【本編完結】サツマンゲリオン ~ 碇シンジが預けられた先が少しだけ特殊だった県/件 作:◆QgkJwfXtqk
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ジオフロント中心に位置していたNERV本部。
その建屋を吹き飛ばし、天井都市をぶち破って上がる光の柱は神々しくもあり、同時に禍々しさを兼ね備えていた。
崩落する天井都市。
ジオフロントは丸見えとなりつつあった。
幸い、NERVスタッフその他の避難民はジオフロントの外延部にある地上への非常用脱出通路に集まっていた事と、直近にA.Tフィールドを咄嗟に展開した鈴原トウジとエヴァンゲリオン3号機が居たお陰で、大きな落下物に襲われてはいなかった。
とは言え多くの人々は、小さな破片などは降り注いでいる事も相まって、この世の終わりめいた状況であると感じていた。
激震の中で動く事も出来ず、その場に
各々が信じる神の名、或い家族の名を呼びながら体を丸め、頭を保護するヘルメットを掴んでいる。
だが、その中にあって葛城ミサトは呆けた様に見上げていた。
そして、魅入られた様に言葉を漏らしていた。
「………お父さん」
オレンジ色にも赤色にも見える光の柱に見覚えがあったのだ。
15年の昔。
当時14歳だった時に見たモノと同種めいていたのだ
南極を消滅させ、人類に塗炭の苦しみを与え、そして何よりも葛城ミサトから父を奪った大災害が脳裏によみがえったのだ。
この状況が、葛城ミサトに当時を思い起こさせる程に
「嘘でしょ」
当然だろう。
同時に碇シンジとエヴァンゲリオン初号機が居て、そこに惣流アスカ・ラングレーとエヴァンゲリオン弐号機が殴り込みを掛けていたのだ。
にも拘らず第18使徒が出て来た。
それはNERV本部が誇る最強戦力、NERV本部エヴァンゲリオン戦闘団
呆然としてしまう赤木リツコ。
NERV本部随一の頭脳を誇るこの才媛も、余りにも
勝敗は兵家の常とは理解していた。
だがあの2人に限っては別枠である ―― 赤木リツコをして、それ程の信用をしてしまう程の戦歴を重ね、戦果を上げて来たのが
「使徒だ!!」
誰かが声を上げた。
赤木リツコも見た。
幼子の悲鳴めいた甲高い音を響かせながら、異形の人型が飛び出してきたのを。
― ファァァァァァァァァァァ ―
2頭4腕、そして2枚の翼を持っていた。
だが4本の腕で自らを縛り、2つの頭が落ち着きなく動いていた。
ジオフロントへと出た途端に翼を広げ、動かす。
飛ぶ。
落ち着きのない仕草。
更にジオフロント中央の
恐るべき光景。
だが使徒/エヴァンゲリオン擬きも又、慌てた仕草で横へと飛び出す。
「ん?」
首を傾げたくなった赤木リツコ。
その眼前で、直ぐにその理由が判明した。
- オォォォォォッォオォォォォォォォォン! -
異常だ。
赤木リツコは乾いた笑みを浮かべていた。
隣の葛城ミサトも、意識が今に戻って来た。
「え、
葛城ミサトの言葉に誘われる様に勢いよく飛び出す2つの影。
エヴァンゲリオン初号機とエヴァンゲリオン弐号機だ。
それぞれが持つ
振り抜かれた
上下で真っ二つになって消える使徒/エヴァンゲリオン擬き。
大身槍の態で貫いた
貫かれた場所から消滅していく使徒/エヴァンゲリオン擬き。
「うわぁ」
それまでの辛気臭さを忘れる様に、呆れた様に言葉を漏らす葛城ミサト。
それ程の、正しく暴力の権化めいた姿であった。
対して第18使徒は悲鳴めいた声を上げ、ソレを守る様に使徒/エヴァンゲリオン擬きが前に立つ。
とは言え、若干、人間で言えば腰が引けている様にも見えていた。
何とも人間臭く感じられる姿だ。
対してエヴァンゲリオン初号機とエヴァンゲリオン弐号機。
此方は2機共に堂々たる立ち姿を見せていた。
その姿に隙は無い。
使徒と言う存在を蛇蝎の如く嫌っている葛城ミサトをして、少しだけ第18使徒に同情してしまう様な雰囲気があった。
「てゆうか
フト、葛城ミサトが気付いた。
眉を顰めて繁々と見る。
間違いではない。
「そうね___ あら?」
双眼鏡でエヴァンゲリオン初号機を観察した赤木リツコも目を見開いた。
確かに違和感のある姿であった。
エヴァンゲリオン初号機各部 ―― 肩や肘、膝などにある
戦闘中の破損で喪われる事は多いが、その全てが無いと言うのは初と言えた。
「拘束装甲が全て脱落しているわ!?」
唖然とした声を出す赤木リツコ。
対して葛城ミサトは、その言葉に含まれた単語に反応した。
「拘束?」
「そうよ。エヴァの機体各部に付けられたアレは単なる装甲板ではないの。エヴァ本来の力を私たちが押え込むための拘束具でもあったのよ」
安全装置であったとも言う。
南極で拾った
それを使徒との戦いに使う為、人が操れるようにする為の呪縛。
それが拘束装甲であったのだ。
その全てが失われていると言う事は、人類にはエヴァンゲリオンを止める手段が無くなった事を意味する。
建前、と言うか額面だけで言えば。
「エヴァ初号機が覚醒した。そうとも言えるわ」
「でもリツコ、アレ、シンジ君よね?」
「そうね」
否。
違う。
格闘訓練を受け、そしてシンジの
エヴァンゲリオン初号機の姿が
エヴァンゲリオンは人型と言うが、厳密に言えば人間の四肢のバランスとは違っており、どこか非人間的な部分があるのだ。
注意深く観測し、葛城ミサトはエヴァンゲリオン初号機の四肢が太くなった事に気付いた。
そして姿勢が、背筋を伸ばしたモノとなっている事にも。
故に、初号機は余りにも普通となっているのだ。
隣に立つ、エヴァンゲリオン弐号機が何時も通りである為、その差は歴然としていた。
「ミサト?」
「リツコ。
「ん?」
首を傾げる赤木リツコであるが、仕方のない話でもあった。
格闘だのの知見も無ければ立ち姿の差を見る事も責任の範囲外だからである。
エヴァンゲリオンが十分に活動できる。
戦える状態にする。
維持する。
それに赤木リツコは責任を持っており、集中しているが故なのだから。
葛城ミサトが、エヴァンゲリオン初号機に起きている変化を伝えようとしたその時、2人の頭上に居るエヴァンゲリオン3号機が声を上げた。
『ミサトさん、シンジが仕掛けるとゆーとりますんで、ワシァ前に出ます』
気を回した作戦局のスタッフが通信機を操作するが、ノイズが乗っていて会話が出来る様な状態になかった。
第18使徒による妨害か濃厚なA.Tフィールドが空間の電波をかく乱しているのか判らぬものの、人が携帯出来るサイズの通信機では満足な通信など出来なかった。
そもそもNERVには、その部隊の性格上、この様な野戦用の通信機は殆どないのだから仕方のない話と言えた。
だから葛城ミサトはエヴァンゲリオン3号機に乗る鈴原トウジが誤解しない様に親指を立てた右の拳骨を大きく振り上げ、そして振り降ろさせた。
ハンドサイン。
葛城ミサトが込めた意味は単純明快、やっちまえ! であった。
幸い、落下物は減っているのだ。
であれば盾であるエヴァンゲリオン3号機が動く事は問題ない。
そう言う話であった。
豪快な動きから葛城ミサトの鈴原トウジは誤らずに受け取った。
『任せて下さいや!!』
朗らかな声で叫ぶ鈴原トウジ。
エヴァンゲリオン3号機に3時間を超えて連続して乗っていると言う事の
である以上は微力なれども合力する。
既にエヴァンゲリオン3号機やH型装備は満身創痍であり、武装の大半も喪失していたが、それでも
それが、鈴原トウジの思う男であったからだ。
駆け出したエヴァンゲリオン3号機。
だが戦力を集めると言う意味では第18使徒も諦めては居なかった。
― 神の力を思い知れ、愚かなるリリンよ!! ―
2体にまで撃ち減らされた使徒/エヴァンゲリオン擬きを盾としてエヴァンゲリオン初号機とエヴァンゲリオン弐号機から距離を取った第18使徒は、2枚の翼を天に大きく伸ばした。
翼が幾つもの線めいて枝分かれし、天へと延びる。
何かをする積り。
だが、それを黙って見ている程にシンジとアスカもお人好しでは無い。
「キェェェェェッ」
間髪入れずに猿叫と共に踏み込むシンジ。
『フラァァァァッ』
アスカもまた、鬨の声と共に走る。
阿吽の呼吸。
アイコンタクトすらもナシに、シンジとアスカは全くの同一タイミングで踏み出す。
斬撃と突撃。
狙うのは勿論、第18使徒だ。
その射線上に使徒/エヴァンゲリオン擬きがしゃしゃり出る。
「っ!」
エヴァンゲリオン初号機とエヴァンゲリオン弐号機にとって使徒/エヴァンゲリオン擬きは鎧袖一触となる程度の相手であるが、同時に、無視を出来る様な相手ではないし、背中を見せて良い相手でも無い。
『邪魔ァァァ!!』
勢いのままにエヴァンゲリオン弐号機は
エヴァンゲリオン弐号機の質量に加速と言うエネルギーが加わっているのだ。
喰らった使徒/エヴァンゲリオン擬きは胴体の大半が消し飛んでいた。
シンジも又、加速を踏み込みに変えて
使徒/エヴァンゲリオン擬きは抵抗も出来にままに体に線が入り、真っ二つだ。
圧倒的なまでのエヴァンゲリオン初号機とエヴァンゲリオン弐号機。
だが、使徒/エヴァンゲリオン擬きは己の務めを果たしたのだ。
時間を稼ぐと言う。
分になどならぬごくわずかな時間。
だが第18使徒にとって、それで十分であった。
― 集え、我が
空に大穴が開く。
空間が砕ける。
その先に開いたのは亜空間であった。
「…っ」
シンジに、ソレがナニか等と言うのは判らない。
シンジだけではない。
アスカにせよ鈴原トウジにせよ判らない。
だが、直ぐに理解する事となった。
空の割れ目から続々と使徒/エヴァンゲリオン擬きが降り注いで来たのだから。
亜空間は空間転移の為の門であった。
10の20のと言わず100を超えて1000を超えて現れる使徒/エヴァンゲリオン擬き。
世界中の使徒/エヴァンゲリオン擬きが、この第3新東京市へと終結しようとしていた。
シンジが見上げる空は、青さよりも使徒/エヴァンゲリオン擬きに埋め尽くされようとしていた。
恐るべき彼我の兵力差。
絶望するべき状況。
だが、シンジは笑う。
絶望など知った事かとばかりに笑う。
『イイ笑顔ね』
アスカが言う。
そう言うアスカも良い笑顔をしていた。
共に戦意は十分であり、全く以って折れて居なかった。
「そりゃね。アレって世界中に現れたって言う第18使徒の眷属って奴だよね。第18使徒を潰したら世界中を回るのかなって思ってたのが、この場で一切合切を解決できるんだ。楽になったかなって思って」
『Goodよシンジ』
戦意に不足の無い2人。
だが、普通の人である鈴原トウジは、この大量の使徒/エヴァンゲリオン擬きを前に、襲来してくるのは大歓迎だと宣う2人の姿に少しと言わずドン引きしていた。
面倒臭いやろ、と。
恐れてはいない。
鈴原トウジは
その知識が、侮るのは危険だが恐れる必要はない事を教えていたのだ。
否。
『シンジ!』
鈴原トウジが声を上げた。
その声に触発される様に、空の割れ目で爆発が発生する。
亜空間の門を通してきたのは使徒/エヴァンゲリオン擬きだけではなかったのだ。
エヴァンゲリオン8号機と
世界中の使徒/エヴァンゲリオン擬きが通れるのであれば、自分達も通れるとばかりに突っ込んで来たのだ。
何とも言えぬ蛮勇であった。
『
周りじゅうの使徒/エヴァンゲリオン擬きをぶっ飛ばしながら宣言するマリ・イラストリアスとエヴァンゲリオン8号機。
否、エヴァンゲリオン8号機と
使徒/エヴァンゲリオン擬きは南極も襲っていたのだ。
ならば当然の如く、エヴァンゲリオン4号機とエヴァンゲリオン6号機もやってくる。
当然、Lilithの僕も連れてきている。
否、Lilithの僕だけではない。
Lilithの僕とは異なった形の翼を持った存在 ―― Adamの僕すらも混じっていた。
第18使徒が碇ゲンドウと言う鎹を失った結果、Adamとしての権能すらも低下させていた結果だった。
『アスカ』
綾波レイが真剣な顔で頷く。
『シンジ君』
珍しくも真剣な顔をした渚カヲルも来た。
誰もが第3新東京市 ―― NERV本部へと集まったのだ。
「
シンジは心底から愉快に笑っていた。
亜空間と言う訳の判らぬモノに、敵を逃すかとばかりに突入したエヴァンゲリオン8号機と
自らの僕とした使徒/エヴァンゲリオン擬きを連れて来たエヴァンゲリオン4号機とエヴァンゲリオン6号機。
第3新東京市の全てを舞台とした闘い。
最初から
『笑ってんじゃないわよ! 遅れる訳にはいかないっつーの!!』
叱咤を1つ。
そして。アスカがエヴァンゲリオン弐号機を飛ばす。
巨大な大鎌へと変じさせた
シンジも遅れまいと飛ぶ。
A.Tフィールドを纏い、赤く長大な刃渡りを得た
鈴原トウジのエヴァンゲリオン3号機が、遅れまいと追随する。
戦うエヴァンゲリオン。
圧倒的な敵に正面から立ち向かう
それらの様をマスコミのカメラが全て捉えていた。
「エヴァンゲリオンが! 我々の希望が行きます!!」
轟々と風が吹く危険の最中、美人のレポーターが、ヘルメットとスカートの裾を抑えながら叫んでいる。
世界の耳目が集まるなかで全てを決着させる闘い、その最終章が始まった。