【本編完結】サツマンゲリオン ~ 碇シンジが預けられた先が少しだけ特殊だった県/件 作:◆QgkJwfXtqk
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エヴァンゲリオン弐号機と引き離されたエヴァンゲリオン初号機。
その中にあって碇シンジは、己を呼ぶ何かを感じていた。
― ……… ―
声、では無い。
ナニカ。
としか言いようのないナニカだ。
視野は全てが白く塗りつぶされ、己が機体すらも胸元あたりまでしか見えない。
通信も途絶している。
だが、機体の状況に異常はない。
センサー群の報告は勿論、エヴァンゲリオン初号機と繋がっている己の感覚でも、異常は無い事は判っている。
その上で、ナニカの呼び声である。
又、機体の慣性センサーが下方向へとエヴァンゲリオン初号機が動いている事をしめしているのだ。
故に、シンジは焦る事は無かった。
かつての第12使徒に取り込まれた様に、封印されている訳では無いのだから。
ナニカ、恐らくは第18使徒が仕掛けてきているのは判っている。
であれば顔を突き合わせた時に、確実に屠れば良い。
その為の武器 ――
A.Tフィールドを込めて振るえば空すらも斬る刀だ。
であれば恐れるモノは何も無い。
そばに居た惣流アスカ・ラングレーが奪われた事が、唯一の不安であった。
無茶をしないか、と言う点である。
赤い髪の少女。
その髪、プラグスーツ、赤い色を羽織った
今、エヴァンゲリオン初号機が装備する
死力を尽くし、
心配をするのも当然であった。
アスカを想い、自然と籠った腕の力を抜く。
ゆっくりと、深く行う。
俯き、薄目として口を一文字にし、或いは微笑んでも見える顔で
明鏡止水。
無駄な力を抜き、あらゆる状況に対応できる準備をするのだ。
暫しの時間。
光が白い闇を切り裂いた。
視野が開ける。
明るく、そして暗い場所。
「っ」
その中央に立つ、赤く巨大な十字架めいたナニカ。
シンジが知る由も無いが、この場所の名はターミナルドグマ。
リリスが封印されている場所であった。
「
シンジの疑問。
それに応えるかのように、天井より降って来る白いナニカ。
全身が白い。
胸の中央部、乳房めいたもののある雌体と筋肉質的な雄体の真ん中に黒い点が見えた。
だが、シンジの意識は集中しない。
少し後ろ側に重心を寄せる心持ちで全身を見る。
1つの体に男女めいて見える2つの頭、4つの腕。
そして背中から生えた2つの翼 ―― 否、更なる翼が開いた。
4対8翼となる。
それこそが第18使徒であった。
「
油断なく睨むシンジ。
既に
― ………エヴァンゲリオン初号機 ―
盛大にL.C.Lの水しぶきを上げ、着地する第18使徒。
2つの頭がエヴァンゲリオン初号機を見る。
シンジを見る。
― 何故、ここにいる。ここは
困惑した様な響き。
― 消えよ ―
腕を振るってくる。
右の2本の腕、その先にA.Tフィールドが乗って赤い旋風となる。
水を砕き、空を切る。
だがそれを馬鹿正直にシンジは受けない。
剛腕一閃。
同じタイミングで攻撃を行う。
斬撃。
A.Tフィールドを乗せた
閃光。
そして爆発。
空を断つ1撃は、第18使徒の攻撃を相殺する。
― 伏して神へ恭順せよ ―
第18使徒、であればとばかりに今度は左腕を振るう。
生み出されるのは赤いA.Tフィールドの塊、斬るではなく質量攻撃めいた攻撃だ。
巨大な、エヴァンゲリオンにも匹敵するサイズの塊が迫る。
破烈の一撃。
だがシンジは、南無阿弥陀仏と戯れを口にしながら笑う。
「
シンジが信徒と言う訳では無い。
そもそもシンジは、寺に行った数よりも正月辺りで神社に行った回数の方が多い。
否、下手をすれば教会の方が多い。
碇アンジェリカに日曜礼拝に誘われて通っていたのだ。
浄土真宗の門徒としてシンジが
兎も角。
郷中教育の躾によって、シンジは闘いとなれば肚を決める。
意識を切り替え、己を一振りの刀とするのだ。
であれば、神を自称する使徒如きに刀の切っ先が鈍る事などありえなかった。
爆散。
― LILIN風情が ―
第18使徒は、雌雄の顔を憤怒に染めるのだった。
激しく行われるエヴァンゲリオン初号機と第18使徒の戦闘。
その
エヴァンゲリオン初号機が保有する中長距離攻撃手段が無い ――
エントリープラグ内に表示されている数字が正しいのであれば、現在、エヴァンゲリオン初号機は
その数字はシンジが知るNERV本部地下構造の最下端を越えており、そうであるが故に、慎重になっているのだった。
対して第18使徒は、好き放題に攻撃してくる。
右の2本の腕で斬撃を。
左の2本の腕で塊撃を。
そして4対8翼のそれぞれの先端から
手数と言う意味に於いて圧倒的であった。
尤も、数が圧倒的であるからと言って、エヴァンゲリオン初号機を圧倒できる訳では無いのだ。
第18使徒の攻撃をエヴァンゲリオン初号機は見事にいなしていた。
エヴァンゲリオン初号機は走り、跳ね、或いは
秒も同じ場所に居ない瞬微さは、曲芸めいた機動であった。
素晴らしきエヴァンゲリオン初号機の機動性能。
そして、その性能を発揮させ続けられる、恐るべきシンジの集中力であった。
ターミナルドグマは全高40mを越えるエヴァンゲリオンにとって狭い空間と言えた。
だがその狭さを感じさせない動きをエヴァンゲリオン初号機は成していた。
恐ろしいまでの集中力を発揮しているシンジ。
だが、真にもって強いのは自制心であった。
シンジが学んだ薬丸自顕流は、攻撃こそが
打ち込み前の刀を持った姿勢を、防御を意味する
一の太刀を疑わず、二の太刀は負けとの精神なのだ。
にも拘わらず、シンジは今、耐えていた。
第18使徒の攻撃が苛烈で、手が出せない等と言う事は無い。
第5使徒や第14使徒に比べれば、第18使徒の攻撃は威力が甘く手数が多いだけでしかないのだから。
そして、差し違えとなる事を覚悟すれば撃破は余裕。
シンジの戦闘勘は、物事を冷静に判断していた。
だが同時に、後先を考えぬ愚を戒めていた。
相手は使徒。
何をするか、何が出来るか理解出来ない、想像できない程に無茶苦茶な相手なのだ。
目の前に立つ存在が、真なる第18使徒でない可能性がゼロでは無いのだ。
― 神罰からいつまで逃げる積りか ―
倒れるのが恐ろしいのではない。
差し違えた事で、相手に勝利への道を与えるのが恐ろしいのだ。
だからシンジは待っていた。
己の相方の到着を。
だが、運命は少しだけ皮肉に動く事となる。
偶然の重なりの上で、シンジの都合、第18使徒の都合、それらとは全く別の人間の思惑によって動くのだった。
鍵となったのは、この場にあり、この場の誰もが忘れている神器であった。
その名をロンギヌスの槍、と言う。
派手に乱射される第18使徒の攻撃。
大地を蹴って飛び跳ねるが如く機動するエヴァンゲリオン初号機。
その2つの動きが重なった時、その振動によってロンギヌスの槍が跳ねたのだ。
それは丁度、エヴァンゲリオン初号機と第18使徒の真ん中であった。
そして同時に、第18使徒がA.Tフィールドを用いた攻撃を実行し、エヴァンゲリオン初号機も又、
即ち、エヴァンゲリオン初号機と第18使徒はある意味で、
寸毫の偶然。
そこに意味を出す存在が居た。
利用する者が居た。
この場に存在する3つ目のモノ、即ち碇ゲンドウだ。
乾音。
残身はあれども、如何なシンジとは言え攻撃動作をしたばかりの瞬間を狙われては、如何とも出来るものでは無かった。
咄嗟に回避行動を取ろうとはするが、間に合うモノでは無かった。
「っ!?」
痛みは感じない。
何とも言い難い違和感が、自分の腹部から広がるのを感じたシンジ。
ロンギヌスの槍はエヴァンゲリオン初号機の腹を貫いていたのだ。
対して第18使徒へは、槍の一端が解けて貫く。
2つの頭部、4本の腕、8枚の翼、そして胴体中央部だ。
否、胴体を貫くのは更に9つに分かれて刺さる。
円を描かず。
線ともならず。
知る者が居れば、
― 何だ ―
神を名乗る第18使徒までもが驚いた。
世界が暗転する。
「シンジ………起きろシンジ」
名を呼ばれたシンジは、その事で意志の焦点があった。
暗闇の中に浮かぶ己。
正面から相対するのは、暗闇の中に上半身が浮かび上がっている碇ゲンドウだった。
「
眉を顰め、呆れた様に言うシンジ。
行方不明と聞いてはいたのだから当然の反応だった。
対して碇ゲンドウ。
萎びたような憔悴したような顔であったが、目には驚くほどの精力的輝があった。
「居たというのは正確では無いな。だが、その様な事は些事だ。それよりもシンジ__ 」
「
戦っている最中だと言うシンジ。
だが、碇ゲンドウはそれを諫める。
「問題ない。今、この使徒の中で時間の流れは変わっている。そしてシンジ、初号機に乗るお前は全てを知って行動するべきだろう」
エヴァンゲリオン初号機は今、NERVのみならず世界的に見ても
だから聞けと言う碇ゲンドウ。
時間の流れの差と言うモノは、第18使徒内部の葛城ミサトとの通信で実際に理解していた為、シンジは碇ゲンドウの言葉を受け入れた。
「
「順を追って話そう。先ず、敵の正体だ。初号機のログにある名前、便宜上、第18使徒とするコレだが、厳密に言えば18番目の使徒と言う訳では無い。始祖民族が生み出した、だが、始祖民族が禁じた
証拠は、頭が二つあり、雌雄となっている事を告げる。
そして末端が消えている己の腕を振るう碇ゲンドウ。
湧き上がる第18使徒。
光が消え、その輪郭が明瞭化する。
それまで何となく男性的、女性的と見えていた雌雄の顔が、シンジにハッキリと見えた。
「
シンジが動揺の声を上げるのも仕方のない話であった。
その雌雄は見慣れたモノであったからだ。
雌の顔は渚カヲル。
雄の顔は綾波レイ。
「知るべき理由、その1つだな」
激昂したシンジに対し、平素の傲岸不遜とでも言う態度の儘に説明する碇ゲンドウ。
或いはソレは、この2人にとって初めての
尤も、それを見る人も、考える人も居ないのであったが。
碇ゲンドウは説明する。
第18使徒が生まれた理由を。
それは、人類補完計画の実行が齎したモノであったが、同時に、運の悪さが齎したモノでもあった。
原因の1つはアダム。
碇ゲンドウが己の人類補完計画の為にSEELEから奪ったアダムの欠片である
碇ゲンドウはソレを機密保持の兼ね合いもあってターミナルドグマに安置していた。
人目に付かなければ良い。
干渉され無ければ良い。
そこに原因の2となる人類補完計画によって地球規模のA.Tフィールドを展開した事が影響を出す。
否、A.Tフィールドが原因と言うのは正しくはない。
問題は、地球をA.Tフィールドを覆った際に発生した揺らぎ ―― 中東で発生した
地球規模に展開したA.Tフィールドの調律を行っていた所に攻撃を受け、操縦するディピカ・チャウデゥリーが
波、波紋も最初は小さかった。
だが個々の
ソレが、
とは言え封印下にある以上、通常であれば目覚めたとして影響力を発揮する事は出来ない。
そもそも自我も無く、魂と呼べるモノも内包していないのだ。
それがひっくり返る。
非なるとは言え本質は似ている
そうであるが故に干渉する事が出来てしまっていた。
本来であれば始祖民族による抑止機構が働く筈であった。
SEELEが所持した裏死海文書には禁忌とすら書かれていた。
何故なら、
だが、そこに碇ゲンドウが居た。
そして、そうであるが故に
覚醒し、封印から出た
それが、第18使徒の正体であった。
「
全ての説明を聞いたシンジが、不思議そうに尋ねる。
どの様な経緯であれ、使徒と言うか敵である限りは討てばよい。
その説明など、後で良い筈だと言う。
正に戦闘向けの割り切りであった。
だが碇ゲンドウは慌てるなと言う。
「アダムの持つ始祖の祖と言う能力、そしてリリスの力。それは使徒の比では無い。お前が弐号機パイロット ―― 惣流君と協力したとして今まで通りに勝つのは難しい。それだけの再生能力と増殖能力を兼ね備えている」
「
「そうだ。見ろ」
碇ゲンドウが世界を見せる。
見るでは無い。
シンジは理解したのだ。
世界の状況を。
それは碇ゲンドウと一体化している第18使徒の権能だった。
感じた。
そこでは大量の使徒/エヴァンゲリオン擬きと戦っている
世界中で、獣めいて戦っている
南極で物量で使徒/エヴァンゲリオン擬きと正面から殴り合っているエヴァンゲリオン4号機。
「………?」
首を傾げたシンジは碇ゲンドウを見た。
有り体に言って、世界中で互角以上の闘いとなっていた。
否、
「………」
無言の碇ゲンドウ。
二度見するシンジ。
「……?」
「……慌てるな」
碇ゲンドウは言う。
今はまだ戦えている。
だがエヴァンゲリオンは永遠に戦える訳では無い。
対して第18使徒は永遠に戦い続ける事が出来る。
「
「そうだな。だが、もっと楽な方法がある。だから私は、今、この場を作ったのだ」
碇ゲンドウの言葉に、何かを感じたシンジは居住まいを正す。
正面から顔を見るシンジ。
碇ゲンドウも又、シンジを見ている。
「
「私を殺せ、シンジ。私が死ねば第1使徒と第2使徒が繋がる事は出来なくなる」
「………
この戦いの前、シンジは赤木リツコから碇ゲンドウを助けて欲しいと言われていた。
縁、或いは思いを感じていた。
だからこそ尋ねたのだ。
だが、碇ゲンドウは全てを断ち切る様に言う。
「問題ない。事、この事態となった原因の一端は私にある。であれば責任を取らねばなるまい」
だが、第18使徒に囚われている自分は
だからこそシンジに頼むと言うのだ。
シンジは碇ゲンドウの目に至誠を感じた。
覚悟を見た。
だから、受け入れる。
「
それ以上の言葉は無い。
ある意味で漢と漢の会話だからだ。
只、敬意を抱いていた。
碇ゲンドウ。
親と言う意識の持てない相手であったが、末期には漢を見せたと思っていた。
シンジの体、その後ろにエヴァンゲリオン初号機が現れる。
振り上げられる
「
「すまなかったな、シンジ」
振り降ろされる
だが、その切っ先が振り抜かれる事は無かった。
碇ゲンドウに届く事も無かった。
碇ゲンドウの前に立つ輝く人影が、ソレを止めたからだ。
「
「違う。奴はまだこの場を知覚していない」
驚く2人。
その2人の前で人影を隠す輝きが薄れていく。
四肢、その末端から人の身である事を教えてくれていく。
現れたのは女性であった。
小柄っぽく見える、短い髪の女性だった。
綾波レイに似ていた。
「
判らぬシンジ。
だが、碇ゲンドウは判らぬ筈が無かった。
「ユイ、ユイなのかっ!?」
声が震える碇ゲンドウ。
対して碇ユイはにっこりと笑った。
笑いながら右手で碇ゲンドウの頬を
「っ!?」
碇ユイの腕に筋が浮き出ている。
全力で摘まんでいた。
シンジから、コメカミがヒクツイているのも見えていた。
「………」
滅多に無いガチギレした碇アイリを思い出し、賢明なるシンジは口を噤んでいた。
何が起こったかは判らない。
だが、口を挟むと自分にも被害が来る。
碇ユイは、そんなシンジの態度を流し目で見て、それから視線を碇ゲンドウに合わせる。
涼やかな声を出す。
「少し、気が早いですよ。ゲンドウさん」
恋焦がれた碇ユイとの再会。
だが、碇ゲンドウは少しだけ、色々と後悔していた。