仰な宇宙軍と名付けられた国連宇宙軍であるが、その主任務は地球上の情報収集(偵察衛星群の運用)と地球に接近する隕石などの捜索であった。

 その意味では、別の惑星からの接触への警戒を国連宇宙軍(UN.SPACY)が担うのは、ある意味で本業とも言うべきモノであった。

 

「でも、安保理(国連安全保障理事会)よ?」

 

 無理難題を吹っ掛けて来る邪悪の伏魔殿、そう言うイントネーションで言う赤木リツコ。

 第2次E計画、追加で都合11機ものエヴァンゲリオン整備と言うとっておきの爆弾(厄ネタ過労案件)を持ち込んで来た相手なのだから、赤木リツコが嫌な顔をするのも当然であった。

 本当に嫌そうな顔で、煙草を咥え火を点ける。

 深呼吸。

 肺の奥底まで紫煙を吸い込み、そして吐き出す。

 ニコチンが脳に効く感じを味わいながら、瞳を閉じる。

 歪んでいる眉毛のラインが、その内心を葛城ミサトに教えていた。

 

「流石に今日明日は無理でしょ。取り合えず今は休みましょ」

 

「そうね、休むのも仕事ね」

 

「そーそー。てゆうかレイのリクエストもあるから、当分は平和であって欲しいのよね」

 

「レイの?」

 

「そっ。最近、シンジ君とアスカがヨーロッパとか鹿児島とかに行ってるでしょ。だから自分も旅行してみたいって言い出してね」

 

「レイが!?」

 

「レイが」

 

「驚いたわね」

 

ミツキ(天木ミツキ)も喜んでたわ。情操が育ってきた証拠だって」

 

「………でしょうね」

 

 呆然としたっという態で同意する赤木リツコ。

 そう言えば、と思い出していたのだ。

 綾波レイの情操の成長は、そう言えば碇ゲンドウの人類補完計画にとって大きな障害となったであろう事を。

 実に、今更の話であったが。

 赤木リツコも、悄然とした情人(碇ゲンドウ)からSEELEの人類補完計画も、碇ゲンドウの人類補完計画も放棄された事を聞いていたのだから。

 野望に燃えていた男の、全てを奪われた姿は実に滾るモノであったとも思い出す。

 実に可愛らしい、と。

 

「で、レイは何処に行きたいって言ってたの?」

 

「それが、取り合えず旅行がしてみたいって話で終わってるのよね」

 

「誰かと行きたいとか、1人で行きたいとかも」

 

「それもナシ」

 

「………そう。可愛いものね」

 

「そっ、実に可愛いのよ。だから、その夢を果たすまで、仕事の追加は勘弁して欲しいって本気で思うわ」

 

「そうね」

 

 ゆっくりと煙草を吸う赤木リツコ。

 目が天井の染みの数を数えていた。

 と、視線が地上に戻る。

 

「ナニ?」

 

「そう言えば第17使徒。彼は今、何処に居るの?」

 

「あ、カヲル君。今は、この時間は学校ね」

 

「………使徒が学校、ね」

 

「やーね、今更にクールぶって第17使徒とか言わないでよ」

 

「そうね」

 

 呑気に手をひらひらと振る葛城ミサト。

 その姿からは、かつてあった使徒への憎悪は欠片も見られなかった。

 色々と受け入れたって事よね。

 そんな風に親友(マブ)の変化を受け入れた赤木リツコは、ゆっくりと煙草を吸うのであった。

 

 

 

 

 

 ある程度の緊張感を持っているシンジとアスカ。

 祈っている葛城ミサトと赤木リツコ。

 だが、全くの緊張感の無い人間たちも居た。

 第3新東京市に居残っている子ども達(チルドレン)である。

 エヴァンゲリオンの訓練ペースが落ち着いた為、学校に通っていた。

 とは言え学校だが、所謂E(エヴァンゲリオン)組と呼ばれる第壱中学校2年A組も含めて多くの学生たちが疎開をしている為、開店休業状態であった。

 結果、海外からの留学生たる第2期適格者(セカンドステージ・チルドレン)向けの特別カリキュラム(日本の体験学習)が主体となっていた。

 或いは交流会である。

 洞木ヒカリや対馬ユカリと言った親の都合で居残っていた子ども向けの通常カリキュラムの授業も行われてはいたが、それが主流にはなっていなかった。

 

「平和やのう」

 

「平和だね」

 

 そう言い合っているのは言うまでも無く鈴原トウジと渚カヲルであった。

 2年A組の教室であったが、他に人は少なかった。

 多くの人間が学校にあったTVに突撃していたからである。

 言うまでも無く使徒戦役終了に関する特別番組が行われているからである。

 一般生徒は勿論、第2期適格者(セカンドステージ・チルドレン)もだった。

 

「授業が潰れるんはありがたいが、ええんかな、こんな風で」

 

「良いんじゃないかな。こんなに風が気持ち良いんだから」

 

 ニコニコと笑っている渚カヲルと、諦めた風に笑う鈴原トウジ。

 2人は、何とはなく並みの中学生の姿からは出ている様に見えていた。

 それは余裕であろうか。

 

「俺さ、何でああ成れないのかな」

 

 窓際の渚カヲルと鈴原トウジに対して、教室の入り口側でネットで情報を集めていた相田ケンスケがボソっと零した。

 不平不満と言うには薄いが、では違いを受容しているかと言えば否定する。

 そんな声色であった。

 適格者(チルドレン)第2期適格者(セカンドステージ・チルドレン)

 立場に差は無い筈なのだが、何かが至れない。

 隔意とは言えない。

 だが、何であるか判らない何かを抱いていた。

 そんな感情がバッサリと断じられる。

 

「相田が相田だからでしょ」

 

 一刀両断めいた一言。

 言うのは対馬ユカリである。

 使徒との戦争が終わるなら、終わったで良いやとの何とも割り切った考えで、人が集まるTVに行かなかった剛の者であった。

 

「俺、実戦も経験しているんだぜ?」

 

「それで自分が変わったの? 変われたの?」

 

「………どうかな」

 

 自分の言う通り、実戦は経験していた。

 第2期適格者(セカンドステージ・チルドレン)としての訓練でも色々と学べたと思っていた。

 だが、変われたかと言われれば自信が無い。

 それが相田ケンスケと言う人間であった。

 そんな相田ケンスケを笑う対馬ユカリ。

 笑ってから、肯定する。

 

「表情は良くなったわよ」

 

「そ、そうか!」

 

 褒められて嬉しい相田ケンスケ。

 実に素直(単純)であった。

 

 

「青春やな」

 

「青春だね」

 

 少しだけ距離の近い感じで女子と会話する相田ケンスケを、鈴原トウジと渚カヲルはニコニコ(にやにや)と見ているのであった。

 シンジとアスカに触発され、自分の感情(好意)を自覚し思春期に突入している鈴原トウジ。

 そんな周りの姿に、好きとか愛とかを勉強しているのが渚カヲルであった。

 第壱中学校は実に平和であった。

 

 

 

 

+

デザイナーズノート(#15こぼれ話)

 使徒(渚カヲル)が勝っても良いじゃない!

 ま、勝った相手は碇ゲンドウですけどね!! な第15章で御座いました。

 カヲル君生存√!

 いや、死ぬ理由とかが見えないし、と言う事でこうなりますたった。

 

 つか、アレだ。

 シンジとアスカがもう鉄板かしてしまっていて、揺らぎ部分な面白さが回りに頼らざる得ないのが本作の辛み。

 ま、群雄劇スタイルだから仕方ないね!

 多分

 きっと

 めいびー

 

 さて物語は最終章に突入しまする

 大団円(フィナーレ)

 大大団円(ティロ・フィナーレ)

 いえいえ

 とびっきりのオチがまっておりまするのよ(おほほほほ

 

 では次章

 ゲンドウ、酷い目に遭う

 ゲンドウ、酷い事になる

 シンジとアスカはエンダァァァァァァァ

 の三本立てとなっております

 お楽しみに(まてや

 

 

 

 

 

 

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