サツマンゲリオン ~ 碇シンジが預けられた先が少しだけ特殊だった県/件   作:◆QgkJwfXtqk

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 トリントン基地の上空を4機のエヴァンゲリオンが飛んでいく。

 紫色のエヴァンゲリオン初号機。

 赤色のエヴァンゲリオン弐号機。

 銀を基調として蒼く塗られたエヴァンゲリオン4号機。

 黒を基調として蒼く塗られたエヴァンゲリオン6号機。

 赤くA.Tフィールドを散らせながら、赤い光を曳いて、それぞれが1対となって飛んでいく。

 Liveと(クレジット)された映像。

 今現在、全世界へと放送されているのだ。

 

 それをプロジェクターで投影され、巨大な画面で見ながら重々しく呟く老人。

 

「人類補完計画、閉塞状態となった人類の希望が始まる」

 

 キール・ローレンツであった。

 部屋に居るのはキール・ローレンツだけではない。

 投影の為、薄暗くされた広い部屋には13の独り掛けソファが用意されており、それぞれにキール・ローレンツも含めて12人が座っていた。

 SEELEメンバー全員が揃っている。

 空席となっている1つは、現場指揮を担っているSEELEたる碇ゲンドウのモノであった。

 誰もがリラックスした表情を見せていた。

 

「宿願、それが叶う日がきましたな」

 

「左様」

 

「正に今日と言う日は人類再興の良き日となりましょう」

 

「ならばする事は1つ」

 

 キール・ローレンツが横に用意されていたテーブルからワイングラスを取る。

 その意図をSEELEメンバーは誤解しない。

 誰もがワイングラスを持ち、掲げる。

 

「人類に!」

 

「人類に!」

 

 唱和。

 それはSEELEにとって絶頂の瞬間であった。

 

 

 

 

 

 蒼い空を気持ちよく空飛ぶエヴァンゲリオン初号機。

 まだオーストラリア上空と言う事で全力発揮(極超音速飛行)はしていないが、エヴァンゲリオン初号機の表面を流れていく風が、シンクロを通してシンジにも伝わっている。

 高いシンクロ率がシンジに、自分の体で飛んでいる気分が味わせてくれる。

 挙動を確認する様に体を傾ける様に意識すればエヴァンゲリオン初号機も傾き、加速もするし減速もする。

 正に鳥になった気分を味わえた。

 己の意志に従って自由に飛べると言う事は搭乗している碇シンジに万能感めいたモノを与えてくれるのだ。

 飛行予定経路を外れる事は無いが、逆に言えば、その範疇でシンジは楽しそうにエヴァンゲリオン初号機を操っていた。

 それはシンジにしては珍しい、ある意味で14歳と言う生理年齢に相応しい(年齢相応の子供らしい)姿であった。

 最終調整の終了したエヴァンゲリオンの飛翔用特別装備であるFⅡ型装備(F型ステージⅡ)は、それ程のモノを与えてくれたとも言えていた。

 

『遊びすぎ』

 

 笑ってツッコんできたのは、シンジとペアを組んで飛ぶエヴァンゲリオン弐号機の惣流アスカ・ラングレーだ。

 

「何だよ、アスカだって好きに飛んでたじゃないか」

 

『アタシのは試験飛行だったもの』

 

 シンジの反論にツンっと澄まして答えるアスカ。

 言葉は事実ではあった。

 FⅡ型装備(F型ステージⅡ)の開発のテストは、A.Tフィールドへの造詣の深いアスカとエヴァンゲリオン弐号機が担当していたのだ。

 A.Tフィールドを自在に使えると言う意味では渚カヲルも似た所にあった。

 だが渚カヲルは先天性(使徒としての権能)由来の能力である為、言語化しての他人へと説明する能力に難があったのだ。

 感性主体の曖昧な表現になってしまい、この手の説明力の高さが要求される技術開発のスタッフ(テスト・パイロット)には向いていなかったのだ。

 結果としてアスカが選ばれ、FⅡ型装備(F型ステージⅡ)の試験と称して空を自在に飛び回っていた。

 

「ずるいよ」

 

『残念でした』

 

 そんなシンジとアスカのじゃれ合いに首を突っ込む勇者が1人。

 

『楽しい?』

 

 綾波レイである。

 純朴な目をしている。

 

『楽しくないの?』

 

 逆に問いかけるアスカ。

 FⅡ型装備(F型ステージⅡ)の運用試験の際、散々に好き放題に飛んだのだ。

 シンジを揶揄した(からかった)が、それはアスカ自身も楽しかったからでもあったのだ。

 

『………判らない』

 

『今、飛んでいる気持ちは?』

 

『…………………普通』

 

 水中を泳ぐのとも変わりないのだと言う綾波レイ。

 

『だけどレイ、君は水の中を泳ぐのを好きって言ってたよね?』

 

 渚カヲルも加わって来る。

 その問い掛けに、ハッとなった表情をした綾波レイ。

 それから小さく頷いた。

 

『同じかもしれない』

 

『ソレって好きって事じゃない!』

 

 

 

 雑談をしながら、でも、飛行の予定経路を大きく乱す事も無く飛ぶ4機のエヴァンゲリオン。

 そして4人の子ども達(チルドレン)

 その姿をNERV本部第一発令所から葛城ミサトは眺めていた。

 それは、使徒戦役を通してする事のなかった柔らかな表情であった。

 

「仲が良くて良いわね」

 

「リサイタルも予定されているそうです」

 

 合いの手を入れるのは葛城ミサトの女房役である日向マコトでは無く、伊吹マヤだ。

 日向マコトは今現在、トリントン基地で現場指揮を執っていた。

 そして伊吹マヤの上長たる赤木リツコも同じであった。

 (スーパーソレイド)機関を持ったFⅡ型装備(F型ステージⅡ)は、ある種のエヴァンゲリオンであり、そうであるが故に調整は難航しており、エヴァンゲリオンを最も良く知る赤木リツコが現場に引っ張り出される事態となっていたのだ。

 

 そして、だからこそ伊吹マヤは赤木リツコの代わりに、NERV本部の技術開発局を局長代行として取りまわしていたのだ。

 赤木リツコを真似てNERVのベージュ色の制服の上に白衣を着た姿は、背伸びしている風でもあったが、中々にどうして、背筋を伸ばして立っているお陰で様になっていた。

 そんな伊吹マヤが言うリサイタルとはシンジ達南極に立つ4人、第1班(タスク1ユニット)がA.Tフィールドを合わせる為に行っていた四重奏(カルテット)の成果発表であった。

 かなり上手く演奏できる様になっていた為、身内で演奏会を遣ろうかと言う話になっていたのだ。

 丁度、適格者(チルドレン)第2期適格者(セカンドステージ・チルドレン)の全ての子ども達を集めた打ち上げを行う話もあったので、丁度良い余興であった。

 

「そう言えばミツキ(支援第1課)は何て?」

 

「ノリノリです」

 

「ノリノリ、ね__ 」

 

 子ども達が喜ぶなら何でも良いと言う所があるのが天木ミツキであったのだ。

 ()()()()()()()と言う事だろう。

 葛城ミサトからすれば納得しかない。

 

「結構。ま、全てが平和に終わって遊ぶのは大事よね。そう言えば第2班(タスク2ユニット)の準備に問題はないわね?」

 

「はい! 現在、最終確認の第3回目を実施させています。全8機のエヴァに問題は見られません」

 

「予備機は?」

 

 問われたのは第2班(タスク2ユニット)、その中核となるエヴァンゲリオン8号機の非常用予備、エヴァンゲリオン3号機だ。

 勿論、伊吹マヤに抜かりはない。

 

「機体状態に異常は見られません。既にトウジ君もエヴァ103(エヴァンゲリオン3号機)にて待機中です」

 

「もう? 作戦開始までまだ30分はあるわよ?? 予備役なんで、そこまで張り切らないでも良いのに__ 」

 

「話し相手になってやるんだそうです」

 

「あー マリの」

 

 納得の声を上げる葛城ミサト。

 マリ・イラストリアスの乗るエヴァンゲリオン8号機は、外部からの干渉を恐れると言う意味で他の第2班(タスク2ユニット)エヴァンゲリオンと共に、作戦開始時まで通信回線が閉鎖されていた。

 それだけ、Bモジュールで行う同調戦闘(RAID-GIG)システムは繊細であったと言えた。

 そして各国に配置されている7機のエヴァンゲリオンは最終調整と確認に忙殺されており、マリ・イラストリアスと雑談が出来る程に暇な第2期適格者(セカンドステージ・チルドレン)は居ないのだ。

 だからこそ、鈴原トウジは同じBモジュール搭載エヴァンゲリオンであり、同調戦闘(RAID-GIG)システムを介しての通話が可能なエヴァンゲリオン3号機に乗り込んでいるのだった。

 

「ホント、トウジ君ってお兄ちゃんよね」

 

「そうですね」

 

 軽口を叩き合う2人。

 と、誰かが踵を打ち合わせた。

 敬礼。

 上位者が第一発令所に入って来たのだ。

 葛城ミサトも伊吹マヤも表情を整え、振り返り、敬礼をする。

 入ってきたのは他でもない、NERV総司令官たる碇ゲンドウであるからだ。

 

「ご苦労」

 

 掠れ気味の声と共に、碇ゲンドウは軽くて手を挙げて応じる。

 服務規程的な意味で正しくは無いが、その服務規程を決める側である碇ゲンドウにとって別段に問題では無かった。

 とは言え、その軽く見える態度で碇ゲンドウを甘く見る人間は居ない。

 国連安全保障理事会人類補完委員会直轄の特務機関NERV。

 その全てを支配する人間であるのだ。

 甘く見れる筈も無かった。

 又、外見的にも甘く見れる要素は無い。

 人類補完計画に向けた連日連夜に及んだ調整作業、折衝によって頬は削れ、瞳は窪み、果ては髭である。

 最近は碇ゲンドウの私生活の管理までしていた赤木リツコが出張中と言う事で、平時以上に伸びている顎髭と無精ひげによって幽鬼めいた迫力を漂わせていたのだ。

 

「状況はどうか」

 

「はっ! 第1班(タスク1ユニット)第2班(タスク2ユニット)共に準備状態は良好です。現在南極各地に展開中の第1班(タスク1ユニット)が配置に就き次第ですが、スケジュールに遅延は見られません」

 

 第一発令所正面の大画面には、偵察衛星によって集められている4機のエヴァンゲリオンの位置情報が表示されている。

 極超音速と言う、音速の10倍を超える速度で飛翔しているのが見えている。

 A.Tフィールドを機体前面に展開する事で、空気圧縮による高温から機体を守る事が出来る為、これ程の速度が出せているのだ。

 又、G(重力加速度)もA.Tフィールドと専用に調整したL.C.Lによってパイロットの負担を低減させていた。

 これによってFⅡ型装備(F型ステージⅡ)を搭載したエヴァンゲリオンは、輸送機による空輸を必要としないと言うのが作戦局での見立てであった。

 

 兎も角。

 人類補完計画の現段階でのスケジュールに異常は欠片も存在していなかった。

 

「そうか」

 

 頷く碇ゲンドウ。

 誰もがその挙動に注目している中で、何を気負う事無く薄く笑う。

 

「ならば良い。葛城大佐、後は任せる」

 

「はっ! 微力を尽くします!!」

 

 改めて敬礼する葛城ミサト。

 碇ゲンドウは、鷹揚に、それを受け入れる。

 そして後ろに控える冬月コウゾウに対して声を掛ける。

 

「見守るとしよう」

 

「ああ。その為に全ての手筈を整えて来たのだ。碇、お前も少し落ち着いて見守ればよかろうさ」

 

「………そうだな」

 

 取り憑かれたように仕事に邁進していた碇ゲンドウ。

 愛妻たる碇ユイとの再会が近いが故に、そう冬月コウゾウなどは見ていた。

 だが現実はより複雑であった。

 碇ユイの生還と言う事態を前にして、色々と考える事が重なってしまい、考えない為に必死で働いていたのだ。

 一言で言えば、落ち着かないのであった。

 

「…………ああ。冬月、ここを頼む。ターミナルドグマに降りて来る」

 

「どうした?」

 

「いや、少し、そうだな………静かな場所で落ち着きたいのだ」

 

 疲れ果てた表情のまま、薄く笑う碇ゲンドウ。

 他意など欠片も無い、幸と精の乏しい表情に冬月コウゾウも痛まし気に眉を潜めた。

 ターミナルドグマ。

 それはこのNERV本部施設の中心にして、黒き月の中心である。

 そしてリリスを封印する場所であるが故に厳重に、一切から離された空間であった。

 暗闇に薄く白い輝きを見せる巨大なリリスと、リリスが生み出すL.C.Lだけが存在する空間なのだ。

 確かに静かな場所であると言えた。

 

「大丈夫か?」

 

「ああ。少し、そうだな。少し落ち着いてくる。人類補完計画の完遂時までには帰って来る。3時間だったな」

 

「ああ」

 

「ここは任せた」

 

「任されよう。少し休んで来い」

 

「ああ」

 

 

 

 

 

 障害となる使徒は居ない。

 全ての関係国、関係部署へと話はつけた。

 それが碇ゲンドウが第一発令所を離れた理由であった。

 人類補完計画。

 それが、もはや碇ゲンドウが手を掛けずとも無事に完遂されるだろうと考えての事であった。

 だがそれは、余りにも甘い考えであった。

 或いは、人類と言う存在を余りにも知的であると考えていたと言う事であった。

 

 破綻は最悪の予想通りに、予想もしない所から始まる。

 

 

 

 

 

 基点となる南極。

 嘗ての大陸の残骸、その中央に残る白き月(アダムの揺り籠)の残滓。

 そこに眠っている権能 ―― 地球環境の管制能力(テラフォーミング)を、4機のエヴァンゲリオンが行う全力稼働(フルドライブ)によって作り出された莫大なA.Tフィールドによって行使するのだ。

 生み出された4つの赤いA.Tフィールドの柱。

 だがそれでは足りない。

 (スーパーソレイド)機関による無尽蔵な動力が生み出したソレは、だが4つの、別々の力でしか無いからだ。

 それを、4機のエヴァンゲリオンが波長を連携する事で、巨大なA.Tフィールドへと育て上げるのだ。

 正に四重奏(カルテット)であった。

 

 その様は、遠く第3新東京市のNERV本部からも観測出来ていた。

 

「フィールド空間係数、第2ラインを突破しました。A.Tフィールドハーモニクス、誤差、0.1を下回ります」

 

 伊吹マヤの報告。

 だが誰の耳もソレを素通ししてしまう。

 それ程の光景が南極で発生しており、そして偵察衛星の画像でNERV本部へと届いていた。

 

「セカンドインパクト__ 」

 

 その日、その場にいた葛城ミサトが思わずつぶやく程に、それはセカンドインパクトに良く似ていた。

 

「特別観測機、バーミリオン1が南極領域に接近します」

 

 青葉シゲルが声を張り上げる。

 現時点で人類最速の乗り物である単段式宇宙輸送機(SSTO)に観測用機材を山ほどに乗せ、亜宇宙空間を無理矢理にすっ飛ばすと言う無茶をしてまで、偵察衛星では得られない情報を集めている特別観測機バーミリオン1。

 その運用寿命を削ってまで行っているソレは、人類補完計画と言う大仕事の為に必要な事であった。

 NERV本部や偵察衛星と言う、距離のある観測機器で集める情報と、現場で得られる観測情報。

 その誤差を確認する為であった。

 未知と言える、荒れ狂う空間を飛ぶと言う危険極まりない任務。

 だがそれをベテランと呼べる機長はやり遂げていた。

 

「観測データ入ります。マギによる誤差確認開始します」

 

「結構。青葉中尉、繋がってる?」

 

「はい。通信状態、安定しています」

 

「結構。機長、状況を知らせよ」

 

『アイマム。アイアムテディベア。バーミリオン1。ノーアブノーマル。インザフライト(飛行状態に異常なし)

 

 少しと言わず日本語の訛が強い英語で話し出す特別観測機の機長。

 小さく笑った葛城ミサトは、日本語で良いわよと告げた。

 

『助かります。どうも苦手でしてね』

 

 軽い口調で告げて来る機長。

 私も英語は得意じゃ無いわっと笑う葛城ミサト。

 緊張をほぐす為の雑談であった。

 

「大事なのは報告内容だもの。そこは気にしなくて良いわ。状況を説明して」

 

『はい。現時点で機体(バーミリオン1)に異常はなく、空間状況も事前ブリーフィングと変わりはありません』

 

「結構」

 

 飛行状態も安定しており、機長のバイタルデータも安定していた。

 それらの情報が報告者が安定して報告している事を示しているのだ。

 だからこそ葛城ミサトは機長の言葉を信じた。

 未曾有の事態であれ、人の目と勘というモノはバカに出来ない。

 そう思えばこそであった。

 

「テディベア、悪いけど最後まで付き合ってもらうわよ?」

 

『了解です。燃料が尽きるまでお付き合いしますよ』

 

 

 

 暫しの時間。

 MAGIがNERV本部や偵察衛星が収集した情報と、特別観測機が収集した情報に誤差が無い事を確認した。

 

「葛城大佐」

 

 伊吹マヤの声に頷く葛城ミサト。

 そして後ろ、第一発令所後方にある第1指揮区画の総司令官ブースを見る。

 冬月コウゾウが重々しく頷いた。

 碇ゲンドウNERV総司令官の代理として、NERV副司令官の権限で許可を出す。

 

「始め給え葛城大佐」

 

「はっ!!」

 

 人類補完計画、その本体が動き出す。

 

 

 

 4機のエヴァンゲリオンが1つとなったA.Tフィールドを作り出す。

 それが地球を包み込んでいく。

 だが、それは優しさだけでは無かった。

 歪んでしまった地軸を戻そうと言うのだから、当然である。

 風が恐ろしい声をあげ、大地は揺れ、海が吼える。

 空間が悲鳴を上げるが如く轟音を鳴らせていた。

 それは正にセカンドインパクトを思い出す光景であり、地球最後の日を思わせるナニかであった。

 

 NERV本部でコンソールにしがみ付きながら葛城ミサトは指揮を飛ばす。

 

「マリへ連絡! 第2班(タスク2ユニット)作戦行動(フェイズ2)を開始せよ!! 復唱不要!!!」

 

「了解です!!!」

 

 伊吹マヤが絶叫する様に答える。

 この様な状況も、全ては予定通りであった。

 

エヴァ108(エヴァンゲリオン8号機)、サクラサクラ。作戦開始せよ」

 

『待ちくたびれた! 任せて!!』

 

 このA.Tフィールドの嵐を治めるのが第2班(タスク2ユニット)のエヴァンゲリオン8機の役割であるのだ。

 想定内の状況であり、であるが故に予定通りの対応を行う。

 ただそれだけの話であった。

 

 だが、そうでない人間も居るのだ。

 それが、破局の始まりであった。

 

 同調戦闘(RAID-GIG)システムによって7人の第2期適格者(セカンドステージ・チルドレン)と繋がったマリ・イラストリアス。

 8つのエヴァンゲリオンが生み出すA.Tフィールドをもって、この異常状態を軽減するのだ。

 深呼吸をしていく。

 8人で息を合わせていく。

 MAGIが支援する中で役割分担を行い、8つA.Tフィールドで調律するのだ。

 

「難しい事じゃない。いつも通りにやれば簡単に終わるよ」

 

 安心させるように囁くマリ・イラストリアス。

 同調戦闘(RAID-GIG)システムは機械的接続であると同時に、搭乗者(パイロット)たちの心を繋ぐのだ。

 戦闘となれば、只、戦闘本能に従って戦えば良いだけなので簡単であるが、事、調律となれば話は違う。

 繊細な行為であるのだ。

 地球を傷つけない為の繊細さ。

 8つの心を1つにまとめようとするマリ・イラストリアス。

 だが、そこにノイズが乗る。

 

 それは痛みであった。

 それは恐怖であった。

 

 閉じていた目をハッと開くマリ・イラストリアス。

 エヴァンゲリオン8号機のエントリープラグに浮かんでいた7つのエヴァンゲリオンとの通信画面、その一つが揺れた。

 

『Aaaaaa!?』

 

 少しだけ遅れての悲鳴。

 荒れている通信画面に付けられている文字はEva-204 Deepika Chowdhury。

 ディピカ・チャウデゥリーの乗る第2期量産型(セカンドシリーズ)エヴァンゲリオン204号機であった。

 配置場所は中東はアラビア半島、紅海沿岸域であった。

 その近くにメッカと言う都市がある。

 

 

 

「何があった!!!」

 

 険しい声で吠える葛城ミサト。

 その眼前のモニターには同調戦闘(RAID-GIG)システムが一気に安定性を失っていく様がグラフで表示されていた。

 

「信じられない!? エヴァ204(セカンドエヴァンゲリオン4号機)が攻撃を受けています!!」

 

 目を丸くして呆然とした顔で、それでも轟音に負けぬ様にと声を張り上げる伊吹マヤ。

 

「使徒!?」

 

 使徒の反応(BloodType-BLUE)の確認の声を上げようとした葛城ミサト。

 その声に被せる様に青葉シゲルが吼える。

 

「現地チームから緊急報告!! 攻撃は現地国連軍、護衛班からです」

 

「何ですって!?」

 

 理解出来ない。

 そんな風に叫ぶ葛城ミサトに現実を叩きつける様に、第一発令所の巨大なモニターの一角にディピカ・チャウデゥリーが乗った第2期量産型(セカンドシリーズ)エヴァンゲリオン4号機が攻撃を受ける様が表示されていた。

 護衛としていたのだ。

 至近距離と言って良い場所から、戦車や野砲がつるべ打ちに砲火を差し向けて来る。

 それだけでは無い。

 人間が持つ火力、小銃や機関銃。

 果ては手榴弾から無反動砲、携帯対戦車火器と言ったものまでもが叩きつけられていた。

 只、それらは整然としたモノでは無かった。

 撃っているのは半分以下であり、多くの将兵は逃げまどって居たりしていた。

 

「なっ、何が起こってるの!?」

 

 それは豪胆な葛城ミサトすらも呆然としてしまう、そんな光景であった。

 

 

 

 

 

 


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