【本編完結】サツマンゲリオン ~ 碇シンジが預けられた先が少しだけ特殊だった県/件   作:◆QgkJwfXtqk

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 機械油の臭いが漂っているその部屋は広かったが、密閉されており外から光が差し込んで来ていなかった。

 弱い光量、劣化した蛍光灯に照らされている壁も天井も、かつて白く塗られていた痕跡が判る程度に灰色に薄汚れていた。

 見る者に息苦しさを感じさせるている空間。

 そこには、多くの人間が詰めていた。

 様々な服を着ているが、共通しているのは厚手な服であるという事。

 そして鉄帽(てっぱち)を被り、防具を身に付け、そして武装していた。

 WILLEの選抜陸戦部隊だ。

 とは言え精鋭と言う訳ではない。

 WILLEの戦闘艦を旗艦であり決戦艦でもあるAAAブンダーのみとする葛城ミサトの決断、そのお陰で捻出出来た人員だ。

 目的は勿論、NERV本部へと突入し制圧する為であった。

 

 壁に、WILLEの旗と共に掲げられているおおすみと書かれている旗。

 この場所は海上自衛隊の護衛艦であり、後には国連軍太平洋艦隊所属となった輸送艦(LPD)おおすみの格納庫(車輛甲板)であった。

 だから、と言う訳ではないが、武装トラックや装甲車もこの場所に詰め込まれているのだった。

 多くの人間が戦意溢れる(感情的な)表情をしている。

 そんな中に碇シンジの姿もあった。

 人ごみをさけ、壁際に座り込んでいるシンジ。

 俯いている。

 油染みの付いた、お世辞にも綺麗とは言えないツナギ姿だ。

 サイズも無かったのだろう。

 着るというよりも着られているという塩梅であり、腕や足の裾は幾重にも折り曲げられている。

 防具の類は見に付けていない。

 只、傍らには滑り止めに布の撒かれた1m程の鉄のパイプ(小径ガス管)があった。

 何とも貧弱な格好と言えるだろう。

 だが、表情に陰は無かった。

 口を引き締め、目には強い覚悟だけが浮かんでいた。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 その一心であったのだ。

 世界が変わった原因。

 そもそも、式波アスカ・ラングレーが陥った哀しい境遇の原因でもあるのだ。

 自分ではない自分に誓ったアスカを守るという事。

 その為には諸悪の根源は叩かねばならないのだ。

 

 今のシンジには何も無い。

 エヴァンゲリオン初号機も無い、力も無い、知略も無い。

 只の14歳の子供だ。

 だが、()()()()()()()なのだ。

 無いから努力しない、努力せず誰かに頼れば良い。

 そう言う惰弱さ、或いは怯懦はシンジの好む所ではなかった。

 1つ腹に決めたのであれば、それを貫徹せねばならぬと考えているのだから。

 だから、アスカを助けると決めたシンジに迷いは無いのだ。

 

 と、唐突に声がシンジに降って来た。

 

「坊主、貧相な格好だな」

 

 慌てて顔を上げると、陸戦部隊組と判る武装をした小太りな小父さんが立っていた。

 目深に被った帽子と濃ゆいアゴ髭によって表情は読めない。

 見知った人、では無い。

 過去の事件(ニア・サードインパクト)から、周りの人間は誰もがシンジと距離をとっていたからだ。

 世界が変わり果てたサードインパクトとシンジには直接の関係性は無い。

 だが、それでも世界を壊しかけたエヴァンゲリオンのパイロットと言う事で隔意があったのだ。

 ある意味で久方ぶりの、アスカやアスカの僚友である真希波マリ・イラストリアス以外からの声掛けであった。

 

「あ、その……」

 

 驚いて、どう反応してよいのかわからず、言葉が濁るシンジ。

 だが、そんな様を気にする事無く壮年期の末頃と思しき男は、シンジの状態を見る。

 貧相な服装。

 武器はガスパイプ管1つと言う有様を確認し、顔を歪める。

 その儘、傍らの男に声を掛ける。

 

「防具、余剰がまだあったろ?」

 

「うっす。古い奴なら__ 」

 

「じゃ、取ってこい」

 

「コイツ、例のガキ(エヴァンゲリオンパイロット)っすよ?」

 

 別の、タバコを咥えてヘルメットを斜に被っていた男がまぜっかえす様に言う。

 とは言え、別に悪意が乗っている風ではない。

 

「サードインパクト、このガキがやった訳じゃねぇだろう? それより若い男って事の方が大事だろうが」

 

 人口が極めて減少している(平均年齢が極めて高い)今の人類にとって、健康な若い男と言うだけで宝石よりも貴重な存在である。

 次世代に繋がる種子となる。

 そういう話であった。

 

「だからよ、せめて余りモンくれーはクレてやっても問題は無いだろう?」

 

「そうですな」

 

 何とも言い難い会話をする大人たちに、何と口を開いて良いかわからなかったシンジは黙っていた。

 と、籠を抱えて男が戻ってくる。

 防弾ジャケット(ボディアーマー)やヘルメットなどが複数入っている。

 

「………坊主には重そうですよ」

 

 引っ張り出された防弾ジャケット(ボディアーマー)は、所々が擦り切れ生地も古ぼけた感じであった。

 

「スゲェな、PASGTベストだ。セカンドインパクト時代の骨董品だぞ? 使えるのか」

 

「無理だろ。ここら辺は使えない(耐用期限)ってんで残ってたんだろう」

 

「それでも無いよりはましか? 着てみるか、坊主」

 

「あ、いや」

 

 持たされたPASGTベストの重さ(約5㎏)は、鍛えているとは言えないシンジに動けるだろうかと悩ませる程であった。

 だが、大人たちはそんな事を介し無い。

 多少なりと動きづらくても、生き残る ―― 生き残らせる事が大事だから。

 

「着せとけ。うち等の車に乗せてやれば良いんだ。それよりグローブとヘルメットはどうだ?」

 

「ヘルメットは緩すぎですな。調整してもこればかりは__ 」

 

「ここにニットキャップの余りがある。インナー代わりになるだろうよ」

 

「グローブは、指先を切っとけ。それならまだマシだ」

 

 大の大人たちによって着せ替え人形めいた様となるシンジに、周りの人間はある種の友好的な笑いを浮かべるのだった。

 今と言う子供の少なくなった時代。

 否、スレてない反応をするシンジが、嘗ての平穏な頃を思い出させていたからだ。

 無論、非友好的な雰囲気の人間も居た。

 舌打ちしたり、憎々し気な顔でシンジを見ている人間も居た。

 だがその様な人間が大勢では無かった。

 

「あ、その………」

 

「黙って貰っとけ、安全は大事だぞボウズ?」

 

 かくして、完全装備のシンジが出来上がる。

 着ているというよりも、着られている感がかなり強かったが。

 と、最後の微妙な顔をした男がやってきた。

 

「武器、銃も一応はあったんだが、班長、コレどうかな」

 

「どれって、おう、骨董品じゃねぇか」

 

 班長と呼ばれた大柄な男が、差し出された銃 ―― 拳銃を見て顔を顰めた。

 武骨な、鉄の塊の様な回転式拳銃(リボルバー)

 それは200年近い昔に作られた、Colt M1848と言う名前の拳銃であった。

 

「一応、弾は出るみたいなんがだな。誰も持ちたがらずに余ってたみたいだ」

 

「だろうさ。撃ちきったら現場で装填は難しいからな」

 

「俺も嫌だよ。文鎮じゃねぇか」

 

「学があるな、オメェ」

 

「だろ? で、どうするよ」

 

「いいだろう。俺らが撃たせなきゃ良いんだ」

 

「だな。ガキのお守り代わりには良いんじゃねぇの?」

 

「んだ」

 

「ホルスターはあるのか?」

 

「一応、な。ボウズ、コレ、腰に巻いとけ」

 

「あっ、はい」

 

 そして持たされた凶器、拳銃。

 両手で持ってしげしげと見る。

 

「いいか、俺らが全滅するまでは絶対に抜くなよ?」

 

「ま、全滅する積りは無いがな」

 

 そんな、ある意味で普通の(敵意純度の低い)対応を受けたシンジは、最後まで驚いていた。

 この世界で意識を取り戻し、そしてアスカと仲良くなっての今まで、シンジはAAAブンダーの乗員 ―― WILLEのスタッフからの酷い対応や感情を見てきた為、理解できなかったのだ。

 

「俺たちは碇ゲンドウに一発キメて、NERVを潰し、これ以上のインパクトを阻止するってのが仕事だが間違うな。いいか、オマエの仕事は生き残る事だ。判ったな?」

 

「え、あ__ 」

 

「返事はハイかYesだけだ」

 

「ハイッ!?」

 

「良し。ならウチの班の車に来い。どうせ1人だったんだろ?」

 

 シンジの頭をワッシャワッシャと撫でた班長と呼ばれた男は、シンジの肩を掴んで連れて行くのだ。

 と、その時、電子音が鳴った。

 

『NERV本部まであと30分、総員、突入準備を開始せよ! 繰り返す! NERV本部まで後30minute!!』

 

「駆け足だ! 坊主も急げ!! 準備をするぞ!!!」

 

 

 

 

 

 AAAブンダーのエヴァンゲリオン整備区画。

 そこで最終チェックの終わった愛機、エヴァンゲリオン2号機をアスカは見上げていた。

 戦闘配置が発令されている為、機体維持用のL.C.L槽から引き出されたエヴァンゲリオン2号機は赤い機体を更に赤く染めていた。

 再利用を重ねてきたL.C.Lは劣化しきっており、その様はまるで血の様にも赤く見えている。

 

「ヒメ、黄昏てない?」

 

 唐突に声を掛けてきたのはアスカの14年来の相方となるエヴァンゲリオン8号機のパイロット、真希波マリ・イラストリアスであった。

 ピンク色のプラグスーツ(エヴァンゲリオン搭乗員服)を腰まで穿いて、上着は袖を腰に回して絞っている。

 トップレスと言う訳では無い。

 ラフに、濃い紺色のTシャツを着ている。

 使い古している為にプラグスーツの機能が低下しており、継ぎ接ぎなどもあって拘束感が強く、そして通気性が悪いのだ。

 バッテリーも劣化しており、温度維持機能などはエヴァンゲリオンに搭乗後に有線接続した後で無いと使用できなくなっていた。

 WILLEの剣、唯一の戦力であるエヴァンゲリオンのパイロットにすら最良の状態のモノが支給できないのだ。

 人類の窮乏が、見て取れるというモノであった。

 

「……別に」

 

 声を掛けられたアスカは、キッチリとプラグスーツを着込んでいる。

 常在戦場(オールウェイズ・オン・デッキ)と言う訳では無いが、アスカにとって14年前から今まで平時と言うモノが無かったのだ。

 その意味で悲しい性、()()()()()()()()()と言えるだろう。

 

「およよ、離れちゃってアンニュイかな?」

 

「うっさい」

 

 にゃんにゃんと言う真希波マリ・イラストリアスに、いい加減にウザいとばかりに目線を合せたアスカ。

 が、その表情には過日の如き剣呑さ、或いは陰鬱さは無かった。

 14年もの間、アスカを見てきた真希波マリ・イラストリアスだからこそ判る変化であった。

 

「およ?」

 

「なによ」

 

「ヒメってば__ 」

 

 言葉に迷う真希波マリ・イラストリアス。

 優しくなった?

 全く見えない。

 穏やかになった?

 全く感じない。

 そういう事ではない、違う何かを感じたのだ。

 

「なに?」

 

 返事はしない。

 しないままにスッとアスカに近づき、匂いを嗅ぐ真希波マリ・イラストリアス。

 

「ナンかオンナな匂い。やっぱりわんこ君が、男が出来たら違うのかにゃー」

 

 卑猥なハンドサインをしながら笑う。

 猫の様に笑う。

 

「ハァっ!? 何を言ってるのよアンタッ!!」

 

「だって、1週間も帰ってこなくて、心配して探してみたらわんこ君の所で宜しく(アンアン)やってたんだもの。アチシも心配してたんだよ?」

 

「…………そりゃ、悪かったわよ」

 

 ブスっと言うアスカ。

 不満げな表情。

 とは言え、心配した等と言われてしまえば、それはそれはバツが悪いというものであったが。

 振り抜くべく(制裁の為に)拳を握りはしたが、流石に行使は出来ない。

 アスカは実に素直な人間と言えた。

 心配したの一言で、鍵を掛け机を動かして物理的な密室を作って事に及んでいた所に無理矢理に入って来た(シンジとアスカの艶姿を丸っと見た)相手を許せるのは、少しばかり浮世離れしているとも言えたが。

 とは言え、だ。

 真希波マリ・イラストリアスはそんな無粋な指摘はしない、出来たオンナであったが。

 

 コホンと空咳を1つ。

 それから真希波マリ・イラストリアスは表情を一変させ、揶揄う様な色の無い優しい顔をした。

 

「わんこ君と逢えて、前向きになれた?」

 

「………そういう訳じゃないわ。だけど……そうね。死ぬなって腹の上で泣かれたんじゃ、頑張ろうって思うしか無いじゃない」

 

「Oh……」

 

「だから、ま、必死になって戦うにしても、生き残れるなら頑張ってみようかなって思ったのよ」

 

 そう言って笑うアスカの顔は儚さめいたモノはあったが、同時に、最近まで漂っていた陰鬱さ ―― 捨て鉢めいたモノは浮かんでいなかった。

 

「ヒメ………」

 

「ま、約束しちゃったからね」

 

 アスカの手が首から下げていた小さなペンダント、ロケットを握る。

 祈るような仕草。

 それが真希波マリ・イラストリアスの眼にとまる。

 マジマジと見てくる。

 目は口程に物を言う。

 好奇心、その熱量と圧とに敗けて、アスカは口を開く。

 

「シンジとのお守りよ」

 

「写真__ は無理か」

 

「無理ね。髪の毛を入れてるわ」

 

 そう言ってアスカはロケットを開いた。

 手製の、余り物の細い真鍮製のパイプで作られたソレから出てきたのは癖の無い(ストレートな)栗毛の束だった。

 どう見ても髪の毛だった。

 だから真希波マリ・イラストリアスは噴火(噴射)した。

 何をやっているの! と。

 

「何で上の毛!! 普通!! お守りって下ってモンでしょ!? ヒメ、やり直し!!! わんこ君の所に行って引っこ抜いてくるべきだよ!! 後、引っこ抜いたのを上げないと!!!!」

 

「し、下って何よ!?」

 

「初心なネンネじゃあるまいし、ヒメ、判るでしょ!!!」

 

 鼻息荒く叫ぶ真希波マリ・イラストリアスに、アスカも叫び返す。

 

「バッ、馬鹿ァ!?」

 

 

 アスカと真希波マリ・イラストリアスの間では珍しいくらいに、姦しい時間。

 外見年齢相応の時間とも言えた。

 だが、それも唐突に打ち切られる。

 電子合成音が鳴り響いたからだ。

 警報。

 第1種戦闘配置を命令する声。

 

『NERV本部まであと30分!』

 

 顔を見合わせる2人。

 頷く。

 そしてそれぞれの機体に向けて走り出す。

 と、真希波マリ・イラストリアスがアスカの背中に向けて声を張り上げる。

 

「ヒメ! 帰ってきたら、乙女の嗜み。教育だからね!!」

 

「うっさい!!」

 

 

 

 

 

 AAAブンダーの艦橋。

 その正面モニター越しに、雲海に浮かんでいる風にも見えるNERV本部がハッキリと視認出来た。

 かつては地中(ジオフロント)にあったNERV本部 ―― そのピラミッドめいた頂点部を特徴とする構造体は、如何な理由によってか地上に飛び出していた。

 AAAブンダーとWILLEの空中艦隊は、そこに着地(タッチダウン)を決める積りであった。

 太平洋上を超えて日本列島に上陸しようとしている空中艦隊。

 巨大なAAAブンダーの周囲には空母や戦艦といった囮を兼任する無人の盾艦、そしておおすみなどの陸戦部隊を満載した揚陸艦が浮かんでいた。

 飛んでいるのだ。

 その全てはAAAブンダーの重力制御によって浮かび、操られているのだった。

 海を征くが如く、空を奔っている艦隊。

 低空ギリギリを、人の身に有害なL結界の直ぐ上を奔る様に飛んでいるのは、NERV側に空中艦隊が察知されない為の工夫であった。

 とは言え利点だけではない。

 その分、気流に空中艦隊は弄ばれていた。

 

 小刻みに揺れている船体。

 その中にあって、気化L.C.Lによって保護されているブリッジは、まだマシと言う塩梅であった。

 

「NERV側の迎撃はどうか!?」

 

 WILLEの総司令官にしてAAAブンダーの艦長である葛城ミサトが吠えた。

 対して索敵/レーダー管制を担当する北上ミドリが答える。

 感なし、と。

 

「A.Tフィールドの反応も無し! 迎撃機(インターセプタ―)が上がってる様子もありません!」

 

「結構。射撃準備は良いか!?」

 

「全砲門、装填完了! 発砲準備良し!!」

 

 戦闘班(各種兵装)を総括する日向マコトが、手元のディスプレイを確認して声を上げる。

 主砲であるレールガンや、ミサイルその他。

 全ての表示はグリーン(戦闘準備良し)と表示されてる。

 

「特型対地弾、準備は良いかっ!?」

 

 此方は、特設兵装という事で管理しているのは青葉シゲルであった。

 日向マコトと同様に、吠える様に答える。

 

「異常なし! 関連乗員の退去確認! 何時でもぶっ放せます!」

 

 特型対地弾とは、大型タンカー(Very Large Crude oil Carriers)の船倉に海水を満載した質量弾(マス・ストライク)の事であった。

 AAAブンダーの主翼、その左右に合計で8発が搭載されていた。

 km単位と言う巨躯を誇るAAAブンダーと比較しても、小さくは見えない特製の凶悪兵器であった。

 火薬を使わない理由は、攻撃対象であるNERV本部には陸戦部隊が突入するので、火災などが発生して邪魔にならぬ様に、と言う事であった。

 そもそも3桁万トンもの質量(海水)である。

 着弾地点がマトモに残っている筈も無いという部分もあった。

 当然、こんな大質量大重量の化け物を飛ばせる様なロケットなど無いので、AAAブンダーの慣性制御によってぶん投げるのだ。

 細かい誘導は不可能であるが、命中しさえすれば、どこに当っても相手をぶち壊れるだけの凶器であった。

 

「結構。射程迄は?」

 

「159秒、減速開始時に捉えられます」

 

 

 NERV本部への攻撃。

 それは全ては恐ろしい程に順調であった。

 

「結局、()が正しかったという事ね」

 

 それらを俯瞰して見ていた赤木リツコが、すぐ傍に立つ葛城ミサトにだけ聞こえる声でポツリと漏らした。

 葛城ミサトは視線を前から動かす事なく、だが少しだけ顔を顰めた。

 苛立ち。

 その相手は自分自身であった。

 

「我々も、そしてNERVも、誰もが状況を動かす(イニシアティブを握るのは)NERVだと思っていた。思い込んでいた…… 」

 

「全てが終わったら頭を下げる事ね」

 

「……今更、よ。恨まれ、憎まれ、それがあの子たちの生きる活力になるのが精一杯」

 

 顔を隠すように俯く葛城ミサト。

 自分自身の非道さを自覚していた。

 自覚して尚、他に選択肢が無いとして選んでしまっていた。

 エヴァンゲリオンパイロットへのWILLEメンバーの憎悪を許し、そしてシンジは諸悪の根源(ニアサードインパクトの実行者)として流布していた。

 

「でも、出来たばかりのWILLE(寄り合い所帯)を纏める為、と言えば受け入れてくれるわ、きっと」

 

「そういう卑劣を、私はしたくない。自分が楽する為に謝罪するくらいなら死んだ方がマシよ。だから副長、いや、リツコ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 シンジにせよアスカにせよ、復讐で自分(葛城ミサト)を討つのは当然の権利であり。

 だから、どちらが実行者になるにせよ、無罪放免にして欲しい。

 WILLEの副司令官、AAAブンダーの副長にでは無く、葛城ミサトの親友(マブ)である赤木リツコに頼むのだ。

 

「不器用ね、お互い」

 

「仕方が無いわよ」

 

 WILLEの総司令官としてでは無い、葛城ミサト個人としての贅沢な時間。

 それが終わる。

 

「減速開始点、到達します!」

 

「特型対地弾発射! 減速開始せよ!!」

 

 裂帛の気合を込めて吠える葛城ミサト。

 WILLEの最後の戦闘が始まる。

 

 

 

 

 

 

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