【本編完結】サツマンゲリオン ~ 碇シンジが預けられた先が少しだけ特殊だった県/件   作:◆QgkJwfXtqk

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神は彼らを祝福して言われた。
「産めよ、増えよ、地に満ちて地を従わせよ。
海の魚、空の鳥、地の上を這う生き物をすべて支配せよ」

――旧約聖書     









GRAND _ _ FINALE
1 EVANGELION


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 碇シンジにとって、覚醒は唐突であった。

 微睡の中で大切な誰かに名を呼ばれた事は判っていた。

 だがそこから先に何かが繋がる事は無かった。

 身体にまとわりつく、泥の様な何かがシンジの意識を閉ざしていたのが晴れた。

 そういう気分であった。

 だが、それは爽快と言う様なモノからかけ離れた覚醒であった。

 

 耳朶を打つ硬質な音。

 背中を叩く不快な振動。

 何事であるかと周囲確認の為にと動こうとする、が、出来ない。

 少しも動かない。

 四肢、そして頭部までもがガッチリと拘束されているのが判る。

 シンジの眉が跳ねた。

 と、頭の上で声がした。

 

「心肺機能は正常です。四肢の麻痺も認められません。はい。目は開いてます」

 

 唯一、自由に動かせる目で相手を確認する。

 女性だった。

 まだ若い、見た事の無い服装をしている。

 黒褐色めいた軍服の様な何かを着ている。

 否、女性だけではない。

 周りに居る複数の、ライフルらしきモノで武装した男達も同様だ。

 又、総じて言えるのは()()()と言う事だろうか。

 非常灯めいた赤色の弱い灯火の中でも判る程に服には汚れが見えた。

 又、擦り切れている部分も見えた。

 異臭すらあった。

 見慣れた、クリーニングの行き届いた制服を着こんだNERVの人間とは違う事が理解出来た為にシンジは、今、自分が尋常ではない状況にある事を理解する。 故に、声を発する事無く静かに周囲を観察する。

 状況が判らねば、何も出来ないからだ。

 と、まだ若い女性がシンジをのぞき込むようにしてきて、話しかけた。

 

「私の言葉が理解できますか?」

 

「………」

 

 シンジは返事をしない事を選ぶ。

 話しかけてきている相手が誰か判らぬ儘に返事をする事は、情報を与える事に繋がって宜しくない。

 かつて、エヴァンゲリオンの適格者(チルドレン)に選ばれて早々の頃に葛城ミサトに誘拐対策の一環として教わった話であった。

 だからシンジは黙って相手を見るに留めた。

 否、睨んだ。

 そもそも、だ。

 この女性がしたのか判らないにせよ、この女性が含まれた人たちがシンジの四肢を拘束しているのだ。

 シンジに友好的対応をしようと言う気が起こる筈も無かった。

 

「えっと、もしもし?」

 

 再度の問いかけに対しても返事をしないシンジに、若い女性は焦れた様に言葉を重ねる。

 だがシンジは礼儀正しく黙殺する。

 

「………」

 

「…………ちょっと、聞こえてますよね!?」

 

 若い女性は声を荒げてみせるが、シンジは相手にしない。

 その事にしびれを切らしてか通信機に報告を重ねる。

 

「眼球の挙動から周辺状況を確認していると思われます。はい。表情も弛緩状態にありませんので、ええ。只、此方の問い掛けに対しては返事をする様子は見えません……え? はい」

 

 そこまで言った若い女性はポケットから手鏡めいたモノを持ち出し、シンジに突きつけた。

 

「これが誰か、わかりますか?」

 

 汚れた鏡越しに見たのは、何時もの自分の顔だ。

 異常は見えない。

 誰かと問われても困るというものであった。

 服装が見た事のない種類の院内服めいた簡素な格好をしている事が判った。

 少しばかり肌寒い。

 後、股間の感じからパンツの類を穿いて居ないのも判った。

 先ほどの質問も含めて、やはりNERV以外の組織に束縛さたと見るのが正しいのだろうとシンジは理解していた。

 だから返事はしない。

 答えるのは年齢と名前だけ。

 そう教わっていた。

 

「はい、やはり返事はありません。只、視線は鏡を確認しました__ 」

 

 通信相手の言葉に、若い女性は驚いてシンジを見返す。

 

「まさか、此方を警戒しているから黙っているというのですか? はい。はい。判りました。問診はせずにこのまま向かいます」

 

 その言葉を聞いたシンジは、目を閉じた。

 眠気ではない。

 瞑想でもない。

 目の動きで情報を与えないようにと考えての事だった。

 そして、動かないなりに自分の四肢の状態を確認したのだ。

 

 ストレッチャーと思しきモノに拘束された儘、運ばれていくシンジ。

 幾つもの通路を超えていく。

 広い。

 だが、狭い。

 移動時間の長さから広い事は判る。

 とは言えシンジの乗るストレッチャーが運ばれている通路は、幅がかなり狭い。

 精々が大人が2人並んで歩ける程度の広さしかない。

 軍艦だろうか? とシンジは思った。

 だが、かつて見た空母(Over The Rainbow)と違って段差(隔壁)と言うのが感じられない。

 ストレッチャーはスムーズに動いているのだ。

 

 と、圧搾空気音と共にシンジの頬を風が撫でた。

 そして耳朶を様々な音が叩いた。

 作業音、そして多くの人が動く音。

 薄目を開け、周囲を確認したシンジの目に飛び込んできたのは、結構な広さを持った作業空間であった。

 とは言え人間の為に設計されたとはとても言えない広い空間だった。

 直径が何十メートルもありそうなシリンダー状の空間に、幾つもの通路が縦横に走っている。

 幾つものケーブルが渡らせてあり、その隙間で多くの人間が動いていた。

 雑多な格好をした人たちは、声を飛び交わせ作業をしていた。

 シンジには、それらが何となくNERV本部の第1発令所を思い起こさせていた。

 

「補給作業、搬入リストの86%までクリア」

 

「稼働中のN²機関(エヌツー・リアクター)は出力で90%を維持。そうだ、悪いが起動時には圧力弁を手動で解放してくれ」

 

Message received from the AEW(哨戒機より入電)No ship detected within 500 km radius.(全周500km以内に艦影なし)No unidentified flying objects were found.(未確認飛行物体も認められず)

 

「乗員の移乗はカテゴリーDの船を最優先。構わん。本艦への乗艦が最優先だ。細かいモノは放棄で良い。機密書類? 今どき、焚き付けにもならんモノを後生大事にとっておくな!!」

 

「忙しいところにすまん。あ? そうだ食料搬入班の人手がまるで足りないんだ! 悪いがソッチに回ってくれ」

 

Anweisungen für die Priorität.(優先指示だ) Die Rigging-Arbeiten wurden eingestellt.(艤装作業は中止しろ) Überprüfen Sie die Arbeitsabläufe.(作業手順を確認) Er wurde auf den dritten Zeitplan umgestellt.(第3スケジュールに変更になった)

 

 日本語のみならず、色々な言語が飛び交っている中をシンジを乗せたストレッチャーは運ばれていく。

 その様に気付いた誰もが、一瞬だけ手を止め、見る。

 罵声その他を浴びせられる訳ではない。

 だが多くの人たちから向けられるソレから、友好的とは言い難い雰囲気をシンジは感じた。

 

やっけなこいじゃ(面倒な事になってるっぽいかな)

 

 目を瞑り、小さく溜息をついた。

 

 

 

 シンジを乗せたストレッチャーは空間で中央にある一番大きい通路を進む。

 そして先端部、重厚な扉を抜ける。

 そこは、球状の空間だった。

 不思議な空間でもあった。

 シンジも目を見開いた。

 中央に走る、階段の様にも見える柱。

 そこから枝の様に伸びた幾つもの支柱。

 その先にはそれぞれ(ステージ)があり、座席と制御卓(コンソール)っぽいモノが1組づつ見えた。

 この部屋がナンであるのか意味が分からなかったが、只、むやみやたらと広いと言うのが正直な感想だった。

 

 薄暗い室内であっても、視線が集まってくるのを感じた。

 先ほどの、盗み見してくるような感じでは無くマジマジと、正面から見ている感じだ。

 不快さを感じ、睨み返す。

 

 と、先ほどまでシンジに問いかけていた若い女性が姿勢を正して大声を上げる。

 

「報告! 検体、BM-03、拘引しました」

 

検体っちな(検体って何だよ)

 

 小さく漏らすシンジ。

 人を人ではなくモノの如く言う若い女性への評価が果てしなく下がった。

 

「了解。拘束を解いて」

 

 一番上の(ステージ)に居た女性が厳しい声で返した。

 この場で一番偉い人間がアレであるかと、シンジは眼球を動かして見上げた。

 薄暗いのでよく見えないが、赤いコートを着ているのが見えた。

 慎重に観察するシンジ。

 さて、自分が何故この様な場所に連れて来られたのか、と考えたのだ。

 そんなシンジを別に、その体をストレッチャーに縛り付けていた拘束バンドが外されていく。

 

「もう立って大丈夫ですよ」

 

 それまでと異なり、柔らかな口調で言う若い女性。

 だがシンジは答えない。

 只、ゆっくりとした仕草で体を起こす。

 四肢を確認する様に、小さく動かしながら。

 或いはバンドで拘束されていた部位の皮膚を確認するようにしながら。

 そして地面に立つ。

 油断なく、周りに目を走らせて状況を把握しようとする。

 

「…………彼は会話出来ないの?」

 

 赤い服の女性とともに、一番上の(ステージ)に居た短い黒髪の女性が口を開いた。

 焦れた様な、猜疑めいた声。

 

「何故か、言葉を発してくれないのですよ。御覧の通り聞こえているし、理解はしているみたいですけども」

 

「そう………」

 

「副長、個人情報は合致しているのね?」

 

「ええ。物理的情報では識別名第3の少年(コードⅢ)と完全に一致しているわ」

 

「なら、自分の意志と言う事ね。貴方は碇シンジ……でいいのよね?」

 

 問い掛け。

 名を聞かれたが故にシンジも答える。

 

じゃ(そうだよ)じゃっど(そうですよ)じゃっどん、おはんはだいな?(でも、そう聞く貴方は誰ですか?) なを聞っとなら(他人に名前を尋ねるなら)おはんも名乗らんや(自分も名乗るものじゃないですか)

 

「…………えっと、碇シンジで良い、のよね?」

 

じゃちゆたが(そうだと言ってますけど)

 

 温度の下がった言葉。

 取り付く島の無いシンジの態度に、それまで硬質な態度を隠しても居なかった赤い服の女性は困惑する様に後ろを見る。

 相方となる、副長と呼ばれた女性は肩を竦めて見せるだけだった。

 否。

 補足情報を加えてはくれる。

 

「生後の歯の治療跡など、身体組織はニアサー時のものと一致しているわね」

 

「………碇シンジで間違いない訳ね。でも__ 」

 

 そこで言葉を飲み込み、俯く。

 

「………いえ。どうでも良いわ。深層シンクロテストの結果はどうか?」

 

「分析中よ。今は本艦の出撃準備に忙殺されているから。必要なら急がせるわよ」

 

「その必要は無いわ。今は本艦を稼働させる事を最優先とせよ」

 

「了解」

 

 シンジを見ながら、シンジに話しかけている訳では無い。

 見ていながら、見ていない。

 シンジには理解できない話をする2人をシンジは白けた様に見ていた。

 興味を無くし、自分の姿を見た。

 薄い、院内服めいたモノを着ているのが判る。

 否。

 院内服ではない。

 シーツを雑に体に巻き付け、安全ピンで固定しているシロモノであった。

 実に雑な服モドキ、というのがシンジの感想であった。

 というか、だ。

 股間の所で風を感じる辺り、パンツも穿いて居ないのも判る。

 文明人として実に情けない格好だと思い、益々もってこの場の人たちへの感情、評価が悪化する。

 そもそも、訳も分からず悪意を向けて来る連中に好意的になれる筈も無かったが。

 

 と、それまで会話していた偉そうな2人がじっとシンジを見ている事に気づいた。

 シンジが気づいた、視線を改めて向けた事に何かを感じたのか、赤い服の女性が命令を発した。

 

「面会終了。彼を隔離室へ」

 

 徹頭徹尾に自分の都合で動く奴だと呆れながらシンジは鼻を鳴らした。

 と、その時、合成音声がけたたましい悲鳴めいた警報音を上げた。

 そして壁の何処其処に走るEMERGENCYの文字。

 

「状況報告!!」

 

外周哨戒機(ピケット)、101、105が反応途絶ですっ!?」

 

「距離、及び方位を戦術ディスプレイ2に表示!!」

 

「はっ、はい!? えっと、こ、コレかな__ 」

 

 命令に、少しばかり特徴的な髪色(ピンク髪)の女性が自分の前の制御卓を操作する。

 その動きは何とも覚束ないモノであった。

 警報が鳴る中での少しの時間、そして画面の左上に2と書かれた壁のディスプレイに、周辺の状況が表示される。

 中央にAAA-Wunderと書かれた(クレジットされた)余りにも巨大な構造体がある。

 その周辺に幾重もの円形 ―― 円陣状に様々なモノ(ユニット)があった。

 シンジには見えないがそれぞれにBB(戦艦)CV(空母)DD(駆逐艦)と言った文字が振られている。

 LST(輸送艦)AOE(補給艦)も存在している。

 そんな状況図に、赤くPicket(外周哨戒機)-101と105の位置情報が追加される。

 東南東(方位 1-2-0)、距離は約600kmであった。

 

「なにやってる、近隣のピケット機を速く回せ!」

 

「私の仕事なんですか?」

 

「哨戒と管制はオマエの担当って、ブリーフィングであっただろうが!」

 

「そ、そんなに怒鳴らないで下さいよ!?」

 

「実戦だぞ。口答え前にとっととやれ」

 

 上官と思しき長髪の男に叱責され、慌てて女性はトラックボールを操作してキーボードを叩く。

 と、長髪の男性の横顔に、シンジは誰かの面影を見た。

 見知った顔。

 そうだ、NERV本部第1発令所の気安い人、青葉シゲルだ。

 老け込んだ顔をしているが、顔に面影があった。

 えっと驚き、周りを見る。

 

「第2種戦闘配置! 総員、緊急シーケンス発令! 手順Dまで破棄して準備を開始せよ」

 

「正気なの、艦長。物資を捨てる気!?」

 

「アレが敵ならば、物資惜しさで戦闘準備が遅れれば我々は全滅よ。カテゴリーBの艦艇は戦闘準備、急ぎなさい!!」

 

「はい。伝達します。各艦に命令___ 」

 

直上(CAP任務)ファルコン03(戦闘偵察機)を回します」

 

「主機起動までの再チェック、最優先だ!!」

 

 緊迫感の伴った場の喧騒を無視して、観察するシンジ。

 見つけた。

 少し毛の薄くなった感じがする、日向マコトっぽい人が居た。

 だが、それ以外の人に見覚えは無かった。

 肌の濃ゆい人。

 気の弱そうな人。

 筋骨隆々とした人。

 だが、見た事の無い人たちだった。

 

「まだまだね」

 

「シンクロ能力で選抜したブリッジクルー。これからよ」

 

「相変わらずの楽観主義ね、葛城艦長」

 

 葛城と言う名字はシンジにとって親しいモノであった。

 葛城ミサト。

 指揮官(上官)にして式波アスカ・ラングレーと並ぶ同居人。

 

んだよ(まさか)

 

 まじまじと見上げるシンジ。

 皺が刻まれた顔。

 暗い上に目元をバイザーかサングラスの様なモノで隠しているが為、確認は出来なかった。

 何となく、視線が合った気がした。

 だが、葛城艦長と呼ばれた女性がシンジに声を掛ける事は無かった。

 

「ファルコン03、目標に接触__ ロスト! 撃墜された!?」

 

「慌てるな! 情報、識別は出来たかっ?」

 

「あ、今、識別中__ 出ました!! コード4Cです!!」

 

「広域殲滅型か、コースはどうか?」

 

「待ってください、ドップラーレーダーが、捉えました。コースは、やっば!? 一直線に来てますっ!!」

 

「コッチの位置を認識しているわね。速度は時速約1000、30分で接敵するわ。どうする?」

 

 副長と思しき女性の言葉に葛城艦長は一瞬だけ考え、そして裂帛の気合を込めて声を発する。

 

「来るならば迎え撃つだけよ。命令! 総員、第1種戦闘配置!! カテゴリーB艦艇へ伝達! 事前の管理域内での行動自由を許可、及び自由戦闘戦闘行動許可(オール・ウェポンズ・フリー)!! 復唱は破棄、伝達、急いで」

 

「伝達します!」

 

 日向マコトと思しき男性が吠えるように、勢いよく命令を伝達していく。

 

「本艦の戦闘システムはどうか?」

 

「電力不足です。システム、起動コマンドへの応答がありません!!」

 

 武装の管制を担当している若い男性が悲鳴めいた声を上げる。

 その手元のディスプレイには失敗(ERROR)の文字が躍っている。

 

「予備機では無理か。機関長、主機の起動準備はどうか?」

 

「そう言われると思って現在、チェック項目38番まで終了させてます」

 

「流石、ベテランね。で、起動は可能?」

 

「やれます。だが、主機起動用のN²リアクター出力の上昇が遅いのが__ 」

 

「どれくらい、掛かる?」

 

「非常ブーストで、機材をお釈迦にして良いなら、20分でイケます」

 

「そう__ 」

 

 ディスプレイ2を見上げる葛城艦長。

 この時点で、接敵にはまだ余裕はあった。

 だがそれは直接相対する場合の数字であり、長距離兵装を前提にした数字では無かった。

 時間は、無い。

 

「いいわ。やってちょうだい」

 

「葛城艦長!? もう機材の予備は無いのよ!」

 

 止めようとする副長。

 だが、葛城艦長は右手を挙げて抑える。

 

「どのみち起動しなければここで終わりよ。我々はやるしかないのよ」

 

「………了解」

 

「機関長、やって」

 

「了解!」

 

「葛城艦長!!」

 

 と、そこでレーダーを担当している若い女性が悲鳴を上げた。

 

「ナニかっ!?」

 

「コード4Cの規模がっ!?」

 

「報告は完結明瞭に___ 」

 

 そこまで言った葛城艦長も絶句した。

 ディスプレイ2に表示されている情報がそれ程であったのだ。

 1群であったコード4Cは接近する中で分裂し、そして展開していた。

 それも、バラバラに展開するのではなく、1つの意図が見えた。

 

「本艦を囲む気ね」

 

「此方の攻撃はどうか」

 

「前衛の艦は戦闘を開始している模様ですが………」

 

 言葉を濁す日向マコト。

 貴重品となっていた数少ない長距離対空ミサイルを使用しているのだが、レーダーで見る限り効果は出ていなかった。

 コード4Cは、綺麗な隊列を組んでいる。

 特設の対A.Tフィールド貫通機能が付与されてはいたのだが、効果を発揮でき無い理由は1つだった。

 

「A.Tフィールドが強固過ぎる、か。ならば此方も出すだけよ。エバー両機へ、襲撃準備、状況はどうか?」

 

『8号機、換装が終わってないにゃ、宇宙対応からの各種設定変更が__ 』

 

 緊張感漂う葛城艦長と問い掛けに、真っ先に応じた声は、何とも気の抜けた(ヒトを喰った)雰囲気があった。

 口元を歪め、何かに耐える様に葛城艦長は報告を打ち切らせる。

 

「結構! 出撃準備を最優先で実行しなさい」

 

『はいニャ』

 

 サングラス越しにも頭痛が痛いと言わんばかりの表情を見せた葛城艦長は、それから、もう1機の側に問いかける。

 

「アスカ、2号機は可能か?」

 

『可能よ』

 

 即答。

 その声に、その名にシンジは反応した。

 見上げる。

 ディスプレイ3と書かれた(クレジットされた)画面に、眼帯をした赤い髪の少女が写っていた。

 

「……アスカ?」

 

 大事な人。

 大事な相方。

 その名、式波アスカ・ラングレーが脳裏に浮かんだ瞬間、シンジは自分の頭に恐ろしい程の力が加わったのを感じた。

 否。

 何もない。

 右のこめかみに手を充てるが何も無い。

 只、痛い。

 その痛みは外からではない。

 内側から湧き上がる様であった。

 

「っ、式……波?」

 

 式波アスカ・ラングレー。

 式波? 誰だソレは。

 アスカはアスカだ。

 でもアスカじゃない。

 グルグルとした何かが頭の中をかき回す。

 まるで空を振り回される感じだ。

 

「碇さん!?」

 

 誰かがシンジの名を呼んだ。

 だが、シンジには応答する余力はない。

 

 フラッシュバックする光景。

 第9の使徒によってエヴァンゲリオン3号機ごと捕らえられ、浸食され、そしてシンジの乗るエヴァンゲリオン初号機によって撃破され、そしてアスカの居るエントリープラグはかみ砕かれた。

 シンジにとって悪夢的光景。

 

「ぐぅっ!!」

 

 

「バイタルチェック! 急いで」

 

 

 フラッシュバックした光景に、シンジは違和感を感じる。

 おかしい。

 浸食してきた使徒は第13使徒であり、浸食で狙われたのはエヴァンゲリオン3号機でもない。

 

 

「碇さん!! 聞こえてますかっ!? 碇さん!!!

 

 

 狙われたのは真っ黒な騎士然としたエヴァンゲリオン3号機ではなく、第2期量産型(セカンドシリーズ)エヴァンゲリオン1号機。

 相田ケンスケが乗っていた___ そこまで思い出した時、シンジは猛烈な嘔気を感じた。

 吐く。

 頭痛が悪化する。

 万力で〆られる様な、恐ろしい力がこめかみの両側から突き刺さてくる感じだ。

 だが、シンジは拒否する。

 アスカ。

 アスカ。

 アスカ。

 アスカは惣流アスカ・ラングレー。

 違う。

 碇アスカ・ランギーだ。

 誓いを交わした、己の一番大事な相方なのだ。

 

「キィィィィィィィアァァァァァァッ!!!」

 

 喉を震わせる。

 それは決して悲鳴では無い。

 咆哮、否、猿叫。

 シンジの闘志の現れだ。

 痛み如きに屈して受け入れ、忘れる訳にはいかなかいのだ。

 

 全てを睨むように顔を歪めているシンジ。

 その目にディスプレイ越しにエヴァンゲリオン2号機の姿が飛び込んできた。

 アスカの機体。

 だがエヴァンゲリオン弐号機では無い。

 噛み締めた歯の隙間から押し出すように言う。

 

「チ…ガウ………」

 

 だがシンジに出来た抵抗はそこまでであった。

 シンジが折れた?

 あり得ない。

 原因は外部であった。

 プシュッという軽い圧搾空気音と共に、その首元から鎮静剤が打ち込まれたのだから。

 

 それは暴力では無かった。

 善意であったのだ。

 

「舌を噛まない様にタオルを押し込んで!!」

 

 シンジが錯乱したと判断して医療行為を行っていたのだった。

 鎮静剤は速やかに効果を発揮し、シンジの意志は暗闇の中に沈むのだった。

 

 

 

 

 

 誰かが。

 何かが。

 暗闇の底から。

 ソレを見ていた。

 

 

 

 

 

 

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