【本編完結】サツマンゲリオン ~ 碇シンジが預けられた先が少しだけ特殊だった県/件   作:◆QgkJwfXtqk

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 地球の未来、人類の存亡が掛かったエヴァンゲリオン(人類)使徒/エヴァンゲリオン擬き(使徒)との大決戦が繰り広げられている第3新東京市。

 状況はエヴァンゲリオンが圧していた。

 先頭を行く碇シンジの駆るエヴァンゲリオン初号機と惣流アスカ・ラングレーの駆るエヴァンゲリオン弐号機が、地で空で圧倒的な戦闘力を発揮する。

 鈴原トウジのエヴァンゲリオン3号機が指揮する第2期量産型(セカンドシリーズ)エヴァンゲリオンは同調戦闘(RAID-GIG)システムによって1つ群れ、同調し統制された集団戦闘を見せた。

 その傍でマリ・イラストリアスのエヴァンゲリオン8号機が、両手両足で地に立つ獣の如き姿になって駆け回っている。

 周りに神々しい光を背負いながら浮いている、綾波レイのエヴァンゲリオン4号機と渚カヲルのエヴァンゲリオン6号機。

 その周囲を固め、或いは使徒/エヴァンゲリオン擬きと戦っている翼を持った光るエヴァンゲリオンめいたLilithの僕とAdamの僕。

 その様は圧倒的であった。

 恐ろしいまでの力強さがあった。

 対している使徒/エヴァンゲリオン擬きは狩られるだけの態である。

 誰もがエヴァンゲリオンの、NERVの、人類の勝利を確信できる光景であった。

 

 

「こりゃ、勝ったわね」

 

 太平お気楽めいた口調で言うのは葛城ミサトであった。

 目は前しか見ていない。

 微動だにしていない。

 決して横と後ろは見ないという固い信念があった。

 そして何より、口調程に表情は弛緩していなかった。

 

「そうね。状況は優位と言っていいわね」

 

 隣に立っている赤木リツコが相槌を打つ。

 これは問題ない。

 親友(マブ)であるのだ。

 

「そうなりそうですわね。このまま使徒の増殖が止まれば、という前提が付きますけど」

 

 同意するように見えて少しだけ、ホンの少しだけ、何かを感じる事を言うのは綾波レイに似た相貌をした女性だった。

 先ほど、葛城ミサトが初めて会った女性。

 体の線が出る白衣のみを纏って、その上に非常用セットの薄い毛布を羽織っている。

 名を碇ユイと言う。

 血縁(遺伝)上と言う意味においてシンジの母であった。

 

「そうだな。第18使徒は規格外であり、奴のS²機関(スーパーソレイド・ジェネレーター)への負荷が読めん」

 

 同意するのは勿論、その夫たる碇ゲンドウである。

 碇ゲンドウは碇ユイと共に、第18使徒を追ってエヴァンゲリオン初号機とエヴァンゲリオン弐号機とがジオフロントへと上がって来たのと前後して、ひょっこりと、全裸で葛城ミサトらの所へとやって来たのだ。

 驚き、混乱、そして挨拶。

 行方(所在)不明であった碇ゲンドウは兎も角、碇ユイは10年近い昔に死亡したとされていたのだ。

 その頃からNERVに参加していた古参のスタッフは、昔の儘の姿で表れた事に驚愕していた。

 だが、今は人類の存亡が掛かった戦いの最中。

 自然な流れで状況説明などは取り合えず飛ばして、今、戦っている子供たちを優先する事になった。

 兎も角。

 NERV総司令官として胸を張って立つ碇ゲンドウであるが、中々に直視し辛い恰好をしていた。

 可哀そうな職員から奪った上着(ジャケット)を腰ミノよろしく下半身に巻き、だが上は()()()()()のだ。

 冗談の様に上半身裸であったのだ。

 堂々としている分、タチが(腹筋に)悪い姿であった。

 後、どうでも良い話だが眼鏡は無かった。

 ヘルメットは被っていた。

 誠にタチが(腹筋に)悪い。

 ここにNERV序列2位(ご意見番)たる冬月コウゾウNERV副司令官が居れば別だ(ツッコんでくれたろう)が、残念ながら第一発令所スタッフより先に責任者として(国連との折衝の為に)避難しており、この場には不在であった。

 故に、この場に居る誰もが視線に入れない様に細心の注意を払うのだった。

 

 否。

 葛城ミサトを筆頭に、直視しようとしない理由は別であった。

 

()()()?」

 

 少しだけ冷っとした声を出す赤木リツコ。

 碇ゲンドウは喉元を少し引き攣らせながら言葉を発する。

 

「ああ。リツコ君、確か長時間に渡った第5使徒戦の終盤では出力の低下が見られたのだったか」

 

「はい。ですので既に戦闘開始から3時間以上も経過しているので、第18使徒が増殖する可能性はそう高くは無いと判断しても問題はありません」

 

()()()?」

 

 少しだけ硬質な響きを持った声を出す碇ユイ。

 目が、目線が余りにも冷たい。

 

「そうだな、ユイ。使徒はそれぞれが別の種となる存在だ。軽々しく前例を基に考えては危険だな」

 

「碇司令?」

 

「ああ…………」

 

「あなた?」

 

「うむ…………」

 

 碇ゲンドウ。

 テニスボールの様に、卓球の玉の様に2人の間で跳ねているその姿は、世界に関たる国連特務機関NERVの総司令官としての威厳は存在していなかった。

 というか、この距離感で大方の人間が碇ゲンドウと赤木リツコの関係(愛人関係の存在)を理解した。

 結果、碇ゲンドウの評価は大暴落して(うわぁぁぁぁぁぁぁ扱いになって)いた。

 伊吹マヤ(赤木リツコガチ勢)を筆頭とした女性陣の碇ゲンドウを見る目は酷いモノとなった。

 己の所業を畜生であると自覚し、地獄へ落ちる覚悟を決めていた碇ゲンドウであったが、この女性陣からの汚物を見るような目(絶対零度めいたまなざし)と言う奴は想定外と言うモノであった。

 今はまだ、気づけてはいなかったが。

 兎も角。

 今の救いは、妻である碇ユイと愛人である赤木リツコの間に湿度の伴った態度(感情)が見えない事だろうか。

 冷静であった。

 科学的見地、合理性に基づいた発言だけをしていた。

 共に、すこぶると言ってよい佳人であるのだ。

 それが自分を間に置いてしのぎを削られては、如何に外道(人でなし)の自覚がある碇ゲンドウとて耐えられる事では無かっただろう。

 

 尚、この場にいる男性陣の感想、心は1つであった。

 いと哀れ、だ。

 お偉いさんで金も持ってて美人を侍らせている事への嫉妬と言うモノを抱くモノも居ない訳では無いが、大多数の人間は、金ヤスリでメンタル削られる様な立場に立ちたいと思うような被虐趣味者(変態と言う名前の紳士)では無いのだから。

 

「……辛いもんだな」

 

 手元のラップトップパソコンを見ながら、チラリと3人の姿をみて呟いた青葉シゲル。

 誠にもってその表情は、他の男性陣同様に同情的なモノであった。

 人並みに異性にモテたいとも、金持ちになりたいとも、出世したいとも思ってはいたが、今の碇ゲンドウの立場は御免被るというモノだ。

 とは言え、そうは取らない人間も居た。

 隣で別のラップトップパソコンに触れていた伊吹マヤだ。

 

「羨ましいんですか?」

 

 半眼で青葉シゲルを睨んでいる。

 師とも仰ぐ赤木リツコにも似た、実に恐ろしい表情であった。

 副声音(コレだから男って!!)まで聞こえてくる表情だから堪らない。

 だが、出来る男である青葉シゲルは軽く肩をすくめて流した。

 

「まさか。只、大変だなってだけだよ」

 

「フケツな事をしたんですから、同情の余地はありませんよ」

 

「いや、確か碇司令の奥さんってシンジ君が子供の頃に亡くなったって話だったじゃないか。亡くした後で、心の隙間に他の女性が入ってくるのを批判は出来ないよ」

 

「それでも、センパイを毒牙に掛けるなんて許せません」

 

「おいおい。男女の事だから当事者以外には__ 」

 

「私のセンパイなんですよ! なのに__ 」

 

 他人 ―― 特に話題の3人に聞こえたら危ない(ヤヴァイ)ので、頭を近づけてヒソヒソと話す2人。

 肩を寄せ合いお尻もくっ付いている2人の姿に、傍で生き残っているNERV戦闘団(エヴァンゲリオン支援部隊)や国連軍第4特命任務部隊(FEA.TF-04)との連絡に忙殺されていた日向マコトは、コイツら何してやがるとばかりに顔を歪め唇を尖らせていた。

 と、待機状態だった伊吹マヤのラップトップパソコンが電子音を上げた。

 待ちに待っていた報告。

 それはNERV本部と第3新東京市を統括するMAGI(第7世代型有機コンピューター)からの、平常モードへの復帰による運用可能(コマンド・プリーズ)の報告であった。

 

「来た!!」

 

 喜色満面で叫ぶ伊吹マヤ。

 その手元のラップトップパソコンのみならず、他のスタッフのソレにも復帰の報告(歓声)が上がった。

 

「でかした!」

 

 此方も歓喜めいた顔で、伊吹マヤに駆け寄ってラップトップパソコンの画面を覗き込む葛城ミサト。

 ディスプレイにはNERVのマーク、それにMAGIの文字が画面に浮かんでいる。

 流れていく詩文(GOD’S IN HIS HEAVEN.ALL'S RIGHT WITH THE WORLD)

 これで、第一発令所を離れる際に行った処置 ―― 万が一にも第18使徒から干渉を受けない様に行った緊急自閉モード(第666プロテクト)からMAGIは完全に復帰したのだ。

 

「総員、状況把握、急いで! 作戦局は支援できる設備の確認!! 技術部はエバーの装備、ありったけ、射出出来る奴からジオフロントに出して!!!」

 

 規格外の塊と化している(汎用人型決戦兵器の枠を超えた)エヴァンゲリオン初号機ら正規エヴァンゲリオンの5機は兎も角、兵器の枠に居るエヴァンゲリオン3号機と第2期量産型(セカンドシリーズ)エヴァンゲリオンは支援を必要としていた。

 即ち、火器その他の装備が破損したり弾薬切れの問題である。

 同調戦闘(RAID-GIG)システムによる有機的連携が出来るとは言え、火力の減少(弾薬類の消耗)は戦闘を継続するのを難しくしつつあったのだ。

 だからこそ、サポートに入るのだ。

 エヴァンゲリオンの戦いへの大人の参陣であった。

 人類が一丸となっての総力戦へと移行する。

 

 

 

 

 

 各種兵装類の補充によって、戦闘力が劇的に向上した第2期量産型(セカンドシリーズ)エヴァンゲリオン群。

 それぞれがEW-22E(再設計型パレットガン)EW-23B⁺(強化型バヨネット付きバレットキャノン)を持ち、或いは極至近距離用(際物)であるEW-31(フレームランチャー)を使って戦う。

 同一装備にしなかった理由は隊伍を組んで射界射線、そして射程を補い合うからだ。

 同調戦闘(RAID-GIG)システムの恩恵によって死角の無い、恐るべき戦闘集団となった。

 その中にあってエヴァンゲリオン3号機は指揮と近接戦闘を担当していた。

 支援腕(サブアーム)を使ってまでして癖の強い武器 ―― EW-14(ドウタヌキ・ブレードⅩⅢ)を振り回し、同時に補充された巨大なEW-302(ベイル)を併せて持つ。

 その姿は正に騎士であり、騎士とその軍団であった。

 

 

 エヴァンゲリオン3号機と第2期量産型(セカンドシリーズ)エヴァンゲリオンの戦闘効率が劇的に向上(回復)した事で誰もが勝利を確信した。

 只1人、エヴァンゲリオン弐号機を駆るアスカを除いてであった。

 

「っ!」

 

 エヴァンゲリオン初号機の隣でEW-18(スピアー・オブ・カシウス)を縦横に操り、駆け、第18使徒へと向かうエヴァンゲリオン弐号機。

 その中にあってアスカは焦燥感を覚えていた。

 自分が、自分の乗るエヴァンゲリオン弐号機が少しづつエヴァンゲリオン初号機に遅れつつある事を理解していたからだ。

 シンジが余力を持って進む速度が、アスカには必死になって追いかける速度になりつつあるのだ。

 無理をする形となっており、エヴァンゲリオン弐号機の状態も悪化しつつあった。

 各部のセンサーが不調を訴え始めているのだ。

 理由は判っていた。

 アスカとシンジの(リズム)が合わなくなった ―― 訳では無い。

 単純に機体の状態の差だった。

 エヴァンゲリオン初号機はコアに眠っていた碇ユイが離れ、真なる覚醒状態へと達していた。

 だがエヴァンゲリオン弐号機は違う。

 コアの中には惣流キョウコ・ラングレーが在り、アスカとの合一(人機の一体化)が為されていないのだ。

 その差、違いが、この決戦の場にて出てしまっていた。

 だが同時に、アスカは絶望していない。

 アスカのエヴァンゲリオン弐号機の機体状態も過去最良の域に達しているのだ。

 何とか第18使徒を討ち倒すまで行けると踏んでいたからだ。

 その過程で大破級の損傷を受ける可能性もあったが、であれば己はシンジのエヴァンゲリオン初号機を第18使徒の所へと無傷で到達させる為の被害担当を為せば良い。

 ある種の悲壮さを含んだ決断をしていた。

 焦燥、そして悲壮。

 その根底にあるのは、自分はシンジの相方であり、であるからには配慮されたり置いて行かれるのは真っ平御免と言う強い自負、自尊心であった。

 

「あと少し、持ちなさいよ弐号機」

 

 機体の悲鳴(レッド・アラート)を無視し、只、前を見て突き進むアスカ。

 だが、状況に気づいたのはアスカだけでは無かった。

 

 

「これはイケナイかな」

 

 そう呟いたのは、エヴァンゲリオン6号機の中に居る渚カヲルだった。

 超然とした所のあるこの少年にしては珍しい、焦りの色が浮かんでいた。

 Adamの僕を操り戦況を俯瞰するが故に、気づくのが遅れたという意識でもあった。

 とは言え気づけただけ凄いとも言えた。

 乗っているアスカ以外は、傍で戦うシンジにせよ、後方の葛城ミサトらですらまだ気づけていなかったからだ。

 気付けた理由はエヴァンゲリオン弐号機がAdamの複製体を(素体)としているが故の事だった。

 渚カヲルは人間であるが、第17使徒にしてAdamでもあったのだ。

 だからこそ()()()()、判ったのだ。

 

『どうしたの?』

 

 常時開かれている小隊系無線機を通して、相方の綾波レイが問う。

 此方は目を半眼にして意識を世界に向けてLilithの僕を操っている。

 

「惣流さんの弐号機、少し限界かもしれない」

 

『……アスカが?』

 

 疑問の声を上げたのはアスカの戦闘者としての、エヴァンゲリオン操縦者としての勘所(センス)に綾波レイが全幅の信頼を寄せているが故にであった。

 だが、渚カヲルによる説明 ―― A.Tフィールドを介した意思疎通(情報伝達)によって細かい事も含めて把握する事で納得していた。

 だからこそ、即座に意識を切り替える。

 状況は優勢となっているが、それは最前線で第18使徒をエヴァンゲリオン第1小隊(シンジとアスカのツートップ)が抑えて居ればこその話だ。

 であれば対応(リカバリー)が重要になってくる。

 

『判ったわ__ 』

 

 その声色は冷静であったが、少しだけ深刻な響きがあった。

 戦いのバランスが崩れてしまえば最悪の事態 ―― シンジのエヴァンゲリオン初号機とアスカのエヴァンゲリオン弐号機が失われて(戦線離脱して)しまう可能性もあるからだ。

 それ程に第18使徒は恐るべき相手と言えた。

 第1使徒(Adam)にして第2使徒(Lilith)(権能)を兼ね備えていると言う事はそれ程のモノ(脅威)であった。

 勿論、人類側にもエヴァンゲリオン4号機と綾波レイ(Lilith)、それにエヴァンゲリオン6号機と渚カヲル(Adam)が居る。

 同格であり、である以上は全力で戦えば押し負ける事は無いだろう。

 だが同格であるが故に、千日手(終わりなき戦い)となってしまう可能性が高かった。

 そこに人類が加わるのだから最終的に負ける事はないだろう。

 だが、長くに渡る戦いは地球を滅茶苦茶にしてしまう可能性が高かった。

 そこまで瞬時に考えた綾波レイは解決策を求める。

 

『__手はあるの?』

 

「大丈夫。簡単で有効な手があるよ」

 

 渚カヲルは即答する。

 原因は判っているのだ。

 であれば、対処はたやすい。

 そう嘯いて笑った。

 

「でも、その前にすることがあるけどね」

 

 

 

 通信が回復し、MAGIを介して対使徒迎撃要塞都市としての第3新東京市の全機能を回復させたNERVスタッフであったが、その所在はまだジオフロント外周部の露地にあった。

 めいめいがラップトップパソコンや通信機器を使って任務に当たっている。

 移動する時間が惜しい。

 そういう話であった。

 身を守る防護壁の類が無い場所ではあったが、幸い、綾波レイが気を回してLilithの僕を1体配置してくれていた。

 勿論、A.Tフィールドは中和され切った状況であり、尚且つ使徒/エヴァンゲリオン擬きによる粒子砲が飛び交う場所故に、ある種の気休めめいた部分はあったが。

 だが、誰もが臆することなく任務にまい進していた。

 と、日向マコトが声を上げた。

 

エヴァ106(エヴァンゲリオン6号機)より通信です!」

 

「繋いで!」

 

 打てば響くとばかりに応える葛城ミサト。

 古臭い無線機めいた通信端末(マイク)を口元に寄せる。

 声が固く緊張しているのは、非常事態を想定しての事だった。

 傍に居る、手の空いていた人々の耳目も集まる。

 

「どうしたの?」

 

『すいません、少し許可が欲しくて』

 

「許可?」

 

『そうです。弐号機のコア開放(惣流キョウコ・ラングレーの救助)です』

 

 状況説明など一切が省かれた渚カヲルの言葉。

 だが葛城ミサトは即答した。

 

「必要なのね? 良いわよ」

 

「ミサト!?」

 

 赤木リツコが思わず声を上げたのは、葛城ミサトの行為が越権ではないかと考えたからだった。

 コアに眠る惣流キョウコ・ラングレーを救助するという事自体はNERVの決定事項だ。

 だが、この火急の場で行うというのは戦闘の趨勢に重大な影響を与えるリスクを孕んでいると思えたのだ。

 現場指揮官(葛城ミサト)レベルで判断してよい事には思えなかったのも当然と言えた。

 実際、最高責任者である碇ゲンドウも何かを言おうとしたのだが碇ユイに腕を掴まれ、咄嗟に声を出せなかった。

 目で言われたのだ。

 大丈夫である、と。

 惣流キョウコ・ラングレーと同じ身の上(コアに吸収されていた)からこそ判る事があったのだ。

 そして葛城ミサトは説明を続けた。

 

「戦闘中はエバーの一切が作戦局局長代行及び第1課課長としての私葛城ミサトの権限で決断する事が出来ます」

 

 葛城ミサトが見ているのはNERV総司令官たる碇ゲンドウであった。

 碇ゲンドウも揺るぐ事無く、その視線を受け止める。

 

「越権行為ではない、と」

 

「はっ! 戦闘中であるにも関わらずフィフスチルドレン(渚カヲル)が上申してきた事を重視しました」

 

 我々の関知しえない非常事態が進行している可能性があり、逡巡していては()を失う可能性が高い。

 そう戦闘指揮官としての葛城ミサトの勘が告げたのだと言う。

 

「…………判った。承認する」

 

「司令!?」

 

「構わん。現場の判断は尊重する。だが__ 」

 

 そう言って碇ゲンドウは、葛城ミサトが持っていた通信端末(マイク)を取り上げる。

 周囲の耳目が集まるなかで言葉を紡ぐ。

 

「エヴァンゲリオン6号機パイロット、渚カヲル。聞こえているな」

 

『はい』

 

「NERV総司令官碇ゲンドウの名において、惣流キョウコ・ラングレーの非常救助作戦を許可する」

 

『…………即答して、良いんですか?』

 

「お前を信じるのではない。お前を信じた葛城君を信じただけだ。それにな__ 」

 

 ニヤリと笑う碇ゲンドウ。

 その姿(上半身マッ裸)を忘れさせる威があった。

 邪悪とも言えた。

 

「ナニかをしようとしたらレイが()()だろうからな」

 

『アッハイ』

 

 

 

 

 

 ややもすればエヴァンゲリオン初号機に置いて行かれそうになるエヴァンゲリオン弐号機の中で、アスカは歯を食いしばって集中していた。

 あと2手。

 第18使徒の喉元に迫りつつも、その必死な抵抗 ―― バカげた勢いで使徒/エヴァンゲリオン擬きや、近接戦闘や中距離砲戦に特化したような使徒擬きを量産して来るのだ。

 鬱陶しいの一言であった。

 エヴァンゲリオン弐号機の持つEW-18(スピアー・オブ・カシウス)は勿論、エヴァンゲリオン初号機の持つEW-12B(マゴロクソード・ステージ2)もA.Tフィールドを自在に操る事が出来る為、既に戦いにはならないのが現実だった。

 切りかかって来れば、刃物ごとコレを切る。

 砲撃を受ければ、それを切り飛ばす。

 鎧袖一触と言う言葉ですらも生ぬるい、それは蹂躙であった。

 第18使徒の側にあるソレらもA.Tフィールドを展開しているのだが、その出力の圧倒的な差が生み出した現実であった。

 

 だが、だからこそアスカは焦るのであった。

 A.Tフィールドの差は、エヴァンゲリオン弐号機とエヴァンゲリオン初号機の間には存在しない。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 咄嗟の反応速度。

 踏み込み速度。

 そういう細かい所に差が出ているのだ。

 それがアスカを苛立たせる。

 

「負けてらんないのよ、アンタたちにぃぃぃぃぃ!!」

 

 吠える。

 EW-18(スピアー・オブ・カシウス)を振りぬき、使徒/エヴァンゲリオン擬きを一掃する。

 その間隙をシンジは見逃さず、エヴァンゲリオン初号機は詰める。

 アスカも同じタイミングで踏み込みを選択する。

 が、エヴァンゲリオン弐号機は遅れてしまうのだ。

 それがアスカを切歯扼腕させる。

 だれが悪い訳では無い。

 だからこそ、であった。

 

 不機嫌であったアスカ。

 そこに、エヴァンゲリオン6号機 ―― 渚カヲルから連絡が入る。

 

「なによっ」

 

 不機嫌さが前面に出た言葉。

 それに臆す事無く渚カヲルは朗らかに返す。

 

『その状況を変える方法があるよ』

 

 単刀直入の言葉。

 続けるのは勿論、エヴァンゲリオン弐号機に眠っている惣流キョウコ・ラングレーの魂を救い出すと言うこと。

 目的は勿論、エヴァンゲリオン弐号機の真なる覚醒(アスカとの合一)である。

 

「はぁっ!? 出来るの、この状況で。ママは安全なんでしょうね!?」

 

『元々、そんなに難しい話じゃないからね』

 

 手順自体は完成している。

 実行しなかったのは、人類補完計画(地球地軸回復作戦)に不確定要素が入る事を警戒しての事だった。

 それは、覚醒したエヴァンゲリオンの能力が向上し過ぎる事も含まれていたのだ。

 覚醒の有無が齎す差は、実際に今のエヴァンゲリオン弐号機とエヴァンゲリオン初号機の間で出ていた。

 その意味で正しい懸念であった。

 だが状況は動いている。

 逆に、今のこの状況下で戦力の増加手段を取らないという事こそが悪手であると言えた。

 

『ただし、少しだけ君は動けなくなる』

 

 エヴァンゲリオン弐号機を止める必要があるという。

 この乱戦めいた状況下で、である。

 無茶な事を言うと呆れるアスカ。

 だが、状況を一気に変えるのはソレしかないとも納得していた。

 

「少し待って。シンジ!!」

 

 常に通信を繋ぎっぱなしにしていた相方を呼ぶ。

 

「守って」

 

 単刀直入を通り越したアスカの言葉。

 だがシンジは問わない。

 疑わない。

 阿吽の呼吸(頼むと言えば応と答える)

 

 切り込んでいたシンジはエヴァンゲリオン初号機を後ろに飛ばす。

 エヴァンゲリオン弐号機の前に立つ。

 背に負うように立つ。

 四肢に力を漲って立つその姿は、正しく仁王立ちであった。

 退いたエヴァンゲリオン初号機を追って来る使徒/エヴァンゲリオン擬きが出たが、その全てを一刀で切り捨てる。

 その様に、頬を緩めるアスカ。

 任せた、等と無駄な言葉は発しない。

 必要が無い。

 事、戦いの最中のシンジとアスカは、そういう水準に達していた。

 

『頼むよ、シンジ君』

 

よかっ(任せて)

 

 渚カヲルのエヴァンゲリオン6号機がエヴァンゲリオン弐号機の後ろに立つ。

 両手を差し出す様に動く。

 渚カヲルも又、シンジを幼子の様に信じる。

 

『リリス、ボク(Adamの僕)を頼むよ』

 

『任せなさい、アダム』

 

 そして光が生まれる。

 

 

 

 アスカの居るエントリープラグ。

 その狭い空間を光が満たせた時、アスカは自分がひまわり畑に立っている事に気づいた。

 どこまでも広がっているひまわり畑。

 その先に女性が立っているのが見えた。

 

「ママ!?」

 

「アスカちゃん__ 」

 

「ママッ!!!!」

 

 感情が爆発したアスカは、幼子の様な外見となって飛びついていた。

 それを優しく抱きしめる惣流キョウコ・ラングレー。

 慈母の貌であった。

 頭頂にキスを落とし、髪をなでる。

 

「泣き虫になっちゃったわね」

 

「……っ…………だって! 逢えたんだもの!!」

 

「そうね。ずっと見てたけど、でも逢えなかったものね」

 

「ママッ!!」

 

 

 

 親子の邂逅。

 ある意味で神聖なる空間に闖入者が表れる。

 

「お邪魔してゴメンよ」

 

 渚カヲルだ。

 軽い調子の言葉、いつもの笑み(アルカイックスマイル)

 だが、少しだけ申し訳なさそうと言う気分が見て取れた。

 

「Adam、でしたね。状況は判っていますよ」

 

「……渚か」

 

 ポツリとアスカが零す。

 気づいたとき、その姿は年齢相応の姿になっていた。

 身を包むのは戦衣めいた赤いプラグスーツ。

 背筋は伸び、顎を引いたその姿は、赤い戦乙女さながらであった。

 惣流キョウコ・ラングレーは、そんなアスカにそっと寄り添う。

 

「ママ」

 

「いってらっしゃい。向こうで逢いましょう」

 

「ん、行ってきます」

 

 自分はエヴァンゲリオン弐号機を離れる。

 アスカを守れなくなる。

 だが、アスカは一人ではない。

 仲間が居る。

 何よりシンジが居るのだ。

 不安を抱くのは失礼と言うものだろう。

 だから精一杯の笑顔でアスカの背中を推す。

 

「行ってらっしゃい。帰ってきたらアスカのボーイフレンド、シンジ君? ユイさんの息子にも会わないとね」

 

「うん! 」

 

 光が全てを埋め尽くす。

 

 

 

 

 

 

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