【本編完結】サツマンゲリオン ~ 碇シンジが預けられた先が少しだけ特殊だった県/件 作:◆QgkJwfXtqk
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その遂行には3つの段階があった。
1つ目は、南極と言う極地で、動力源となるA.Tフィールドを生み出す4機のエヴァンゲリオン用装備だ。
エヴァンゲリオンを空に飛ばすFⅡ型装備である。
共鳴する4つのA.Tフィールドによって環境が極度に荒れる事が予想される為、必須であった。
2つ目は、世界中に8機のエヴァンゲリオンを配置する事である。
8機のエヴァンゲリオンは世界中に配置され、南極で共鳴し生み出された巨大なA.Tフィールドを調律するのだ。
だからこそ、世界中にエヴァンゲリオンの運用環境を用意せねばならないのだ。
そして3つ目。
ある意味でコレが一番に難しい段階であった。
人類の合意。
市民の代表たる各国政府の全権委任の取り付け、即ち、人類補完計画に反対する国家の翻意を図ると言う事である。
地球の地軸を移動させる程に莫大なA.Tフィールドを、地球に悪い影響を与えない様に調律する為に配置されるエヴァンゲリオンは、正に世界中である為、反対されてしまっては配置する事が難しいのだ。
セカンドインパクト後に再編された国連は、それ以前と比べて圧倒的 ―― 別組織と言って良い程の権威と実行力を兼ね備えていた。
だが、それでも尚、国家と言う枠組みを壊すまでには至っておらず、地球の統一的な政府とはなっていないのだ。
だからこそ、強権をもって各国政府を従えるのではなく、説き伏せねばならないのだ。
1つ目は簡単であった。
2つ目も時間が必要なだけで問題は無かった。
だが3つ目は難問であった。
その難問に取り組んだのが人類補完委員会であり、同委員会の特命全権代表となったNERV総司令官碇ゲンドウであった。
「大丈夫か、碇」
久方ぶりに第3新東京市のNERV総司令官執務室に来ていた碇ゲンドウ。
その頬は窶れ、目力すら萎び、幽鬼めいた雰囲気となっていた。
その余りの憔悴っぷりには冬月コウゾウすら愉悦をする事無く、その様を憂う程であった。
「ああ」
問題ない、とは続けない。
溜息の様に言葉を漏らして、執務席に合わせられていた革張りの椅子に全身を預ける。
その全身から疲労が漂っている。
さもありなん。
碇ゲンドウの出張は全世界に及んでいたのだ。
感情に寄り添い、国益問題であれば代替を用意する様にしていた。
SEELEからは全力で応援は受けていたし、利益調整と言う意味では欧米を自由に操れると言う事は大きかったが、それでも1月で地球を10週はする様に日々が続けば疲れると言うものであった。
元が富豪の個人所有機という来歴を持った特命全権代表専用機は、それ故に巨大で、広く、そしてベット付きの個室があると言う高い居住性を持っていた。
だが、それでも移動と言う行為の持つ疲労、そして時差ボケと言うものからは逃れられないのであった。
尚、
強大な
故に、それ以外の国家への
「どうだった?」
「ああ。最大の壁であったサウジアラビアもなんとか首を縦に振った。これで全ての配置予定場所に問題は無くなった」
背もたれに身を預けながら呟く碇ゲンドウ。
それに冬月コウゾウも驚きに目を張る。
サウジアラビアという国家はセカンドインパクトでの混乱を乗り切る為、イスラム教による統制を強化していた。
宗教である。
人の形をした人を越えるモノたるエヴァンゲリオンが、神を象るが如きと批判されていたのだ。
使徒を倒さねば ―― 使徒と
そういう合理を越える所にあるのが宗教であり、宗教的情熱であり、言わば狂信であったのだ。
「よくも首を縦に振ったモノだな」
「幾つかの手段は必要となった。だがSEELE、国連にとっては安い出費に収まった」
サードインパクトによる混乱、そして世界の再編成は中東に溢れんばかりの富を与えていた石油資源を基礎とする経済体制を根底から変えていた。
否、石油資源に頼らない経済へと移行していたのだ。
それは中東諸国、否、産油国による自業自得の結果であった。
世界経済の混乱下で、国民を喰わせる為に石油の値段を吹っ掛けた事。
或いは、中東のみならずロシアその他の複数の産油国で
自動車で言えばEV化であり、水素エンジンの普及であった。
水素エンジンは、危機的状況の打破等と言う錦の御旗をもって行われた、無茶苦茶な予算投入とスケジュールで実用化された新世代発電システムたる
その無尽蔵な電力で生み出される水素による社会インフラの構築である。
尚、日本がセカンドインパクトによる海面上昇によって関東平野などの大部分を失って尚も列強、
兎も角。
電力的な意味だけではなく素材的な意味でも石油は重要な立場を喪失していた。
石油由来のプラスチックを代替する合成プラスチックが実用化されていたからだ。
勿論、石油が経済活動に於ける役割を終えた訳では無い。
だが経済活動の中心の座からは降りていると言うのが2015年時点での実状であった。
そして、だからこそサウジアラビアは宗教による箍をもって国家をまとめ上げようとしていたのだ。
主要産業の停滞。
難民流入による社会混乱を、イスラム教と言う柱で乗り切ろうとしてたのだった。
様々な理由もあり、結果として強い宗教的統制の効いた国家となっていたサウジアラビアがエヴァンゲリオンを受け入れたのは実利であった。
碇ゲンドウは国連を動かし、アラビア半島に大規模な
莫大な電力による真水の生成、そして水を用いての大規模な緑化計画をぶち上げさせていた。
それも又、
そういう形で予算を引き出していたのだ。
又、妥協もあった。
サウジアラビアで人類補完計画の任務に就くエヴァンゲリオンは、巨大なケープを被って人型としての姿をさらさない様にするとしていたのだ。
ある意味、共に政治であった。
政治であればこそ、碇ゲンドウはその交渉人としての本分を存分に発揮したとも言えた。
「来年度早々に人類補完計画は実行が可能になるだろう」
「ユイ君との再会も見えて来たな」
「…………ああ」
エヴァンゲリオン初号機に眠る碇ユイ。
エヴァンゲリオン弐号機に眠る惣流キョウコ・ツェッペリン。
その人間としての復帰は現実的なスケジュールとして計画されていた。
只、人類補完計画の為、地軸を動かす程のA.Tフィールドを生成する上で影響が出ない様にと考えられ、2人のサルベージ計画は地軸の回復後と定められていたのだ。
「どうした? 声に元気が無いな」
「いや、何でも無い」
碇ゲンドウは力なく首を振る。
元気が無い訳では無い。
只、この現状でどの面下げて碇ユイに逢えば良いのかと考えていたのだ。
永遠の一瞬。
その邂逅だけを夢見、そして果てる積りであったのだ。
非道な手段を重ねて来た。
人の手によって命を、綾波レイを生み出すなどをした。
息子である碇シンジも計画の邪魔と見れば追いやり、必要となれば呼んだ。
外道の誹りすら喜んで受け入れる覚悟であった。
その全てを一瞬の先に、己は無いと思えばこそ行っていた。
歪み切った覚悟であった。
だが、その覚悟が否定される。
碇ユイは普通に帰って来るのだと言う。
碇ユイは碇ゲンドウにとって至高であった。
生きる理由であったとすら言えるだろう。
だが、では
特に、SEELEと碇ゲンドウの人類補完計画を破棄して以降の、萎びれてしまった自分を支えたと言う事を理解すればこそだった。
碇ユイと再会する為の、新しい人類補完計画の事。
道具ではなくなった綾波レイの事。
様々な事で赤木リツコは気を回し、碇ゲンドウを支えていたのだ。
碇ゲンドウは己を冷徹な策士、冷酷な謀略家であると自認していた。
だが、ここで悩んでしまう事が示す様に人としての甘さを持っているのだった。
答えの出ない悩み。
額を掻き、ゆっくりとため息をつく碇ゲンドウ。
だからこそ冬月コウゾウは肩を竦めるのであった。
「お前がそう言うのであれば、俺は何も言わんよ」
何かを察した様な言葉。
だが同時に追求する事は無かった。
「ああ、そうだ。問題はない。人類補完計画を次の段階に進めるだけだ」
己が何をしたいのか。
何を為すべきなのか。
碇ゲンドウの心は五里霧中であった。
だからこそ前に進もうとしていた。
それは自覚無き
迷った時は、取り合えず前に進め、と言う。
かくして、世界の歯車は回っていく。
様々な準備が進んでいく人類補完計画。
南極に近いオーストラリアのトリントンにエヴァンゲリオンの整備拠点が設営された。
そして世界の8カ所に、エヴァンゲリオンが稼働可能な運用拠点が設置された。
年を越し、そして年度を跨ごうとしていた。
「ま、盛大な事になったもんや」
そう呟くのは鈴原トウジであった。
場所は第3新東京市、NERV本部だ。
より正確に言えば操縦者待機室である。
今、操縦者待機室にあるディスプレイにはそれら合わせて9カ所の状況が表示されている。
世界中のエヴァンゲリオンの状況が判る様にされていた。
どうなっているのかを知らせる為である。
とは言え、かつての春先まで
当然である。
その多くが画面の向こう側、世界中に配置されていたからだ。
オーストラリアのトリントン基地に居るシンジたち4人を筆頭に、世界中の8カ所には選抜搭乗員と体調不良などへの予備搭乗員が2名ずつ16人の
今、地球の命運のかかった人類補完計画、その発動準備は大詰めを迎えていた。
NERV本部も各部隊に人員を派遣する事になっており、ごく少数の基幹人員だけと言う有様であった。
そんな中にあって鈴原トウジがNERV本部に居る理由は
文字通りの予備であった。
それもかなり重要度が高い予備だ。
何故なら、予備に対する正規となるのが、マリ・イラストリアスとエヴァンゲリオン8号機だからだ。
A.Tフィールドの調律は、Bモジュールによる
その調律の
エヴァンゲリオン8号機が選ばれた理由は2つあった。
1つは搭載しているBモジュールが真希波マリが手掛けた
そしてもう1つは、マリ・イラストリアスがBモジュールへの適正を重視して製造された
だからこそ、この大役が生理的年齢からの情緒的な意味で
そのマリ・イラストリアスの予備に鈴原トウジが指定されたのも、このBモジュールが理由であった。
鈴原トウジの駆るエヴァンゲリオン3号機が搭載するBモジュールも、貴重な真希波マリ謹製のBモジュールであるのだ。
現在、真希波マリの純正Bモジュールの
故に、マリ・イラストリアスの細い双肩に期待を乗せざる得ないのだ。
幸いと言うべきか、純正Bモジュール搭載機を駆るマリ・イラストリアスと鈴原トウジの仲は良かった。
マリ・イラストリアスを妹分めいて扱っており、マリ・イラストリアスも良く懐いていた。
そして何より、鈴原トウジは情緒面での安定性も高い。
だからこそ鈴原トウジは、マリ・イラストリアスとエヴァンゲリオン8号機にナニかあった場合に即座に干渉する役割を担うの選ばれたのだった。
そのマリ・イラストリアスは今、この場には居ない。
エヴァンゲリオン8号機とMAGIとのシステム的な連接の最終調整に参加しているからだ。
通常は
通信回線は衛星通信網を介して世界中の7機の
この作戦の為に
接続場所となった広い空間の真ん中でエヴァンゲリオン8号機は固定され、大小様々なケーブルを全身にまとい付けているのだった。
とは言え、エヴァンゲリオン8号機が人類補完計画を実行する際に居るのはNERV本部では無い。
第2東京の
これは政治的理由があると同時に、物理的な理由 ―― NERV第2支部にあるMAGI2号機が理由であった。
MAGI2号機は人類補完計画時、
人類補完計画を総括する業務に、NERV本部のMAGIを専念させる為でもあった。
第7世代型有機コンピューターであるMAGIは、本来はその程度の業務を並列処理する事は余裕であるのだが、人類補完計画は人類の存亡が掛かった大計画であるのだ。
であれば慎重を期すというのも当然の話であった。
NERV本部で
尚、その隣でエヴァンゲリオン3号機も同じように接続されていた。
予備機であり、機能的には同一であるので接続手順の再現試験に供されているのであった。
NERV本部技術開発部のスタッフは心血を注いで、作業を進めていた。
怒声すらも飛び交っている現場。
にも拘わらず、鈴原トウジがゆっくりしていられるのは、先に終わったからであった。
情緒面での安定性、即ち
マリ・イラストリアスから
手には
一気に半分ほどを飲み干す。
「たまらんわ」
感に堪えぬと零す鈴原トウジ。
L.C.Lを流したシャワーによって火照った体が内側から冷えていくのを心地よく味わっていた。
それに合いの手を入れたのが1人。
「ここは静かになったけどな」
相田ケンスケだ。
「世界で戦うっちゅうこっちゃから、仕方ないやろ」
「戦うって言うか、任務だけどな」
少しだけ
とは言え、そういう拘りの無い鈴原トウジは肩を竦めるだけだった。
「使徒と戦わんで済むのはええこっちゃ」
「
第16使徒までの闘いを思って居た鈴原トウジは、相田ケンスケの言葉に目を瞠っていた。
驚いた。
正にそう言う顔であり、同時に、意識から外れていた事だった。
最初は警戒もした。
使徒と言う言葉、意味はそれなりに鈴原トウジにとって重かった。
だが、渚カヲルは渚カヲルであり、戦闘時は兎も角として平時は
しかも、何かをやらかすと即座に、綾波レイがツッコむのだ。
碇ゲンドウ総司令官との面談内容など、鈴原トウジでもツッコみたい話がゴロゴロとしていた。
もう、緊張するのも馬鹿馬鹿しいと言うものであった。
「そやな。そう言えば奴さんも使徒やったわ。しかしジブンも同じクラスやしって、そうか、
「ああ」
集団で行う基礎訓練、体力トレーニングは兎も角として、乗るべきエヴァンゲリオンの違いもあって、訓練内容は大きく異なっているのだ。
その上で渚カヲル。
顔が良い事もあって割と女子陣に囲まれやすく、自由時間の多くでは相田ケンスケは渚カヲルに近づけず、個人的会話をした事が無かったのだ。
尚、女子陣に囲まれるとは言え、そこにベタベタとしたモノは無かった。
シンジ同様に、と言うか
アスカと並ぶ歴戦の
赤い瞳で見られては堪らない。
そこに感情が乗って居なくても、それはそれはもう、怖くて出来ないと言うモノであった。
「ま、今回の任務が終われば呑気に会話も出来るやろ。遊びにも行こうや」
「良いね。俺も最近は自転車に乗れる様になったんだぜ」
「お、買ったんか!」
「買ったぜ!!」
以前は鈴原トウジから借りて、自転車に乗る練習をしていた相田ケンスケであったが、今では自分の自転車を乗る様になっていた。
とは言え持っているのは
休日等で、NERVドイツ支部の備品となっていた自転車を借りて練習をしていた相田ケンスケ。
その備品が国連軍部隊のモノであり、ソレで練習し、そしてソノ無骨なフォルムにほれ込んだ結果だった。
無骨な、漢らしいフレーム。
どこまでも走れる不整地走破能力。
軍事趣味者としては、華奢に見えるシンジ達のロードバイクよりも魅かれるのは当然の話でもあった。
「ホンマ、ジブンらしい自転車やな」
見せられた写真には、笑顔でピースサインする相田ケンスケとその愛車 ―― ブッといタイヤと
日焼けして、良い笑顔を見せている。
鈴原トウジは実に相田ケンスケらしいと笑うのであった。
「だろ?」
気楽な会話。
人類補完計画を前に誰も、心配はしていなかった。
出来る。
為せる。
人は、地球は蘇る。
情報と言う意味では末端に居る鈴原トウジや相田ケンスケであっても、ソレが簡単では無いにしても不可能だと思っては居なかった。
オーストラリアのトリントン特設エヴァンゲリオン基地。
砂漠の中に作られたソレは元々が、NERVの
人口密度の低いオーストラリアと言う事もあって、馬鹿げたと言う言葉が似つかわしい広大な基地に、現在、エヴァンゲリオンの整備区画が特設されていた。
特に目立つのは巨大な4つのプール。
エヴァンゲリオン弐号機のA.Tフィールドによって大まかに掘られ、そしてエヴァンゲリオンの持つ器具によって形成され、防水ゴムを吹き付けて作られたソレは、L.C.Lで満たされたエヴァンゲリオンの
屋根も作られているが、鉄骨構造にビニル製の覆いを付けると言う簡単仕様だ。
勿論、これもエヴァンゲリオンの手によって組み立てられている。
エヴァンゲリオンと言う存在の持つ汎用性を示すモノと言えた。
「暑いわね」
そう愚痴ったのはアスカだ。
砂漠の乾いた空気に包まれたトリントン基地で過ごすにはNERVの
とは言え、上は脱いで腰に巻いている。
帽子にタンクトップと言う艶姿だ。
軍事基地には似つかわしくないカラフルなピーチパラソルが日陰を作っては居たが、駆け抜けていく熱く乾いた風によって蟷螂の斧と言う塩梅であった。
ピーチパラソルに似合った白い樹脂製のビーチチェアに気だるげに座り、アンニュイな表情をしていた。
任務中ではどれ程に暑くても愚痴一つ零さないアスカであったが、流石に休憩中は別であった。
独り言の積りだった愚痴。
だが、それを拾った人が居た。
「第3新東京市とは別の暑さだよね」
シンジだ。
此方は
汗で湿って変色している。
先ほどまで廃材置き場の片隅で立木打ちに勤しんでいたのだ。
砂漠ゆえに木材は無いが、廃棄されるゴムタイヤは山ほどあるのだ。
それを固定して、此方は持ち込んでいた木刀を振るっていた。
「ん」
アスカが手元にあったクーラーボックスからスポーツドリンクを取り出して投げる。
トリントン基地に来て以降、大分見慣れてきた、でも違和感しかない蛍光ピンク色をしたスポーツドリンク、そのキャップを取って一気に飲み干すシンジ。
「今日はキチンと早めに切り上げたわね。結構結構」
「タイマーを用意したからね。流石に脱水症状を繰り返すのは__ 」
「日向少佐に怒られる、って事ね」
流石のシンジも恥ずかし気に頭を掻く。
日向少佐とは勿論、日向マコト少尉の事である。
別に3階級特進したと言う訳では無い。
このトリントン基地にエヴァンゲリオン部隊を派遣する際、指揮官とする為に少佐配置少尉となっていたのだ。
そして、怒られると言うのは一昨日の事が原因だった。
ダウンして日陰に退避していたシンジ。
シンジが帰って来るのが遅いと心配したアスカが様子に見に行かなければ、確実に悪化していただろう。
それはもうアスカを筆頭に日向マコトに怒られるし、心配した綾波レイや渚カヲルに睨まれると言う塩梅であった。
実に面目ないというのがシンジの本音だった。
「でも、先ずアタシが怒るっちゅーの」
唇を尖らせるアスカ。
そして、何でもない仕草で手首に巻いた時計のタイマーを停止させていた。
女物とはとても言えないゴッツいデジタル時計は、トリントン基地の
正に
「ごめん」
それを判るが故にシンジは素直に頭を下げるし、又、今日は早めに切り上げたのだった。
シンジの左腕にもアスカと同じ腕時計が巻かれている。
お揃いの腕時計。
そのタイマー機能を今日は使っていた。
アスカのタイマーよりも10分短くしていたのがシンジなりの気遣いであった。
「好きなのは判るけど体が大事よ。特に大一番が近いんだから」
アスカの言葉にシンジが同意しようとした瞬間、轟音を立てたナニかが空を駆け抜けていく。
大きな影。
そして突風。
「もう!」
風に弄られた髪に手を添えながらシンジの目線を追って空を見上げたアスカ。
「あそこ!」
シンジは、アスカに空を指さして場所を教える。
見えているのは人型をした影、エヴァンゲリオンだ。
正確に言えば
深い青色を基調としたエヴァンゲリオン6号機。
勿論、渚カヲルの乗機だ。
遠距離砲戦用の安定性を重視した重装甲型であったが、それを思わせぬ俊敏さがあった。
「慣れて来た感じね」
少し不満げに言うアスカ。
最初の頃、渚カヲルは何ともおっかなびっくりと言った感じでFⅡ型装備を纏ったエヴァンゲリオン6号機を飛ばしていたのだ。
覚醒した使徒としての能力とは別の、自分の体による浮遊ではなく装備による飛翔であったのだ。
その違いは余りにも大きく、それ故に慣れなかったのだ。
遠慮容赦なく笑ったアスカに、流石に不満げな顔を渚カヲルもしていた。
「綾波さんはもう少しかな」
綾波レイのエヴァンゲリオン4号機は、まだまだと言った塩梅でエヴァンゲリオン6号機に付いていっていた。
人間は飛ぶように出来てない。
FⅡ型での飛行が上手く行かない事を指摘された綾波レイは、凄く不満げに反論するのであった。
シンジやアスカ、渚カヲルと一緒で良いと思って居るが故の不満と言えた。
何とも可愛い、稚気でもあった。
兎も角である。
「まだ少し訓練時間はあるし、それに最悪、レイのペースに合わせて展開すれば良いだけだもの」
「だね」
人類補完計画。
その発動までもう少しであった。
2024.01.14 文章修正