サツマンゲリオン ~ 碇シンジが預けられた先が少しだけ特殊だった県/件   作:◆QgkJwfXtqk

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「今の貴方にとっては、初めましてって事になるかしらね」

 

 嫋やかに笑っている碇ユイ。

 それを碇シンジは酢を呑んだような表情で見ていた。

 さもありなん。

 碇ユイの右腕が、がっしりと碇ゲンドウの頭を掴んでいるからだ。

 ほっそりとした指先が食い込んでいる。

 見事な技(アイアンクロー)だ。

 碇ゲンドウはうめき声すらも上げられていない。

 

じゃいな(そうだと思う)

 

 口は自動めいて答えるが、脳裏には碇ケイジの言葉(評価)が蘇っていた。

 酔っぱらった時にポツりと零したのだ。

 才色兼備との呼び声も高かった(碇ユイ)は、事、鍛錬と言う意味では自分よりも上だった、と。

 学問その他、色々なストレスの発散に横木打ちをしていた、とも。

 只し、猿叫を上げず、笑顔めいたもの(アルカイックスマイル)を浮かべながら黙々とユスの木刀を叩きつけていた、と。

 

 正直な話としてシンジは信じなかった。

 さもありなん。

 自衛官時代に実戦を経験していた碇ケイジの鍛錬()を間近で見ていたのだ。

 上回ると言われて素直に信じれる筈も無かった。

 

 だが今は信じられた。

 腕の力 ―― 雰囲気や所作がシンジに、碇ユイが強者である事を伝えているからだ。

 この不思議空間だから強いのではない。

 ()()()()()()()()

 

「色々と話したい事があるけども、今、優先するべき事ではないわね。だからシンジ、使徒を倒しなさい」

 

そいはよかどんからん(それは良いんだけど)だいじょいじゃっとな(大丈夫なの)?」

 

 少しだけ案じる声を出すシンジ。

 碇ゲンドウは自分と一緒に使徒を滅せよと言った。

 そして碇ユイは碇ゲンドウと共に居る。

 シンジと会話し続けながらも、その右手は碇ゲンドウの顔を握り続けているのだ。

 そのほっそりとした、だが力強い指の下で小さく呻いている碇ゲンドウ。

 ある意味で家庭内暴力(DomesticViolence)の図であり、そして実にシュールだ。

 教育に悪そうな絵であるが、この場の誰も気にしては居ない。

 シンジは、相手は碇ゲンドウだしと割り切っていた。

 碇ユイは、少しとは言わないレベルで()()() ―― 2人の愛の結晶とも言える愛息シンジへの保護放棄(ネグレクト)をするわ、人類補完計画(ゲンドウ案)と言う非科学的かつ非合理的で願望(出来たらいいな)を計画とか言う様ないい加減なモノを作ってやる様な真似をしているのだ。

 有り体に言えばガチギレであったのだ。

 これはもう仕方のない話であった。

 

 そもそもの話として、だ。

 碇ユイがエヴァンゲリオン初号機となったエヴァンゲリオン(素体)との人類初の対話(シンクロ)実験を行ったのは、襲来が予想されている使徒(アダムの子ら)から人類を守る為であったのだ。

 その為のエヴァンゲリオンであったのだ。

 それを碇ゲンドウは碇ユイに逢う為の人類補完計画(すっとこどっこい)に変えたのだ。

 碇ユイの女性としての部分は動いた(キュンキュンした)が、それ以外の部分が碇ゲンドウを支持する筈も無かった。

 科学者としての碇ユイ。

 母親としての碇ユイ。

 人類の管理者(SEELEメンバー)としての碇ユイ。

 そのいずれもが大激怒していたのだ。

 

 碇ユイの指先と碇ゲンドウの顔面、その2つが人として出してはイケない様な音を立てている。

 

 元来、碇ユイは暴力的人間では無い。

 だがしかし、エヴァンゲリオンの中にあって碇ゲンドウの無体な真似を見て、止めようとして止める事の(声を届ける事が)出来なかったストレスがこの行動に繋がっているとも言えた。

 とは言え碇ユイの目的は碇ゲンドウを〆る事では無い。

 そんな事は()()()()()()()()()()()()()()()()からだ。

 

「少しアレ(第18使徒)が抵抗しているけど、でも大丈夫よ」

 

 碇ゲンドウの体が、ゆっくりと引き出されて来る。

 出た。

 真っ裸だ。

 誰が見たいのかと思うようなモノまで見えて(ポロン)しまい、少しだけゲンナリした表情になるシンジ。

 だが、碇ユイは慈母めいた表情で碇ゲンドウを抱きしめた。

 

「おかえりなさいゲンドウさん」

 

「ああ、済まなかった」

 

 おずおずと抱き返す碇ゲンドウ。

 そんな2人の姿が少しづつ光になって解けていく。

 

「シンジ」

 

 碇ユイに名を呼ばれたシンジが頷く。

 

ないか(何?)

 

「ごめんなさい。今の私ではゲンドウさんを使徒から引きはがし、神を僭称するのを止めさせる事で精一杯なの。エヴァも世界も貴方にお願いする事になるわ」

 

「………よかが(大丈夫)ひといじゃなかでよ(アスカが居るから)

 

 莞爾と笑うシンジ。

 世界を守ると言うのは決めていた。

 守りたい人達が居る。

 鹿児島の義父義母、義兄義()

 第3新東京で知り合ったクラスメイト。

 NERVの大人達と仲間(チルドレン)

 そして惣流アスカ・ラングレーが居るのだ。

 ならばやってみせよう。

 シンジの腹は決まっていた。

 そして、一度決めれば揺るぐ事は無いのだ。

 

「キョウコさんの娘さんね。直接会うのが楽しみだわ」

 

 碇ゲンドウも脂の抜けきった顔でシンジを見ていた。

 目を細めた、恥じる様にも見える薄い笑み。

 

「報いは全て己で受ける積りだった。だが、お前に全てを背負わせる事になった。済まないシンジ」

 

「………よか(良いよ)こいもオイのこっでもあっでよ(僕の事でもあるから)

 

 碇ゲンドウの謝罪に、小さく笑みを浮かべて返すシンジ。

 但しその右手がシンジの本音を、後で()()()()()()()()とばかりに握られてはいたが。

 その意味を誤らずに理解して碇ゲンドウは、碇ゲンドウらしく鼻で笑った。

 

「フッ、好きにしろ」

 

 それは、この2人で初めての家族らしい距離感の会話とも言えるのだった。

 

 

 跡形もなく、光となって消えた2人。

 ただ1人となったシンジは深呼吸をする。

 目を閉じて、己の内側 ―― エヴァンゲリオンへと話しかける。

 

いっど(行こう)

 

 

 エヴァンゲリオン初号機がカッとばかりに目を光らせた。

 

 

 

 

 

 ジオフロント内部。

 第1発令所から脱出していた葛城ミサト達は、エヴァンゲリオン3号機に守られながらジオフロント内を避難していた。

 避難民やNERVの非戦闘要員を守りながら、出来る限りジオフロント中心部 ―― ターミナルドグマ(リリス封印の場所)から離れようと言うのだ。

 

 着のみ着のまま。

 各々の手にはラップトップパソコンや通信機、銃器(弾切れの鈍器)鈍器(バールのようなモノ)が握られていた。

 幸いに後者の出番はまだ来ていない。

 問題は通信ネットワークがダウンしている現在、前者も使い物にならないと言う事だろう。

 とは言え技術(技術開発部)スタッフからすれば、それこそが彼彼女らの武器であり、である以上は如何に重くとも手放せないと言うモノであった。

 

「ナニか判る?」

 

 双眼鏡を片手に周囲を油断なく睨んでいる葛城ミサト。

 問いかけたのは相方(マブ)である赤木リツコだ。

 とは言え此方は、呆けた顔でNoSignal(通信不能)と画面に表示されているラップトップパソコンを流し見しながら煙草を吸っている。

 

「判らないわよ」

 

 捨て鉢めいた、とまでは言わずともそこに情は無かった。

 情報の収集手段も分析手段も手の中に無いのだ。

 万策は付き、賽は投げられた後なのだ。

 であれば、祈るだけ ―― シンジが勝つ事と、行方不明の碇ゲンドウが無事である事を只々、希うだけしかないと思っているが故の事だった。

 大きな事態の前には、個の人間はちっぽけた。

 そんな風にも思っていた。

 

「それより問題はこの空間からの脱出よ。ミサトの言う使徒モドキの出現が今は止まっているとは言え103(エヴァンゲリオン3号機)の稼働、そろそろ限界を考えておかないと危ないわよ」

 

「ヤヴァイの?」

 

「ここじゃ機体状況は把握できてないから確たる事は言えないわ。だけど連続戦闘が3時間を越えつつあるのよ? ロクな事になってないのは推測できるわ」

 

 葛城ミサトやNERVスタッフ、避難民を守る最後の壁足るエヴァンゲリオン3号機は、搭乗する鈴原トウジの奇跡的な献身、或いは気合によって今だ闘い続けて居られた。

 だが、鈴原トウジは普通の少年なのだ。

 シンジの様に幼少期から一意専心とばかりに馬鹿げた鍛錬を重ねたり、アスカの様に潰れない限界を科学的に計算した訓練を重ねて来た訳では無いのだ。

 唯々、個人の資質だけで耐えている、戦い続けているのだ。

 その事に赤木リツコは敬意すら抱いていた。

 だが、だからこそ過信してはいけないし、過度な期待をしてもいけないと戒めているのだ。

 鈴原トウジが訓練でエヴァンゲリオン3号機へ搭乗した耐久訓練は、最長で2時間。

 現状は既に、その訓練時間を遥かに超過しているのだ。

 状況を甘く見る事など出来る筈も無かった。

 少なくとも科学の徒、合理の人たる赤木リツコには。

 

「ハァ、状況は最悪に近いわね」

 

 部下の類が声の届く所に居ないが為、葛城ミサトは弱音めいた声を漏らした。

 だがその言葉に赤木リツコは首を傾げる。

 

「近い? 最悪では無いの?」

 

「アスカとエバー102(エヴァンゲリオン弐号機)101(エヴァンゲリオン初号機)に合流に行ってるのよ? それで第18使徒が墓穴から出てきているなら兎も角、今はそうでないんだから。だからあの2人が何とかしているでしょ」

 

「呆れた。相変わらず凄いわねミサトの楽観主義」

 

「おほめにあずかり___ えっ」

 

 少しばかりの気分転換めいた軽口の応酬。

 その最中に、事態が動いたのだ。

 

 光の柱が、ジオフロントの中心部から立ち上ったのだ。

 NERV地下施設が吹き飛び、それはさながら噴火の様であった。

 

「総員っ、防御姿勢!! 急いでっ!!!」

 

 声の限り葛城ミサトは叫び、そして黄色い非常用(折り畳み)ヘルメット掴んで率先して地面に身を投げるのだった。

 大地が、世界が揺れる。

 

 

 

―フォォォォォォォォォォォォォォン―

 

 エヴァンゲリオン初号機が咆哮する。

 地を揺るがし、空間をも揺さぶる。

 聞く者に恐怖すら与えるソレ。

 ソレは、碇ユイが消え、シンジと直接繋がった(シンクロした)事によるエヴァンゲリオン初号機の再誕の叫びであった。

 エヴァンゲリオン初号機の四肢が、体が、内側から弾ける様な勢いで膨れる。

 機体各部の装甲板 ―― 拘束装甲が吹き飛び、その本体とも呼べる素体がシンジに合わせる様に進化していくのだ。

 

 ある意味で隙でもあった。

 死戦の最中で発生するには余りにも致命的な状況。

 だが、第18使徒の側は、その隙を突く余力が無かったのだ。

 

― ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア” ―

 

 汚いとしか言えぬ咆哮(悲鳴)を上げ、雌雄2つの顔は苦悶に歪んでいる。

 4本の腕で体を抱きしめる様にしている。

 第18使徒としての根幹、アダム(第1使徒)リリス(第2使徒)を繋ぐ()であった碇ゲンドウが奪われたが為、第18使徒(alpha-omega)は体を維持できなくなっていたのだ。

 

― 人が、リリン如きが ―

 

神ちゆうとったが(神を自称していた割に)弱かなぁ(弱いものだね)

 

 煽る意図は無いシンジであったが、その言葉は覿面に第18使徒の感情(プライド)を傷つけていた。

 

― 舐めるなぁっ!!! ―

 

 吠える第18使徒。

 雌雄の頭をエヴァンゲリオン初号機に向け、口を大きく開く。

 粒子砲(プルトンビーム)だ。

 だが苦悶が影響してか照準が甘い。

 雌の顔が放った光芒は明後日の方向へと放たれ、雄の顔が放つソレも直撃とは言い難かった。

 それをシンジはEW-12B(マゴロクソード・ステージ2)を振るって斬る。

 叩き落す。

 轟音。

 一閃した切っ先は音速を越えており、大気毎に粒子砲(プルトンビーム)を破砕したのだ。

 

― 人間如きがっ ―

 

 吠える第18使徒。

 だがシンジは言葉を発しない。

 真速の踏み込みをもって答えとした。

 

「キィィィィィィィィ!」

 

 既に刀は抜かれ、闘いが起きているのだ。

 その最中に会話する様な呑気さ、その様な緩さはシンジには無い。

 

「エェェェェッ!!」

 

 エヴァンゲリオン初号機の両腕が二倍の太さとなってEW-12B(マゴロクソード・ステージ2)を握っている。

 天を衝けと伸ばされた切っ先が振り抜かれる。

 刃先に乗った赤いA.Tフィールド。

 轟っと響くが残念、即死めいて当たる事は無かった。

 4対8翼にA.Tフィールドを乗せて多重防御をしていたのだ。

 とは言え無傷では無い。

 6枚を切り飛ばす事に成功していたが。

 

 斬り込まれた勢いを利用し、後方へと飛ぶ第18使徒。

 シンジは追撃 ―― 出来ない。

 残身も考えず、必殺の一撃(二の太刀要らず)とばかりに全力で踏み込んでいたのだ。

 流石に、間髪入れずの追撃に掛かれなかった。

 

 そして同時に、斬り落とした6枚の羽が人型へと転じたのだ。

 それはシンジの知らぬ使徒/エヴァンゲリオン擬きにも似たナニかであった。

 とは言え形は不定形めいていたが。

 

― 神であり神では無い。我の分け身によって亡びを受け入れるが良い ―

 

 6体の分け身(依り代)が、大きく口を開く。

 粒子砲(プルトンビーム)だ。

 6つの光芒。

 打ち出された光の柱が狙うはエヴァンゲリオン初号機の弱点、胴体中央(コア)部 ―― では無い。

 照準を少しづつずらした、面制圧(MAP)攻撃だ。

 エヴァンゲリオン初号機に逃げ場を与えまいとしての事だ。

 第18使徒とて一方的に神を自称する程の存在、リリス(第2使徒)の複製体たるエヴァンゲリオン初号機如きに負けてなるモノかとの意識があった。

 

 乱れ打ちとなった6本の粒子砲(プルトンビーム)

 その余りの熱量によって足元の溜まっていたL.C.Lが気化し、蒸気が上がる。

 白い闇めいた蒸気を引き裂いて前に出るエヴァンゲリオン初号機。

 腰を落とした踏み込み。

 そして突きを放つ。

 放てない。

 攻撃をするのはエヴァンゲリオン初号機だけでは無いのだから。

 6体の分け身(依り代)が迫る。

 正に窮地。

 だからこそシンジは笑う。

 獣めいて口元を歪め、顔には恐怖など欠片も浮かばぬ。

 只、戦意だけを友として進むのだ。

 踏み込みを変える。

 そのシンジから見て一番右側へと進路を変える。

 距離が狂ってしまったので打ち(斬り)込めないが為、右の肘からの打撃となる。

 吹き飛ぶ分け身(依り代)

 だが倒せていない。

 追加攻撃が出来ないのだ。

 6対1と言う数の不利、これが分け身(依り代)が並みの相手であればシンジにとって問題にはならなかったかもしれない。

 だが、今、この場に居るのはエヴァンゲリオンにも匹敵する能力を持ち、そして個ではなく集団として戦える相手であるのだ。

 大本が第18使徒であり、そこから分岐した存在であるが故に繋がっているのだ。

 ある意味で同調戦闘(RAID-GIG)システムと似ているとも言えた。

 だからこそシンジは過剰なまでに警戒をしていた。

 

 今、この場は自分独り。

 倒れる訳にはいかない。

 捨て身は許されない。

 6体の分け身(依り代)の悉くを切り伏せ、そして第18使徒を討つまでは身を捨てる様な()()は許されないのだ。

 血反吐を吐き、泥を啜ってまでしても勝つまで続ける。

 耐える。

 そして勝つ。

 それがシンジの覚悟。

 

 

 だが、その覚悟が報われる事は無かった。

 轟音と共に天井が抜かれる。

 落ちて来る赤い巨躯。

 

『お待たせ、バカシンジ!!!』

 

 そうシンジの相方、アスカとエヴァンゲリオン弐号機が参戦したのだ(殺戮者のエントリーだ)

 着地と同時に振り抜かれたA.Tフィールドを纏った大鎌、EW-18(スピアー・オブ・カシウス)分け身(依り代)の1体を切り飛ばす。

 コアを打ち抜いたその一撃は、分け身(依り代)を消滅させる。

 

― なっ ―

 

 驚きの声を上げた第18使徒。

 だがそれが致命的な隙に繋がる。

 シンジだ。

 エヴァンゲリオン弐号機の動きに合わせて動き、そして自らも又、斬撃を放ったのだ。

 (スタンドアローン)で無いが故に、第18使徒に引っ張られたその個体は、シンジのエヴァンゲリオン初号機に対応しきれず、見事に真っ二つになっていた。

 そして光となって消えていく。

 

 

『何でこんなのに圧されてるのよ』

 

「事情があったんだよ」

 

 エヴァンゲリオン初号機とエヴァンゲリオン弐号機。

 背を預け合いながら倍の敵、分け身(依り代)と対峙する。

 そこに隙は無い。

 

『取り敢えずシンジ、地上は無事。ミサト達も無事。なのでする事は1つよ』

 

「ここに居る敵を撃滅()?」

 

Richtig(そういう事よ)

 

 

 笑うシンジ。

 笑うアスカ。

 エヴァンゲリオン初号機とエヴァンゲリオン弐号機による第18使徒撃滅戦、その第2ラウンドが始まる。

 

 

 

 

 

 


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