【本編完結】サツマンゲリオン ~ 碇シンジが預けられた先が少しだけ特殊だった県/件   作:◆QgkJwfXtqk

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 碇シンジの、強制的な意識喪失からの回復は唐突であった。

 目を開く。

 うすぼんやりとした視野。

 椅子に座っていると思しき状況だと判る。

 

「ん……」

 

 意識の回復が痛みを自覚させる。

 右の首元に痛み。

 見れば、銃のようなモノを持った女性が居る。

 他人様(シンジ)を人間扱いしなかった奴だ。

 警戒心が出る(デフコンが上がる)

 銃が武器であるかを見る。

 よくよく見れば違っていた。

 薬液用のボトルめいたモノがある辺り、銃では無く注射器だろうか。

 そこまで理解した所でシンジは、自分が意識を失った経過を思い出す。

 ()()()()()()()()()()()()()

 そうだ。

 先の場所でも、コレが傍にいた。

 傍にいて自分に何かをしたのだろう。

 シンジの目を細めて相手を見る。

 この場が何処か。

 誰なのかは判らない。

 判らないが、他人から好きにされるというのはシンジにとって受け入れがたい。

 

わやなんすっか(何をするんだよ)

 

 怒声ではないが鋭い声。

 立ち上がって向き合おうとする。

 が、動けない。

 体がベルトの様なモノで椅子に雁字搦めにされていたのだ。

 

「動かさせませんよ」

 

 警戒していると判る声。

 だが、シンジが何かを言い返すよりも先に、視野外から声を掛けられた。

 

『検体BM-03、仮称碇シンジ。此方の声が聴こえるかしら?』

 

 少しだけ電子的な(ノイジー)な声。

 声の方向を見れば、スピーカーがあった。

 周りを見る。

 見た。

 シンジが居るのは8畳ほどの広さの殺風景な部屋であり、居るのはシンジと女性。

 そして部屋の壁、その1面は全面ガラス張りとなっていた。

 ガラスの向こうには、先に見た女性が2人居た。

 葛城艦長と呼ばれていた女性と副長と呼ばれていた女性だ。

 

『久しぶり、と言うべきかしらね?』

 

「…………おはん(貴方は)赤木さぁな(赤木リツコさんなの?)

 

『そうよ。私は赤木リツコ。そして葛城ミサトよ』

 

 葛城ミサトを改めて紹介する赤木リツコ。

 だが紹介された葛城ミサトは、口を開く事は無かったが。

 

『貴方は碇シンジ君、で良いのよね?』

 

じゃっど(そうですけど)他にどげんみえちょっな(それ以外にどう見えるんですか)

 

『……そう。かつての記憶と、そうね、()()()()()()()()()()()()()()()

 

じゃっとな(そうですか)

 

『……ええ』

 

 目を薄く開いて塩な(熱量の無い)反応をするシンジに、赤木リツコも反応しきれずに言葉を紡げずにいた。

 救いを求める様に葛城ミサトを見る。

 だが、微動だにしない。

 言葉を発する気配も無い。

 何とも言い難い雰囲気に、何故に自分がと何某への怨嗟を飲み込みながら赤木リツコは深呼吸して、言葉を発した。

 

『碇シンジ君、冷静に聞いて。貴方が第10の使徒と戦ったあの時から14年が経過しているのよ』

 

 第10の使徒、シンジの脳裏に浮かんだのは両腕を奪われた戦い ―― ユーモラスな形をした白黒い使徒だった。

 だが、それがかき消される。

 砂嵐の様な何かによってかき消され、人型のナニカに代わる。

 

「………っ」

 

 何かによって脳みそをかき回される感覚。

 第15使徒では無い。

 第10の使徒。

 恐ろしい程の力を持った使徒。

 不定形な姿、そして綾波レイをエヴァンゲリオン0号機と共に食って人型な姿になった使徒。

 

『碇シンジ君!?』

 

 痛み。

 それを噛み殺して、シンジは返す。

 

「………なんでんなか(何でもないですよ)ほいでないな(それで何なんですか)

 

 この葛城ミサトや赤木リツコは信用できない。

 ベルトで椅子に固定され、身動きの取れない身とされているのだ。

 信用なぞ出来る筈も無かった。

 本来は親近感を覚える2人であったが、今はそうではない。

 そうではないからこそ、そんな相手を前に弱みなど見せられる筈も無いのだ。

 シンジの態度をどう見たか。

 どう感じたのか。

 兎も角として、葛城ミサトは微動だにしなかった。

 赤木リツコは少しだけ言葉を濁した。

 

『………そう……私が言う事は1つ。貴方はもう、エヴァに乗らなくて良いという事』

 

「………」

 

『此方を見て頂戴』

 

 赤木リツコが指し示したのは、部屋の片隅にあるモニターであった。

 そこには四肢を切断されたエヴァンゲリオン初号機の姿があった。

 吊り下げられ、何かの中に封入される作業が映し出されている。

 

『初号機は現在、本艦の主機用補助システムとして使用中。故にパイロットは不要です』

 

 赤木リツコは色々と、何かから逃げる様に説明を重ねていく。

 今、この部屋のある場所は、WILLEと言う組織の象徴にして旗艦、AAAブンダーであると言う。

 4000m級の全長を誇る、空前絶後の超弩級空中戦艦であると言う。

 エヴァンゲリオン初号機は、そのAAAブンダーの要 ―― 主機用補助(Power Transformer)システムとして搭載されているのだと言う。

 AAAブンダーに搭載されている複数の(ノー・ニュークリア)機関が生み出したエネルギーを、疑似的な(スーパー・ソレイド)機関へと機体各部を改造したエヴァンゲリオン初号機に流し込み、莫大なエネルギーを取り出すのだと言う。

 そのエネルギーとエヴァンゲリオン初号機を使う事で、AAAブンダーは空を飛ぶ力を持ち、そしてA.Tフィールドすらも使えるのだと言う。

 人はエヴァンゲリオンに頼らず、選ばれた子供を戦わせる必要は無くなったとも言う。

 正直、興味の無いシンジは情報を右から左へと流していた。

 頼まれたからエヴァンゲリオンに乗った。

 戦った。

 要らぬと言うのならば乗らない。

 その程度の話であった。

 

『只、貴方と初号機のシンクロ率は、深層シンクロテストを見ると__ 』

 

 言い淀む赤木リツコ。

 手元の紙を見て、信じがたいとばかりに顔を歪める。

 それを葛城ミサトは訝し気に見た。

 

『特殊な数字でも出たの?』

 

『特殊と言えば特殊ね。結果はUnmeasurable、計測不能と出たわ』

 

『上に? 下に?』

 

『下なら気楽にできたわね。上、それも推定値で400%を超えているわ』

 

『………そう。恐ろしい数値ね』

 

 深度シンクロが、とか。

 エヴァンゲリオン初号機のシン化形態が、とか。

 フォースインパクトが、とか。

 色々とシンジの知らない言葉(専門用語の様なナニカ)で、深刻な表情で顔を突き合わせて会話している葛城ミサトと赤木リツコ。

 バカバカしいとばかりにシンジは1つ、欠伸をする。

 

 と、シンジの傍に立っていた女性が咎める様に言う。

 

「自分の事なのに、興味が無いんですか?」

 

「………」

 

 視線を、シンジは女性に合わせる。

 距離が近く部屋が明るい事で、この女性がまだ若い事が判る。

 赤い十字の腕章を下げている辺り、看護官(衛生兵)辺りなのかもしれない。

 だが、どうでも良い。

 シンジは鼻で笑って無視する。

 その仕草にカチンときた看護官の女性は、シンジの体を掴んで顔を合わせる。

 荒っぽい仕草であった。

 

「碇さん、どうして返事をしてくれんとですか!?」

 

 自分が被害者であると言わんばかりの言い様である。

 シンジは目を細めて睨む。

 

「なんでそんな態度をするんですか!!」

 

モノんごちゃ言われっせぇ(BM-03とかモノ扱いされて)縛られっせぇ(椅子に縛り付けられ)じゃひとによかよかゆうもんな(それで友好的に振舞うのは無理だよ)

 

「ソレもです!! 変な言葉を使って、誤魔化して、貴方は世界を壊しかけたんですよ!? その反省は無いんですか!!!」

 

 激高する看護官の女性。

 歯をむき出して吠え、手が腰に添えられている。

 恐らくは銃があるのだろう。

 或いは撃たれるか。

 そんな事を、いっそ冷たい程に冷静にシンジは考えていた。

 痛み ―― 或いは死への恐れは当然の様にある。

 椅子に縛り付けられている今、逃げる事も避ける事も叶わないだろう。

 だが、謂れなき暴力に屈したいとはつゆぞ思わないのだ。

 

ないな(何を言っているか判らないよ)

 

 にらみ合い。

 だが、それが次の段階に進む前に、葛城ミサトが唐突に口をはさんできた。

 

『そう。碇シンジ、我々は貴方を自由にさせる事は出来ない。命令よ』

 

 それは睨むと評するに相応しい顔つきをしていた。

 赤木リツコが言葉を補う様に続ける。

 

『計測不能の域に達しているシンクロ率、原因は不明だけどもエバー初号機を疑似シン化第2形態へとさせた14年前のニアサー事件以外に理由は考えられないわ。我々ヴィレは、全てのインパクトの可能性を断じて許さない』

 

14年っちな(14年前って)?」

 

『そうよ。貴方が引き起こしたニアサー、第10の使徒との戦いの結末として生まれたエヴァ初号機の覚醒とニア・サードインパクトが発生してから14年の月日が流れいるわ』

 

 流石のシンジも混乱する。

 だが同時に腑に落ちる所もあった。

 短期的な疲れに因るとは思えない程に陰が染みこんでしまっている相貌となってしまった赤木リツコや葛城ミサトを見れば、尋常ではない事が起きていると納得できるのだ。

 シンジの沈黙をどう捉えたのか、赤木リツコはシンジの傍らに立った儘の看護官の女性に声を掛ける。

 

『混乱するのも無理ないわ。鈴原少尉、彼に官姓名を』

 

「はい! ヴィレ、AAAブンダー衛生班所属鈴原サクラ少尉です。所謂衛生兵って奴になります。碇さんの管理担当となりますので改めてよろしくお願いします」

 

 美しい所作とまでは言えないが、それなりに見れる仕草で敬礼する鈴原サクラ。

 シンジは答礼をする様に頷いた。

 本来であれば(NERVに教わった話によれば)お辞儀が正しいのだが、椅子に縛られていては儘らない。

 少しだけ片側の眉を歪め、不満げな顔となるシンジ。

 気に食わない相手でも礼節を守るのは大事なのだ。

 否。

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 とは言え、それは赤木リツコが予想した反応では無かった為、補足する。

 

『………判らないかしら。鈴原少尉は貴方の友人であった鈴原トウジの妹よ?』

 

なんちな(嘘だろっ)!?」

 

 シンジの反応に気を良くしてか、赤木リツコは説明を連ねていく。

 14年前にシンジが起こしたニア・サードインパクト。

 その責任を問われ、当時のNERVは国連安全保障理事会(SEELE)の査問を受け碇ゲンドウ体制が崩壊する事となる。

 代わってSEELEが送り込んできた渚カヲルと言う人間が第2代NERV総司令官に就任する。

 だが、SEELEと渚カヲルの目的は使徒撃滅による人類存続では無かった。

 人類補完計画なるモノによって、地球を原罪無き世界へと戻す事が目的であった。

 大地を浄化するサードインパクトが行われた。

 この儀式の際に葛城ミサトを旗頭に、赤木リツコらはNERVに叛旗を翻したのだという。

 少なからぬ犠牲を出したがサードインパクトの阻止には成功した。

 但し地球と人類の、実に99.9%以上が死滅する大災害になったのだと言う。

 だが、まだ終わっていない。

 NERVと碇ゲンドウは全てを終わらせるフォースインパクトを計画しているのだという。

 海の浄化。

 地の浄化。

 そして空を浄化する事で地球を還元するのが目的だと言う。

 葛城ミサトらは、ソレを阻止する為に立っているのだと言う。

 

『私たちはヴィレ、意思(WILLE)の名を冠し人類の生き残りの為に戦うモノよ』

 

「………」

 

 シンジは、NERVの頃もそういう事を言っていたなと思い出していた。

 

ほいで(だから何ですか)?」

 

『………興味が無いのかしら?』

 

「おかしいですよ!! 世界は碇さんのせいでこんなになっちゃったんですよ!?」

 

そいよ(それだよ)おいがしたとがニアサーじゃっでん(僕がしたのがニアサードインパクトだとして)滅びかかったとはサードインパクトやろがね(滅びかけたのはサードインパクトですよね)ないごてオイにひっかぶすっとな(なんで、僕が原因って言われるの)?」

 

「えっ………え?」

 

 反論された事に驚いたのか、鈴原サクラは目を白黒としている。

 だが、シンジからすれば当たり前の事を言った迄であった。

 第10の使徒との戦いでニアサードインパクトを起こしたという事を責められるのは良い。

 自分の責任だ。

 だが、それはニアと名が付く通りに阻止されたという。

 そして世界が崩壊したのはサードインパクトと赤木リツコは言ってた。

 であるのに、何故、シンジが責められるというのか。

 納得が出来なかった。

 サードインパクトに繋がったという意味かもしれないが、NERVの体制変更と言う意味では遠因とはなったとしても、サードインパクトと直接の繋がりは無いのだ。

 納得出来る筈も無かった。

 

サードインパクトち(サードインパクトって言うけど)そいはおはんさぁたっが話じゃろがよ(それは貴方たちの話ですよね)

 

「だって、原因は碇さんだって()()()()()()()()()()()()()

 

「………しったこっか(知った事じゃないよ)

 

 いっそ軽蔑と呼べる目つきで鈴原サクラを見るシンジ。

 誰かから聞いた話を鵜呑みにして他人を憎悪する。

 侮蔑する。

 実に立派な人間だなと嗤っていた。

 

 何とも言い難い空気。

 それを仕切りなおす様に葛城ミサトが口を開いた。

 

『碇シンジ。我々は貴方をエバー初号機には載せません』

 

頼まれて乗ってただけじゃっが(頼まれて乗っていたんですからね)乗んなち言われれば乗らんど(乗るなと言われれば乗りませんよ)

 

 単純な話であった。

 シンジはエヴァンゲリオン初号機であり、エヴァンゲリオン初号機はシンジであるのが現実であったが、とは言え、乗るなと言われてまで乗る()()は無いというのが正直な気分なのだ。

 

じゃっどん(だけど)ネルフに喰らわすっ時には(NERV本部への攻撃の際には)おいにも参加させっくやい(僕も参加させて下さい)棒ん1つでも与えっくれれば十分やっで(棒の1つでもあれば何とかしますから)

 

『何とかって、何をする気?』

 

うったくっせぇ(死ぬほど叩きます)けじめじゃっが(血縁のケジメですよ)ほいで()いついっとな(何時仕掛けるんですか)明日な明後日な(明日ですか? 明後日ですか?)

 

 即断。

 速攻。

 実にシンジであった。

 だが、それは葛城ミサトらにとっては想像の埒外であった。

 

『いえ、まだAAAブンダーの艤装が終わっていないから__ 』

 

じゃっとな(そうですか)じゃったら終わったらな(だったら艤装が終われば直ぐにですね)

 

『……いえ、攻撃は注意深く機を伺いながらする事になるわ』

 

「…………ないごてな(どうしてですか)そげん呑気にすっとは(悠長に構えているのは)

 

 理解できないという顔になるシンジ。

 だが葛城ミサトは、納得させる為の言葉を持たなかった。

 口を噤む。

 赤木リツコがとりなす様に言う。

 

『戦力と数える事が出来るのはAAAブンダーと2機のエヴァのみ。我々が事実上人類最後の戦力であるわ。勝算も考えず安易に挑む事は出来ないわ』

 

ヴィレっちぁ(ヴィレと言う組織の存在)ネルフに知られておらんとな(NERVは認識していないの)?」

 

『そんな筈は無いわ。貴方は失神していたけど、AAAブンダー起動時にNERVは攻撃を仕掛けてきているから』

 

 敵は此方を認識している。

 そして敵には実現するべき目的がある。

 にも関わらずWILLEは攻撃に出ない(イニシアティブを握らない)と言う。

 悠長、否、怠慢と言える行動であるとシンジには見えた。

 

ないごてか(何を考えてだよ)

 

 呆れる様に言うシンジ。

 実際問題、心底から呆れていた。

 

『我々には負ける事が許されないからよ』

 

じゃっどん(ですけど)勝つんとを自分で下げちょっがな(勝率を自分で下げてますよね)

 

『どうしてそう思うのか』

 

 葛城ミサトの質問にシンジは当たり前の事を聞かれた様に少し眉を跳ねさせて言う。

 NERVと碇ゲンドウは、自分たちの目的を邪魔/抵抗してくるWILLEを認識している。

 であれば対策をしない筈が無い。

 エヴァンゲリオン初号機によってAAAブンダーが起動したという事を知っている以上、その新戦力にも対応できるだけの準備を行うだろう。

 にも拘わらず、WILLE側が出来る戦力整備はそう無い。

 戦力の差は時間と共に拡大する一方となる。

 時間はWILLEの敵なのだ。

 

『どうして、WILLEに戦力増強手段が無いと思ったの?』

 

人ん9割9分がおらんとに(人類の99%が失われているのに)でくっ事があっとは思えんが(出来る事があるとは思えませんよ)

 

『道理ね。その通りよ。だけど___ 』

 

すっともせんとも自由じゃっが(戦うのも避けるのも自由ですけどね)ひっかぶいじゃんな(それで戦うと言うのは可笑しいですよ)

 

 少し、否、かなり皮肉げな言葉。

 シンジの脳裏に浮かんでいたのは、戦って死ねと言わんばかりの態度を示していた葛城ミサトらNERVの大人の姿だった。

 色々な言葉を言った。

 だが__ 否、違う。

 ()()()()()()()()()()()()()

 違う。

 見られた。

 言われた。

 頭痛がシンジを襲う。

 万力で頭を締め付けられる様な痛み。

 ソレをシンジは歯を噛み締めて(獣の様な顔で)耐える。

 

『我々は人類最後の戦力なのよ』

 

ギを言わんなよ(屁理屈を捏ねないで下さい)

 

 痛みを噛み締めて耐えながら、睨むシンジ。

 葛城ミサトや赤木リツコは理屈を重ねて逃げている。

 どうにもそう見えていた。

 進むか退くか(なこかいとぼかい)迷ったなら突撃せよ(なこよかひっとべ)

 そういう話であった。

 

『今ならまだ勝てる、そう言いたいのね』

 

じゃっど(そうですよ)

 

『………一考します』

 

『葛城艦長!?』

 

『副長、既に回収できる物資は尽きている。後に残っているのはジリ貧だけよ』

 

『AAAブンダーが起動出来たので、内陸部の物資を回収出来る可能性があるわ! 特にパリ支部は有望、2号機を修繕出来る筈よ』

 

 ユーロNERVのパリ支部はエヴァンゲリオンの運用拠点として整備されている為、物資が大量に存在している()と言う事であった。

 エヴァンゲリオン2号機にとっては重要な問題であった。

 永年の酷使が祟ってエヴァンゲリオン2号機の状態(Condition)は劣悪の一言であるのだから。

 象徴的なのは左腕だろう。

 本来の腕 ―― 生体部品が枯渇してしまっている為、出来合いの部材をかき集めて腕擬きを作って運用しているのだ。

 エヴァンゲリオン2号機を駆る式波アスカ・ラングレーは決して下手なパイロットでは無い。

 だが、エヴァンゲリオン8号機が、そのパイロットの癖故にか引き気味で(後方からの支援的に)運用されているが故の事であった。

 赤木リツコからすれば戦技は勿論、戦意も信用できるエヴァンゲリオン2号機の修復は重要であった。

 だが、ソレを葛城ミサトは却下する。

 

『ネルフとてその存在は知っているわ』

 

『罠となる可能性がある、か』

 

『ええ。である以上は拙速であっても、今の全力でネルフ本部に殴りこむ方が勝率は上がる可能性が高いわ』

 

『……そうね』

 

 シンジの戦意に炙られたように攻撃に意識が向いた葛城ミサトに、赤木リツコは嘆息する。

 とは言え、理屈は通っているのだ。

 であれば理論的な反論は難しい。

 やるべきだろうか。

 そう思う赤木リツコ。

 自分もあてられているとの自覚もあった。

 逃げ隠れる様な日々に赤木リツコも又、厭いていたのだから。

 

 

よか(良い)

 

 満足げに言うシンジ。

 基本的にポジティブ(攻勢重視)な人間であるシンジにとって、前に出る事を是とする反応を示している葛城ミサトと赤木リツコは良いモノであった。

 だが、シンジが笑っていられたのはそこまでであった。

 

 轟音。

 そして激震。

 全てが揺るがされる程の揺れに襲われたからだ。

 室内灯が赤色に変わり、警報ブザーが盛大に鳴り響く。

 壁のスピーカーが緊急事態を告げる。

 本艦は襲撃を受けている(AIR RAID ON AAA-Wunder)コレは演習では無い(THIS IS NO DRILL)と叫んでいた。

 正しく非常事態。

 その中で最も素早く動いたのは葛城ミサトであった。

 まだまだ続く振動の中、急いで壁際に行くと備え付け通信機を掴んで叫ぶ。

 

『私だ。状況報告!』

 

 警報ブザー音にかき消されない、気合の入った声。

 打てば響くと相手も返す。

 数度のやり取り。

 既に相手 ―― 代理を仰せつかっていたAAAブンダーの序列第3位に就く日向マコトが第1種戦闘配置を宣言し、迎撃を指示していた。

 実に手早く、正しい。

 

『良いわ。ブンダーの迎撃はその判断で続行して。艦隊全艦にも第1種戦闘配置を伝達! 急いで戻る』

 

 それから赤木リツコに告げる。

 

『恐らくはネルフのエバー、後甲板に取りつかれたとの事。エバー8号機が迎撃に出ているわ。シンクロモードでの運用の為、急いでブリッジに戻るわよ』

 

『了解!』

 

 WILLE、と言うかAAAブンダーの序列第1位と第2位が揃ってブリッジを離れてしまっていたのだ。

 高高度を航行中であり、NERVによる襲撃は無いと踏んでの事であったが、それが油断と呼ぶべき事態を招いていた。

 急いでブリッジへと戻り、戦闘指揮を執らねばならない。

 最後にシンジを一瞥した葛城ミサトは、その傍ら ―― シンジの拘束されている椅子にしがみ付いている鈴原サクラに命令を出す。

 

『命令! 鈴原サクラ少尉は急ぎ碇シンジを中枢隔離区画へと移送。復唱は不要! 急げ!!』

 

「はい! 拝命しました!! 碇さん、行くで!!!」

 

 非常時らしく手順をすっ飛ばす。

 その事に慣れている葛城ミサトであり、それは鈴原サクラも同じであった。

 歴戦らしい態度、とも言えた。

 

 だが、対象となるシンジはそれどころでは無かった。

 A.Tフィールドの圧倒的な波を浴びていたからだ。

 

― イカリクン、ドコ? ―

 

 それは綾波レイのこえ(A.Tフィールド)によく似ていた。

 響きだけであれば。

 だが、感情の乗っていないフラットな波であり、全くの別モノであった。

 アスカに幼子の様に懐いている姿。

 一応は旦那な筈の渚カヲルに一切の容赦なく折檻(ツッコミ)をする姿。

 思い出してシンジは笑う。

 本当に似ていない。

 アレ、可笑しい。

 綾波レイとアスカが仲良くしていた姿なんて見た記憶が無い。

 渚カヲルって先ほど、名前が出てきた第2代NERV総司令官だ。

 綾波レイとの結婚、第10の使徒に食われて帰ってこれなかったのに面識すらある筈がない。

 頭が痛い。

 判らない。

 だけど、綾波レイじゃない。

 

― イカリクン ―

 

 偽物だ。

 だがこえ(A.Tフィールド)は暴力であった。

 圧倒的であった。

 頭を、心を、魂を揺さぶってくるのは正直、クるモノがあった。

 故に声を発しない様に歯を食いしばって耐える。

 偽物を用意してまで何かをしようとしているのだ。

 反応を見せる訳にはいかなかった。

 

「碇さん、今、拘束を外しますんで、急いで避難しますよ! って大丈夫ですか!? 血が__ 」

 

 鈴原サクラの声で、口腔内に鉄の味を感じるシンジ。

 歯を噛み締めすぎて、歯茎から血が出ていたのだ。

 

よか(大丈夫)

 

 息絶え絶えの態で、言葉を発するシンジ。

 声を出した途端に、頭部の痛みが更に増した。

 何も考えられないようにしようと言わんばかりであった。

 必死に耐えながら、鈴原サクラが拘束を外すのを待つ。

 移動先は中枢部だと言う。

 であれば少しはこえ(A.Tフィールド)も弱まる筈だろう。

 

 カチャカチャと幾重にも巻かれたベルトが外されていく。

 もう少しで解ける。

 そこまで成った時であった。

 

― イカリクン、ココ? ―

 

 壁が轟音と共に突き破られる。

 そしてオレンジ色の巨大な手が入ってくる。

 エヴァンゲリオンの手だ。

 開口部を開くように動いていく。

 椅子ごと倒れたシンジは、まだ拘束が解けていないので動くに動けない。

 逃げるに逃げれない。

 周りを見る。

 鈴原サクラを探した。

 が、最悪な事に鈴原サクラは最初の衝撃で壁に叩きつけられた様で、壁際に倒れていて動く気配が無いがない。

 汚い言葉(four-letter word)が口から出そうになるが、歯を食いしばって耐える。

 そんな事よりも拘束から抜け出そうとする。

 

 と、エヴァンゲリオンの手が下がった。

 そして巨大な一つ目の頭、エヴァンゲリオン零号機にも似たソレが覗き込んでくる。

 

― イカリクン、イタ ―

 

 何とか動こうとする。

 残っていたベルトによる拘束は緩みはそすれども、まだシンジに自由を与える程では無かった。

 エヴァンゲリオンの手がシンジに伸びて来る。

 見れば、その体には幾つもの命中弾が出ていて、煙を棚引かせている。

 エヴァンゲリオンを守るA.Tフィールドは無効化されているのだ。

 だが、どれ程の命中弾が出ようとも揺らいで居ない。

 機械の様なブレの無い動きで手がシンジに迫ってくる。

 万事休すであるかと思ったが、それでも目を逸らさず、閉じず、退かぬとばかりにシンジはエヴァンゲリオン零号機擬きの頭を睨みつける。

 指先がシンジに触れる、その寸前で救いの手が届いた。

 

『おぉぉぉりゃぁぁぁぁぁ!!』

 

 怒声。

 そして赤い、暴風の如き一撃がエヴァンゲリオン零号機擬きに突き刺さる。

 赤いエヴァンゲリオン。

 エヴァンゲリオン2号機の飛び蹴りであった。

 エヴァンゲリオン零号機擬きは耐えきれず、派手に吹き飛ぶ。

 だが、シンジはその姿を追わない。

 只々もってエヴァンゲリオン2号機を目で追っていた。

 

「アスカ!!」

 

 信頼するべき相棒の登場に、流石のシンジも歓喜の笑みを浮かべた。

 気が緩んだ。

 それが悪かった。

 

― イカリクン!!! ―

 

 落ちていくエヴァンゲリオン零号機擬きの発した強烈なこえ(A.Tフィールド)を、無抵抗めいた状態で浴びてしまったのだ。

 強烈な、ハンマーで頭を殴られたような感触。

 それは只々、暴威であった。

 

「がぁっ!?」

 

 鼻血、そして嘔吐をまき散らしながらシンジは失神してしまうのであった。

 

 

 

 

 

 

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