【本編完結】サツマンゲリオン ~ 碇シンジが預けられた先が少しだけ特殊だった県/件 作:◆QgkJwfXtqk
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人類最強戦力との呼び声が誇張では無いと誰もが認めるNERVエヴァンゲリオン戦闘団第1小隊、エヴァンゲリオン初号機とエヴァンゲリオン弐号機。
それが、第18使徒との衝突に際して喰われたと言うのは大きな衝撃を世界に与えた。
情報統制は出来なかった。
余りにも巨大な第18使徒を追っていたマスコミが生中継していたからだ。
本来であればNERVは国連の与えた特権 ―― 特務機関NERVに関する法案に基づいて、対使徒に於いては人心擾乱のリスクを避ける為、情報を統制する権限を有していた。
だが、その権限を行使するNERV本部が、今現在、第18使徒に包まれているのだ。
情報統制など出来る筈も無かった。
阿鼻叫喚の様を呈した世界。
或いは絶望。
エヴァンゲリオン初号機とエヴァンゲリオン弐号機の喪失と言う状況は、民間人だけではなく軍関係者にすら巨大な打撃を与えていた。
只、NERV本部スタッフ及び第3新東京市での実戦経験を持った国連軍将校だけは別だった。
使徒と言う存在の出鱈目さを知り、だが、その出鱈目な使徒を正面から叩き沈めて来た
喰われた程度で負けるようであれば、既に人類は負けている。
そう思っていたのだ。
情報の収集と反撃戦力の集積、第1小隊へと可能な限り出来る支援を積み上げようとする
だが、より直截的な反応をする人も居た。
碇シンジと惣流アスカ・ラングレーを良く知る者、即ち
渚カヲルは何とも評し難い顔をしていた。
それは、使徒に対する同情めいたモノであった。
第18使徒の正体は判らないが、取り合えずは、
そういう感情であった。
どうして第17使徒足る自分が人類に全面降伏したのか、知らないと言うのは幸せなのかもしれない。
その様にも考えていた。
対して綾波レイ。
此方も、似た様な顔であった。
とは言え思っている事は少し、違う。
エヴァンゲリオン初号機とエヴァンゲリオン弐号機、共に喰うと言うのは悪手も良い所であり、あの2人に腹の内から暴れられるって最悪だろうと思っていたのだ。
否。
暴れると言う所でフト、1つの事に気付いた。
何方かを喰うよりはマシかもしれない、と。
シンジとアスカ、互いに自分を相手の保護者めいて考えているのだ。
そんな2人を分断しては、保護するべき相手の為にと常以上の力を発揮するのは確実で、であればあの第18使徒とやらは酷い目にあうだろう。
ならば、喰わなければどうであるかと言えば、その前の、あの
小さく笑う綾波レイ。
結局、あの使徒
『レイ?』
「何でもないわ」
シンジとアスカ。
あの2人が無茶苦茶をやって第18使徒を殴り倒して生還するまで世界を支えよう。
そんな事を考えながら、綾波レイは薄っすらと笑うのであった。
付き合いの永さから余裕のある2人に対して、信用してはいるが情緒面の幼さもあって心配を爆発させたのはマリ・イラストリアスであった。
第2東京の
「日向マコト!
奔っている感情のまま、舌ったらずに日向マコトへと要請を行う。
命令めいた強い口調。
一瞬、マリ・イラストリアスが感情的に無茶をしようとしているのかと危惧し、抑制しようとした
『やれるのか?』
「
断言。
マリ・イラストリアスは、エヴァンゲリオン8号機を介して8機のエヴァンゲリオンと
その能力を少しばかり流用し、第18使徒をA.Tフィールドでぶん殴ると言うのだ。
第18使徒は、エヴァンゲリオン初号機とエヴァンゲリオン弐号機の
その巨躯は、恐らくはA.Tフィールドによるものだろう。
エヴァンゲリオン初号機とエヴァンゲリオン弐号機の攻撃で、砕かれた部分が光となって解けた所から、そう推測されていた。
マリ・イラストリアスは、第18使徒のA.Tフィールドに痛打を与える事で、2人を救い出そうと考えているのだった。
血気に逸ったマリ・イラストリアスは、その理論的な部分を口にする事は出来なかった。
だが、それでも意志は日向マコトに通じた。
葛城ミサトの傍で
言葉にする事は下手ではあるが、それでも、事、戦闘に関しては信用に足る判断力を持つ事を理解し、胆力もある事を認めていた。
それは、日向マコトの独断では無い。
葛城ミサトを筆頭としたNERV本部作戦局の総意、評価であった。
だからこそ大役、
状況は流動的であり、状況の危機的度合は加速度的に悪化していく。
だからこそ、日向マコトは即断した。
『ゴー!!』
「任された!!」
日本語の訛はあれど、歯切れの良い日向マコトの
そして即座に動く。
エヴァンゲリオン8号機が、
地球を動かす程のA.Tフィールドが長野の地に、エヴァンゲリオン8号機の直上に集約する。
「Aaaaaaaaaaaaaaaa!!!」
喉を振るわせるマリ・イラストリアス。
その意思を受けたエヴァンゲリオン8号機が両手を掲げ、
A.Tフィールドの集束。
目を焼かんばかりの輝き。
大気が轟々と吼える。
生み出されたのは輝く、槍の様な長方形めいたナニか。
ソレをマリ・イラストリアスは第18使徒へと放つ。
「
轟音。
音速を優に超えて放たれたソレは、数秒で第18使徒に着弾し、その上半身を消し飛ばす。
強烈無比な1撃。
エヴァンゲリオン初号機とエヴァンゲリオン弐号機による1撃に、勝るとも劣らない威力だ。
だが、結果は同じであった。
痛打に至らない。
第18使徒はエヴァンゲリオン8号機の攻撃によって砕け散った体の中から、1周り小さな体を表す。
エヴァンゲリオン初号機とエヴァンゲリオン弐号機が解放された気配も無い。
舌打ちするマリ・イラストリアス。
更なる攻撃を行おうと決意した時、又、第18使徒も動く。
反撃だ。
― 神たる我に逆らう愚か者よ ―
4本の腕、それぞれがエヴァンゲリオン8号機と同じように光を掴む。
― 罪には罰を、神罰をその身に刻め ―
吠えた。
そして4発の光弾を放つ。
エヴァンゲリオン8号機のソレと同等めいた速度、轟音、風さえも粉砕して第2東京に迫ったソレ。
着弾すればエヴァンゲリオン8号機と周辺とを焼き尽くさんばかりの力が込められた光弾は、A.Tフィールドを圧縮する事によって生成された反物質弾だった。
神を名乗るのに相応しい第18使徒の攻撃であった。
だが、
その程度の事で折れる程に弱く無かった。
「Aaaaaaa!!!」
まだ幼子めいた外見通りの、甲高い咆哮。
だがその意思を受けたエヴァンゲリオン8号機が野太く吼える。
-オォォォォォォォォォォッ!!-
エヴァンゲリオン初号機ともエヴァンゲリオン弐号機とも違う咆哮。
開き切った顎が、反物質光弾の着弾の瞬間に閉じた。
そして、
吸い込むように反物質光弾を吸い込み、かみ砕いたのだ。
口元から光る砂の如きがかぜ撒いて散っていく。
自慢げに笑みを浮かべるマリ・イラストリアス。
規格外の光景に誰もが目を瞠った。
綾波レイすらも瞠目していた。
だが第18使徒だけは、マリ・イラストリアスとエヴァンゲリオン8号機が為した力技の所以を見抜いた。
嗤う。
― そを人の力、群体の力と言うか ―
第18使徒の、光にぼやけた体が分裂する。
浮遊する第18使徒めいた、或いはエヴァンゲリオンめいた巨人。
その数、実に9体。
反撃だ。
― 群れには群れを充てるとしよう ―
狙ったのは世界中に散った
エヴァンゲリオン8号機が見せた力。
規格外のA.Tフィールド。
それは
だからこそ、第18使徒は応撃せんが為、9つの分体を生み出したのだ。
エヴァンゲリオン8号機を
そして支援機 ―― 一部人間の暴走によって攻撃を受けた
空挺投入された相田ケンスケは、怯えていたディピカ・チャウデゥリーを宥め賺し、そして同時に
状況を把握した現場指揮官が、練達の
尚、謝罪だの何だのと言う話もあったが、今で行うのは悠長過ぎるとして、全ては
兎も角。
現場指揮官 ―― 部隊長からの詫びの通信が入ったが、それ所では無いと早々に通話を終わらせ、油断なく周辺を見ている相田ケンスケ。
使徒が何をするか判らぬ、トンでも無い相手だとよく理解しての事だった。
割と古典的な
自分を守ってくれた相手の真剣な、油断の無い歴戦の戦士めいた横顔をディピカ・チャウデゥリーは見とれた様になっていた。
『
「
判らないが禄でもない事だろう。
そんな推測を口の中で殺した相田ケンスケ。
その想像が正しく実現する。
― 疾く消えよ ―
第18使徒の言葉。
その響きが消えるよりも先に、
不確定なのはナニカの全身が薄く輝いており、その輪郭が明確となっていないからである。
それも1体や2体では無く複数、ざっと数えて10を超える数が出現したのだ。
『
使徒の様な何かが出現したのは中東だけでは無かった。
マリ・イラストリアスとエヴァンゲリオン8号機が居る第2新東京を筆頭とした、世界中の
特にエヴァンゲリオン8号機の周囲には、10や20では済まない数の使徒/エヴァンゲリオン擬きが現れていた。
第18使徒が脅威と認めての事、と言えた。
だが、まだ見積もりが甘かった。
「日向マコト! 獣化第2段階、
油断なく周囲を確認しながら吼えるマリ・イラストリアス。
最早、エヴァンゲリオン以外の手段で変わるとは思えぬ程の状況 ―― 状況の危険さを理解する日向マコトは即答する。
『
この為、戦闘投入はNERV本部
NERV本部
現在、第18使徒と思しき存在の腹の中である。
日向マコトの即答、決断は越権行為であった。
だが、迷いは無かった。
叱責されたり軍法会議などに掛けられる未来があったとしても、その未来に今が繋がる為には
「
実戦で、初めて使われる事となった
元よりBモジュールを介した戦闘に自負のあったマリ・イラストリアスは日向マコトの信頼を受け、爛々と瞳を輝かせて吠える。
エヴァンゲリオン8号機も吼えた。
そして、世界中に散らばった
そこからの闘いは、正に死闘であった。
数で圧そうとする使徒擬きを、9機のエヴァンゲリオンは真っ向から粉砕していた。
その様は獣染みており、正に暴力の権化であった。
だがそれは個の力では無い。
MAGIと9人の頭脳が繋がり、背中すら誰かが見て、得意な誰かの動きを再現する。
世界中に散らばっていても独りでは無いのだ。
正に全にして個。
個にして全であった。
第18使徒が
だが第18使徒も又、普通では無い。
どこかのエヴァンゲリオンが1体の使徒/エヴァンゲリオン擬きを滅ぼせば、どこかで2体が生まれていた。
人理を越えた、神話めいた闘い。
恐ろしい迄の
100体の使徒/エヴァンゲリオン擬きが消し飛ばされ、200体の使徒/エヴァンゲリオン擬きが生まれても、全ての意志が戦闘に塗りつぶされていたマリ・イラストリアスと8人の
使徒/エヴァンゲリオン擬きを産みだす第18使徒の強大なA.Tフィールドに、真っ向から拮抗しうるA.Tフィールドを作り出している南極の
否。
力の問題では無い。
A.Tフィールドを介して、渚カヲルと綾波レイが衷心より自分たちを案じてくれているのが判るからだ。
それは大いなる愛とも言えた。
それ故に、寸毫とて心の休む間もない中にあって尚、9人は折れる事無く戦い続けられたのだ。
だが、第18使徒は違った。
絶望せず、慌てる事も無く、機械的に
― その力は南極より生まれしか ―
第18使徒は4本の腕を組み、遥か南極を睥睨する。
― 神に逆らう愚か者よ、距離が神罰から免れる事を許すと思う事なかれ ―
閃光。
南極の空に湧き出る使徒/エヴァンゲリオン擬き。
その数は10を超え、100を超え、1000を超えていた。
第18使徒は神を自称するだけの傲慢な意識を持っていた。
だが同時に慢心する事は無かった。
南極に居るのは、己に拮抗しうるA.Tフィールドを作り出した相手であると正しく理解していた。
― 消え去れ ―
だが、それでも尚、甘かった。
空を埋め尽くさんばかりの使徒/エヴァンゲリオン擬きを見て、綾波レイは目を細めた。
深呼吸。
そして一たび目を瞑り、開く。
赤い瞳が常ならざる輝きを魅せる。
尤も、それを見ているのは渚カヲルだけであったが。
『Lilith、宜しく頼むよ』
何時もの余裕たっぷりの顔、では無く、少しだけ辛そうな顔で、綾波レイをリリスと呼ぶ渚カヲル。
それも当然であった。
渚カヲルは今現在、エヴァンゲリオン6号機
現在、綾波レイとエヴァンゲリオン4号機は調整だけを担っていたのだ。
とは言え、負担は果てしなく大きかった。
地球を安定させると同時に、第18使徒と戦う事にもA.Tフィールドを使われているからである。
綾波レイは、何時もであれば訂正を口にした
作り物めいた貌で言葉を紡ぐ。
それは、ある意味で超越者の姿であった。
「暫し耐えなさい」
『りょーかい』
そして
それは神言めいて世界に響いた。
水面に落ちた波紋の様に広がった。
世界は変わる。
世界中に在った使徒/エヴァンゲリオン擬き、その半数が光と共に弾け、2頭4腕2翼と言う第18使徒に似た使徒/エヴァンゲリオン擬きの姿から、1頭2腕4翼のエヴァンゲリオンによく似た姿へと変貌したのだ。
「
人としての意識の下で眠っていたLilithとしての
それは第18使徒が行使していた
人類の側にあった鬼札が場に放り込まれたのだ。
南極の空にあってエヴァンゲリオン4号機が、その背から10枚の赤い光翼を生やし、Lilithの僕が集う。
それは終末の光景めいていた。
光の柱が幾つも昇る。
使徒/エヴァンゲリオン擬きとLilithの僕が戦闘を開始したのだ。
状況は更なる加速を始めるのであった。